【第69話】始まりの学校
「それで、『学校』て言ったって一体何をするつもりなんだ?」
「うーむ。そうだな。ルビアは学校に通ったことは?」
「はっ!ある訳ねえだろ?学校なんぞお貴族様のボンボン連中が無駄な金をかけて行くところだろう?」
ルビアは「はん!」と大げさなポーズで天井を見上げ馬鹿にしている。
「じゃあ、そもそも学校がどんな場所かは知らないんだな。」
「少なくとも、ここに居る連中は誰一人として知らねえよ。」
なるほど、そもそも学校という仕組みその物を知らないから賛同も出来ないのか。
「俺が考える学校は6歳から入学し、その後はどの程度かかるかわからんが最低でも3年近い年月で『読む』、『書く』、『算術』を身に着ける。更には冒険者ギルドに協力してもらい、体力を付け、基礎的な護身術を学び、そして採取の知識も覚えられる。昼食時には毎回腹一杯の『配給食』も食わせ、栄養管理も行う。それが俺が考えている『学校』だ。」
俺が現在考えている学校について話をすると一瞬静まり返り一気に笑いが噴出する。
「だーはっはっはっは!!」
「馬鹿は休み休み言えってんだ・・・!」
「どこにそんな夢物語が存在するってんだ!!ひー!腹痛え!!」
まあ、当然こんな反応にもなるわな。
「あのなあ、ススム。お前そんなもん作るつもりなのか?一体誰が通って、誰が金を出す?わざわざお貴族様をこんなスラム街まで通わせるのか?」
ルビアも呆れた表情で俺に意見してきた。
「だから、その学校に通うのは孤児やストリートチルドレン、もしくはこのスラム街に住むような子どもたちだ。勿論年齢問わずだから、学びたいと言うならお前が学校に入学してくれても良いんだぞ?」
「は・・・?」
俺がそう言うと場は一気に静まり返る。
「いやいや、俺達のような人間が?何のために?」
「知識や技術を身に着けさせ、お前たちのように大人になっても困ること無く自立して生活が送れるようにするためだ。」
「・・・。確かに、それだけの事が『本当に』叶うのなら、それは大きな成果だろう。この街で明日食う物にも困らず生きていけるだろうな。だが、それだけの計画当然莫大な費用が掛かる。それはどうするつもりだ?」
「俺は商人でもある。今からその証を出す。」
そして俺は首から下げているもう一つの証、商業者登録票を出す。
それを見てルビア含む一部のものだけが反応する。
「な!?銀級商人!?お前四角銀級冒険者のくせに商人まで銀級だって言うのか?」
「ルビアは商人のシステムは知っているんだな?」
「ああ、こいつらを食わすために商人ギルドを利用するからな。」
「なるほど。じゃあこっちに来い。今からお前にあるものを見せる。だがそれは決して口に出すな。」
「・・・わかった。」
「頭!!」
「うるせえ!!お前らは黙ってろ!!」
そう怒鳴りつつ、ルビアは俺の近くまで来る。
俺は小声でルビアに今現在、この商業者登録票に入っている貯金額を見せると耳打ちをする。
「決して驚かず、表情に出すなよ。」
「ああ・・・。」
そして俺はルビアにそれを見せるとルビアの顔色は一気に変わる。
「う、嘘だろ・・・?」
「本当だ。しかもこれは極一部だ。」
「・・・!!!」
「わかったら席に戻れ。」
ルビアは俺に促され一人下を向き自席へと戻った。
「か、頭・・・?」
仲間の心配そうな声掛けにルビアは手を上げ一言だけ言い放つ。
「黙れ。」
そしてその場に深い沈黙が流れた。
そしてルビアは一心に考えを巡らせる。
「ススム、それはお前一人で行うものなのか?」
「いや、俺は計画立案者だが基本的には学校設立のために基金を設立しその基金を基軸として様々な者たちが関与する。現在確定している者たちは俺含め5名。其内一人はこの街の商人ギルドの副ギルマスのバレッサ、そしてもう一人はこの街の冒険者ギルドマスターのアウレリアだ。」
「何だと!?」
俺の答えに一番驚いていたのは元銀級冒険者のブルであった。
「元銀級冒険者だからアウレリアのことは知っているんだろう?彼女は自分から支持したいと協力を申し出たぞ。」
「あのアウレリアが・・・。」
「ちなみにこの賛同者は今後増える可能性が高い。」
「・・・というと?」
「最終的にはこの国が支持者になってくれる可能性がある。まだあくまで可能性の話だがな。」
「く、国だと!?」
「ああ、恐らく国は今回の学校プロジェクトが上手く行けばそれを手本とし、各街へと拡大する可能性がある。つまりここは『始まりの学校』になるんだよ。」
「・・・何だって今まで俺達は何もして貰えずに過ごしてきたというのに・・・!何故こんな急に!!」
ルビアは自分なりに出来る範囲で努力をしてきた結果が『今』なのであってそれをどこの馬の骨ともわからんやつが急にこんな事を話し出せばそれは怒りたくもなる。
「大人ってのは複雑なんだよ。手を差し伸べてやりたい気持ちはあっても金がなかったり、差し出す方法がわからなかったりするんだ。ルビア、良ければ『お前達も一緒に』手伝ってくれないか?」
「仮に俺達が協力をするとして何が出来る?」
ルビアは静かに俺に問いただす。
「まずギャングと名乗るのを辞め、『自警団』として組織を再編してくれ。やることは同じだ。弱者を、このスラム街を守る。それは変わらない。」
「『自警団』・・・。」
「この地域一体を守り、学校の運営に必要なものを手伝ってくれるのなら、食事と仕事内容によっては賃金を支払う。」
「賃金だと!?」
「まだ具体的にどんな仕事を依頼し、どの程度の支払いが出来るかはわからない。だが決して安く買い叩いたりせず、『正当な仕事内容には正当な報酬』を支払う予定だ。」
「それは本当なんだな?信じて良いんだろうな?」
「ああ、正式に決定した際は文書類にて『契約』を行う。契約の立会いには先程言った協力者も連名で名前を書かせるし、仮に国が後ろ盾として付いてくれた場合、国にも署名させる。その契約を一方的に反故にしお前たちが不利な状況に陥った場合、俺は賠償を行う覚悟もあるし、相手が国なら俺も一緒に戦ってやる。」
ルビアは俺の言葉を受け更に考え込む。
「何故・・・、何故お前は今日出会ったばかりの俺達のことに協力してくれる?」
「そうだな・・・。一番の理由は俺が心置きなく好きなことに打ち込みたいからだな。」
「は?」
俺の答えが理解できないとルビアがポカーンとした顔になる。
「だってそうだろう?自分が好きなことしたいのに、目の前で子どもがお腹好かせて泣いてたんじゃ集中できないじゃないか?」
「くくく・・・あーはっはっはっは!!そうだな、確かにその通りだ。それには俺も同意見だよ。」
「ふふ。それは良かった。」
「本当にお前に夢物語を見せてもらっても良いんだろうな?」
「ああ、お前達次第ではあるが少なくとも俺はその気だ。」
「良いだろう!」
「か、頭!!」
ルビアの声に周りが慌てだす。
それはそうだろう、今まで自分たちが築き上げたものが揺らぎ崩れるかも知れないんだ。
「うるせえ!!これは俺の、『クリムゾンハウンド』の頭、ルビアとしての決定だ!文句があるなら叩き出す!!」
「おいおい。流石にそれは強引すぎるだろう。1週間時間を預ける。1週間後に正式な答えを聞かせてくれ。」
「1週間なんていらねえよ。3日でも十二分だ。」
「では3日後に。ああ、それと冒険者ギルドに手配されているヤツや凶悪な犯罪行為に手を染めてる奴らの面倒は一切見る気はないのでそれはそのつもりで。」
「心配するな。そんな奴はいねよ。家らは仁義で成り立ってるんだ。そんな奴が居たら即刻叩き出してるよ。」
「ふふ。なら良かった。じゃあ3日後に。」
「ああ。客人のお帰りだ!見送ってやんな!」
「「「おう!」」」
俺が旧教会から出ると先程助けた子どもたちやその親御達が俺に感謝を伝えてきた。
「気にしないでくれ。それよりも今後ここは良い方向に大きく変わる可能性がある。その時はルビアを支えてやって欲しい。」
俺はそう伝え、旧教会を後にしそのまま一応冒険者ギルドに向かい、受付で念の為に『クリムゾンハウンド』に対し何らかの捕縛等の用件は出ているか確認するが、特に『クリムゾンハウンド』にも、それに属している者たちにもそういった用件は出ていないことを確認する。
本当にクリーンな活動で補ってきたんだな、と素直にルビアの手腕に驚く。
これならば今後あの旧教会が学校となった時は色々なことを依頼できそうだ。




