【第84話】恩師との再会
翌日も念の為に学校への入学希望者がいるかどうかを確認しに行くと6名の子どもたちとその保護者が居た。
どうやら昨日のことを聞いて、好条件であり更に保護者も配給食の調理係としての職がある可能性があるということでどうやら応募を決めたらしい。
当然子どもに意思を確認するが、子どもたちも昨日の内に入学を決めた子どもたちに触発されてやる気を出していた。
「そうか。なら君たちにも黒板と白墨を上げないとな。それと名前の練習、してみようか?」
そう声を掛けると「うん!」と元気な声が返ってくる。
30分ほど名前の練習をした後、教科書を回収し子どもたちを見送る。
結果として子どもたちの入学は全部で49名とかなりの大所帯になりそうだった。
「うーむ・・・。流石に多すぎたか?」
俺がそんな事を言っているとルビアが声を掛けてきた。
「子供のことか?だからここは子どもが多いと言っただろう。」
「そうだな。ただまあやってやれないこともないだろう。」
「本当かよ!?」
ルビアは信じられないと言った表情をしている。
「あれ?そう言えばヴォルフガング校長は?報告をしなければいけないんだけど。」
「ああ、何やら客人が来たとか言ってお前が授業中に出ていったぞ。」
そんな事を話していると遠くからでもよく聞こえる前伯爵の大きな声が近づいてくるのがわかった。
「どうやら帰ってきたようだな。俺は退散するぜ。」
「おいおい、逃げるなよ。全く。」
一目散に撤退していくルビアに呆れていると前伯爵は見慣れない3人の男女を連れてくるのが分かる。
「お、噂をすれば其処におったか。」
「ヴォルフガング様。そちらの方々は?」
「ああ、以前話しをしていた教職員となる者たちだ。どうやら予定より早く着き、更に1名増えたらしい。」
「初めまして、ススムと申します。この学校計画についての発起人となります。よろしくお願いします。」
そう言い、俺は頭を下げる。
「ま・・・、まさか君は堀君か・・・?」
俺は突如この世界では名乗ったことのない苗字を呼ばれ気が動転し、バッと顔を上げる。
「えっ!?」
「わからないか?私だ・・・。真壁だ、真壁 恒一だよ!」
「そんな・・・、真壁先生!?」
「そうだ、ああ・・・。本当に堀君なんだね・・・。」
真壁 恒一先生は俺の中学時代の恩師であり自身が考えている教育論を教えてくれたその人だ。
俺は真壁先生の教育論に胸を打たれ教員を目指し大学に進学したが、俺が大学3年生の頃急に真壁先生が失踪し行方不明になってしまったという情報を知り俺自身も捜索に協力したが結局見つからなかった。
そんな状態だったので大学卒業後も教員になるという夢が折れてしまいその関係である文具系の商社にサラリーマンとして長く勤続することになった。
「真壁先生・・・!もう死んでしまったのかと・・・!」
そう言い自然と涙が溢れ真壁先生に抱きつく。
「ああ、こんなにも立派な青年になって・・・。」
「・・・!!どうやら私たちの知らない事情があるようだな・・・。奥へ。」
前伯爵が気を使ってくれ、教会奥へと案内してくれる。
俺は涙を拭き教会奥で真壁先生より紹介を受ける。
「こんな形になってしまい、恐縮だが改めて紹介させてもらおう。ヴォルフガング前伯爵より招待を受けた。元貴族院学校所属のコーイチ・マカベだ。そしてこちらの二人は私の弟子で夫婦のカイゼル・フリューセルとルナ・フリューセルだ。」
カイゼルとルナは俺に戸惑いながらも自己紹介をしてくれる。
「僕はフリューセル家四男でカイゼルだ。まさか僕達以外に先生の教え子がいたとは驚きだ。」
「私はルナです。マレフィクス家の三女でしたが現在はフリューセル家の者です。私もコーイチ先生のお弟子さんはカイゼルと私位だと思っていました・・・。お話も聞いたことが有りませんでしたし。」
俺は二人に改めて礼をする。
「早速で申し訳ないですが、真壁・・・、コーイチ先生と非常に重要な話があるのですが、二人で話せますでしょうか?」
「そうだね。話をする必要がありそうだ。良ければヴォルフガング様もお付き合い下さい。」
「え?では・・・。」
真壁先生はそれ以上はこの場で話そうとせず昔のような優しい笑みでそれを制した。
「ではカイゼル様とルナ様にはこの街を見ていただきましょうか。少々お待ちくださいね。」
俺は懐より手紙の魔道具を取り出しディナに二人の事を書きこの生まれ変わりつつあるスラム街の紹介をするように依頼する。
暫くするとディナが急いできてくれ、二人を案内してくれることになる。
「こちらはこのスラム街に関係する諸々の手伝いをしてもらっている商業ギルドのディナさんです。」
「初めましてディナと申します。お二人は貴族様ですね。失礼があるかも知れませんがご容赦下さい。」
「ああ、それは構わないよ。僕達は下級貴族の更に下の存在でほぼ庶民のようなものだ。案内よろしく頼みますね。」
ディナに連れられ二人が出ていく。
俺はそれを見届け話をはじめる。
「コーイチ先生はヴォルフガング様とはどういったご関係で?」
「ふふ。言いにくいだろう。ヴォルフガング様の前では真壁で構わない。私は今から約20年近く前、この世界に急に足を踏み入れてしまった『迷い人』だ。そしてそんな私を庇護してくれたのがこのヴォルフガング様だ。」
「『迷い人』ですか・・・?」
「ああ、『迷い人』とはある時突然女神ルミナリアにより別の世界より召喚された者のことだ。この国ルミナス王国の始まりの話は聞いたことは?」
「そう言えばこの国の初代王はルミナリアにより勇者として召喚された者でしたっけ。」
「うむ。その通りだ。実はな、ススム。私はお主もその『迷い人』ではないかと考えておった。」
「なるほど。最初からヴォルフガング様にはお見通しだったというわけですね。」
「・・・やはりか。」
「所で堀君。私はこの世界に来て20年近く経っているが君は見た所まだ20代と言ったところだろう?時間の流れが違うのか?」
「いえ、先生。どうやら時間の流れは同じようですよ。」
俺の言葉に一番驚いていたのは前伯爵だった。
「ではお主、実年齢は幾つなのだ?」
「今年で40歳です。もうそろそろ41歳ですかね。そういう事もあり、サーシャさん達との話にも余り乗り気でなかった理由がご理解いただけましたか?」
「なんと・・・。その様な理由が。だがな、ススムよ。40歳で20歳前の娘と結婚するなぞザラにある話だ。私はむしろお前が異常にしっかりしている理由が溶けてスッキリしたくらいだ。」
「あはは・・・。」
「では何故堀君はその様に若々しい姿なんだい?」
「それは女神ルミナリアのせいですね。この世界に連れてこられた際にこの年の姿として召喚させられましたので。」
「ではお主は女神ルミナリア様に直接お会いしたというのか!?」
「ええ。ただし無理やり元の世界で殺されて、魂だけをこちらの方に作り変えられましたし、彼女とはケンカ別れしていますので僕がこの世界で何をしようと関係ないようですが。」
そんな事を言うとヴォルフガング様は俺のことを哀れじみた眼で見てくる。
「それより真壁先生はこの世界に来てからどの様な生活を?」
「実は私は気がついたときには既にこの世界にいた状態でな。危うく魔獣に殺されかけていた所をヴォルフガング様に助けてもらい、そのまま世話になっている。特別な能力もなかった為、教職としての力をこの世界でも振るえればと思ったのだが、どうも私には貴族社会の教員というのは無理らしい。はっはっは。」
「なるほど。確かに先生の教職としての理念や考えは貴族社会とは間逆な考えですからね。貴族学校でも爪弾きにされているというのが理解できます。」
「だが、そんな時に多額の自費を使いスラム街の子どもたち相手に学校を開くものが居るとヴォルフガング様に聞いてな。教え子二人を連れて飛び出してきたという訳だが、まさか堀君だったとは。これもまた運命かな。」
「その様です。ですが私の学校に対する理念や思想は真壁先生の教育理念そのものです。私の代わりに真壁先生とその教え子が教職に立ってくれるというのでしたらばこれ以上無い支援となります。」
「そう言えば君は私を慕い教職の道を目指してくれていたね。結局教師にはなれたのかい?」
「いえ、大学三年の重要な時期に先生が失踪してしまったと聞きそれどころでは有りませんでしたので。正直お亡くなりになったとばかり思っていましたのでこうしてお会い出来、今後共に仕事ができると思うとこれから楽しみで仕方有りません。」
「そうか・・・。君には心配をかけた。その分の埋め合わせはしっかりとさせてもらおう。カイゼルとルナは教え子であり教育理念はそのまま引き継がせている。そのせいで貴族社会では同じく爪弾き者とされてきたが、ここでは伸び伸びと生活を送れるだろう。」
「ええ、期待しております。」
諸々の話を終え真壁先生より今後俺のことを同接するべきかと相談がある。
「僕は流れ者で時勢に疎い冒険者の『ススム』です。可能でしたらその様に接して頂ければ。」
「では私も真壁先生では無く、貴族学校から爪弾きにされてここに流れ着いた『コーイチ先生』ということでよろしく頼むよ。」
俺と先生はそうして握手をする。
「良ければ今日、三人を僕の家に招待したいのですがよろしいですか?食事もある程度元の世界に似せたものを作ります。」
「それは嬉しいねえ!是非ご相伴に預かろうかね。その際に色々と学校についても聞くとしよう。」
「ええ、是非!所で三人は住居はあるのですか?」
「ああ、当面は私の所で面倒を見るつもりだ。」
「なるほど。ヴォルフガング様のところでしたら安心ですね。」
そうして俺は学校を運営していくうえで非常に心強い同志を迎えることが出来た。




