【第78話】衣類支援
穴熊スタンド初日の運営が上手く行ったことを見届け、店員達をミストヴェイルにお送り届けた後俺は旧教会へと向った。
というのも翌日には旧教会で衣類緊急支援が行われるからだ。
だが、これには自警団は勿論、統率総責任者として前伯爵が居るし衣類の管理にはバレッサとディナも動いてくれている。
俺は明日問題なく行えるのかを確認する程度である。
スラム街に入ると俺は大歓迎を受ける。
特別なことをしているつもりはないのだが、どうやらスラム街の住民たちからは強力な支援者として見られているようだ。
そこに自警団の面々が現れ俺を案内してくれる。
どうやら明日だけではなく日常的に4人1チームの小隊制度を取り入れたようで基本的にまばらな行動を取っていた自警団達は必ず小隊で動くようになったようだ。
「こちらです。」
「ご苦労さま。」
俺は案内してくれた小隊に礼を述べ旧教会内部に入るとそこでは最終確認をしている自警団の面々と商業ギルドの数人の人たちの姿が見える。
「よう、ススム。」
そう行って声を掛けてきたのはルビアだった。
「こんにちは、ルビア。遅くなって済まなかったな。」
「良いってことよ。店、大繁盛だったらしいじゃないか?」
「うん?良く知ってるな。」
「そりゃ、あんだけ話題性のある店でかつこのスラム街の支援者の店だ。知らないわけ無いだろう。」
「そっか。まあ、それもそうだな。ところで守備はどうだ?」
「ああ、最初はどっから手を出したものかと考えたが爺さんと商業ギルドの人間に助けられてなんとかなりそうだ。」
そう言いながらルビアは会場となる旧教会内部を見渡す。
「住民への周知徹底は?」
「問題ないさ。皆如何にして追加の一着を貰うかで目を輝かせているくらいだ。」
「あはは。それは良い。良ければ並ぶ場所や品の場所を見せて貰っても?」
「おう、案内する。」
そうしてルビアは住民が並ぶ場所から順路、そして旧教会内に入ってからの各種品が並んでいる部屋も見せてくれる。
「うん、いい感じだね。後はこちらに来れない人用にはどうなっている?」
「ああ、それもこっちに纏っている。」
一室に纏められたこちらに来ることが困難な人間用に綺麗に畳まれ纏っている衣類を見せてくれる。
「準備抜かりなしだね。本番は明日だ。明日は早い内からこちらに僕も張り付くから。」
「助かる。」
翌日、俺はミストヴェイルから穴熊亭の素材と人員を運んだ後、直ぐに旧教会に向かうことにした。
「ススム君。こっちは気にしないで良いから、そっち頑張ってね。」
「ありがとう。アリスさん。何かあったら手紙の魔道具で知らせてね。」
「うん!じゃあお互い頑張りましょー!」
アリスからの激励を受けた俺は単身、旧教会へと向かう。
サーシャ達は本格的に穴熊亭を立ち上げるための建物の修繕や設備についての依頼等をするのだという。
サーシャ曰く、衣類支援については既に商業ギルドが絡んでいるので自分が居ても逆に足手まといになる可能性があるということで自分で出来ることを精一杯するのだという。
なんともサーシャらしい、効率的な考えだなあと思った。
スラム街に入るといつものガヤガヤとした雰囲気はなく驚くほど静まり返っている。
「おお・・・?これは・・・。」
俺が戸惑っていると案内係担当の小隊が話しかけてきた。
「おはようございます。ススムさん。」
「おはよう。なんで今日はこんなに静かなの?」
「あはは。それはルールを重視しているからでしょう。」
「それでここまで雰囲気が変わるとは思いもしなかったよ。」
俺が旧教会に案内されると、直ぐに前伯爵にこちらに来るようにと言われる。
「丁度これより、開会式を行うのでな。折角なら発起人のお主からも何か一言述べてほしいと思ってな。」
「ええ・・・。そういうのは余り得意では無いんですが。」
「まあそういうな。ルビア、始めろ。」
前伯爵より命を受けたルビアが一歩前に進み、小隊規模で並んでいる自警団と商業ギルド員達に声を掛ける。
「今日は俺達、自警団『クリムゾンケルベロス』の初任務の日だ。お前ら手順通りしっかり頼むぞ!」
「「「おう!」」」
そして俺の順番のようだが何を話すかなあ。
「今回僕はあくまで話の発起人の一人であって、行動を実際するのは自警団の皆、サポートに回ってくださっている商業ギルドの方々、そしてルールを必死に守ろうとしている住民たちが主役です。怪我だけはしないようにしましょう。勿論、自警団の皆にもそうですが、協力してくださった商業ギルド員の方たちにも何かしらの報酬は渡そうと思っていますので最後までご協力のほどよろしくお願いします。」
そう言い俺が頭を下げると、「わっ!」と商業ギルド員達から声があがった。
前伯爵が前に出て声を掛ける。
「ではこれより、衣類支援を行う。各々配置につき準備をしてくれ。」
其の一声で各人割り振られた場所に散っていく。
僕はと言うと特にやることもないのでどうしようかと思っていると前伯爵より声が掛かる。
「お前はこっちに来い。ここであれば列の並びも教会内部の動きもよく見えるだろう。」
そう言われ案内された場所で待機することにした。
「どんな感じですか?ヴォルフガング様。」
「ああ、皆良く動いてくれるし話も純粋に聞き入れてくれている。少し前までこのエリアは行政からも見放された危険なエリアとして指定されていたのが嘘の様だ。」
そんな話を聞いていると開始の時刻を告げる声が聞こえる。
「これより、衣類支援を行う!ルールはきちんと守るように!」
そう告げられたことで各家のドアが開いた事で僕は若干嫌な予感がしたが、あくまで予感だけだったようで、住人たちもルールを重視し決して破ること無く、走らず喋らずで順に並びだす。
住民たちもどうやらリハーサルをしていた様で無駄な動きが感じられずキビキビとした動きで並びだしたのには流石に笑ってしまった。
そして先頭から順番に旧教会内に通され、暫くするとその家族は各々の選んだ服を手に旧教会から出てきて自宅へと静かに返っていった。
帰りも声には出していなかったが、満面の笑みが見て取れたのが印象的だった。
それを見ていた前伯爵も非常に興味深げに見ている。
「ススム。私はな、過去士官学校で校長を務めていた頃は徹底的にしごき恐怖によって生徒たちをコントロールすれば良いと思っていたしそれしか方法はないと思っていた。だが今日この光景を見て新たな可能性を見出したよ。」
「恐怖による民衆のコントロールも時には必要だと思います。要は使い所なんだと思いますよ。今回は私の案がこの街の住民たちに上手く刺さってくれた。それだけだと思います。」
「この地での新たな形態での学校の設立が非常に楽しみだよ。」
「ええ、僕もです。そう言えば教師候補の二人の方はどうなりましたか?」
俺が前伯爵に聞くとにっと笑っている。
「二つ返事で是非にとのことで準備を纏め次第こちらに来るとのことだ。」
「ええ!?まだ宿泊所も無いのに?」
「それは大丈夫だ。彼奴等なら野宿でも全く問題がない様な精神をしている。」
「それは・・・、貴族たちからは爪弾きにされそうですね・・・。」
「だろう?楽しみにしていると良い。」
「では私も教材つくりを頑張りますかね。」
実はと言うと既に教科書になるような物の準備は既に始めている。
衣類支援会場を見ていると、纏った衣類を持ち運びしている小隊も見られる。
恐らくこれはこちらに足を運ぶことが出来ない高齢者や傷病人への支援だと思われる。
渡してこちらに戻ってくる小隊の顔に笑顔があることから恐らく感謝の言葉を述べられたに違いない。
その後も滞り無く、トラブルも発生せず無事に全家庭への衣類支援が終わる。
「いや、驚いた。全員ルールを守るとはな。」
前伯爵が驚いていたがそれは他の皆も同じで特にルビア達は衝撃的だったようだ。
「ああ、ここまで平和な街を見たのは初めてかも知れない・・・。」
「あはは。まあ無事に終わったなら何より。じゃあ後はルール3の追加の一着を配布しに行こうか。希望は聞いてあるんだろう?」
「ああ。だが思い知ったよ。俺達は文字を書くのも大変で商業ギルドの補助がなければ記録を取るということも出来なかっただろう。学校の重要度を痛感したぜ。」
「そうだな。これから学校が開校して教育を受ける子どもたちが増えて行けばこの街は大きく変わるだろう。」
ルビアと商業ギルドの面々が最後に各家庭に追加の一着を渡して周り無事に衣類支援の配布も終わる。
終了を告げられたことで各家庭の面々が表に出てきて配布を行ってくれた自警団や商業ギルドの面々に感謝の言葉を述べているのが印象的だった。
「ルビア、暫くしたら自警団の全員を旧教会に集められるか?」
「ん?ああ!」
ルビアは直ぐに何のことか悟り緊急で招集がかかる。
「整列!」
ルビアの一言で自警団が一斉に列をなし姿勢を正す。
「皆、ご苦労さまでした。無事にトラブルも無く、怪我人も発生せず衣類の配布を行うことが出来ました。周知徹底と入念な準備をしてくれた自警団の皆には感謝しています。そこで今回の『仕事』に対し『報酬』を支払います。少ないかも知れませんが、今後も何かあれば仕事と報酬を用意しようかと思っていますので今後とも宜しくお願いします。」
俺はルビアを横に呼び、俺からルビアへ、ルビアから各人へ直接渡してもらう方式を取る。
今回の報酬は実質3日分ということで一人当たり銀貨1枚、日本円にして約1万円分とした。
「こ、こんなに貰って良いのか?」
「実質3日分だからな。あとこの給料のことは公言しないようにしろ。住民といらぬ軋轢を生んでも嫌だろう?」
「・・・わかった。ありがたく頂戴する。では名前を呼ぶので順番に取りに来い。」
そうして俺からルビアへ、ルビアから各自警団員へ報酬が渡される。
3日分なので1日にすれば3,000円と少し位の給料なのだが、それでもこの街に暮らすものとして正当な報酬は初めてなのだろう。
自警団の皆は感動して笑みを浮かべるものや、達成感で涙を流すもの等様々だ。
「バレッサさん、後で商業ギルドの方々には別でお渡ししますので宜しくお願い致します。」
「本当でしたらば貰う立場では無いと思うのですが・・・。」
「『正当な仕事には正当な報酬』を。これは慈善行為であっても『平等制』を維持するには必要なものです。」
「わかりました。ありがたく頂戴致します。ああ、それとススム様自身の精算もそろそろ必要な時期になってきていますので冒険者ギルド分と商業ギルド分を一緒に精算してしまいましょう。」
「あはは・・・。忘れてました。では明日にでもお伺い致します。」
「ええ、是非。」
こうして無事に衣類支援も終わり、当面食料と衣類についてはこの街は問題がなさそうだ。




