【第88話】ヴェリティアからの祝福
いよいよ開校当日となり俺は朝早くから身だしなみを整え先に旧教会、今日から学校となる場所へと来ていた。
結局約50名近い生徒は教師が三人揃ったということで3クラスに分けることとなった。
一クラス辺り15名程度ならば日本の通常学級の1/2の人数だ。
非常にゆとりある教育が行われるに違いない。
各教室を見れば大きな黒板が正面に有り、その前にはズラッと机と椅子が並べられている。
机と椅子のにはきちんと誰の席かが分かるように名前を貼り付けている。
自身の名前を練習させたのだからきっとすぐに分かるに違いない。
元々この学校内で始まった石鹸作りに関しては、既に建築関係を担当しているものに別の場所に石鹸作り用の小屋を立て直してもらっており、そちらで作業してもらっている。
配給食を作る場所に関しても基本的に子どもたちが迷って入ってしまわないように学校側からはアクセスできないような仕組みに変えてもらっている。
「おはようございます。怪我をしてはいけないのでそのままで。今日からよろしくお願いしますね。」
おれはその配給食を作っている給食室に顔を出すと今日の早い段階から搬入された食材を使い、早速10数名の調理手伝いの者を指揮しているルークとマフィの姿が見える。
俺の声に皆が会釈だけで答える。
きちんと指揮系統も動いているようだし問題はなさそうだ。
ちなみに元々は恐らく何かが祀られていたであろう聖堂部分については空っぽの状態となっている。
ここでは主に学校長が毎週月曜日の朝に簡単に子どもたちを集め朝の集会を行うことになっている。
今日はここで入学式を行う。
「おはようございます。皆さん。」
「おはよう、ススム。いやこの様な場に再び立てること感謝する。」
「いえ、私はヴォルフガング様の人柄を知っていますし適任だと思いますよ。それに困ったことがあればコーイチ先生に頼ればいいですし。」
「いやはや。私が教頭とはね。今まで何年も爪弾きにされてきたというのに。」
「あはは。正直コーイチ先生を爪弾きにしてきた人達は人を見る目がなさすぎると思いますね。カイゼル先生とルナ先生もよろしくお願いします。」
俺は全員に向かい頭を下げる。
「ススムさん。本当にこの様な素敵な学校を用意してくれたこと。心から感謝申し上げる。」
「同じく。全身全霊の力で子どもたちに教育を施したいともいます。」
フリューセル夫妻は感動し今にも泣きそうだ。
俺が学校を一通り見終わった後外に出ると、アリスとサーシャ達、それにバレッサとアウレリアが学校前にいた。
「おはようございます。既に来賓席は用意してありますので良ければ中にどうぞ。」
「おはよう、ススム君!うー・・・、緊張してきちゃったよ・・・!」
「おはようございます、ススムさん。私も下手な取引より余程緊張しております・・・。」
「あはは、二人は今日は見届け役だから肩の力を抜いて。ね?」
「おはようございます、ススム様。いよいよですね。というかこの街、たった数日前まで荒れ果てていたというのにもうここまで清潔になっているのには呆れ返るくらい驚きました。」
「ああ、本当にな。ここがスラム街だなんて笑ってしまうくらいだ。メインストリートより清潔じゃないか。」
「あはは。街中の皆さんが積極的に協力してくれていますからね。さあ、どうぞ。」
俺は四人とセリル、ナナリーを中に来賓席へと案内した。
丁度その頃ルビアとブルも学校内に入ってきた。
「うはー。本当に学校を作っちまうとはなあ・・・。」
「おはようルビア、ブルさん。君たちの席も用意するけど?」
「止してくれ!そういうのは苦手だ!」
「だと思ったよ。警備、よろしく頼むぞ。」
「ああ、それで早速だが、ぼちぼち案内しても良いのか?学校前にかなりもう待機しているみたいだが。」
「ふむ。では入学式を始めようか。」
前伯爵の一声により自警団に伴われた子どもたちがゆっくり歩きながら、そして入学式場を見渡しながら入ってくる。
以前の衣類支援の時に行った、「走らない、割り込まない」がここでも力を振るっているようだ。
子どもたちが前から順番に席に座っていきそして最後の一人まで席が埋まるのを確認した後、学校長の言葉より学校が開校する。
「私はこの学校の学校長、ヴォルフガングだ。今日はよく集まってくれた。君たちは今日この日より、この学校の生徒となる。良く遊び、良く学び、すくすくと成長してくれることを切に願う。知っては居ると思うがこの学校は様々な人達の支援により運営される。その人達の恥じることのない生活を送るとしよう。」
「「「はい!!」」」
一人ひとりの紹介がされ俺の番になった時、子どもの一人が手を上げて質問をしてきた。
「ススム様!この学校のお名前は何ですか?」
「うん?そう言えば考えてなかったな・・・。うーん・・・。そう言えばこの学校て元々何の教会だったんでしょうか?」
俺が来賓席にいる面々を見て聞くが皆首を傾げている。
どうやらこの教会は相当古くに破棄されているようで何を祀っていた教会なのかがわからないのだという。
恐らくルミナリアではないだろう。
あいつはこの国では一番の崇拝対象だ。
であるならこの様に教会が廃れるわけがない。
そんな事を考えているとまるで奇跡のようなことが起きる。
強い一筋の光がこちらに差し込みそしてその光が徐々に人の形をなしていく。
「えっ!?貴方は・・・!!」
皆が身構える中俺と俺のフード内にいるポチだけはその姿を知っていた。
『ヴェリティア様だー!』
「そうか、ここは貴方の教会だったのですね。幸運の女神、ヴェリティア様。」
『お久しぶりですね。この様な形で再び合うことになるのはこれもまた幸運の内なのでしょう。ススム。貴方がこの場を大切な場とするのならば私は再びこの場所に光を差しましょう。』
「それは心強いですね。そうだな、ではこの学校は貴方の名前を冠し、『ヴェリティア学校』とするのをお認め頂けますか?」
するとそれを承諾したようにニコリと笑い幸運の女神ヴェリティアは就学式場いっぱいの光でその場にいた全員を祝福してくれた。
暫くするとその光とともにヴェリティアも消えている。
俺とポチ以外は唖然とし大人も子供も関係なく口をポカーンと開けている。
「ということで、今日からこの学校は『ヴェリティア学校』となりました。皆、幸運の女神様の名に恥じないような生活を送るようにね。」
その言葉にはっと我に返った子供達は「はい!」と返事をした後やんや、やんやとなってしまった為、入学式はここまでとし、早速各クラスに分かれて各担当職員の手に委ねられることになった。
入学式後、来賓の者たちはその場に残り先程のことについて話し合いが急遽行われることになった。
「ススムよ。まさかお主ヴェリティア様と関わりがあったのか・・・?」
前伯爵は呆れたような表情で俺に質問してきた。
「ええ、以前ですが一時的なダンジョンに入った際、ヴェリティア様が囚われているのを救出しました。」
「なんと・・・。神が囚われていたというのか・・・。」
「はい。原因はわかりません。ちなみにポチはヴェリティア様の眷属でした。」
「なっ・・・!」
『えっへん!』
「ところで勢いでヴェリティア学校としましたが、宗教的にまずいとはそういう事はありませんよね?」
「ああ、元々この世界では12柱の神達がいる。この国は成り立ち的に特にルミナリア様が信仰されている為、他の神の名は余り聞かないが問題はない。事実この教会も以前はヴェリティア様の教会だったわけだからな。」
「良かったー。これで宗教戦争にでも巻き込まれたりしたら溜まったもんじゃないですからね。」
「それにしても女神の祝福か・・・。あんな物を受けられるだなんて思いもしなかったな。」
アウレリアが自分の手を見つめながら静かに言うとバレッサやサーシャはむしろ嬉しそうだった。
「商人的にはヴェリティア様は信仰対象ですからね。これ以上無い祝福ですよ!」
なるほど、幸運を司っているだけあって商人からは慕われているんだな。
そう考えているとルビアが一心不乱に何かを書いていた。
「何書いてるんだ、ルビア?」
「ああ!?今話しかけるな!折角見れた姿が抜け落ちる!」
そう言い書いていたのはなんとヴェリティアの姿だった。
「おお、流石ルビアだな。」
俺がそんな風に感心しているとバレッサも興味があったのかルビアの絵を見て感激していた。
「まあ、これは素晴らしい!良ければそれを下にこの場所に石像でも作りましょう。勿論資金は出しますよ!」
「あはは・・・。観光地化しそうですね・・・。まあ子どもたちの学習の邪魔にならない様に週末だけ解放するとかであれば、維持管理費程度の費用は稼げるかも知れませんね。」
「それは素晴らしいアイデアですね!ルビアさん。期待していますよ!後で諸々相談しましょうね!」
「あ、ああ・・・。」
流石のバレッサの勢いにルビアも根負けした様だ。
それにしても女神の祝福を受けた学校か。
どうなることやら?
まあ、幸運の女神だし悪いことにはなるまい。




