17:もはや我が子扱い
畑に生るのは野菜だけだが、湖集落の食卓には果物や木の実やらキノコも頻繁に並ぶ。
あたしが採取に行くし、ノームやコロポックルも森に遊びに行きがてらお土産として持ち帰るからだ。
森の中は当初、瘴気だらけの魔物だらけだったが、見かけるごとにティ! トォ! と消しまくっていたのが功を奏したらしい。
拠点から数キロは魔物が出ないし、出没したとして愛らしい小動物か無害な草食動物ぐらいだね。
ついでに、それらの行動範囲は殆ど雪が積もってない。道が消えないよう、あたしが定期的に行き来してるからだ。
その道を辿れば、小さいコロポックルやノームも足を取られて転ぶ事はない。迷子になって帰れなくなるという事もない。
だからこそ、その日も遊びに行くコロポックルたち数人を、微笑ましく見送ったのに……。
「なっ……ど、どうしたの!?」
陽が傾きかけた頃、よたよた戻ってきたコロポックルたちは傷だらけだった。
慌てて駆け寄り、腰に吊るしたストレージバッグからポーションを取り出しながら、容態を確かめる。
森に出かけたのは八人。幸い全員揃っているが、うち五人は何かが掠ったような傷があり、残る三人は顔や手足に火傷みたいな跡があった。
よく視れば、その三人はやたら濃い瘴気が纏わりついている。
あたしは三人に触れた。
ザッと黒い靄が霧散すると、火傷の跡まで同時に消えたのには驚いたが……治ったならまぁ良い。
外傷があった他の五人に下級ポーションを使い、こちらも怪我が治癒したのを確認して、漸く息を吐いた。
「『外』に行ったの?」
改めて問う。
安全な数キロ圏から外側を『外』と呼んでいる。
ノームは土を操って多少戦うなり時間稼ぎなりできるが、コロポックルはそんな力は無い子が大半だ。
だからノームかあたしが一緒でなければ、『外』には出ないと考えていたのだが……。
すると、八人はそれぞれ緑の実を差し出してきた。。
あたしは目を丸くする。
見た目からは想像できないが実はこれ、胡桃だ。
乾燥させたりなどの処理を施すと、記憶にある通りの胡桃として食べられる。
それを雑学で知っていて、よく採取しては食べていたのを、コロポックルたちも覚えていたのだろう。
ちょ……怒れないじゃないの。
いや駄目だ、叱る。言い聞かせなきゃ、この子たちはまた同じ危険を犯しかねない。
「……危ない所って分かってたのにキミたちだけで行ったの? 今回は運が良かっただけで、こんな怪我じゃ済まなかったかもしれないんだよ」
真面目な顔で話すと、八人はシュンとした。
きっと褒められると思っていただろうに、叱られて悄気る姿にあたしの胸もチクリと痛む。
きつく叱るという強い意志はあっという間にどこかへ去ってしまった。
あたしは溜め息を吐き、その八人をひょいと抱えあげる。
「全員帰って来てくれて良かった。胡桃、ありがと。でも次はあたしと一緒にね。分かった?」
八人はコクコクと頷いた。
分かったんなら良い。
うーん、甘いかな。
そもそも叱るのって難しい。過去にあたしが叱ったのって、弟があたしのサンテンドースウォッチを壊した時にゲンコツくれたのと、近所の子を虐めて泣かせた時に正座させて説教したぐらいよ。
え、某国の王太子と聖女?
何の言葉も通じない人達に叱るとか諭すとか無いね。無駄なことはしない主義です。
それはそれとして。
八人をそっと地面に降ろし、あたしは立ち上がる。
まだ陽が高いうちにコロポックルが往復できるって事は、そう遠くない場所に瘴気があるって事だよね?
「明日、案内して」
気分としては、うちの子らに何してくれてんだ、ぁ゙あ゙? だ。
祓ってバイバイしちゃいましょう。そうしましょう。
✵✵✵
翌日、コロポックルの八人を案内役にし、向かったのは10キロは離れた安全圏外。
何故かコロと、ノームも四人付いてきた。護衛のつもりなのかもしれない。
ただ、あたしの周りをきっちり固めてるノームたちはともかく、肩にちゃっかり乗ってご機嫌なコロは好奇心で付いてきただけの気もする。可愛いからいいんだけど。
それにしてもコロポックルたちよ、昨日、この距離を数時間で往復したの? 以外に健脚というか、足が早いのだろうか。
と、茶化してる場合じゃないな。
安全圏外と言っても、明確に結界なんかで隔ててる訳ではないんだから、急に危険地帯に切り替わるものでもない。
そんな大規模の結界はあたしも無理だ。張り巡らす前に魔力が尽きる。
いつもは拠点から遠ざかるにつれ、徐々に瘴気が濃くなってゆき、魔物も弱いモノから順に姿を見せていくという感じなのだ。
なのに、なんだここ。
急激に瘴気が濃くなってる。正しくは、とある樹木に濃密な瘴気が纏わりついている。
その樹木には、見覚えのある緑の実が生っていた。
これに登って実を採ったなら瘴気まみれになるのも頷ける、そんな濃度。
鼓膜のそばで直接心臓が鳴っているようだった。ドキドキして、背や手に冷たい汗が滲む。
コロポックルとノームたちも怯える様子を見せていた。
樹木、異世界、瘴気。これらのワードから、嫌な予感が強まる。
緊張が最大に達した時。
シュッ と風を斬る音が耳に届いた。
パーソナルエリアはノームたちの居場所まで拡げており、攻撃を阻む。
そう、攻撃だ。
瘴気を濃く纏う樹木が、枝を長く伸ばして、死角から振り下ろしたらしい。
目の前で、枝の本体である樹木がのっそりと動く。
知ってるー。
これ知ってるー。
トレント、ですよね!!




