【第65話】祖父として
俺達は王子との謁見後一階のロビーでひと休憩することとなった。
「ふう。なんとか無事に終わった様だ。」
「わ、私何も失礼なことしてないよね!?というか何を話したのかまるで覚えていない!」
アリスは頭を抱え天を見上げていた。
「ふふ、大丈夫でしたよ。アリス。私も王子と話すのは初めてで緊張しました。」
「ええ・・・。本当に。それにしてもススム様は王子相手でも堂々としていらっしゃいましたが・・・。」
「あはは・・・。ああいう事案には慣れてしまっているので・・・。」
そう、俺は日本でサラリーマンをしていた頃、会社のかなりの上層の人間からもかなりの無理難題を押し付けられていたりしていたので慣れていたのだ。
正直上司が王子に変わった程度でありあの程度のプレゼンならまあ問題はない。
「そういえば、バレッサさん。学校になりそうな建物は何処か目星はあるんでしょうか?」
「え、ええ・・・。一応あるにはあるんですが二つ問題が。」
「問題ですか?」
「はい。実は古い教会がありそこは既に放棄されている教会ですので管理がこの街の管理となっているいますので街と交渉が必要です。そしてもう一つの問題はギャング達の溜まり場となってしまっています。」
「へえ、ギャング・・・。」
地球にいた頃の俺なら絶対関わりたくない人種の人達だが、この世界に来て色々な相手をしているとギャングと言われても可愛く思えてしまう。
「わかりました。そこは後日見学に行きましょう。」
「え!?」
「心配でしたら僕だけで行くので場所を教えて下さい。」
「わ、わかりました・・・。」
そんな事を話していると昨日の先触れで来た老紳士が近づいてくるのが見える。
「ススム様。よろしいでしょうか?」
「はい?僕ですか?」
「ええ。良ければ“お話が”ありまして。」
なるほど。ここからはオフレコな話かな?
俺は二つ返事で了承を出す。
「わかりました。皆は先に帰っていてくれるかな。」
「わかった。先に帰っているね。」
俺はアリス達と別れ再び先程の部屋に戻る。
コンコン
「ススム様をお連れ致しました。」
「入れ。」
お?今回は前伯爵のようだ。
「失礼します。」
部屋に入るとやはりヴォルフガングがおり、アインズは別室に一度下がったようだ。
「ああ、何度も済まないな。ススムよ。まずはご苦労だった。あれだけの資料作成とても大変だったのではないか?」
「いえ、何事も説明するのにはああいった資料があれば話は通しやすいですから。」
「確かに。アインズ様はお前のあの能力を高く評価されていたぞ。」
「それは良かった。それで?わざわざそれを伝えるために僕を呼んだので?」
「まあ座れ。お前には確認せねばいかんこともある。」
「そうだろうと思っていました。失礼します。」
俺は前伯爵と向かい合うように座る。
「まずミストヴェイルについてだ。事態の収束については聞いている。それと大まかな話もな。中盤までは街の冒険者達だけで防いでいたと言うが、それ以降はたった一人の冒険者、『亡霊』が何処からとも無く現れてたった一人で片付けたと聞いている。」
「それが冒険者ギルドからの報告なのですね。ミストヴェイルが無事で良かったです。」
俺はわざとらしくニッコリと笑う。
「・・・。あくまで“そういう事”にするんだな?」
「僕は冒険者ギルドを信頼していますしその判断に従うまでです。」
「良かろう。より詳細な報告が後日上がってくることになっているのでそれを見させて判断させてもらう。」
「それがよろしいかと。」
「二つ目だが、あー、うん・・・。そのサーシャの事だ。」
あ、そう言えばサーシャのことまだ前伯爵と話をしていなかったな。
俺は背筋をピッと伸ばす。
「はい。既に御本人からお聞きかとは思いますが、今は私が恋愛に疎いため間柄は友人となっておりますが将来的には恋人になる可能性があります。実の祖父であり前伯爵であるヴォルフガングさんにもお話をするべきでした。遅れてしまい申し訳有りません。」
俺はそう言い頭を下げる。
「頭を上げてくれススムよ。私は非常に嬉しいのだよ。サーシャから聞いているが先程のアリス嬢とも同じ関係なのだろう?」
「え、あ、はい・・・。」
「いつかは結婚も視野に入れているというのは本当か?」
「まだ確実にとは言い切れません。僕自身家庭を持つという事が漠然としすぎていますので。ですが、その時が来てご家庭事情が特に問題なければ、いつかは・・・と。」
「そうか・・・。家の方は気にしないでくれ。そちらは私が片付けておき、証書も残しておこう。そうだな私から言えるのは・・・。私が生きている内にひ孫を腕に抱きたいという願いくらいかな。」
それは前伯爵からの全面的な支援の約束であり願望だった。
そこにはただ一人の優しい祖父としての表情のみがある。
その言葉に俺は頭を下げる。
「ありがとうございます。誠心誠意お付き合いさせていただきます。」
「ああ、よろしく頼む。」
「今日はサーシャさんの所に寄るので?」
「いや、今回の旅程はアインズ様の護衛である故、寄ることはない。文でやり取りさせて貰うつもりだ。」
「そうですか。道中お気をつけて。」
「ああ、ありがとう。では呉れ呉れもよろしく頼む。」
前伯爵より差し出された大きな無骨な手をしっかり握り返す。
「こちらこそ。至らないことだらけではありますが宜しくお願い致します。」
帰宅後、俺はさっと着替えてその足で一度ミストヴェイルに向かうことにした。
「あれ?ススム君。お出かけ?」
「ああ、ミストヴェイルの冒険者ギルドに一度寄る必要があってね。」
「そっか、じゃあその間私も今回のことパックに話をしてこようかな。」
「ああ、それが良い。でも王子のことは伏せておいたほうが良いかも知れない。」
「なんで?」
「念の為さ。確実に街を去った後なら問題はないと思うけど。」
「そういうもんなんだ?わかった。まあ何話したか覚えてないけど報告はするよ。」
「あはは。フィルル少しまた家から出るよ。夜までには帰って来る。」
『畏まりました。行ってらっしゃいませ。』
ミストヴェイルに付いた俺達は二手に分かれ、俺は早々に冒険者ギルドに行く。
今日は一階にはいないようなので気配遮断を使用し二階へ行こうとするが、このギルドの副ギルドマスターに見つかる。
「どうやらこのギルドに亡霊が出るということでしたが、本当の様ですね。」
「ぎくぅ!あはは・・・。セリーヌさんお久しぶりです。」
「お久しぶりですね。ですがその格好はなんです?」
俺は余り正体がバレたくないので以前のように面を着けて気配遮断も最大まで上げているのにしっかりと看破されているということはセリーヌは元探索職なのかも知れない。
「あはは。カイエンは上にいます?」
「ええ、居ますよ。全く。ああそれと私の大切な幼馴染を二回も泣かせたら全力でぶっ飛ばしますよ。」
とんでもないことを素晴らしい笑顔で言い放ってくるセリーヌ。
怖い怖い・・・。
「は、はい・・・。」
俺はとぼとぼと歩きながら二階に向かう。
ドアをノックすると「入れ」と声がかかる。
「よう、来たな。問題児。」
「問題児じゃないですよ。来てあげたんですから感謝して下さい。」
「馬鹿言うんじゃねえ。座れ。」
俺は促され席に座る。
カイエンの顔は目の下に隈ができ、若干やつれているような気もした。
「大丈夫です?寝れてないのでは?」
「お陰さんでな・・・。60数年ぶりの『国営ダンジョン』の誕生の手続きやら何やらで忙しくてな。」
「あー・・・。それはたしかに大変ですね。この街も大きく変わるんでしょうね。」
「間違いなくな。だがまあ、今日はお前の扱いだ。今回はどうするつもりだ?」
「ヴォルフガング前伯爵は亡霊の話を知っていましたけど?」
「ああ、あの人には話してある。だが最終報告はまだだ。望みは?」
「んー。そうですねえ。なるべくなら便宜を図ってほしいですが、今回ばかりは負担が大きそうだ。ギルドの意向に全て従いますよ。」
俺がそう言うとカイエンは豆鉄砲でも食らったかのような拍子抜けした顔をしている。
「なんだ?悪いものでも食ったのか?」
「あはは。まあ僕も状況は理解していますよ。情報を操作することが大変な負担になるのでしたら今回ばかりは目を瞑りますよ。それで少しでもカイエンさんが夜寝れるのでしたら。」
「・・・助かる。正直今回の事態は話がでかくなりすぎだ。ごまかしが効くような状況ではない。場合によってはお前は王族直下の調査隊から話を聞かれる可能性になるかも知れないがそれでも良いんだな?」
「ええ、大丈夫ですよ。王族とはちょっとしたコネがあるのでなんとかなるでしょう。」
「・・・は?」
俺はニッコリと笑う。
「話がそれで以上なら僕は今日は疲れたので帰りますよ。次のやり取りはあちらの街のギルドで良いですかね?」
「あ、ああ。後日冒険者ギルドより最終報告書が提出される前に署名を書かされると思うのでそれに記名しろ。それさえ終われば冒険者ギルドの処理は終わる。後は管理することになる国次第だ。」
「わかりました。では失礼しますね。本当に少し休んだほうが良いですよ。」
「ああ。今日は寝るよ。」
「じゃあ、失礼します。」
俺は冒険者ギルドを出てそのまま穴熊亭に向かう。
下の店には居ないのでどうやら上にいるようだ。
案の定二階に上がるとアリスとパックが話をしていた。
「こんこん」
俺は口でノックし二人に話しかける。
「ん?ああススムか。お疲れさん。」
「おかえりススム君。そっちは片付いたの?」
「まだ最後の最後があるみたいだけどまあ一応ね。」
「そうか、それにしてもお前。大活躍だったらしいじゃねえか?」
「何の話?」
「いやさっきからアリスがお前のこと褒めまくりでよ。ススム君がー!ススム君がー!ってよ。」
「パパパ、パック!!」
「アリスさんも堂々としててカッコ良かったよ?」
俺がそう言うとアリスは赤面し完全に黙ってしまった。
「全くこれで友達以上恋人未満だなんて・・・。」
やれやれと行った感じのパックを背に俺達は自宅へと帰宅することにした。




