【第80話】労働力、買います!
翌日俺は朝一番で商業ギルドに赴く。
相談の内容は昨日の公衆衛生について担当を付けたかったからだ。
単純にやることが多すぎるため仕事内容で担当を決め、各々でやってもらったほうが効率がいいと判断した。
面倒くさいとか、面倒くさいとか、面倒くさいと言った理由ではない。決して。
「おはようございます。」
俺はすっかり顔馴染みになっているため直ぐにバレッサが来る。
「おはようございます。ススム様。今日は精算の件ですか?」
「あ、そんな事もありましたね。すっかり忘れてました。」
俺が笑顔で返すと流石のバレッサも若干引いていた。
「・・・と言うとまたなにか新しいお話が・・・?」
「はい。実はバレッサさんが仕事を任せられるという人物を最低でも一人、多ければ三人紹介して欲しいのですが。」
「さ、三人もですか?」
「はい。」
俺は笑顔でそう言うとすぐそばで話を聞いていたディナが話に入ってきた。
「バレッサ様。お話中失礼致します。お話を盗み聞きするつもりは有りませんでしたが聞こえてしまったので。もし良ければ私に任せて頂けませんか?」
きっとディナのことだから立候補してくるだろうなーと思っていたが案の定立候補してくれたので頼もしい限り。
「・・・ふう。ススム様もその表情から察するに初めからディナを使うつもりで話をしていたようですので任せます。正直私は今手一杯ですので・・・。」
「確かにバレッサさんは穴熊亭支店、学校、そろばん等などで手一杯ですものね。」
「ご理解いただけたようで何よりです。では、ディナ。後で話だけは纏めて持ってくるように。後この際です、貴方だけではなく貴方の部下も巻き込むと良いでしょう。」
「畏まりました。」
そう言いディナが頭を下げるとバレッサは退席していった。
「流石に仕事任せすぎましたかね?」
「いえ、ああ見えてバレッサ様は久しぶりに活き活きとしていらっしゃいますから大丈夫ですよ。それよりも後二人ですかね。少々お待ちください。」
そう言いディナも席を立ったが直ぐに二人捕まえて来てくれた。
「ススム様。紹介します。私の部下でバルトとエルナです。」
「初めましてススム様バルトです。」
「は、はじめまして!エルナと申します!」
バルトは如何にも仕事出来ます!といった感じの青年で、エルナはまだまだひよっこ感がある少女だった。
「はじめまして、ススムと言います。恐らく僕のことはバレッサさんとディナさんから聞いては居ると思いますが初めてづくしの仕事になると思いますので。後最初に言っておきますが、今回の職場はスラム街になります。それが嫌なら今のうちに断って下さい。」
俺が最初に警告をするが、二人は何故か嬉しそうな顔をしている。
「先日の衣類配布の件を二人に話してありますから、ご心配なく。」
「ああ、なるほど。では問題なさそうですね。早速ですがスラム街に行きましょう。詳しい話は自警団を混じえて行いますので。」
そうして俺達一同はスラム街に向かう。
「お、ススムさんだー!おはようございます!」
スラム街の人達からも挨拶されるくらい顔を覚えてもらえたようだ。
「おはよう。ルビア達は教会かな?」
「多分そうじゃないかなあ?」
「ありがとう。向ってみますね。」
手を振り見送られるとバルトとエルナは俺を尊敬の眼差しで見つめてくる。
やめて!眩しい!!
自警団の小隊にも挨拶をされ、ルビアに会いに来たと言うと率先して案内してくれる。
「よう、ススム。また来たのか?今度は何のようだ?」
ルビアは喧嘩腰の様な事を言っているが表情は明るい。
「新しい仕事を持ってきた。」
「だろうと思った。聞こうか。」
俺は商人ギルドの三人を紹介し、今後の仕事仲間になることを伝える。
「ふむ。商人ギルドの奴らか。話は通しておく。で、内容は?」
「ああ、このスラム街から疫病を無くすぞ。」
「なに!?」
俺は昨晩前伯爵に話をした三つの仕事について話をする。
その場で話を聞いていた全員が真剣な表情で話を聞いていた。
それほど、疫病というのはこのスラム街では切っても切れないものなのだろう。
「なるほど。各箇所に『肥溜め』を建設して管理。『清潔』を保つために『公衆浴場の建設』と『改良型石鹸』の製造。そして肥溜めにも石鹸にも必要な『炭』の製造か。」
「ああ、ただ公衆浴場については余裕が出来てからでいい。それに最初の炭は購入する。最速で行うべきは『肥溜め』の建築と管理だ。これについては早急に建築を行い、住民たちに徹底させる必要がある。それと自警団にも徹底させて見回り等もお願いしたい。」
「だが、『クソ』の管理かあ・・・。」
「その通りだ。汚いし、臭い。誰もやりたがらないだろう。だがそれで疫病が減るとしたら?そこから生まれる堆肥がとんでもない価格で売れるとしたら?」
「・・・そんなに高値で売れるのか?」
「農家からすれば喉から手が出るほどのお宝になる。実際今我が家の庭で作った堆肥を持ってきている。それを使ってここで小さな農園でも作ってみないか?」
その言葉にバルトが反応した。
「今その堆肥をお持ちなんですか?見せていただいても?」
「うん?良いけど。なんで?」
「実は私は農家の出なんです。なのでそれほど素晴らしい堆肥なら見れば分かります。」
「なるほど。ルビア、そういう訳で畑に使ってもいい場所はある?」
「・・・こっちだ。」
ルビアに案内されたのは教会から少し離れた土が剥き出しの荒れた場所だった。
「うん。ここなら良さそうだ。」
収納鞄に入っている堆肥を少し出す。
「これがその完成された堆肥だ。完全に無毒化されててむしろ土にとっては栄養となる。」
俺が堆肥を手で触るとルビア達は若干抵抗があるような顔をする。
だがバルトだけは違った。
手に取り感触を確かめ、匂いを嗅ぐ。
「これは・・・!これが元は人間から排泄された糞尿だとは思えませんね・・・。良ければ肥溜めの件と畑の作成を私に任せてくれませんか?」
すると意外な所からも声が上がる。
「あのー?ススム様達はここで何かを始めるおつもりで?」
それは俺達を遠巻きで様子を見ていたこの街の住人たちだった。
「実はこの荒れた土地を畑にしてみようかと思うのですが、どなたか手伝ってくれる方はいませんか?他にも僕はこの街で色々な新しいことを始めようと思っています。勿論タダ働きしろとは言いません。正当な仕事には正当な報酬を。成功しようと失敗しようと『賃金』を払います。我こそはと思う方が居ましたら、是非教えて下さい。」
それを聞いた住民たちの反応は非常に良かった。
なんとその場で何人もの人間が是非にと手を上げた。
余りにも多かったので場所を移し、話を行うことにした。
俺は興味を示した住民たちや、手持ち無沙汰になっている自警団を混じえて『公衆衛生』の重要性や疫病の怖さ、そしてこれらの仕事が金になることを力説する。
その結果、住民たちや自警団からの反応は著しく良好でありどの様な仕事内容があるのか等質問が上がった。
「す、ススム様。俺ぁ、この街で色々と住居を建てたりしてたんだが、俺みたいなのにも仕事はあるだろうか?」
「ああ、勿論ある。場所ややり方はこちらが決めるがそれに従ってくれるのなら『肥溜め』の建築や『石鹸』を作るための小屋が欲しい。ディナさんお任せしても?」
「ええ。分かりました。」
「ススムさんや!私は以前は農家で手伝いをしていたんだが、畑仕事もあるのかい?」
「是非僕が持ち込んだ堆肥を使いここに居るバルト君主導のもと、畑を作ってくれ。」
「ススム様・・・。私でもその石鹸は作れますでしょうか・・・?」
余り仕事に慣れていなさそうな住民からも声が上がる。
「材料や器具はこちらで用意する。欲しいのは労働力だ。そうだな、エルナさん。炭や素材の管理と石鹸作りの担当を任せてもいいかな?」
「は、はい!是非お任せ下さい!」
俺から指名を受けたエルナは嬉しさ半分、緊張半分で答える。
「場所があまりないので暫く石鹸作りは教会の一室で行おうか。ルビア、いいかな?」
「ああ、任せろ。」
「では、私は可能な限り早急に炭を初めとした各種材料の確保に移ります。材木関係はエルナ、君に任せる。農具関係はバルトに任せよう。これでよろしいですか?ススム様?」
「うん、良いと思うよディナさん。後は肥溜めの管理だが・・・。」
「それは俺が引き受けよう。勿論住民にも周知徹底する。これだけ話が出ているのに俺だけ傍観しても居られないだろう。それに疫病対策はやはり問題だしな。」
「助かる、ルビア。」
その後も話を煮詰めていき、賃金は時給制の日払い制度にすることにした。
支払う金額は一般労働者と変わらない金額を提示した所、全くの無収入だった住民たちからも歓迎される。
働いてくれた人員や材料費、経費等は各担当の商業ギルド員が管理することとなり必ず記録も取らせることにする。
この記録は後々、成果を提出するための貴重な資料となるためだ。
最終的に、住民からは最初の労働希望者として建築関係者4名、畑の従事者5名、石鹸の製造者が4名となる。
一旦俺達は商業ギルドに戻り溜まりに溜まってしまっていた俺の登録してある商品の精算と薬草類の精算をしてもらうとこれまたとんでもない金額になっており、三人は絶句していた。
「あ、あはは・・・。まあこれもスラム街への投資に回せるからさ。ということで3人にはある程度のお金を最初に渡しておきますので、必要なものを買い、賃金を支払ってあげてくださいね。」
「わ、分かりました!」
三人は首をブンブンと縦に振る。
後は三人に必要な作業工程や設計図を書いた用紙を担当する者たちに渡し、これで後は結果待ちとなった。




