【第73話】ヴォルフガング学校長
最初の即興で行われた炊き出し会の後、俺は自宅に帰ってから様々なものを夜も寝ず色々と書き出していた。
日本で社畜をしていた時にいつ終わるともわからない給料が出ない残業に追われていた頃を思い出すがそれよりも遥かに目標や意義を見出していたので忙しいながらも楽しく作業が行えた。
『ススム様?もう夜も遅いですが今夜はお休みにならないので?』
「ありがとう、フィルル。君はもう休んでくれても良いんだよ?」
『ふふ。ありがとうございます。ですがフィルルは妖精なので寝なくても大丈夫なのですよ。』
「そうだったのか。じゃあゆっくりしててくれ。」
『お茶だけ入れてきますね。』
そう言いフィルルはお茶を入れてくれる。
俺が今書き出しているのは、今日の出来事から必要だと感じたことだ。
重要度が高いものから順に書き出す。
・衣類の支援。
・狩りの方法の伝授。
・野菜の入手法。
・旧教会の屋根の補修。
・自警団の証となる腕章の作成依頼。
等など諸々を書き出す。
衣類については古着屋でかき集めれば安く済むだろう。
狩りについては冒険者ギルドに行き、冒険者に依頼を出し狩りの仕方を教えてもらうのも良いかも知れない。
野菜については廃棄になるがまだ食べられそうなものを農家等に交渉すれば売ってくれる可能性もありそうだ。
俺はそんなことをメモに追記や補助で書き足しながら書いているといつの間にか寝てしまっていたようで気がつけば翌朝になっていた。
「んお・・・。ふぁぁーあ・・・。寝ちゃってたのか。」
『御主人起きた!』
「うー・・・。ポチ、お前またベロベロ舐めたな。」
『起きないのが悪い!』
「全く、このいたずらっ子め。」
そんなことをポチとしているとエプロン姿のアリスが奥から出てきた。
「おはよう、ススム君。どうやら忙しかったようだね?」
「おはよう、アリスさん。忙しいは忙しいけど楽しくやれているよ。」
「朝食、今日は私が作りました!いつも作ってもらってばっかりだしねえ。」
そんな事を言うアリスの姿に少しときめいてしまう。
うーん・・・。自分でも言うのも何だが少しピュアすぎないか自分?
朝食はシンプルながらも非常に美味しい食事であった。
「そういえばスタンドの方はどんな感じなの?」
「うん!良くぞ聞いてくれました!実はもうほとんど完成していて後は商人ギルドに正式に登録に行くだけなのだよ!」
「おー、すごい。」
「まあここら辺はサーシャのお陰かなあ?サーシャはススム君の話を聞いた後即動いてくれてねえ。職人さん達とのやり取りもスムーズだったんだあ。」
「なるほど。流石だなあ。」
「ただやっぱり物がないと専属契約してくれる肉屋、パン屋、野菜関係の問屋さんは難しくてね。そこがちょっと時間かかりそうかな?」
「じゃあ、スタンドが完成したら暫くはミストヴェイルに朝仕入れに行く感じかな?」
「そうなるかな。従業員の子たちの問題もあるんだけど。」
「じゃあ朝に迎えに行き仕入れも行ってこっちでスタンドで商売して、夜になったらミストヴェイルにまた返せば?」
「それだとススム君の負担大きくない?」
「1ヶ月位はどのみち学校問題に掛かりきりになる可能性があるし、その間依頼やダンジョンの探索はしないし問題ないんじゃないかな?」
俺は「うーん」と考えながらアリスに話をする。
「じゃあその半分の2週間!その間にこっちは片付けちゃう!」
「そんなに焦る必要もないから気楽にね。」
「いつまでもススム君におんぶに抱っこじゃ申し訳なもの!」
「僕的にはもっと頼ってくれても全然構わないんだからね?」
「!!」
俺がそんな事を言うとアリスが顔を真赤にして照れ始める。
あ、これは意図せず何かを踏み抜いたらしい。
「では私もススムさんにおんぶに抱っこしてもらいます!!んがっ!」
サーシャが勢い良く現れたが、セリルとナナリーによって静止させられた。
「おはよう、御三方。元気なようで。」
「お騒がせしてすみません、ススム様。」
「気にしないでいいよ。もう慣れた。僕はこの後商業ギルドに行く用事があるけど任せて良いんだよね?」
ナナリーの拘束を解いたサーシャが元気よく返事をする。
「はい!この後お風呂に皆で入ってその後に私たちも森の穴熊亭(仮)を始動させるために色々動きますので!」
「うん。じゃあ気をつけてね。行ってきます。ポチ行くよ。」
「いってらっしゃーい。」
俺は商業ギルドに行き、バレッサと早速昨日の後俺が必要や懸念を纏めた事項を打ち合わせしているとギルド員が慌てた様子でバレッサに面会要求をしてきた。
「今私はこちらで接客中なのですが?」
「ええ、ですが・・・。」
「どうやら事情があるようですよ?僕は待ってますのでとりあえず様子だけ見てきては?」
「申し訳有りません。すぐに戻りますので。」
そう言いバレッサが退席している間に俺は昨日の諸々を書いた紙に再度確認しながら何が最適かを書いているとバレッサと聞き覚えのある声が近づいてくるのがわかった。
「失礼する。」
「ヴォルフガング様。おはようございます。どうしてこちらに?」
「うむ。ススムよ。まずこれを。」
そう言い前伯爵が一通の手紙を俺に差し出す。
「うん?お預かりします。」
裏の蝋印を見て差出人がすぐに誰かわかった。
アインズ王子だった。
「拝見致します。」
そこには前回のプレゼンが非常にわかりやすく、これだけの資料が揃っているのに加えて、現在飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍している俺が全面的に動いていることを伝えればまず間違いなく『国』は動くと確信しているのでそのつもりで動いてほしいとのことが記されている。
そして驚きなのはヴォルフガング前伯爵をアインズ王子の名代として派遣し、『国』への要望は前伯爵に伝えて欲しいとのこと、加えて建設される予定の『学校長』に前伯爵を推薦するとのことが記されていた。
「ええ!?ヴォルフガング様が学校長にですか!!」
「がはは!そういう事だ。私は息子に伯爵の座を譲り、隠居させてもらっておったのだが・・・。私は現役時に士官学校の校長も務めた経験もある。それにな、私自身が立候補したのだよ。一体ススムがこの先何をなそうとしているのかを見届けるために。」
「それは大変重責ですね・・・。ですがヴォルフガング様でしたら安心して計画に入って頂けると思いますので非常に助かります。」
俺はバレッサに手紙を渡し内容を確認してもらうとバレッサも非常に驚いている様子だった。
「それにしてもアインズ王子に直接会わずとも国に案を出せるのは非常に助かります。」
「うむ。どんと任せるが良い。」
「ありがとうございます。そうだ。折角なのでこれから少し出ませんか?学校になる場所、通う予定の子どもたち、そしてそこを警護している自警団の連中を紹介します。」
「おお、それは良いな。案内してくれ。」
「では私は、ススム様の案を下に各所に声を掛けさせていただきますね。」
バレッサは俺の作ったメモを下に色々と動いてくれるようだ。
「お願いしますね、バレッサさん。ではヴォルフガング様、行きましょうか。」
そうして俺は旧教会にまつわる出来事などを話ながら向かう。
「なんと!またしても呪われたダンジョンを攻略し子どもたちを救出しよったのか!」
「成り行きですけどね。」
「謙遜するな。お前が冒険者でなかったら問答無用で士官学校に入学させ、私の部下にしていた所だ。」
「あはは・・・。あ、見えてきましたよ。あの旧教会が学校となる場所になります。」
「ほう、あそこだったか。」
「ご存知でしたか。」
「まあ・・・な。私もあそこの一体の情勢は少なからず知ってはいる。歯痒く思っていたのだよ。」
俺達が近づくと周囲を警戒していたのだろう自警団の者たちが声を掛けてきた。
「ススムさん!おはようございます!」
「おはよう。今日は重要な客人を連れてきた。ルビアはいるか?」
「ご案内致します!」
そうして自警団としての自覚が少しずつ芽生え始めたのか元々ギャングだなんて名乗っていた連中であったが、キビキビとした動きで俺達を案内する。
それを見た前伯爵も驚きを隠せないようだ。
「こちらになります!」
「うん、ご苦労さま。おはよう、ルビア。忙しい所失礼するぞ。」
「おう、おはよう。ススム昨日はありがとうな。それとそちらのガタイの良い爺さんは・・・?」
「紹介する。この方はこの国の前伯爵で今後ここに建設される学校の学校長となる、ヴォルフガング様だ。」
「ヴォルフガング前伯爵だと・・・!?『鉄拳のヴォルフガング』か!?」
うん?なんだそれ。
初めて聞いた呼び名だが二つ名か何かなのかな?
「がーっはっはっは!久しぶりにその名を聞いたな。然り。私はヴォルフガング・アウグスト・ブラウン。ブラウン家前伯爵だ。よろしく頼むぞ。」
それを聞いたその場に居た自警団の連中らは一斉に整列をしだす。
「初めまして。ヴォルフガング閣下!俺・・・私はこのスラム街及び学校を警護する自警団『クリムゾンケルベロス』の代表、ルビアと申すものです。宜しくお願い致します。」
辿々しくそう言いながらルビアは頭を下げる。
「ルビアよ。頭をあげよ。これからはこの街、そして今後出来る『学校』を守護する者同士である。気楽に行こうぞ。」
「は、はい!」
そうしてルビアと前伯爵は固い握手を結んだ。
その後ルビアだけを呼び出し、前伯爵がここに先発として来た理由をかいつまんで説明した。
「という事はほぼ間違いなく学校は出来る認識で良いんだな!?」
「まだ確定ではないから公には話すなよ。そうだ、ヴォルフガング様学校のことで一点、学校以外のことで一点ご相談があるのですが?」
俺が話を振ると前伯爵は興味ありげに髭をいじりながら聞いてくる。
「うむ、申してみよ。」
「学校についてですが、『教師』としての人材を可能なら国より派遣していただきたく思います。最低でも1名お願いしたいのですが。」
「ふむ。どんな人材が良いのだ?」
「そうですね。子どもたちのことを第一に考えていること。そして柔軟な思考力を持っていて、逆に持ちすぎているがために各教育機関から爪弾きになるぐらいの人物が居れば最高ですね。」
「柔軟な思考力・・・。」
それを口にし考えを巡らせる前伯爵だったが、直ぐに思い当たる人物が居たようでにやりと笑みを浮かべる。
「ああ、居るぞ。それも二人もな。その二人は師弟の関係なのだが、あまりに思考が変わっているために貴族教育にふさわしくないと爪弾きにされている。」
「バッチリですね。その二人をぜひこの学校の教師に招待したいです。あ、給料は学校の基金より発生しますので国としては『人材を派遣した』という実績だけの負担になると思います。」
「ならば、なおのこと召喚しやすいな。よろしい。すぐに呼ぶ。それでもう一つは?」
「学校が設立されるまでの間に自警団の何人かに対して『狩り』の仕方を教えて頂ければ助かります。」
俺は昨日行った食料緊急支援の話をしながら今後は最低限の出費で出来るようにするため、自分たちで狩りをして貰う必要性を解く。
「なるほど。それは確かに重要だな。狩りは私も得意だ。良いだろう。ルビアよ。見込みがあるやつを連れてこい。徹底的に教えてやろう。」
「よ、よろしく・・・お願いします・・・。」
その後はルビアを先頭に旧教会内部やスラム街などを視察し、子どもたちの様子も見てもらう。
「ふむ・・・。なるほどな・・・。」
前伯爵も思うところがあった様でやはり狩りは重要だと認識したようだ。
前伯爵はやる気満々という感じで準備を進めるのであった。




