【第57話】スタンピード
ボコォ!
ただいまと同時にパックに顔面を殴られる。
「痛い!!」
「当たり前だこの野郎!!急に出ていってあの手紙、お前ってやつは・・・!」
「いやあ・・・。」
パチィーン!!
今度はアリスからビンタを食らう。
そして思いっきり抱きしめれそしてわんわん泣かれた。
「馬鹿、馬鹿!ススム君の大馬鹿野郎!!」
「ごめんよ、ああいった別れってどうも苦手で・・・。」
「私たちはああやって勝手に行かれる方が苦手だ!」
「ごめん・・・。」
人と関わることに煩わしさを覚えて、ある日風の様に去っては見たが、俺自身この町の名前を聞いた時体が自然と動いたようにどうもその去り方も中途半端だったようだ。
人間関係って難しいなあ。
「所で何だって急にこんな所に現れたんだ?」
「ああ、それは僕が新たに設置した転移陣の魔道具がここと繋がってたからだね。」
「魔道具だ?あ、本当だ。いつの間にこんな物が。ちなみに今までは?噂ではオーロ・ヴァレンツに向ったとだけ聞いたが。」
「うん。今は運好くそこで拠点を持つことが出来てそこの住人になったよ。」
「じゃあ、何だって急にここに?」
「ああ、その件だけど早急に冒険者ギルドに行かないとな。」
そう思い立ち上がろうとするもアリスが掴んで離してくれない。
「アリスさん。急用なんだが・・・。」
「でもまた離したら勝手に行っちゃうかも知れないじゃないか!」
「・・・。約束するよ。今度は絶対そんな真似しない。本当に済まなかった。」
「絶対だからね・・・。約束だぞ。」
「ああ。」
そう言い俺はハンカチを出しアリスに鼻水を拭くよう渡す。
なんかアリスには鼻水付けられてばっかな気がする。
「それにしても僕がこの街に来たと余り知られたくはないなあ。あ、そうだ。」
俺は収納鞄に手を突っ込み、ガラクタ装備の中から仮面を一つ取り出す。
ステータス補正などもないただの見てくれ装備だ。
「これでよし。」
「いや、それダサくないか?」
パックが訝しげな表情で俺の顔を見る。
「まあ、僕だとわからなければそれでいいさ。」
「なんでススム君が来たって知られちゃ困るの?」
「単純にこの魔道具のことを隠したいからかな?協力してくれる?」
「協力はするが後で話は聞かせてもらうからな。」
「ああ、それも約束しよう。」
俺は慣れた足つきで冒険者ギルドに向かう。
一応【気配遮断】のスキルを使っているので一般人たちには仮面を付けた奇っ怪な俺にも気が付きやしない。
冒険者ギルドに入ると非常に慌ただしく冒険者や職員が動いている。
その中に見知った人物を見つける。
どうやらそいつは俺の【気配遮断】を看破できないようだ。
まあ、見抜けるのは極一部の探索職などであろう。
俺はそいつ、カイエンの横に行きポンと肩を叩く。
不意に肩を叩かれたカイエンは非常に驚いていた。
「二階の“いつもの部屋”で待ってますね。」
「お前・・・!?」
俺はそう言い、二階の応接室へと行き腰を掛ける。
するとすぐにカイエンも部屋に入ってくる。
俺は仮面をしたまま、【気配遮断】だけを一段階下げる。
「やっぱり、ススムか!」
「シー。僕は今は亡霊ですので。」
「・・・。どうやってここに?」
「それよりも『何故ここに?』では無いんですか?」
「どうせお前のことだ。オーロ・ヴァレンツで俺達の状況を聞きつけたというところではないのか?」
「わかってるなら状況の説明を。僕が必要ないなら即時帰ります。」
「待て。お前が居てくれれば非常に助かる。今ミストヴェイルは未曾有の危機だ。」
「この前はコカトリスで未曾有の危機でしたがなんかこの街運がないですねえ。」
「まあ、今回は原因が明らかだしな。」
うん?
確か『スタンピード』は原因がわからないんじゃなかったか?
「『スタンピード』の原因がわかってるんですか?」
「ああ、偶然にも比較的近い場所で未発見の『ダンジョン』が発見された。」
「『ダンジョン』?一時的ですか?」
「いや、固有だ。あれは本来国が管理するようなものだ。」
噂には聞いていた国が管理するという『固有ダンジョン』。
それがミストヴェイルの近くに出来たということだろうか?
「でもなんで『固有ダンジョン』の発見=『スタンピード』になるんですか?」
俺はこの関係が理解できないでいた。
「ああ、話に聞いていただけで実際見るのは初めてだが『固有ダンジョン』を発見し不用意に足を踏み入れてしまうと最初の罠として『スタンピード』が発生するらしい。」
「じゃあ今現在存在している『固有ダンジョン』は全て最初に?」
「もれなく『スタンピード』が発生しているらしい。」
「何だってそんな情報がダンジョンに精通しているであろう冒険者に話が広がってないんですか?それって冒険者の最初の心得として教えておくべき内容では?」
「俺もそう思うよ・・・。だがなんせ今現在発見されているダンジョンで最も年月の浅いダンジョンでももう60年以上前に見つかったダンジョンだ。つまり今回のダンジョンは60年以上ぶりに見つかったダンジョンという事になる。」
なるほど。時が立つにつれて口伝で伝えるべき情報が薄れてしまったということか。
これも教育が薄いこの世界ならではの事情なのかもなあ。
「それに今回のダンジョン。発見して初めて足を踏み入れてしまったのは一般人なんだよ。攻めることも出来ない。」
「ああ、じゃあ仕方ないですね。それで今までの被害は?」
「最初にダンジョンに踏み入ってしまった一般人3名が犠牲なった。それからは波のように魔獣たちがダンジョンから這い出してはこの街に襲来しているがここまでの間になんとか退けている。現状で第3波までは抑え込んだ。」
「おお、その程度で済んでいるならここの冒険者は優秀ですねえ。」
「馬鹿言うんじゃねえ。これからが問題だ。『スタンピード』は全部で第5波まであるらしい。」
「じゃあ、後2波押さえれば良いんですね。」
「簡単に言うんじゃねえよ・・・。」
「ま、僕も協力しますので。」
「・・・恩に着る。」
「またまた。僕もまた冒険者の一人ですからね。」
俺はこのカイエンとの会話の途中で『システムメッセージ』が起動し【緊急クエスト】が発生したのを確認していた。
【緊急クエスト】
『ミストヴェイル防衛戦』
目的:発生した『スタンピード』の鎮圧。3/5回
レベル20~
「とりあえず僕も戦いますが、LV20以下の冒険者は前線に出さないようにしてくださいね。」
「なんでLV20以下なんだ?」
「まあ、今まで一時的なダンジョンを毎日の様に熟して来ていた僕の勘ですかね?」
「・・・良いだろう。前線まで連れていき、LV20未満は下げる。」
「いや、僕は後衛職なので、この街からスタンピードの様子が見える一番見晴らしの良い場所に連れて行ってもらえると助かります。」
「相変わらず何考えてるんだかわかんねえやつだな。」
「亡霊ですから。」
俺達の行動は早かった。
打ち合わせを終えた後、俺はとある冒険者達に連れられて一番見晴らしの良い場所まで連れて行ってもらう。
その間各伝令によりLV20未満の冒険者達は後方に下がるよう指示が入る。
「しっかし、アンタ。見慣れない冒険者だな。偶然ここに来た口かい?運がなかったな。」
「まあ・・・、そんな所さ。冒険者なんだ。やれるだけやってみるさ。さてと、『ダンジョン』は・・・。あそこか。」
俺が『気配察知(LV3)』と『地図』を見ると、進撃は開始していないが敵性反応が一部にやたら集中しているのが分かる。
「さて、じゃあ作戦開始と行きましょうか。」
カイエンと交わした作戦はこうだった。
俺が準備完了を信号の魔道具で知らせるので、それを見たカイエンが広域魔道具で撤退するように指示。
その後、俺が一斉に爆撃を開始するというシンプルな作戦だった。
『気配察知(LV3)』と『地図』の範囲内に『ダンジョン』があるのはそれは俺の射程圏内を意味している。
「まずは最初の一撃、行ってみましょうか。」
俺は信号の魔道具を放つ。それは信号弾の様で天高く小さい花火の様なものが3つパンパンパンと炸裂した。
それを確認したカイエンの広域魔道具、正確には拡声器の更に規模を大きくしたような魔道具で警報が出される。
『これより、【ダンジョン】周囲に広範囲高威力の魔法が発動される。注意されたし!』
この言葉が3回終わった頃に俺は最初のファイアボールを放つ。
俺は今回のためにバランス型ビルドを一時的に組み替え、完全に防御系スキルを一旦解除し火力に全振りしている状態である。
その結果はと言うと・・・
『紅蓮の理よ、我が掌に!――ファイアボール!』
「え!?お前!!何処に向ってそんなの飛ばしてるんだ!!」
「まあまあ、見てて下さい。」
暫く勢い良く飛んでいたファイアボールは目標地点まで到達、着弾すると一気に連鎖が始まる。
俺の足元には護衛の炎の狼が3体顕現するがその狼すら最前線へ投入する。
ファイアボールが着弾したことにより太陽落焔の杖により降り注ぐ無数のメテオフォール。
敵対目標が密集していたことも有り、ダンジョンがあった付近は地獄絵図となっている。
「な、なんなんだ・・・。」
「メテオってとんでもない高レベルの魔法使いしか使えなかったんじゃ・・・?」
「メテオ?いや、今のはただのファイヤボールのおまけなんですが?」
俺がそんな事を言うと目の前の光景を見て口々に感想を言い合っていた連中が呆気にとられてぽかーんとしている。
そんな会話中にもMPをしっかり回復させ、更に2射、3射とファイアボールを断続的に打ち込む。
当然それに連鎖するようにメテオフォールも降り注ぐ。
3射目が終了した所で【緊急クエスト】の内容が更新される。
防衛回数が3/5から4/5になった。
つまり1ウェーブ分がこちらに一切進行すること無く終了したということである。
慌てた様子でカイエンが俺のもとにやってきた。
「お、おい!!お前!!!」
「うん?お疲れ様。とりあえずもう少しで終わるみたいですよ?」
「いやいやいや、何なんだあの火力!!お前、たった1~2ヶ月の内に何があった!?」
カイエンは俺の肩を掴みゆっさゆっさと揺らしている。
ガックンガックンしながら俺は答える。
「うーん?一時的なダンジョンを攻略しまくってましたね。」
「それはパーティでか?」
「いや、僕がパーティを誰かと組むとでも?」
「・・・。」
「あはは。まあ良いじゃないですか。」
その時である。
『気配察知(LV3)』と『地図』に一際強い反応が現れる。
「どうやら本命の登場みたいですよ?」
「なんだって!?」
「距離が遠い内に仕留めたいので退避命令出してくださいね。」
「あ、ああ!」
そうしてカイエンの再び警告が3回されたことで俺は再びファイアボールを放ち始める。
『紅蓮の理よ、我が掌に!――ファイアボール!』
中央に大きい反応が一つ、取り巻きらしきものが10匹ほど確認できたが最初のファイアボールとおまけのメテオフォールで取り巻きの1/3が消える。
だが、予想に反しかなり速い速度で強い反応が接近する。
「おお?大分元気がよろしいようで!」
俺は続け、2射、3射目を発射する。
距離が近くなってきていることから3射目の爆風がこちらにも届くくらいの位置まで接近している。
ズサアアアア!!!
「うわ!!凄い爆風!!」
「そんな事言ってる場合か!?どうやら最後の獲物はサイクロプスの亜種だ!!頑丈だし前線に近づきすぎててあの魔法じゃあ巻き込むぞ!!」
カイエンが慌てた様子で居るがそこは問題ない。
「大丈夫ですって。何も僕の魔法は火だけじゃないのはご存知でしょう?」
俺はそう言うとバランス型(改)から召喚型に切り替える。
『水精霊召喚』
俺がそう唱えると空気が一気に冷え込み凍りついていく。
この感覚にはカイエンも覚えがあるのだろう。
圧倒的力のせいなのか、寒気のせいなのかはわからないがぶるっと震えていた。
召喚された11体の氷の上位精霊達もまた今回様に火力に寄せて調整をしている。
ドシン!ドシン!ととんでもない大きな一つ目の巨人が徐々に徐々に近づいてくる。
まだだ・・・。
もうちょっと・・・。
すると一定の距離までサイクロプスが近づいた所で一斉に目標を定めた氷の上位精霊達が起動する。
「さて、どれくらい耐えられるかな?」
放たれる氷のビームは音速を軽く超えている。
その数11本。
その一撃にサイクロプスは一瞬反応し回避行動をしたようだが掠っただけでも凍結効果が発生し、その大きな巨体すら氷で拘束していく。
拘束されたサイクロプスは良い的でしか無い。
2射目が一斉に放たれるとそれは身動きができないサイクロプスに全てが吸い込まれるように着弾する。
一気に全身が凍りつき、一体の氷の巨像となるサイクロプス。
3射目が放たれ、その巨像は粉々に砕け散る。
そうして亜種のサイクロプスを撃破した所で【システムメッセージ】が流れる。
【緊急クエスト・完了】
『ミストヴェイル防衛戦』
目的:発生した『スタンピード』の鎮圧。5/5回
レベル20~
完了報酬:経験値200,000
あれ?経験値が入った?
と言うか凄い入ったな!
今のでレベルが35になった。
もしかしてLUKが低くても【ハックアンドスラッシュ】が関係しているクエストなどは除外対象となり報酬が入るのだろうか?
まあ、兎にも角にもこれでミストヴェイルの『スタンピード』は無事に終了した。
以下現在のバランス型ステータス
名前:ススム
二つ名:呪われた亡霊
職業:魔法使い
年齢:20才
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:35
残りSP:7
各ステータス:HP:35(±0)、MP:80(+30)、STR:43(+8)、VIT:45(+11)、AGI:34(-4)、MND:52(+7)、INT:97(+41)、LUK:-42(-32)
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
装備済み:【呪】太陽落焔の杖、鉄の腕輪、【呪】鉄のバックラー(ミル=ゼィ)、【呪】ホーンラビットの皮の手袋、【呪】魔術師のローブ、【呪】魔術師のズボン(加護)
ペット:ポチ(ヴェリデヴォルフ:女神ヴェリティアの加護)




