【第90話】ヘタレなりの誠意
俺の一世一代の大告白(自称)から一夜明けてからはそれはもう、ものすごい勢いでサーシャたちの大引っ越しが始まりあっという間に終わった。
「ええ・・・?」
俺が困惑しているとセリルとナナリーが密かに教えてくれた。
「実はいずれこの様に話が進展した時に前々から移動できるように用意をしておいたんです。」
「はいー。なのでお部屋さえ与えて頂ければあっという間のお引越し完了なんです。」
「あはは・・・。そう言えばこういう場合って正式に住所変更があったと役所などに届けるべきなんですか?」
「いえ、今は一時的な入居扱いなのでその必要はないですよ。まあ税金などは高く付いてしまいますけどね。」
ひょこっと顔を出したサーシャが教えてくれた。
「さて、これで引っ越し完了です!ということで今日から私達三人お世話になります。」
「あ、はい・・・。よろしくお願いします。」
俺はその後一度、ミストヴェイルに単身赴き、パックに話をすることにした。
「パック、忙しい所済まない。少し話せるか?」
「うん?おお。ススムか、なんだ?」
「あー・・・、実はアリスさんのことなんだが。」
「お?いよいよ結婚か?」
「んな訳はない!早すぎるだろう。正式に結婚を前提に交際させてもらうことになったと報告に来ただけだ。」
「は?お前わざわざそれを言いにここまで来たの?」
「ええ・・・?そういうのって一応筋を通すべきじゃないの?」
「お前が筋を通すタイミングは『交際』ではなく『結婚』する時だ。はあ・・・。全く。なんだってこの街の英雄様はこと恋愛に関しては鉄級以下のド素人なんだかなあ・・・。」
「結婚してないお前に言われたくないんだが?」
「うるせー!さっさと帰れ!」
「あ、そうそう。アリスさんから伝言。追加従業員を一人ずつ見繕ってくれってさ。」
「うん?そんなに売れてるのか?」
「ああ、お前たちの味はしっかりと売れているよ。大体午前中には売れきれてる。」
「そんなレベルなのか・・・。わかった。見繕っておくので時期を見計らって引き取りに来てくれ。」
「了解。」
俺は簡単に手を振りオーロ・ヴァレンツに戻る。
「そうは言ったが一応相手は現貴族、しかも伯爵級だしなあ・・・。話の筋は通さないといけないわな・・・。」
そうして次は学校に向かい学校長室の扉を叩く。
コンコン
「失礼します。ヴォルフガング学校長。」
「ススムか。入れ。」
「失礼します。お忙しい所すみません。今お時間よろしいですか?」
「ああ、丁度資料に目を通し終わった所だ。本当にこの『日報』というものは良く出来ているな。」
「それは僕達の世界ではごく普通に、それもとんでもなく長い時間使われてた連絡手段ですからね。後はそれを大量生産できれば良いのですが、まあそれも後々この街の者を使った仕事にしても良いかも知れませんね、」
「ふむ・・・。ああ、すまんな。して用件は?」
「昨日、サーシャさんにお話をさせて頂き、今後正式に結婚を目標にお付き合いをさせて頂くことになりました。サーシャさんはお祖父様は大丈夫、とは言っておりましたが一応ご報告をと思いまして。」
「ああ、確かに問題はないな。むしろ早い所『結婚』して欲しいくらいだ。」
「あはは・・・。同じ事を言うんですね。」
「同じ事?アリスさんの保護者の方かな?」
「ええ、兄のパックに伝えた所全く同じ事を言われたもので・・・。」
「まあ、確かにアリスさんとサーシャでは立場が大きく違うからな。ススムの行動は間違いではないさ。」
「あー・・・、それと非常に言いにくいのですが、昨日の話を受けてサーシャさんが従者二人を伴って我が家に引っ越しをしてきました・・・。」
俺はそう言うと前伯爵は目頭を押さえてため息を付いた。
「全く・・・。あの娘の行動力には本当に驚かされる。こちらは問題ない。むしろ世話を掛けるがよろしく頼む。」
「ああ、いや。そちらのご事情で問題がなければ僕としては一向に構いませんよ。最近はほぼ寝るときだけ帰っていたような状態でしたし。」
「あやつらめ・・・。ん?そうかそうか。今度から孫娘に会いに行くときはススム宅に行かなければならないのか。」
あ、これは暗に、食事を狙ってるな・・・。
まあそれ位は良いだろう。
「そうですね。では来られる前には材料を揃える必要があるので教えて下さいね。」
「がっはっは!話が早くて助かる。では早速今日行くとしよう。」
「今日ですか!?はあ・・・。わかりました。お待ちしております。」
「うむ。」
そうして重要な報告が終わりスラム街や学校の活動等に問題がないことを確認し終えた俺は家に帰り夕飯を作り夜には前伯爵を招待しての食事を行う。
「本当にススムの料理は素晴らしいな!この味を知ってしまうとどんなに美食だと言われているレストランの食事すら霞んでしまう。」
「全くお祖父様ったら。」
「良いじゃない!美味しい料理は皆で食べてこそだよ!」
「流石はアリス嬢。わかっておるな。」
食後は最近めっきりと前伯爵がハマってしまった冒険者ゲームを身分問わず1ゲームをして満足した所で帰っていくのを見送る。
「サーシャさん、アリスさん。今度時間がある時に、で、デートでもしませんか?」
俺が重要な所でどもったのは気にしないでくれ。
二人は顔を見合わせ喜んでいる。
「「勿論!」」
「ただ最近は店の開店が出来そうだからそっちに注力したいんだよねえ。」
アリスが少し悲しげにそう言うので俺はある提案をした。
「なら今から少し出かけない?」
「今からですか?」
二人は顔を見合わせ疑問に思っている。
実は数日前、今後のスラム街の仕事に何か良いものがないかと冒険者ギルドの資料室を漁っている時にある資料を見つけたのだ。
そしてその資料を示す場所には予めさっと行ける距離だったので一人で出向き、転移陣の一時保存場所として登録してある。
セリルとナナリーも来るのかと思ったが、どうやら二人は空気を読み、留守番しているとのことだった。
なので俺はアリスとサーシャだけを伴い、転移陣で転移をする。
転移先は普段はただの開けた場所だが今夜は違う。
満月の夜だった。
そしてこの地方特有の薬草にもなる花、『満月花』が咲き誇る日であったのだ。
「足元に気をつけてくださいね。」
「うわーー・・・。」
「綺麗・・・。」
二人は言葉を失っていたが、なるほど確かにこれは美しく幻想的な光景だ。
「これからは穴熊亭も本格的に忙しくなるのではないかと思い、急遽この様な場を見つけました。」
「ススム君・・・。」
「流石ススムさんです。」
二人は急に俺にぎゅーっと抱きしめてくる。
俺は突然のことに顔面が真っ赤になるのを感じ、思考が停止し、アワアワしだしてしまう。
「全く、途中まではカッコよかったのに。」
「ふふ。ですがこれもまたススムさんの魅力では有りませんか?」
「うむー。同意します!」
俺達は暫くその体勢で満月の夜に咲き誇る『満月花』の鑑賞を暫くした後、家に戻ったのだった。




