【第75話】冒険者ゲーム
「そうだ。良ければ今日、夕飯にヴォルフガング様が来るのですが良ければお二人も如何ですか?夕飯後に皆で冒険者ゲームをして遊んでみましょう。」
俺は何時ものように突飛な思いつきで二人を食事に誘う。
「ええ!?ヴォルフガング様とご一緒ですか?それは流石に問題があるような・・・?」
バレッサも流石に困惑していたが前伯爵から今日は庶民的な食事会であるという言質は取っている。
「ヴォルフガング様に今日は貴族的ではなく庶民的な食事会になるとの了承は受けております。それに今日は折角なので僕の新メニューを作ろうと思っていますし、非常に重要な案もあります。」
その発言にバレッサもディナも一気に顔色が変わる。
「是非ご一緒させて下さい!」
「では18時頃にでも家に来て頂けますか?普段着のままで結構ですので。」
「わかりました。二人で向かいます。馬車で乗り付けますがよろしいですか?」
「ええ、勿論です。」
後は腹ペコ4人娘だが、サーシャに手紙の魔道具で知らせればいいかな?
「バレッサさん、申し訳ないですがサーシャさんに先程の趣旨を伝えてもらってもいいですか?サーシャさん、アリスさん、セリルさん、ナナリーさんもご一緒にと。」
「わかりました。というかススム様は手紙の魔道具をお持ちでないのですか?」
「あはは。買う機会を逃してました。どこで買えるのでしょうか?」
俺がそう言うとディナがすぐに下った。
「ふふ。ススム様は不思議な所で弱点が出ますね。勿論ここで買えますよ。」
直ぐに下がったディナが戻ってきて手紙の魔道具を持ってきてくれる。
値段は若干高いがそれでも有益な通信手段なので俺は勿論買い込んだ。
使い方も教えてくれたため、折角なので俺から腹ペコ4人娘に対し18時~食事会を開き、その後に新たなゲーム試作会をすることを伝えると即返信が来て「参加します!サーシャ&アリス」とだけ書いてあった。
丁度サーシャ達から連絡が来たくらいにディナ達が手配してくれた古着屋の面々が集合してくれたので事情を話し、老若男女問わずの売れ残り、在庫になってしまっているものを中心に安く買い取ると言った所喜んで提供してくれることとなった。
今日明日で用意してくれるとのことなので窓口にディナに立ってもらい、ディナ経由で精算してもらうことにする。
これもディナの商人としての商売実績に繋がるため、ディナは喜んで任を受領してくれた。
俺は夕飯の用意をしなければならないため先に失礼し、自宅でフィルルと大忙しで食事場を整えたり調理を開始したりすることとなる。
「すまんな、フィルル。こんな急に大量の客人が来ることになって。」
『いえ!こんなに多くのお客様がくることは無かったのでフィルルは非常に嬉しく思います!』
ちなみに今日のメニューはフレンチフライを作った時の油を時を止める収納鞄で取っておいたのでそれを使い牛カツを作り、更に野菜や果物を大量に煮込み酢や塩、スパイス更に砂糖が入手困難だったので蜂蜜で味を調整したオリジナルウスターソースを作る。
主食は勿論大正義の米とパンを用意し、一応スープも作っておいた。
日が暮れ始めた頃にボチボチと来客が始まる。
まずはサーシャ、アリス達が帰ってきた。
「ただいま帰りましたー。」
「おかえり。ご苦労さまだったね。」
「お陰様で今日商業ギルドで無事登録できたんだー!登録証は後日発行だけどね。」
「おお!それはおめでとう!!」
俺はパチパチと祝福の拍手を送る。
二人とも嬉しそうにしているが、今日のこの後のことを思い出した様子。
「そう言えば今日この後お客様いっぱい来るんだよね?手伝う?」
アリスがそんな事を言うが実はもう終わっている。
「いや、もう終わっているから大丈夫だよ。ありがとう。」
「うわー。ススムさんの新メニュー楽しみー!!」
それを聞いたサーシャはくるくる回っている。
暫くすると前伯爵が先に到着し、ほぼ同時にバレッサとディナもやってきた。
「急な要望だったのにも関わらず感謝するぞ、ススムよ。」
「いえいえ。僕も急に変更し、大食事会となってしまう申し訳ないです。」
「構わぬ。こういった食事スタイルは逆に新鮮だ。」
「そう言って頂ければ心強いです。」
そして二つの大テーブルに別れ食事会となった。
俺は千切りにしたキャベツのような葉野菜の上に丁度よい程度に火が通った牛カツを切り断面が見えるように飾り付け、その上に柑橘系のスライスも乗せる。
うーん。非常に美味そうだ。
運ばれる食事を見る皆の表情も明るく、いちいちリアクションが面白い。
そしていざ食べ始めると、一応ウスターソースに抵抗もあるかなと思い岩塩も用意していたが、皆ウスターソースを混んで掛け、柑橘類を少し絞って牛カツを美味しそうに食べていた。
「・・・サーシャよ。お主この様に上位貴族でも滅多に食えぬような旨い料理をほぼ毎日のように食っていたのか・・・?」
「ええ!羨ましいですかお祖父様!」
「くっ!!完敗だ・・・。」
何を争ってるんだこの祖父と孫は・・・。
バレッサとディナはやはり師弟なのか似たような表情で固まって色々思考しているようだった。
アリスは我関せずと言った感じで笑顔でパクパク美味そうに食っている。
ちなみに最近ではアリスももっぱら米をよく食うようになり同士が増えて嬉しい限りだ。
「「「ご馳走様でした。」」」
食後の片付けはセリル、ナナリー、フィルルが行ってくれるとのことだったので、俺は学校設立関係者を集めて新しい教材の一部となる『冒険者ゲーム』をお披露目することにした。
『冒険者ゲーム』は要はすごろくを改造したもので、大きなボードは用意できないので予め順路が書いてあるボードを5✕5枚の計25枚を用意しそれを合体させ、一枚のボードとしている。
そしてその順路にはあえて何も書いていない。
これは子どもたちに数字に馴染んでもらうために順路には敢えて何もかかずそこに小さな数字を書いた木札を1~ゴールまで並べるようにさせる。
裏面に数字、表面に文字が読め、理解できるように簡単な指示が書いてある指示札を用意し、止まった数字に会う指示札に従う形になる。
後はこちらの世界でもあるサイコロと、自身を表す駒、そして計算を今後できるようにするためにこの世界の貨幣を模したものを用意する。
俺が説明をしながら準備をしていくと「なるほど・・・。」や「こんなやり方が・・・。」等驚きと興味深さを示す声が聞こえる。
「じゃあ、早速ゲームを開始してみましょう!」
そうして俺、アリス、サーシャ、前伯爵、バレッサ、ディナの計6名でゲームが開始される。
最小限の手持ち金の貨幣を模した物を渡した後、サイコロを振り数字の大きいもの順からスタートとなる。
「良しでは私からだな!」
そう言い前伯爵からスタートとなる。
「4か。それで止まった場所の数字のカードの指示に従うのだな?」
「ええ。そうです。」
「お、採取の依頼を成功したぞ!なるほど、これで報奨金分の金を受け取るのだな。」
「その通りです。」
次はサーシャだ。
「5が出ました!それで5のカードは・・・。サイコロを振って1,3,5,は成功。2,4,6は失敗ですか?うーん!出ろ!」
コロンと出た数字は4だった。
「うわーん!失敗したので違約金を取られましたー・・・!」
そしてゲームはドンドン進んでいく。
途中で怪我をして一回休みになったり、詐欺にあって偽物の剣を多額で買わされたり。
他にも『財産カード』というカードも用意しており、これは特定の場所で現金化出来たりするカードだがこれもサイコロの出目で売却額に倍率が掛かったりと計算力が必要になってくる。
大盛りあがりをしながら最初の1ゲームが終わった。
最後の時点で一番お金を所持している人物の勝利だ。
なんと1位はアリスで2位はディナだった。
「やったー!!私が1位だー!」
アリスはぴょんぴょん飛び跳ね喜び、2位だったディナは感動しているようだった。
「どうでしょう、これが僕が考えた子どもたちが『楽しんで文字の読みや計算を頑張りたくなる』冒険者ゲームです。」
「いやはや、素晴らしいものを作り上げたな!!」
前伯爵は子どものような目の輝きを放ちながら感心していた。
「す、ススムさん!これは画期的ですよ!!」
「ええ、まさしく!!是非商品登録をしましょう!」
サーシャとバレッサも違う意味で目を輝かせていた。
だが、そう商品登録なのである。
「バレッサさんお聞きしたいんですが、商品登録をした後暫く秘匿することや独占することは可能ですか?」
「商品登録をした後の秘匿や独占ですか?何故でしょう。この様な素晴らしいもの。とてつもなく売れると思うのですが。」
バレッサが信じられないというように驚いていた。
「ええ、今の1ゲームを通して庶民は勿論上級貴族にもゲームの熱が伝わることが分かりました。それ故です。僕は学校である程度子どもたちが成長し、文字が問題なく書けるレベルまで成長したら、その子どもたちを中心にスラム街の皆と協力し、『このゲームの製造権利を時限的に独占したい』と考えています。」
俺の考えを述べると其処にいた全員が驚く。
「製造権利の時限的独占・・・。そうか。そうすれば今は職がない大人たちでも、文字の読み書きが出来るようになった子どもたちを中心として産業が成り立つのか・・・!」
前伯爵が立ち上がり語る。
「ご明察です。僕はゲームの製造を通してあの街は近い内に『スラム街』と呼ばれることがないくらいの立派な街になると信じています。」
それを聞いたサーシャとアリスは手を取り合い喜び、バレッサは目に涙を浮かべていた。
そしてディナは俺に謝罪をしてきた。
「ススム様・・・。先程のご無礼本当に申し訳なく思います。私は・・・。私は・・・!」
「良いんですよ。ディナさん。先程のディナさんの話は最もだと思います。そして今のゲームを通して僕の夢想が現実味を帯びた。それだけで十分です。お付き合いいただき感謝します。」
「ススム様。商品登録の件ですが、何分前代未聞ですのでお時間を頂いてもよろしいですか?問い合わせてみます。」
「そうですね。お願いします。」
「それともし秘匿や時限独占が叶わないとなった場合はアインズ王子に協力してもらいましょう。」
「!・・・なるほど。国産業にしてしまい、製造販売の権利を国が有するようにする、ですか?」
「素晴らしい・・・!その通りです。取り分は国が介入する分若干少なくなりますがその方が間違いないでしょう。」
俺はそこで少し考えた。
「どうせなら最初からアインズ王子を巻き込みましょう。国と『契約』し、収入が得られる分強制的に庇護して貰いましょう。どうですか?ヴォルフガング様。」
その話を聞いていた前伯爵は髭をいじりながら目を閉じ考えていたようだがにいっと口に笑みを浮かばせる。
「良いだろう。その話、アインズ王子に通す。」
そうして『冒険者ゲーム』は国を巻き込んだ一大産業への第一歩を踏み出す。




