10:拠点みっけ!
「お、お……?」
森の大分奥深くまで進み、あと少しで山の傾斜へと差し掛かる頃。
とんでもなく澄み切った水を湛える湖に出くわした。
澄んだ水というと酸性水を連想するが、その湖には魚も泳いでいるのが目視できる。
実験で布の切れ端を付けても溶けたりしない。
ただ、おかしな気配がある。よくよく視れば、湖は瘴気に汚染されていた。
こんなに綺麗なのに……。
経験上、瘴気の濃い所には普通の動物がいなくて、いるのは魔物ばかりなんだよね。
この湖にいるお魚ちゃんも怪魚だってこと? それはいかん!
勇気を振り絞り、手で触れてみる。
――瞬間、ゾワッとした感覚と共に大量の黒モヤが四散していった。
うぇ……。
しかしこれで瘴気は祓えたはずだ。すると魚も元に戻るだろうか?
戻らなくても、怪魚のまま釣れて食せるなら構わないけど。
ついでに水も掬って口に含んでみた。
変な味はしない。とっても美味しい『普通の水』だ。
「ノワ、アシュ! 八甲のおいしい水だよ」
振り向いて二頭の馬ちゃんたちに声をかける。
あ、名前付けました。
黒毛の男の子が「ノワ」。
芦毛の女の子が「アシュ」。
見た目そのまんまだけど、二頭とも気に入ってくれたみたいなので問題ない。
ノワとアシュが喜々と湖に鼻面をつけるのを見やってから、周囲をグルリと確認する。
隣国へと続く山峰、そのすぐ麓にある水辺。
魚釣りできる上に絶景。
馴染みの森が湖の周りを囲んで、果実や木の実などの採取もしやすい。
一角の断崖をよくよく見れば洞窟もあった。
「何かの巣……?」
注意しながら近付き、恐る恐る中を覗き込む。
獣の気配や臭気がない。
ノワとアシュも寄って来たが恐れる様子もない。ランプを手に、中へと踏み込んでみる。
内部はあたし、馬二頭が並んで入ってもなお余裕のある幅。天井も高く、3メートルくらい。
奥は入り口から四十歩ほどで行き止まりとなった。大体20メートルくらいだろうか。
「うぇっ!? ぺっ! ぺ!」
蜘蛛の巣にかかり口内に入ってしまった。
眉を顰めたけど、これは。
「暫く使われてない洞窟、って事でいいのかな……?」
呟いてから、ジワジワと笑みが広がっていく。
「ノワ、アシュ。ここにしよう!」
✵✵✵
王都を発って一ヶ月が経とうとしていた。
最近とみに冷え込みが厳しくなり、たまに雪もチラついている。
冬が訪れるのだ。
食料も豊富に採取とはいかないまま、冬山に挑むのは危険と実感した。なにせ、恵み豊かな秋の森(平地)でさえ、旅慣れてない現代っ子にはそりゃもう大変だった。
枝に足を引っ掛ける、やたら切れ味鋭い葉っぱであちこち傷だらけになる。でもポーションは滅多な事では使えない。
そして時々、進む方向を見失うので木の幹に印を付けなきゃならない手間。
恐ろしいのは、雪に覆われればもっと迷いやすくなる、という読書由来の知識。
春を待つ為にどこかで拠点を作り、冬に備える必要をひしひし感じていた。
なかなか無いなあと探しながら進み続け、見つけたのがこの湖付き洞窟である。
因みに水辺の側は夏涼しく冬はべらぼうに寒いがセオリーだが、対処法はあるのだ。
(誰も)いないなら、借りてしまおう、洞窟物件。
早速とばかりに生活魔法で隅々まで清掃し、ストレージバッグから出したのは馬車。
あれよ、偽馬車の軒部分。
いや、置いてくのも勿体ないかな〜と思って。馬ちゃんたちがいるし、何かに使えるかもしれないじゃん?
ストレージバッグにもギリギリ入ったんで、持って来ちゃったんだよね。
窃盗? 何の事やら。
あたしを嵌める為に用意されたらしいし、捨て置くなら貰って構わんでしょ。
例の短剣コミでも、誘拐された慰謝料にしちゃ寧ろ安いぐらいだ。
洞窟の奥にポンと出して、車輪四つを動かないよう固定する。
再び軽く魔法をかけ、汚れを取り除いて、椅子というより木の板でしかない座席の長い方にクッションを置く。
L字の短い方に、木の椀等のカトラリーをセット。
即席マイルームの出来上がりだ。
「ノワとアシュは……出入り口に近い方が良いかな?」
二頭は馬だからか、異世界仕様だからか知らないが、寒さにある程度強いらしい。
冬場でも外で遊びたいかもしれない。なら、出入りしやすい位置の方が良いか。
「ここら辺で休んでね」
とりあえず手で位置を指定すると、二頭はポクポク歩いてそこに収まった。本当に賢い子達だ。
で。
雨風を凌げるとはいえ、まだ寒気が吹き込んでいる。普通に過ごす住居とするには難があり過ぎるだろう。
安心してください!
このとこずっと意識してギフトを切り替えしながら使い続けたからかつい最近、変化球的な使い方もできるようになったのだよ!
「【パーソナルエリア・局所】!」
ギフトが発動し、洞窟の出入り口にピタリと嵌まる。
これで冷風は洞窟内に入ってこない。
でも、あたしとノワとアシュそして空気は出入りできる。
空調だいじ。
こういった変化球というか、改変みたいな能力を使えるようになったのは、何の事はない。
魔物が一匹だけだと全方位で吹っ飛ばすのは魔力を消耗し過ぎる、指定方向だけにできないかなと訓練したり。
最近寒いなーギフトで対象指定のバリア張れるなら、中の温度は生活魔法で調節できないかな、『生活』に関わる魔法ならできるだろ! と試したり。
生活魔法と言えば、思いつく効果も全て検証した。
ちょっとした点火や飲料水は今や自由自在だし、規模や量も調節可。
排泄に至ってはトイレ要らずですわよ、オホホ。
これらの、暮らしに必需というか、コスパ高を求めた試行錯誤の結果なんですよ。
因みに技名を叫んだのは特に意味はない。ギフトも魔法も無詠唱で発動可能だからだ。
でもそういう気分だったもんで、つい。
黒歴史にはならないよ。
あたししか聞いちゃいないからね!
綺麗とはいえ、初見の湖水を飲むヒロイン……。
※2026/1/6 23:00 追記
馬ちゃん、芦毛の子は灰色です。
イメージはオグリ◯ャップ。
芦毛は鹿毛、青毛も含まれるようです。調査不足をお詫び致します。




