13:◯◯に会ったどー
しゃがみこんで、ソレを凝視してみる。
うん。どう見ても『ぬいぐるみに似た茶褐色の干物』だ。
片手にすっぽり収まるサイズで、二頭身。
先端にチョロ毛が付いた顔のような部位があり、貫頭衣を着用したような胴体と手足がある。
ただし全体的にしなっしな。
本当になんだこれ? と首を捻っていると、ノワとアシュがじぃっとあたしを見つめているのに気付いた。
…………えっと。
このまなざし。何かを訴えてる時の目✕4ですね。
「……た、助けて欲しいの?」
問うと、ブルルヒヒンと返事が返ってくる。
マジ?
ぬいぐるみの干物にしか見えないけど、生き物なのこれ。
ていうか生きてるの??
「助けるといってもどうすれば……」
少し考え、ひとまずその生き物(?)を手で掬い上げてみる。
直後――ソレはモゾっと動いた。
ヒェエエッ!?
ぞわりとする感触に咄嗟に投げ捨てかけたが、グッと堪えた。
これは生き物、生き物!
虫が這うような感触から意識を逸らし、蠢くモノを観察する。
干物はフルフルと二頭身の体を震わせながら、手の平にしがみついていた。
まるで、母猫に縋る生まれたての子猫のように。
……なんという……。
憐れみを誘う、庇護欲そそる姿か……。
感触にゾワッとした事も頭からスポンと飛び、あたしはもう片手の人差し指でその干物をそっと撫でる。
すると、干物はころりと反転し、撫でていた指先を短い腕(?)で抱き込み、顔らしき部分をピトリと押し当ててきた。
キスしてるみたい。
………………ん?
微笑ましく眺めていると、違和感に気付いた。
干物が顔部分を当てた指先から、抜けていくものがある。
魔力だ。
おぅ? 魔力を吸われてる?
哺乳瓶の授乳よろしく指先から……まあごくごく僅かな量みたいだし、したいようにさせてやる。
授乳だけにごくごくとな。
…………。おそまつ。
鍋のスープを思い出して焚き火へと戻った。
あ、くそ。底が少し焦げたっぽい。焦げつきも魔法で綺麗になるけど、スープにお焦げの味が付くんだよな。数食は山菜キノコスープお焦げ味で我慢するしかない。
因みに干物はたっぷり魔力吸いして満足したのか、今はシャツの胸ポケットでオネム中だ。
……呼吸してる気配がないから最初、クッタリしてるのを見て焦ったけどね。
しかし、よくよく観察すればなるほど、この干物は確かに『生き物』だった。
ノワやアシュ、他の動物や、魔物にも最近感じる『生きてる気配』っていうの? そういうのが何となく分かる。
呼吸をしてないのは……仕様だと思えば納得できるかな。
異世界だからね。なんでもアリだろう。
✵✵✵
夜寝て、起きる。
スマホで確認すると翌日の朝だ。
不思議な事にスマホの充電が減る様子が全く無いんだけど、これも異世界仕様なんだろうか?
内心首を傾げていたあたしをヒョコっと覗き込んだのは、ちっさい小人。
スマホの明かりだけで浮かび上がる姿は二頭身。
「あれ?」
この子、あの干物?
でも、しなしなじゃない。なんか丸っこい。
目を瞬かせていると、元干物の小人は首を傾げた。
よくよく見れば、短い足でちゃんと立っている。
おやぁ……これが元の姿なの? 戻って良かったねえ。
洞窟の外に出ると、その子の姿がしっかり確認できた。
全体的に丸っこい二頭身は淡い褐色をしていて、若草色のスカートみたいな貫頭衣を着ている。
顔部分には点々の目(?)が付いており、頭の上には髪の代わりなのか白銀の綺麗な小花が一輪咲いていた。これがチョロ毛だった部分か。
丸太に座り、お焦げ味スープと果物の朝食を摂っているあたしの足元で、トコトコ歩き回っている。
そして疲れたら、あたしの靴先に腰掛けて休んだりしてる。
はっきり言おう。
動くぬいぐるみみたいで、めちゃくちゃ可愛い。
途轍もなくちっさい二頭身もかわゆさに拍車をかけてる。可愛いしか出てこなくて語彙力が消えた。
「てか、この子って……アレだよね」
妖精とか精霊とか、そういう存在には違いない。
ただ、どんな妖精だろ。知ってる気がするんだけどな。
ホビット? ノーム? 頭の花や若草色の服からして、植物に因んでるのかも?
ピクシー? うーん……。
記憶を掘り起こしていると、子供の頃に読んだ絵本を思い出した。
「あ、コロポックル! キミ、コロポックルじゃない?」
この世界でも同じ名前で呼ばれてるかは知らないけど、確か植物の妖精だったはず。
違うかもしれないが、他に適切な種族が浮かばない。
あたしが声をかけると、コロポックル(暫定)は足をよじ登ってきた。
そして膝の上に乗り、あたしを一度仰いで、次に横向きでお座りする。
広場で屯するノワとアシュを眺めている模様。
うん、正解なのかそうでないのか分からん。
分からんけども、可愛いからいいや。可愛いは正義。
いやー、凄い。
拝啓。地球のお父さん、お母さん、弟。
あたし、妖精に会っちゃったよ!
そんな風に、内心テンション上がってたのにさ。
コロポックルは夜になる頃には、いつの間にか消えていた。
ちょっと寂しかったけど、干からびかけてたのが戻ったのだし、住処にでも帰ったのかもしれないな。
いつか機会があれば、また会えるだろう。次も干からびてたら笑えないが。
気を紛らわす為に――そう思った事もありました。
翌日。
洞窟を出たところでギョッと足を止める。
見覚えのあり過ぎる小人の後ろに、ぞろりと二頭身の茶褐色集団が並んでいたのだ。
先頭の子以外は揃いも揃ってしなしな。
……もしかしなくても、全員を助けろってことですかね?




