【第61話】投資の理由
「良し、それじゃあちょっと役所に行ってきます。」
「商業ギルドもですよ!」
「あ、はい・・・。そうだ。そう言えばサーシャさんのお祖父様は今何処に?」
「緊急事態ということで帰路に就きました。」
「そっか。じゃあそっちは冒険者経由で話が通るかな。フィルル後は頼んだよ。」
『お任せ下さい!』
「私とアリスは少しお話したいのでこちらをお借りしても?」
「勿論。ごゆっくり。」
「ありがとうね、ススム君!」
俺はニッコリ笑顔で別れる。
役場に行くと若干の慌ただしさは感じるが昨日程の物々しさは感じない。
恐らく要人であった前伯爵とアインズという男がここから離れたということだろう。
俺は役場に入り、窓口に行く。
「こんにちは。お忙しい所失礼します。」
「いらっしゃいませ。今日はどの様なご要件で。」
「実は新たに当家に友人が住むことになりまして。その手続の方法とその人物が新たにこの街で店を出店したいということだったのでそのことのご相談に来ました。」
「なるほど。でしたら・・・。」
ということで話を聞いた所、まずはミストヴェイルから正式に退去したという証書を発行してもらい、その証書を持ってこの窓口で申請し直す必要があるらしい。
その際に税関係の精算はミストヴェイル分とオーロ・ヴァレンツの計算をし直し、オーロ・ヴァレンツで一気に処理できるということだ。
やはりインターネットがない世界だが、魔道具が飛躍的に発達しているお陰か情報処理は元の地球での暮らしと引けを取らないレベルの様だ。
あれ、でもそうなると何で前伯爵達は急いで帰ったんだ?
ミストヴェイルの一次情報位は入っているはず。
あ、もしかしたら俺の扱いの関係かもな・・・。
面倒くさいことにならなければいいが・・・。
話は戻って穴熊亭オーロ・ヴァレンツ支店の手続きだが、こちらは先に商業ギルドで手続きを行い出店許可証ができ次第、役所で登録処理となるようだ。
ふーむ。
そうなると商業ギルドって本当になんでもかんでも中心に有りすぎな気がするなあ。
まあそれで成り立っていると言うなら仕方ない。
「ありがとうございました。では諸々処理が終わり次第、当人を連れてまた来ますね。」
「はい。宜しくお願い致します。」
役場を出た足でそのまま商業ギルドに向かう。
そう言えば副ギルドマスターのバレッサが何かあったら呼べと言っていたのを思い出す。
ギルドに入ると案内係が俺の顔を覚えてくれていたようで、直ぐにバレッサに話を通すと言ってくれた。
まだ一回しか来てないのに顔パス状態になってるとは。
俺が応接室で待っているとバレッサはすぐにやってきた。
だがその手には意外なものがあることに気が付く。
「大変お待たせ致しました。ススム様。」
「いえ、急にお呼び立てして申し訳有りません。」
「良いのです。私がススム様が来た際は必ず取り次ぐ様にと案内を出していただけですので。」
「あはは。それは大したVIP待遇ですね。それにしてもその手にあるものって、もしかして?」
「ええ、そのもしかしてです。早速ススム様が登録してくださった文房具類を形に試作したものです。如何ですか?」
そう言ってバレッサは試作品だという文房具類を手渡してくれる。
「これは、凄いですね。もう少し時間がかかるかもと思っていましたが。使い心地はどうですか?」
「私の掛かり付けの職人に作らせましたので。使い心地はすこぶる良好で、書類仕事がドンドンと片付いていますよ!有り難い限りです。」
「あはは。それは良かった。少しでも皆さんのお力になれたなら光栄です。」
「大変ありがたいことです。それで今日のご用向きは?」
「ええ、実は私の友人が新たに私の家に住むことになったんですが、その友人は元々ミストヴェイルの街で有名な食事処をやっていてこちらでもその店を作りたいと話があり相談に来た次第です。」
「ミストヴェイルの食事処・・・?もしかして森の穴熊亭ですか?」
「え!?なんでご存知なんですか!?」
「おおおー!!実はフォレスより以前自慢されたのですよ。この街でも食べられない非常に安価で美味しいと評判の新しい物ができたと。」
「なるほど。フォレスさん経由でしたか。」
「ちなみにどのようなものなんでしょうか?」
そう言われ、俺は昨日パックにいつでも食べれるように持っていけと渡されたいつもの弁当のことを思い出した。
「あ、実は今時間を止める収納鞄の中に入っていますが、昼食がまだなら召し上がりますか?」
「よろしいのですか!?」
「ええ、どうぞ。よければお皿とナイフ、フォークがあれば最初は良いかも知れません。」
「用意させます!」
そう言いバレッサはチリンとベルを鳴らし、控えの人物に皿などを用意させた。
「一応味が3種類あるのですがどうしましょう?」
「全て頂けますか?あ、勿論お代は払います。」
「全てですか!お金は良いですよ。宣伝だと思って食べていただければ。」
俺はそう言って時間を止める収納鞄より、持ち運べるように包まれている3種類のサンドを取り出す。
「おおー。それが・・・。」
「ええ、結構量がありますが?」
「大丈夫です。私こう見えてかなり食べるんですよ。」
非常に線が細いフォレストは間逆な体型をしている感じだったが普通に3個食べるようだ。
「左から、穴熊サンド、チーズステーキ、野菜炒めサンドですね。」
「ほうー。これが。どの様に食べるのですか?ナイフとフォークででしょうか?」
「いえ、その様に食べる方も居ますが基本的にはそのまま手で持ち上げてがぶりとかぶりつく感じですね。」
「なるほど。では私も失礼して。」
そう言いバレッサは穴熊サンドを手に持ちかぶりついていた。
そして食べた瞬間目を輝かせる。
かなり見た目はお上品なマダムな感じだったので抵抗があるかと思っていたが、どうやら郷に入っては郷に従えなタイプなのかも知れない。
一口を味わうように食べ、口周りを拭いていた。
「・・・これはフォレスが気にいるのも頷けますね。非常に美味しいです!」
「お気に召して頂けたようで。」
「それにこの食べ方。これが街中で食べている姿や匂いを嗅いだものは食欲を誘われ必然的に食べたくなるでしょうね。それにその様に収納鞄で持ち運べるということは冒険者や兵士たちなどにも需要があるのでは?」
バレッサが一口食べただけで穴熊サンドの利点を全て答えたのは正直驚いた。
「流石ですね・・・。驚きました。」
「いえいえ、ではこちらも失礼しまして。」
そう言いチーズステーキと野菜炒めサンドも一口ずつかぶりついていた。
「うーん、素晴らしい・・・。今後の店の展開予定はどの様な感じで考えていられますでしょうか?」
「それは当人がどう思っているか次第ですが、先程話をした中では私ともう一人の私の友人が投資しこの街での店を支える形を取ることにしました。」
「・・・。そうですか・・・。もし可能でしたらでいいのですが、今からその方に直接お会いすることは出来ますか?」
「ええええ!?今からですか?」
「ええ、商機は逃すべからずです。」
「あはは・・・。流石商業ギルドの副ギルマスですね・・・。」
「お褒めいただき光栄です。」
「ではもしよければ自分はまだ商業ギルドでやることがあるのでそちらお召し上がりになっては?」
「ほう?どの様な?」
「実はまた一つ商品を登録しようと思いまして。」
「それは素晴らしい!!ちなみにその説明書はお持ちで?」
「いや、これから書こうかと思ったのですが場所はありますか?」
「わかりました。ご案内させていただきます。私はこちらで美味しい食事を頂くことにしますので終わりましたらまたお声掛け下さい。」
「わかりました。どうぞごゆっくり。」
俺は席を立つとどうやら話を聞いていたらしい案内役が俺を商品登録するための場所まで案内してくれる。
俺は別の場所で紙とペンを渡されたのでそれにポテトフライもといフレンチフライの作り方を書く。
ポテトフライとしなかったのは単純に野菜の名前がポテトではない可能性があったためだ。
それにフレンチフライとしておけば、もしかしたら地球から強制的につれてこられた人達も気が付くかも知れないと思ったためだ。
俺が丁度書き終えた頃だった。
バレッサがやってきた。
「タイミングバッチリですね。今書き終わりました。それにしても本当に3つ食べたんですか?」
「ええ、美味しくいただきました。」
「あはは。それは良かった。で、今回のはこれなんですが。」
「失礼しますね。ほう。料理ですか。面白いですね。これも見たことがないものです。では早速登録してしまいましょう。」
ということで手慣れた手つきでササッと契約魔法の様なものを行使して登録は終了となる。
「では、ススム様。よろしければお会いさせて頂けますか?」
「ええ、良いですよ。良ければお待ちいただければ連れてきますが?」
「いえ、折角です。ススム様の館を拝見したいのですが?」
「うん?ああ、なるほど。この街じゃ有名な幽霊屋敷でしたものね。良いですよ。」
「馬車をすぐに用意しますのでお待ちいただけますか?」
「分かりました。」
バレッサが用意してくれた馬車に乗り俺達は自宅へと帰る。
「本当にこれがあの館なんですね・・・。ただただ驚きです。」
「あはは。ここを知っている人は皆言いますね。さあ、どうぞ。フィルル?聞こえる?」
『はい、ススム様。』
目の前にフィルルが現れるとバレッサが若干驚いていた。
「ああ、すいません。驚かせてしまって。」
「いえ、家守妖精は久しぶりに見ました。」
「やはり珍しいんですね。」
「それはもう、羨ましいぐらいです。」
「あはは。」
俺はアリスに副ギルドマスターが会いたいと言う内容のメモ紙をフィルルに持たせる。
「じゃあ、フィルル。これをアリスさん達に。」
『畏まりました。』
フィルルは一瞬でアリスたちのもとに消えていく。
「ススム様は家守妖精と会話できるのですね・・・。」
「ええ、不思議なことに。」
俺は家を案内しながら中に入る。
すると先触れを出していたためか玄関付近までアリスとサーシャ達が来ていた。
「バレッサ副ギルドマスター。」
「やはりもう一人の友人とはサーシャ嬢の事でしたか。」
「お二人は面識あったのですね。」
「それはもう。個人的には私の弟子になってほしかったぐらいの人材でしたからね。」
「懐かしいお話ですね。」
どうやらサーシャの師としてフォレスとバレッサで取り合いをしていたのかも知れない。
まあ、サーシャが非常に優秀だというのは素人の俺でも分かるくらいだ。
「それとそちらのお方が?」
「初めまして。森の穴熊亭の共同オーナーの一人でアリスと申します。」
「ご丁寧にありがとうございます。オーロ・ヴァレンツ商業ギルド副ギルドマスターのバレッサと申します。今日はススム様にご無理言ってお会いさせて頂きました。よろしいですか?」
「あ、では客間へどうぞ。」
俺が先頭に客間へと移動する。
アリスがアイコンタクトで「ちょっと!聞いてないんだけど!?」と送ってきた。
「それにしてもこんなに綺麗な館だったのですねえ。」
バレッサが部屋を眺めながら言う。
「ええ、前の持ち主は相当センスが良かったようですね。」
「其の様で。羨ましい限りです。」
「所でバレッサさんからアリスさんへお話というのは?」
「ああ、はい。失礼しました。唐突ですが私も森の穴熊亭に投資させて頂きたいのです。」
「ええええ!?」
アリスは驚いている。
やはりそう来たか。
俺はそんな予感はしていたのでチラリとサーシャを見ると笑顔で微笑んでいた。
という事は悪い人ではないということだろう。
「でも何でですか?」
「先程ススム様よりそちらで売りに出されているお品を頂き、確実に売れると思ったからです。」
「うん?ああ、お弁当ですね!」
「ええ、そうです。ちなみに私の得意分野はこの街の土地や建物関係です。」
「だからこの館にも興味があったんですね。」
「其の通りです。もし私も投資に加えさせて頂けるのでしたらば、店を建てる場所の確保に協力させていただきたいと思います。」
この街はこの館を入手した際に嫌と言うほど理解したが土地や建物の価格は天井知らずになる可能性が高い。
それを補助してくれる支援者は非常に心強い。
アリスは突然の申し出にあわあわしているので俺とサーシャが変わることにした。
「確かにバレッサ副ギルドマスターが土地建物関係で協力を申し出てくれるのは大変心強いと思いますよ。」
「なるほど。ちなみに率直に聞きますが見返りは何をお求めですか?僕とサーシャさんは単純に支援が目的です。副ギルドマスターほどの人間になれば何かあって叱るべきと考えて良いんですよね?」
「ええ。勿論あります。」
「お伺いしても?」
「この街での福祉に貢献していただきたいのです。」
「福祉ですか?」
以外な返答に俺は驚いた。




