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「ジャナイ方」の異世界見聞記  作者: 那内(元ちみーば)


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18/24

18:瘴気とトレントと……誰?


 じんめ◯じゅ、ならぬ恐らくトレント。


 その大きさは見上げる程。

 10メートル以上ある体高から巨大なヘラジカの角の如き枝を振り回せば、周囲の木々を根こそぎ薙ぎ倒し、射程内に鎮座していた大岩も粉々になる。


 凄い迫力。トレントっていざ襲われるとこんな強いんだね。

 対抗手段を持ってなければ、マトモに戦うのは辛いかなぁ。火の魔法か、斧? 普通の長剣じゃ刃こぼれしそうだ。

 ただ、森の中で火は厳禁だよね。下手したらあっという間に燃え広がって、自分も逃げられなくなりそう。


 等々、目の前の魔物を現実的に考察する余裕があるのも、対抗手段を持っているからだ。


 大岩や大木をも破壊する枝の攻撃でも、【パーソナルエリア】はびくともしない。

 なので珍しい魔物をついつい観察してしまったが、もういいだろう。


 コロポックル(うちの子ら)に被害を加えてくれたヤツだ。せいぜい盛大に吹っ飛ばしてやりますか。


 最近、体当たりしなくても遠隔操作で発動できるようになったんだよ。局所ローカルやボール型に変形する練習を毎日欠かさなかったから、その成果だね。


 腕を前に突き出す、が。


 何故かその腕に、コロポックルたちがこぞって貼り付いた。


「? どしたの?」


 観察してる間もびくびくしてたと怖がってたのに、ここで止めるなんて。


 コロ及びコロポックルたち、そしてノームたちも、あたしに懇願するような目を向けている。

 …………えーと、これは。


「吹っ飛ばさないで欲しいの?」


 コクコク頷きが返ってくる。

 えぇ、なんで? キミたち、コイツのせいで怪我したんだよね?


 いやしかし、そういえば。


 ゲームだと凶暴なエネミーだけど、ファンタジー小説では、トレントは賢く穏やかな性質とされてるんだったな。

 本性は魔物じゃなく、精霊だとか森の守護者とも言われてる。


 あたしはトレントを再び、先程より注意深く観察した。

 何本もの巨大な枝は今もあたし達を襲っていて一見、闇雲に暴れているようである。


 でも時折、攻撃ではない幹をよじる動きがあって。

 それは何やら、苦しげに悶えているようにも……見えなくはない、かも?


「ん? ……あぁ、アレかな?」


 トレントの幹、その中心辺りに瘴気が一層集中している点があった。

 もや状の瘴気とは異なり、アメーバみたいに蠢いていて気持ち悪い。


 湖の瘴気を飛ばした後、怪魚しか釣れなかった状態から、普通の魚が泳ぐようになった時の事を思い出す。

 あのアメーバみたいな瘴気の塊をどうにかすれば、トレントも元に戻るかも。


 とはいえ、瘴気を消すには直に触らないといけないんだよね。

 近付いても怪我はしないとは思うけど、コロポックルやノームたちはどうしよう。

 この場に置いてバリアを作ってあげれば良いかな。


 と、戦闘中に危機など陥った事がないからか、呑気に考えていた。

 咄嗟の判断は遅いし周囲の気配にも疎い為に。



「お前ら生きてるか!? 動けるならそこから退け!」


 なので、『他に誰かがいる』などとは、その時まで気付きもしなかった。


 は? と上を仰ぐ。

 だって『上から』声が降ってきたんだもの。

 いやいやまさか、と思ったよ?


 しかし、バシンドカン攻撃してくる枝が引いた瞬間、見えたのは確かに人間だった。

 え、人間……??


 木々の遥か頭上。

 翼を広げ、空に浮かんでいる。

 真上の太陽が逆光になって影にしか見えないけども。声は低いから男性、なのかな?


 って、呆けてる場合じゃない!


 その有翼の人(?)は、物凄い量の魔力を練り始めてる。

 魔法を使うのか。


 攻撃魔法?

 対象は……トレント!?

 あの高魔力の攻撃魔法じゃ、確実に死んじゃう!


 いやいや待って! あたしは助けようとしてんのよ!


 枝に生ってる胡桃の実といい、コロポックルやノームが訴えてる事といい、多分あのトレントは知り合いなんだよ。

 助けられなかったらこの子たちが悲しむじゃん!


 頭上の人? がもう一度怒鳴った。


「聞いてんのか!? 逃げろ!」


「断る!!」


「そ、…………は?」


 低い声は間抜けな戸惑いを発し、そこで集中が削げたのか、「やべっ」と焦ったような呟きを漏らした。


 ――発動された魔法は轟音と共に、稲光いなびかりとなって地上へ降り注ぐ。


 どぅおうぇええ!!?


「っ――防、いでッ……!!」


 内心悲鳴を挙げつつも、パーソナルエリアを拡大する。

 トレントごと包んで、無数の稲妻を『吹っ飛ばし』た。


 あ、トレントも驚いて硬直してるっぽい。

 今のうち、とばかりにあたしは駆けた。


 戻れ、元に戻れと願いながら太い幹に抱きつくと、鼓膜が破れそうな甲高い絶叫が響いた――。


 ……………………。

 ……………。

 ……。


 ややして。

 背にカサリと回された枝に、ほぅっと息を吐く。

 攻撃ではなく、労るような。顔を上げれば、トレントの中心からはあの黒いアメーバが消えていた。


 優しい命の息吹を感じる。


 あぁ、これが本当の貴方トレントなんだね。


「…………そんな馬鹿な……」


 深く低い声が耳に届く。

 振り返ると、上空から翼をはためかせ、声の主が降りてくるところだった。


 三十代前後の背の高い男性。日に焼けた肌と精悍な顔立ちをしている。


 筋肉隆々ではないけれど、豪奢な衣服の上からも偉丈夫であることが知れた。

 少しクセのある髪は後ろに緩く流していて、夕日のような朱金色だ。


 瞳孔の細い金の双眸。

 竜の飛膜みたいな一対の翼。

 尖った両耳の上に、それぞれ黒曜石の如き角が生えていた。


「俺のいかづちを無効化した? トレントの凶暴化を正常に戻しただと? お前さん何者だ……?」


「…………」


 うん、魔法まで吹っ飛ばせるかは一か八かだったけど……。


 ていうか、貴方こそどなた様ですか??


 矢継ぎ早に質問されても困る。コミュ障はそれなりに克服したけど、初対面の人はまだまだ得意じゃないんだよ……。


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― 新着の感想 ―
 やはり「か◯の木おじさん」!!……ではなくて、胡桃の木でしたね。サクちゃんが、コロポックルやノームの思いに気付き、それに寄り添うように対処出来て良かったです。  そしてまたまた新キャラが!!  一体…
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