【第4話】初めての鑑定品は呪われた装備品
しばらくの馬車移動でウトウトしていた時だった。
「皆さん!ミストヴェイルが見えてきましたよ!本当にお騒がせしまして申し訳ありませんでした!」
御者からの声で目を覚まし、身を乗り出してみてみると、そこはまさにザ・異世界という様な光景が広がっていた。
黄金色に広がる広大な穀物を育てているであろう畑の先に都市と呼ぶにふさわしい立派な石造りの外壁が見え、その中にミストヴェイルの街はあった。
「そういえば・・・、中に入る時に身分証とかって必要なんですか・・・?」
ふと疑問に思ったことを口にすると、そこは流石のガルドンだ。意図を汲んでくれたらしい。
「安心しろ!そんなことだろうとは思っていた。自慢じゃないが、ミストヴェイルでは鍛冶師として名は売れている。俺の甥っ子ということにすれば問題なかろう!」
そう言いながらガハハ!と豪快に笑っている。
暫くすると都市へ入るための検問があるが、当初の予定通り、自分はガルドンの甥ということですんなり入ることが出来た。
なんなら番兵達はガルドンの顔を見るや敬礼してほぼ顔パスに近い状態だったので、相当ガルドンはこの街では名が知られた鍛冶師なのだと思った。
「到着しました!皆さんありがとうございました!特にススム様、本当に助かりました。またご利用ください。その際はサービスさせていただきますので。」
そう言いながら乗合馬車の皆とは別れた。
「さて、これからのことだが。ススムよ。まずは家の鍛冶場に来ると良い。うちは鍛冶場でありながら鍛冶ギルドも運営している。そこで話を聞こう。」
なんとガルドンはただの鍛冶師ではなく、この街の鍛冶ギルドの副ギルドマスターとのことだった。
それは顔が知られているわけだ。
この際聞きたいことは山ほどあるのだ、遠慮すること無くお邪魔させてもらおう。
「ありがとうございます。こちらとしても助かります。」
鍛冶ギルドへの移動中も街中をキョロキョロとまるでお上りさんのように見回すが、はっきり行って地球から見たら逆お上りさんだ。
どれもこれも時代で言えば中世程度のものだろうか。
RPGが好きだった自分からすれば夢のような光景であり、非常に興味深い景色が広がっていた。
そんな自分を見たガルドンはガハハ!と笑いながら案内してくれる。
「着いたぞ。ここが俺の仕事場兼鍛冶ギルドだ。入ってくれ。」
「お邪魔しますー・・・。」
中は猛烈な熱気とともに鉄類を勢いよく叩く高い音が所狭しと聞こえていた。
「こっちだ!」と音にかき消されないぐらい大きな声でガルドンは2階へと案内してくれる。
どうやら2階が応接間になっているようだった。
部屋に入ると、「おかえりなさい、師匠!」とガルドンの弟子らしき男が声をかけてきた。
「こちらお客人ですか?」その男が聞くとガルドンが「おう、コイツはススムだ。客人であり恩人だ。丁重にもてなせ。こっちは俺の弟子でカッフェという。」
カッフェと呼ばれた男が俺に頭を下げる。
「カッフェです。ガルドン師匠にあそこまで言わせるだなんて相当凄い方なんですね、ススムさんは!」
やはり副ギルドマスターだからなのだろうか、ガルドンの評判は高く、ガルドンから褒められる=すごい人物に昇格するらしい。
「さて、ススムよ。お前これからどうするつもりだ?宛がないならうちで雇うことも出来るが?」
なんとそこまで高評価だったらしい。
「ありがとうございます。あの、もしかして冒険者とかってありますか?」
こういう世界ではありがちな職業、冒険者があればそれが一番自分の性分にあってると思ったので聞いてみると、「あるぞ?」との事だった。
やったぜ異世界!大万歳!
「うちの顧客は半分は国、半分は冒険者だからな。」
確かに鍛冶師の取引先は主に軍を持つ国と、存在しているならば冒険者になるだろうとはおもった。
「そうか、冒険者になるつもりか。少し残念だな。お前ほどの男なら将来この鍛冶ギルドでも名が売れたかもしれないのに。」
そこまで高く買ってくれているとは思ってもいなかったよ!
それをたまたまお茶を持ってきてくれたカッフェが聞き。俺を見る目が光りすぎてて眩しい!!
「あはは。買いかぶりすぎですよ・・・。冒険者になるにはどこに行けばいいです?ギルドがあるんでしょうか?」
とりあえず話を逸らすことにした。
「ああ、ここから比較的近い。あとでカッフェに案内させよう。いいな!カッフェ!」
雑用なので嫌がるかと思ったが、俺の評価が爆上がりしてるせいか、カッフェは「はい!よろこんで!」と嬉しそうにしている。
案内中根掘り葉掘り聞かれそうだ・・・。
「聞きたいことはそれだけか?」
気まずい雰囲気でお茶を飲んでいた所、ガルドンからそれだけか?と聞かれたので個人的に聞きたいことをもう一つ確認した。
「【鑑定】はどこでやってますか?冒険者ギルドか鑑定屋ですか?」
「【鑑定】だ?なんだ、鑑定してほしいものでもあるのか。」
ガルドンが訝しげに聞いてきた。
そこで俺はあのゴブリンが落とした例の一見するとゴミ装備な銅の短剣を出す。
「【鑑定】して欲しいのはこの短剣なんです。」
俺が出した短剣をずいっと身を乗り出してガルドンとカッフェが覗き込む。
「おまえ、これは・・・。また、とんでもねえゴミ装備だな・・・。」
予想していた通りの返答が帰ってきた。
「まあ、でも【鑑定】ならここでも出来る。」
な、なんだってー!!まさかの鍛冶場ででも鑑定は出来るとのことだった。これは嬉しい誤算だ。
「ただし条件があってな。勿論無料ではない。それが1個目だ。まあ、今回は特別に無料でやってやる。そして2個目が重要なんだが、一定の品質までの物しかうちや冒険者ギルドでは鑑定できない。仮にとんでもないクオリティの武器や防具だった場合、【鑑定】しても失敗になる。」
なるほど、なるほど。一定のレア度までなら鑑定は成功するがそれ以上のものは鑑定に失敗するってことか。
「よほど上等だと思われるものは鑑定屋に高額な依頼費用を出して鑑定してもらうか、それか高額な【巻物】での鑑定が必要になる。」
やはりそうか。そんな予感はしていた。
そこで一つ疑問に思った。
「あれ?お二人はこの短剣をゴミ装備と言いましたが、このクオリティでもゴミ装備になるんですか?」
そう、この短剣は現状『未鑑定品』ではあるが等級はレアだ。
自分の認識が余程おかしくなければレア装備は書いて時の如く珍しいもののはず。
それを二人は一目見ただけでゴミだと言い放った。
ちなみに自分がやっていたゲームの中での等級は次の様な順になる。
コモン→アンコモン→レア→ユニーク→レジェンド→ミスティック→ゴッズ
左が一般的であり右に行くほど希少度が上がっていることになる。
「ああ?なんだ?俺達の目が節穴だってのか?この短剣デバフしかついてないじゃないか。ならどう見てもゴミだろう。」
ガルドンの言葉が意外すぎた。
なんとこの短剣を見ても『未鑑定品』だということが認識できていない。
しかもデバフは言い当てたが、等級が分かっていない。
なんてこった、これも俺の【ハックアンドスラッシュ】の能力なのだろうか。
自分は拾った瞬間に等級と『未鑑定品』だということが分かったが、一級の鍛冶職人でもそれを見抜く力は通常持ち合わせていないとのことの様だ。
そこで仮説がたった。
1、等級は鍛冶師の勘で何となく分かるまたは、鑑定をすることで確定する。
2、鑑定が必要かどうかは、実際に鑑定をするまでわからない。つまり鑑定が必要でない場合も鑑定することがあり、その際は鑑定費用がまるまる損することになる。
そこで俺は急遽この短剣についても話をでっち上げる。
「いえ・・・。実はこの短剣、うちの家に代々古くから伝わっていた家宝の短剣だったんです・・・。村から逃げる際、親からこれだけは持って逃げなさいと・・・。シクシク」
ちらり
「な、なんてこった・・・。まさかそんな事情があっただなんて・・・。すまん、すまんかった!ススムよ!」
そう言いながら明らかにガルドンとカッフェが落ち込んでいた。
すまん二人とも。
「そういうことなら、俺に任せろ。もしかするととんでもない短剣かもしれないしな!カッフェ!」
「はい!師匠!!」
まんまと俺の話に騙されてしまったガルドンとカッフェは手際良く【鑑定】の準備を始めた。
大きなカーペットの様なものに魔法陣があり、そこに円陣がある。
どうやらこの円陣の上に鑑定したいものを乗せるようだ。
「さあ、ここへその短剣を。」
そう言われ短剣を円陣の中心に起き、ガルドン達が何やら唱えるとカッ!と一瞬光り鑑定が終了する。
「なんと、この短剣、レア相当のものだったか!」
「さすが家宝ですね!!」
鑑定を終えたガルドンとカッフェが鑑定後の短剣を手に取ると一瞬でその等級を言い当てる。
だがその瞬間だった。
ガルドンとカッフェが短い悲鳴のようなものを上げるとその短剣を手放し、短剣は床に落ちる。
俺がその光景に唖然としてると、ガルドンがこう言い放つ。
「ススム、悪いことは言わん。この短剣のことは忘れるんだ。この短剣は【呪われた装備】だ。」
その言葉に今度は俺が驚愕する。
「【呪われた装備】・・・?」
「ああ、お前の育った村ではなかったのかもしれないが、時折市場にこうした装備が出回ることがあるんだ。」
俺は理由がわからず詳細に聞いてみる。
「どこが呪われているのですか?」
「【呪われた装備】はな、ステータスが付与された場所に見たこともない文字の羅列が現れるんだ。しかもそれを装備しようものなら、あるものはいきなり出血し始めそのまま絶命したということもあったし、あるものは今まで使えていた魔法やスキルが一切使えなくなったということがあった。故に【呪われた装備】として忌み嫌われているんだ。」
「・・・良ければ僕も見てみてもよろしいですか?」
恐る恐る聞いてみると「おすすめはしないが見たいならば自分の目で確認すると良い。」と言ってくれる。
ガルドン達が恐れて床に落とした【呪われた装備】こと、レア等級の短剣を拾い上げる。
するとシステムメッセージが現れる。
【レア:銅の短剣(鑑定済み)を取得しました。】
どうやらきちんと鑑定済みになっている。
問題のステータス欄を見てみる。
【レア:銅の短剣】
効果:STR-10、VIT-10、
鑑定効果:基本魔法を使用するとMPが3回復する。
ん・・・?
特に変なこと書いて無くないか?
それよりもとてつもないことが書いてあるような?
そこでガルドンに再び聞いてみる。
「あの、よければ教えて下さい。どこに見たことのない文字の羅列があるんですか?」
その言葉に驚愕したガルドンとカッフェが顔を見合わせながら言う。
「鑑定効果の横だよ!意味不明な文字が羅列されてるだろう!?」
な、なんだってー!!
いや、待てよ・・・。その意味不明な羅列ってもしかして『日本語』で表記されてるのか!?
確かに地球標準で見ても『日本語』は漢字、ひらがな、かたかなで構成されるゆえに世界で最も難しいと言われている言語の内のひとつだと聞いたことがある。
そうか、この世界の装備品はこちらの世界の文字で明記されている部分と物によっては日本語で表記されているものが混じっているのか!
そして当然日本語など知らないこの世界の人達は何が書いてあるのか理解することは到底出来ず、時折交じるデバフ効果のある装備を見て【呪われた装備】として認識しているんだ・・・!
恐らくこの世界は昔から地球とつながりがあったんだろう。なんせあの自称女神が勝手に霊を引き抜いてるくらいだ。
そしてその地球の法則や事象が稀にこちらにも流れてきているのではないか?
そう仮説をすることで全てが納得できたように思えた。
やっぱしあの自称女神が原因じゃねえか!ろくなもんじゃねえ!
だが、この短剣書いてあることが本当ならとんでもない装備品だ。
俺はそう考えながら今にも処分されそうになっている短剣を抱えあげ一芝居うつ。
「確かに!よく見ると意味不明な文字列が・・・。ですがこの短剣は例え【呪われた装備】であったとしても家族が自分たちの命を掛けてまで僕に託してくれた大切な家宝です!この短剣が原因で命を落とすことがあっても僕は構いません!」
どや?
なんとガルドンとカッフェは抱き合いながら泣いていた。
やりすぎたようだ。
「わかった!お前がそこまで言うなら持っていけ!」
そういう訳で俺はこのとんでもない短剣をゲットすることが出来た。




