【第64話】謁見
ヴォルフガング前伯爵との面談前日の夜、来客が有りフィルルが気が付く。
『ススム様、お客様のようです。以前いらした方と同じ方ですね。』
「というと先触れかな。ありがとう。」
玄関前まで行きドアノッカーが鳴らされるより前にドアを開ける。
「こんばんは。」
「ススム様。この様なお時間に失礼致します。」
「いえ、きっと来られるだろうとは思っていましたので。」
「左様ですか。こちらが今回の召喚状となります。ご確認の上、明日の朝同じ時間に役場までお越しください。」
「分かりました。ありがとうございます。」
警備の関係上恐らく開催される場所は前回と同じ場所同じ時間だろうとは予測していたので事前にサーシャ達やバレッサ副ギルドマスターへは事前に話をしておいたが其の通りとなったようだ。
「さて、今回の内容はどの様な事が書かれているのやら・・・。」
「ススム君、若干気が重くなってる?」
「まあ、巻き込んだのは僕自身だが正直こういうのは性分じゃないしね。」
「よく言うよー。」
「あはは。」
俺は手紙の蝋印を見る。
「うん?この蝋印、前回と違う?」
俺は手紙を開けてみて納得がいった。
「なるほど。今回はそう来たか。」
俺は冷や汗が流れるのを感じながら苦笑いをしてしまう。
「なになにー?何が書かれてたの?」
「見てもいいけど怖気づかないようにね。」
「え?ええーーーーー!!??」
アリスが驚くのも無理はない。
今回の召喚主はヴォルフガング前伯爵ではなく『其の上に座するもの』。
すなわち王族であり名は『アインズ王子』とある。
やはりあの男は読み通り王族だった。
「すすすす、ススム君!?」
「うん?」
「何でそんなに平然としてられるのさ!?」
「ある程度予想してたからね。」
「だったら教えてよ!うわー、うわー!どうしよう!無礼があったら死刑になっちゃうのかな?」
「あはは。それは大丈夫。」
その後もうわー!とパニックになっているアリスを宥めつつ次の日を迎える。
「おはよう、アリスさん。其の様子だと・・・。」
「あまり寝れなかったよ!!」
「其の様で。まあなるようにしかならないし大丈夫だよ。僕に任せてくれれば良い。」
「ううー。」
「フィルル、アリスさんの着替えを手伝ってあげてくれるかい?」
『畏まりました。』
暫くすると着飾ったアリスが現れる。
アリスは先日この日のために服をサーシャ達とともに仕立てたようでそれに初めて袖を通したようだ。
俺は思わず「おおー。」と声を出す。
「へ、変じゃないかな!?」
「大丈夫大丈夫。すごい綺麗だと思うよ。」
「むー・・・。」
アリスは照れている。
そして其の後ろからサーシャ達が現れた。
「ススムさん、ススムさん。私はどうです!似合ってますか!?」
「サーシャさんに良く似合ってると思いますよ。」
「ふふ。良かったです!ところで今日の召喚状は見せていただいても?」
「これですね。」
俺が召喚状を封筒ごとサーシャに手渡すと蝋印を見てすぐに状況を理解したようだ。
「なるほど。やはりそうでしたか。」
「ん?サーシャさんは驚かないのね。」
「ええ、予測はしていましたので。」
「流石サーシャさん。」
「ふふー!もっと褒めてくれていいですよ!!」
「サーシャ様。落ち着いて下さい。」
セリル達に静止させられ大人しくなるサーシャ。
兎にも角にも役者は揃ったので俺達は役場へと向かう。
役場の前は以前のように物ものしい雰囲気が漂っている。
「やっぱりこうなってたか。」
「やっぱりということは、以前もこういったご経験が?」
「あ、おはようございます。バレッサさん。」
「おはようございます。ススム様。」
「まあちょっと数日前に似たようなことが有りましてね。」
「そうでしたか。所で言われていた二つにつきましてはきちんと用意できましたよ。」
「2つともですか?それは素晴らしいですね。では行きましょうか。」
俺達は手紙を役場前の警備に見せ通してもらう。
「こちらになります。どうぞ。」
コンコン
「失礼致します。ススム様御一行がご到着なされました。」
「どうぞ。」
アインズの声で中に通される。
という事は今回は身分を隠してでは無く、一人の王族として接してくるということだろう。
ガチャリと開いたドアの向こうには中心にアインズが座り、横にヴォルフガング前伯爵が控えていた。
俺達は一斉にアインズの前に跪く。
「初めまして。皆さん。私はルミナス王国第三王子アインズ・ルミナス・アステリオです。今日は素晴らしい提案があるということをこのヴォルフガング前伯爵よりお聞きし、急遽参った次第です。どうぞ楽にして下さい。」
「ありがたき御言葉。失礼致します。」
そうして俺達は案内された席に着席し各自自己紹介を行った。
「四角銀級冒険者兼銀級商人のススムと申します。宜しくお願い致します。」
「ススムさんですね。お噂は伺っております。それで、今回の一件についても発案者はススムさんだとこのヴォルフガングより受けていますがお話を伺っても?」
「はい。では御前を失礼します。」
そう言い俺は人数分の手書きの資料を渡す。
ちなみに複写についてはバレッサに依頼し特急料金を払って複写師に複写をしてもらった。
王族であってもこういった資料は余り慣れていないのか受け取ったアインズが疑問を口にする。
「ふむ。こちらは?」
「はい。今回の議題であります、福祉事業『学校』についての草案とそれに対する必要な資料となります。」
「ほう?」
俺はこの資料を元に現状のこの街が抱えている問題点、特にストリートチルドレンについての説明を話し、何故今回この様な大規模な『学校』設営という事になったのか、またそれらに必要な事柄や懸念事項などを説明する。
「なるほど・・・。確かにストリートチルドレンを始めとする孤児の対策は非常に重要ですが現状効果的な行いが出来ていないというのもまた事実です。私も福祉事業については以前より強い興味がありましたが如何せん何処から手を付けたら良いのかわからないというのが正直な所でした。」
「心中お察し致します。ですので私たちの知恵などを利用して頂き是非とも『国家事業』として今回の学校の『設営から運営』に至るまでお力添えを頂きたく思います。」
「大変心強いお言葉に感謝致します。まず国家事業と申されましたが、はっきり言ってしまえば国家事業はそんな簡単い承認できるものでは有りません。何故かと言われれば単純に費用の面があります。」
確実に来ると思っていた費用、予算と言った金の話。
まず何にしても国の運営するものはこれがなければ話にならない。
なので俺はそれを見越しての俺の『文房具類』を通しての基金の話をする。
「それについては今から配布致します、バレッサ副ギルドマスターからの資料に目を通していただきたく思います。」
配布された資料を見てアインズ王子は目を見開く。
「これは・・・!」
ああ、確かにこれは目を見開くだけの数字だわ。
自分でも驚くような数字がそこには書いてあった。
だが俺はそれを顔に出さないように淡々と説明する。
「この金額は全て私が商業ギルドにて商品登録を行った製品の今後の売上予測とそれに伴う収入予測になります。現時点でこれだけの金額は有りませんが将来ほぼ確実に入る収入だと思って下さい。」
「個人でこれだけの金額を稼げるというのですか?」
「正確にはこれでもまだ一部の商品です。私は複数の商品を登録しておりそれらについては除いておりますし、今後事業に必要だと思ったものは追加して登録し、それから発生した収入についても基金に回すつもりでおります。」
「なんと・・・。」
「ですが当然ながら私一人が支出するのは将来性に欠けます。なので事業が軌道に乗ってからで結構ですので年間で必要となる金額の20%を国家予算として捻出して下さい。80%については基金で支払いを行います。」
20%というのは正直な話適当な数字だ。
本当は100%をこっちで用立ててもいいがそれでは国が絞るだけ絞って自身は痛みを伴わず、結果だけを攫っていく可能性がある。
それを防ぐために多少でも良いので身銭を切らすという考えだ。
多少でも国として身銭を切るのであれば結果は全て持っていってもらっても構わない。
学校運営が可能であるならばそんなものいくらでもくれてやる。
「それにしてもこれだけでも驚きですが、今後商品登録が増える可能性があるとは?」
それも予測済みの質問だ。
其の為にそろばんを作ってもらったのだから。
俺はバレッサに目配せをして完成したてのそろばんを手にする。
手に持った限り、試作品の段階だと思われるのに製品だと言われても遜色がないレベルの仕上がりだった。
「それは?初めて見る代物ですね。」
「これはそろばんという計算機です。これも学校の教育の中に取り入れます。これが使える様になれば経理等で頭を抱えている人達の一助となるはずですよ。」
俺はそう言いにこっと笑う。
「ほう、計算ですか。私も計算は得意なのですが何が出来ますか?」
「足し、引き、掛ける、割る基本的に必要なものは出来ますよ。」
「なんと!では勝負しましょうか?」
「良いですね。バレッサ副ギルドマスター、紙2枚を使って大きな桁の算術を3問書いて頂いてもよろしいですか?出来ましたら私とアインズ王子に配布して下さい。そしてその答えは自身で控えておいて下さい。」
「分かりました。今準備いたしますので少々お待ちください。」
そう言いバレッサが準備を始めたので俺は手馴しで久しぶりにそろばんを弾く。
本当に数日の内にあの設計図から出来たとは思えないくらい忠実に動く。
これなら問題なさそうだ。
「お待たせ致しました。こちらが問題用紙になります。」
「これは・・・。かなりの難題ですね。ススム様も受け取りましたね?では開始しましょう。」
「よろしくお願い致します。」
そうして始まった計算勝負だが正直この程度そろばんをやってるものの中では非常に簡単なものだった。
あっという間に俺は弾き終わり書き込みそして終わったことを告げる。
「終わりました。」
その瞬間ざわりと声が上がる。
アインズ王子はポカーンとしている。
「ほ、本当にもう終わったのですか・・・?」
「ええ。バレッサ副ギルドマスター、答え合わせをお願いしても?」
「あ、え、はい・・・。す、すごい。正解です。」
その声を聞き更にざわりと声が上がる。
「と、まあこれがそろばんの力であり正直な所、この程度のレベルでしたらばそろばんに慣れたものでしたらば10歳に満たないものでも同じ程度に使いこなせますし更に才能があるものでしたら今の時間の半分で答えを出す子どもも出るはずです。」
「そのようなことが・・・!私にそのそろばんを触らせていただいても?」
「勿論です。失礼がなければお教え致しますよ。」
そうして王子相手に簡単なそろばん教室が開かれる。
アインズ王子は計算が得意と自負するだけのこともあり非常に飲み込みが早かった。
「なるほど・・・!これは素晴らしいですね。是非城でも採用したいですね。」
「ええ、正式に発注して下されば必要とするものもこちらの『学校』で一緒にお教えいたしますよ。」
俺は教えて貰いたいならそっちから来いと満面の笑みで言う。
その意図もアインズはきちんと理解したようである。
「そうですね。其の際は是非にお願い致します。ではこれらの資料はすべて持ち帰りとさせて頂き、正式に国王に対し陳情致します。」
それは全ての問題に付いてアインズがきちんと理解し後ろ盾になるという保証であった。
俺の個人的な問題であれば後ろ盾なんて面倒なだけだが、今回は事情が違う。
王子という国の中枢の人間が後ろ盾になるのは非常に心強い。
「お心強いお言葉に感謝申し上げます。宜しくお願い致します。アインズ王子。」
「確かに。ではお下がりになって結構ですよ。」
「はっ。」
俺達は跪き退室する。
これでこの街での学校に対するプレゼンは無事に終了した。




