【第67話】ルビア
「こっちだ。」
ブルに案内されどんどん進んでいくと要塞のように固められている旧教会の入口付近までやってきた。
「ブルさん!そいつは?」
「客人だ。ルビアに会わせる。」
「頭にですか?はあ、どうなっても知りませんぜ。」
どうやらギャング団【クリムゾンハウンド】のリーダーの名前は『ルビア』と言うらしい。
ぎいぃ!と音を立てながら頑強に補強された扉が開かれる。
旧協会の中は一部崩れそこから光が差し込んでいるが基本的には薄暗く、松明などの火で照らされているようだった。
そしてその教会の一番奥、講壇があったであろう場所に一人の人物が座っていた。
「よう、ブル。一体何の冗談だ?」
その声は若々しく、そして低めではあったが間違いなく女性の声であった。
「お前に客人だ。話があるらしい。」
「はっ。今日は俺に来客予定なんざ無いんだがな?」
そうしてその人物は前かがみに座り直すとようやくその顔が見える。
「エルフ・・・?」
そう、彼女の見た目は物語に出てくるエルフそのものだった。
とても整った顔立ちに長い耳。
格好こそ、革ジャンに破けたズボンなどギャングと言われればこうなんだろうという格好の中ですら、その見た目は非常に目を引くものだった。
ヒュッ!
俺の顔横に抜き身のナイフが飛んでいくのが見える。
「おい、おっさん。死にに来たのか?俺を『エルフ』だなんて呼ぶんじゃねえ。」
どうやら彼女の中では『エルフ』という言葉は禁句らしい。
明らかに怒りの感情が籠もっていた。
「・・・。大変失礼した。気に触ったのなら申し訳ない。害意はなかったんだ。許して欲しい。」
俺は誠心誠意の謝罪をし頭を下げる。
「はっ!気分が削がれた。次はねえ。」
「感謝する。」
「それで、用件とは?そもそもお前は何者だ?」
「自己紹介が遅れた。俺は冒険者のススムという。」
俺はそう言い、首に下げている冒険者証を取ろうとすると一気に周りが警戒感を示す。
「そう、警戒しないでくれ。首に下がっている冒険者証を取り出すだけだ。」
俺はゆっくりと首に下がっている冒険者証を見える場所まで取り出す。
「!四角銀級・・・。なんだってそんな奴がここに来た?俺達を捕らえるためか?」
「捕らえる?君たちは賞金が掛かるような輩なのか?」
「ぶ、あははは!」
俺の質問に盛大にルビアは笑い出す。
「何だお前?俺達のことを知らないだなんてこの街の人間じゃないな?」
「ああ、元々はとんでもなく遠い村の出でね。ミストヴェイルの街で冒険者として活動を開始して、最近この街に越して来たんだ。」
「なるほど。田舎モンか。」
転生モンだけどな。
「まあ、そんな所だ。なので君たちを捕らえに来たとかそういった事情ではないことを理解して欲しい。」
「わかった。信じよう。俺はここらを仕切っている『クリムゾンハウンド』のリーダーでルビアだ。で、何の様だ?」
「実は君たちに相談があって来た。」
「あん?冒険者様が俺達に相談だと?」
「ああ、端的に言う。この教会から手を引いてくれないか?」
「・・・なに?」
「勿論、無条件に渡せと言った話ではない。まあ仮に、君たちが凶悪な事件に関与しているギャング団だと言うならそれも違ってくるわけだが。」
「おいおい。お前周りの状況が見えていないのか?例えば俺達が殺人や薬物取引などを生業としているとでも言ったらどうするつもりだよ?」
「その時は、全力を持ってお前達を排除する。」
俺がそう言い放つとゲラゲラゲラ!!と大きな笑い声が聞こえてくる。
「ぶ、あはははは!お前、本当に田舎モンなんだな。どうやらその四角銀級の証はただの飾りのようだ!俺達を排除だって?この人数差でか?」
「ルビア、辞めておけ。はっきり言うがコイツの実力は本物だ。正直言って俺はコイツとは戦いたくない。何も出来ずに殺されるだけだ。」
ブルがそう言い放ったことで場は一気に静まり返った。
「は?本気か?お前だって元銀級の冒険者だろう?」
「ああ。だがこいつは恐らく金級以上の実力者だ。二つ名もあるだろう。そんな奴に手は出したくない。」
どうやらブルは元冒険者だということはわかっていたが元銀級でそれも実力を正確に見抜けるベテランのようだ。
「な・・・!?金級以上だと・・・?だったら尚更何で俺達なんぞに構う必要がある!」
「だから、話を聞けと言っている。状況を考えればお前たちは決して凶悪犯罪などでシノギを稼いでいるわけではないんだろう?」
「何故そう思う?さっきのは・・・?」
「ただ聞いただけだ。俺がそう思う理由は一つ。ここを紹介された人物からその様な情報をもらっていないからだ。仮にお前たちが危険な犯罪集団だったとしたら、俺にここを紹介した人物がそう警告したはずだ。だが、その人物は『ギャングたちの溜まり場になっている』という情報だけを渡してきた。」
そう、ここを紹介してきたバレッサは一切その様な警告はしてこなかった。
「ふん・・・。何故俺達がここから手を引く必要があるか答えろ。」
「ここを『学校』にし、教育を施す場としたい。」
俺が端的に答えるとルビアはポカーンとしている。
「『学校』だあ?それってお貴族様達が通うあれだろう?という事はお前は貴族連中の回し者か?」
「学校に通う対象者は主に孤児やストリートチルドレンだ。確かに貴族が支援してくれる可能性はあるが、あくまで主体は慈善団体だと思ってくれて良い。」
「・・・。はん!そんなん信じられるかよ!!」
ルビアはそう言い自身の前にあったテーブルを力いっぱいにガン!っと叩く。
「いつだって、俺達は助けを必要としてきた・・・。だが助けられたことなんざ一度もねえ。だから俺達はこうして自分たちの身は自分たちで守ってきたんだ・・・!!」
やはりそうか。
この『クリムゾンハウンド』はギャングとは言っているがある意味自警団的な存在なのだろう。
この教会周辺も貧しい者たちが身を寄せているように見えた。
恐らくはそういった者たちを庇護する存在なのだろう。
「事情は理解した。ならば協力してくれるのならば今度は俺がしっかりと君たちのことを保護しよう。」
「お前の何処に・・・!何処にそんな力や金、そして信頼があるというんだ!!」
彼女は俺に今までの不満を全力でぶつけてくるようなその様な気迫で咆哮していた。
「すぐに信用しろとは言わないさ。そういった物は積み重ねて行くものだからね。」
「ぐっ!知ったことを・・・!!」
ルビアが立ち上がり俺の胸ぐらを掴みそう言い放った時だった。
「大変だ!頭!!街のチビどもが・・・!」
一人の男が突如として乱入し、その一言だけ発するとルビアは即時関心が俺からそちらに向く。
「行くぞ。詳しく話せ。」
「待て、俺も行こう。」
「部外者は引っ込んでろ!!」
「部外者だろうが関係ない。子どもに危険が迫っているならば尚更だ。俺を利用して子どもの安全だけを考えろ。」
俺がそう言うとルビアは無言で踵を返し現場に向かうことになった。
「どうやら、チビどもはあの立入禁止の場所に入ったみたいで!」
「あそこか・・・!誰が入った?」
「どうやら巻き込まれたのはカイト、リア、レオンの三人の様です。」
「あいつらめ。絶対に立ち入るなと何度も警告したのに!!」
早歩きで現場付近に近づくと母親だろうか、女性達の絶叫にも似た声が聞こえてくる。
「何故あいつらを近づけた!!」
「ルビア!!彼女たちを責めないでやってくれ!どうやら子どもたちが度胸試しと親たちの知らない内に入ったようなんだ。」
恐らく近くで見ていたのであろう子どもたちがわんわん泣いている。
「ちっ!お前ら、中に入ったのはカイト、リア、レオンで間違いないんだな!」
わんわん泣いている子どもたちに更に追い打ちをかけるように声を荒げるルビア。
当然だが子どもたちは更に鳴き声を上げる。
「全く。」
俺はそう言いながら泣いている子どもたちに視線が合うようにしゃがみ込み、頭を撫でながら静かな声で聞く。
「泣かないで良い。君たちのせいではない。俺が力になる。教えて欲しい。誰を助けたら良いんだ?」
それを聞いた子どもたちはゆっくりと泣き止み始め、状況を教えてくれる。
「カイト達がね!入っちゃいけないって言われてた場所に度胸試しだって入って行っちゃったんだ!だめだって言ったのに!!」
「そうか、君たちは止めてくれたんだね。賢い子たちだ。偉いぞ。その場所に入ったのはカイト、リア、レオンの三人だけかな?他にはいないかい?」
子どもたちはコクコクと頭を振って教えてくれる。
「ありがとう。勇気がある子たちだ。後は俺達に任せるんだ。」
「お前・・・。」
「さ、状況はわかった。で、その立入禁止の場所というのは?」
「あ、ああ・・・。あそこだ。数ヶ月前から異変が起き始めた建物で現在は封鎖したんだ。」
そこはこの区画でも隅の方にある共同住宅のようであり、異質な雰囲気を放っていた。
「ああ、なるほどな。」
「何か知ってるのか?」
「ああ、俺の得意分野だ。【呪われたダンジョン】だよ。」
その建物に近づいた時『システムメニュー』が発動したことで全てを理解した。
『ダンジョンの入口を発見しました。』
名前:“歪んだ” “獣が” “立ちふさがる” ダンジョン
推奨レベル:33
『ダンジョンに侵入しますか? はい/いいえ』
「俺は子どもたちを助けに行く。後は任せろ。」
「待て!!俺も行く・・・!!」
そうは言っているがルビアは若干震えているようにも見える。
「無理はしないでも良いんだぞ?」
「無理じゃねえ!!これは頭としての『責任』だ!!」
「・・・わかった。行こう。子どもたちを助けよう。」
「言われるまでもねえ・・・!」
そうして俺達はダンジョン内に侵入する。




