19:竜人だそうな
有翼の人とあたしは睨み合う。
睨み合うというか、あちらは珍獣を見るような目を向けてきていて、あたしは困ってるだけなんだが。
この人(?)、パーソナルエリアの内側に入って来ちゃったよ。
あたし達を助けようとしてくれた、という心情があるから、雷攻撃はともかく当人自身は指定外になったんだろうか。
だからと言って、全面的に味方とは限らない。
あたしはチラと視線をやり、駆けた時に置いて来てしまったコロポックルたちとノームたちにスッと手を振った。
彼らにもきっちりバリアを張ってたよ。当然。
そのドーム型バリアを球体に変え、コロポックルとノームたちを包んだ。
浮かせてこちらへと引き寄せ――改めてトレントを含む全員をバリア内に置く。
これで良しっと。
見れば、有翼の人はまたも信じられないとばかりに瞠目していた。
ただ、警戒心に満ち満ちたあたしの行動に、思うところがあったのかもしれない。
微妙な表情で朱金の頭をガリガリと掻き、ふーと溜め息を吐いて……『降参』のポーズみたいに軽く両手を上げた。
「……あー……、驚かせて悪かった。さっきの魔法は、不可抗力だ。制御に失敗しちまった。お前さんを攻撃する気はねぇ。てか、妖精を従えてるヤツに何かするつもりはねぇよ」
低く張りのある声なのに、やたら軽い口調で語る。
「改めて自己紹介だ。俺の名は『ジオグラッド』。見ての通り竜人だ。ジオでもグラッドでも好きに呼んでくれ。お前さんは?」
何? 竜人……てのは薄っすら予想通りだとして。
別に従えてませんよ。この子たちは可愛いウチの子です。
てか、名乗られた。そしたらこっちも名乗らないといけないじゃん……。
「……サク、です」
「サク、ね。ちょおーっと、訊きたい事があんだけども。答えて貰えるかい?」
「スルーして頂けたら嬉しいです。お帰り頂いたらもっと嬉しいです」
思わず本音が出たが、有翼の人――ジオグラッドさんは少し苦笑しただけで怒らなかった。
「あー、警戒するのは分かるがな。ヒト族が亜人に良い感情を持ってないのも知ってる。しかし事情があるもんで、このまま帰る訳にゃいかねぇんだわ」
え、そういう事ではないんだけど。
……うーん、どうしよう? 竜人て言うと最強系だからプライドが高くて、乱暴者っぽいイメージなんだけどこの人は違うのかな。
少なくとも、さっきあたし達を助けようとしてくれたり、今もこうして穏やかに『会話』を試みてくれてるのは確かだ。
「訊きたい事ってなんです?」
「お、いいの? んじゃ――お前さんは何者? 聖女……ではなさそうだが、浄化の力があるのか?」
「……そんなの聞いてどうするんです?」
「俺んとこの国に来て欲しい」
「お断りです」
断固拒否だ。その国で何をさせる気だよ。
「いやいや待って。事情があるんだってば。聞いて?」
「あたし、聖女でも聖人でも無いんで、事情とやらを聞いてもお役には立てないと思いますよ」
「『あたし』? ああやっぱり女か。野郎の匂いじゃあ無いからそうかなとは思ったが」
匂いで性別が分かるってのも人外あるあるだね。
ってちょっと? 匂いで分からなかったら、男に見えるとでも??
確かに今のあたし、ざんばら髪を後ろに纏めただけで、服装も体型も性別不明な感じですが……。
「悪い、失言。スンゴイカワイイ女の子ダー会エテウレシイナー」
「棒読み!!」
失礼な奴だー! 無視決定!
コロポックルやノームたちを促し、スタスタ歩き出す。
するとトレントものっそり歩き出した。
一緒に来るの? いいよー、ここにいたら危ないしね、おいでおいで。
「ちょっとちょっと、待て」
ジオグラッドさんとやらは慌てたように追って来た。
見ればあたしの肩に手を伸ばし、透明な膜に阻まれてまたも驚いている。
「おいおい、バリア張らんでも……」
「話は伺いましたーお帰り下さーい」
「話して無い! なーんにも! まだ序の口の『じ』のとこ!」
「聖女に用があるんでしょ? 浄化の力を持つ本物がバランドルの王宮にいますよ。そっちに頼んだらいかがですか」
「あー……。頼んだけど断わられちまったんだわ」
「…………」
あたしは足を止める。
頭一つ半は高い位置の顔を仰ぐと、彼は困ったようにも皮肉げにも見える笑みを刻んでいた。
「……俺の姉貴が『瘴気症』に侵された。瘴気や瘴気症を浄化し治せるのは聖女だけだ。だから聖女召喚に成功したって噂を頼みに、海を越えてはるばるバランドルまで来たんだけどよ」
「…………」
「先触れの書状なんかも出したぜ? でもほら、ヒト族は俺らみたいな亜人を嫌ってるもんで。門前払いされたワケよ。この大陸の殆どの国とウチの国、協定結んでたはずなんだけどねー。当然バランドルともねー……」
うわぁ……。
王都では人間しか目にしなかったな、ここに来ていきなり竜人かよと思ったら、そういう理由かー。
つまりこの世界には人間……『ヒト族』と竜人などの『亜人』が存在するけど、その双方は仲が良くない、と。
他の国は知らないが、バランドルの王太子その他をちょっと知る身としては納得だわー。
なんかあいつら、選民思想とか差別とか凄そう。完全に偏見かもしれないけど、そう見られる言動をしてたのは事実。
ともあれ、これだけは弁解しておこう。
「あたし、貴方が竜人だから警戒してるんじゃないです。普通に、初対面の人だから怪しんでるだけ。勘違いしないで下さい」
言った後に後悔した。どこのツンデレだ。
しかし、ジオグラッドは。
金の瞳をぱちくりとさせ、ややして。
豪快に笑ったのだった。




