【第66話】クリムゾンハウンド
王子との謁見数日後、2通の手紙の魔道具が俺のもとに飛んできた。
「うん?なんだろう。」
俺はそれらを手に取り読み始める。
1通目は冒険者ギルドからの召喚状だった。
どうやらミストヴェイルの一件で最終報告書が完成したので署名しに来いとの内容。
2通目は商業ギルドのバレッサからで学校候補の旧教会の立ち入り内見許可は出たとのことで場所を教えるので来てほしいとある。
なるほど。
じゃあ両方今日は片付けるとするか。
ちなみにアリスは現在正式にオーロ・ヴァレンツ市民になるべくミストヴェイルで各種手続きを行っている最中であった。
「ポチ行くぞ。フィルル留守を頼む。」
『お出かけー!』
『行ってらっしゃいませ。』
まずは冒険者ギルドのほうが良いかな?
署名だけで終わるだろうし。
俺はそう思い冒険者ギルドに行き受付にてオーロ・ヴァレンツ冒険者ギルドマスターのアウレリアに会いたいとアポを取る。
暫くすると二階へ案内されるので付いていくと部屋の中でアウレリアが既に書類の前に座って待っていた。
「お久しぶりです。アウレリアさん。」
「来ましたね、亡霊さん。」
「あはは・・・。それで今日はミストヴェイルの件の最終報告書にサインするで良いんですよね?」
「ええ。そのつもりでしたが・・・。本当にこれを貴方が成したのですか?」
「これをと言われてもまだ見てないので拝見しても?」
「そうね。どうぞ。」
アウレリアは机に広がっていた書類を纏め俺に手渡す。
内容は国が管理すべき固有のダンジョンが発生したことから被害状況、スタンピードが発生したその後の対応、そして鎮圧までの一通りの流れが書いてあり俺が把握していることが全て書いてある。
今回は最終対応者としてしっかり俺の名前まで表記されている。
あの後カイエンは少しでも寝れただろうか?
「間違いないですね。僕が把握していることすべてが書かれています。」
「はあ・・・。信じられない。スタンピードの4波、5波を実質一人で制圧って。貴方本当に人間なの?」
「あはは・・・。」
「率直に言って階級が貴方には合わないから昇格もあるだろうし報酬もかなり莫大なものが入ると思うわよ?」
「そうなんですね。まあそれが冒険者ギルドとしての答えならそれを受け入れるまでですが。」
「随分他人事ね・・・。貴方、今四角銀級でしょ?ということは次に昇格するとすれば最低でも金級よ?金なんてここ何年も出てない偉業だと言うのに・・・。」
「そうなんですね。仮に金に上がるとして何か縛りが発生したりしますか?」
「特に強制的なものは無いわ。ただ指名依頼は増える可能性があるわね。」
「ではそれは暫く却下して下さい。自分には今それどころではないやるべきことがあるので。」
「・・・何企んでいるの?」
「ああ、そうか。もしかしたら冒険者ギルドとしても知っておいてもらったほうが良いかも知れないなあ。」
そう思い俺はアウレリアに現在アインズ第三王子も巻き込んでの『学校』プロジェクトが進行中であることを伝える。
「なるほど・・・。そんな事をしてたのね。通りで何度も役場周辺が厳重警戒してるわけだわ。」
「お騒がせしています。」
「でも学校か・・・。悪くない一手だわ。その計画ある程度進み次第当冒険者ギルドにも話に加えさせて頂戴。」
「理由をお聞きしても?」
「単純に若手冒険者の死亡率を下げることに繋がるからよ。」
確かに識字率が上がれば採取の仕事ができ、無理に戦闘依頼で怪我や死亡する可能性は減るだろう。
更には学校の教育プログラムとして冒険者としての最初のノウハウを取り入れれば自分たちで食料を確保したり、体力の向上に繋がる運動を取り入れられる可能性がある。
「なるほど。理解しました。ではその際は宜しくお願い致します。」
「ええ、よろしく頼むわ。」
「今回の報告についてはここに署名すればよろしいのですね?」
「そうね。うん。それで良いわ。ご苦労さま。また何かあれば連絡するわ。それと学校についても連絡頂戴。」
「分かりました。失礼しますね。」
これでまた『学校』についての良き理解者が加わった。
この調子で今日は旧教会も問題を解決したい所だ。
商業ギルドに入りバレッサに取り次いでもらう。
「おはようございます。ススム様。」
「おはようございます。バレッサさん。お手紙ありがとうございました。早速下見が出来るようで。」
「ええ。ですが以前も申した通り今そこはギャングのたまり場となってしまっております。一般人の私ではとても近づけない状態となっております。」
「それは十二分に理解しております。僕一人で行ってきますので大丈夫ですよ。ああ、後先程冒険者ギルドに寄ったのですが、冒険者ギルドマスターのアウレリアさんも『学校』プロジェクトに理解を示してくださり、協力してくださるようですよ。」
「なんと!あのアウレリアが・・・。あの娘も現状には憂いていた事がありましたから思うところもあるのでしょう。分かりました。私の方からもお話しておきましょう。」
やはりこの街で各ギルドのマスタークラスになれば自然と街の光と闇を見る機会が増えてそういう考えに至ることが多いのかも知れない。
「助かります。」
「ちなみにこれが旧教会の地図になります。それと今日アリスさんは?」
「事務処理の関係で一時対応できません。」
「そうですか。実は『森の穴熊亭オーロ・ヴァレンツ支店』に丁度良さそうな店舗を見つけましたのでご紹介しようかと思っていたのです。」
「流石早いですね!アリスさんの手が空いたらその際連れてきますね。」
「ええ、宜しくお願い致します。それと呉呉もお気をつけくださいね。」
「ありがとうございます。行ってきますね。」
俺は商業ギルドを後にし貰った地図を下に旧教会に向かう。
目的地に近づくにつれて徐々に雰囲気が悪くなるのを感じる。
なるほど。これは『縄張り』に入ったかな?
恐らく旧教会を中心拠点としてその周辺が縄張りのようになっているのだろう。
まさしく明るいはずの街の影の部分である。
俺がそんなふうに考えていると数人の男たちが絡んでくる。
見た所まだ若い。
15歳前後のように見える。
「おいおい、あの色が見えねえのか?ここら辺は『クリムゾンハウンド』の縄張りだ。」
「見たことねえ顔だな?もしかして知らないで入っちまったんじゃねえの?」
「まあ入っちまった以上入場料は貰わないとな。」
「ふむ。『クリムゾンハウンド』というのか。悪いが君たちの頭に合わせてくれないか?話がある。」
俺がそう言うと絡んできた男たちはお互いの顔を見合わせゲラゲラ笑い出した。
「おいおい、頭に合わせろだって?本当にお前何も知らねえんだな!」
「会わせた所でお前なんて即死体袋行きだぞ?」
「さて、それはどうかな。どうすれば会わせてくれるかな?」
俺の言葉にいらっときたのか、手には凶器が握られ光っている。
「フザケたこと抜かしてんじゃねえぞ!おっさん!!」
「お、君は俺の事をおっさん扱いしてくれるんだな。嬉しいよ・・・。」
久しぶりにおっさんと言われたことに何故か安堵する。
実際おっさんだししょうがないよな!!
「コイツ!!」
男たちは振り上げた凶器に明らかに殺意を乗せて俺に振るってくるが所詮素人の子どもだ。
魔法を発動するまでもなく軽くいなす。
「よっ!ほっ!ほいっ!」
俺は軽快な声とともに躱し続ける。
「な、なんで当たらねえ!」
「ぜぇ!ぜぇ!」
「おやおや、もう体力切れとはおっさん悲しくなってきたよ。もっと頑張れよ少年たち。」
すると騒ぎを聞きつけたのか仲間の加勢がある。
その中でも一際ガタイのいい男が一歩前に進み出る。
「・・・よう。随分と楽しそうじゃねえか。俺も混ぜてくれねえか?」
「ぶ、ブルさん!!」
ブルと呼ばれたその男は年は30歳くらいだろうか。
非常に鍛え抜かれた筋骨隆々とした身体に一際でかい身長を併せ持っていた。
そして気になったのはその男の武装だ。
「盾とメイス・・・?」
そう、この男はギャングと呼ぶには似つかわしくない装備をしている。
「もしかして元冒険者だったりする?」
俺がそんな事を聞くとブルは目の中に鈍い光を宿す。
「・・・だったらどうした?」
「俺も冒険者だ。なら話し合いで解決できるんじゃないかなって?」
「ふっ。冒険者同士なら『話し合い』じゃなく『腕っぷし』で語り合いだろうが!!」
そう言いブルが装備を構え怒号を掛ける。
「なるほど。それもそうか・・・。」
俺は短剣を抜き最近組んだ新しいビルドに切り替える。
それは魔法使いが使う『四属性』の内、未だに使用していなかった『風属性』のビルドであり目的は魔法使いでありながら『近接戦闘に特化した』ビルドであった。
1、『風精霊召喚(LV5):風属性の精霊魔法。風属性の精霊を召喚する。詠唱は完全に省略される。風精霊の攻撃力が大幅に上がる。召喚した風精霊は自動で敵味方を識別し、敵対行動を取るものを攻撃する。消費MP10。効果時間60秒。再使用間隔120秒。この魔法は現在最大LVである。』
2、『風精霊召喚【性質強化】:風精霊召喚の性質を変化し強化する。風精霊召喚は魔法使用者の鎧となる。風精霊の体力及び攻撃力が大幅に上がる。自走できなくなる代わりに魔法使用者の意識的に攻撃を行い、無意識的に防御を行う。なお、召喚数が増えるスキル等については魔法使用者のステータスのAGIに乗算ボーナスが付与される。』
3、『風精霊召喚【最終強化】:風精霊召喚の性質を更に変化し強化する。風精霊が上位の存在となり雷属性に変化する。雷精霊の体力が更に大幅に上がる。追加効果ノックバック及び帯電状態を付与する。』
『風精霊召喚!!』
俺が無詠唱で風精霊召喚を唱えると、俺を鎧のように覆う雷の上位精霊が現れる。
その鎧からは常にバチ!バチ!と帯電効果が発生しており、更にAGIに乗算という形でボーナスが乗っている為、身体が軽くなる。
そして顕現する三頭の風属性の大型の狼。
俺自身は手にはナイフと小盾を構えそちらでも対応ができる状態だ。
この様な魔法使いに会うのは初めてだったんだろう。
ブルの表情に明らかな動揺が見える。
「どうする?自慢の装備で試してみるか?俺自身この魔法を行使するのは初めて何で手加減は出来ねえかも知れないが。」
俺がにぃっと不敵に笑うと意外にもブルは装備を解除する。
「・・・辞めておこう。明らかにお前のほうが上位者だ。それにその状態でここで戦われれば周りを派手に巻き込みかねない。それだけは避けたい。なんせ『家族』なんでね。来い。お前の望み通り頭に会わせてやる。」
俺はその言葉に『近接型』を解除する。
「話が早くて助かる。さあ、行こうか。」
「こっちだ。」
そうして俺は『クリムゾンハウンド』の中心地である旧教会へと足を進める。




