【第39話】真相
俺達はダンジョンの話は一旦保留とし、商業都市オーロ・ヴァレンツを目指す。
走り出してから数日が経つがやはりこれもサーシャの『ダンジョンの呪い』のせいか、圧倒的に俺が一人で旅をしていたときよりも戦闘回数が多い。
敵の強さはそうではないにしてもとにかく襲ってくる回数が多かった。
だが一つ気がついたことがある。
襲ってくるのはどれも狼型の魔獣だった。
という事は今回の引き金になっているダンジョンの主は狼型ではないかと想像できた。
そして商業都市オーロ・ヴァレンツに向かう途中にある最初の村に到着する。
「ふー。ようやく最初の村か。お尻痛い・・・。」
「ふふ。慣れるまでは大変ですよね。」
そう言ってサーシャが笑顔で答えてくれる。
「慣れるもんなんですかねえ。あ、そうだ。渡すタイミングを忘れていましたがこれ。」
「これは?」
「以前話にあった、俺の料理で使っているスパイスのレシピです。」
そう言うとサーシャの顔が輝き出す。
「ありがとうございます!ススムさん!」
「いえ、美味しい料理が広がってくれるならこの程度。また新しいスパイスが出来から登録しますよ。」
「・・・。ススムさんは本当に無条件で私たちのことを信頼してくれるんですね。」
サーシャが神妙な面持ちで話し出す。
「無条件ではないですよ。信頼できると思った人間しか信頼していませんので。」
「ふふ。そうですね。わかりました。私もススムさんを信じます。」
「ダンジョンですか?」
「ええ、そうです。」
それを聞いていたナナリーとセリルが顔を見合わせている。
「よろしいのですか?お嬢様?」
「はい。」
「・・・。わかりました。では安全な宿屋へ移動しましょう。」
そうして俺達は宿屋へ移動し、個室を取る。
「ですが本当にお任せしてもよろしいのですか?私たちも付いていきましょうか?」
セリルがそんな事を言うがそれは必要ない。
「いえ、僕は自力でなんとかしますよ。それよりもこちらの護衛の方をよろしくお願いします。」
「わかりました。」
俺が普段、安全な事しか行わず不確かなものは信じない性格なのになぜこんなにも自身があるのか。
それには理由があった。
実は最初にサーシャの『ダンジョンの呪い』を見た瞬間【システムメッセージ】が起動していたのだ。
俺はそれを見て、単独での攻略は可能だと思っていた。
「準備ができましたらお呼びしますので部屋の外でお待ち下さい。」
「わかりました。」
そうして俺が部屋の外で待っているとナナリーに入室するよう声を掛けられ部屋に入る。
するとそこには上着の脱ぎ前だけを隠し、背中を大きく見せて椅子に座っているサーシャの姿があった。
『ダンジョンの呪い』の入れ墨の様なものは手だけのものではなく背中が大本だったようだ。
そしてその背中の入れ墨を見るなりやはり【システムメッセージ】が発動する。
『ダンジョンの入口を発見しました。』
名前:“無数の” “獣が” “待ち構える” ダンジョン
推奨レベル:20
『ダンジョンに侵入しますか? はい/いいえ』
そう、俺はあの最初の手の入れ墨を見た時に既にこれを見ていた。
そして今の自身のレベルが19であり、このダンジョンの推奨レベルが20だったことから、適切に『スキルボード』を振っている自分ならば行けると考えていた。
ちなみに最初の手の入れ墨を見た時に余っているSPをどうするかを考え既に振り終えている。
基本的にはバランス型、防御型、召喚型を更に強化した形にしている。
「私の準備はこれで終わりです。いつでもどうぞ。そしてどうかご無事に戻られることを願っています。」
サーシャの顔は見えないが声が震えていた。
「すぐに戻ります。行ってきます。」
そうして俺は『システムメッセージ』から『はい』を選択し、ダンジョンの中に侵入する。
一瞬の事だった。
サーシャの入れ墨が光ったかと思うと俺は既に別空間へ飛ばされていた。
そこはゴツゴツとした岩肌が剥き出しになった洞窟のようであるが、不思議と明るい。
「やっぱしダンジョン内は常識とは大きくかけ離れているんだな。」
そんな事を思っているとすぐに『気配察知(LV3)』と『地図』に反応がある。
やはりダンジョンの影響なのかかなり数が多いが、幸い若干の距離がある。
しかもこちらは先制攻撃を警戒して『気配遮断』のスキルを上限であるLV3まで上げてきている。
『気配遮断(LV3):自身に対し隠遁状態を付与し敵から見つからなくする。上級の敵であっても、一部を除き看破することは出来ない。この効果は現在最大LVである。』
このスキルの良い所はパッシブスキル、つまり常時発動型な点だ。
つまりは魔法で攻撃した所で・・・!
俺がファイアボールを発動すると、目標に向かい一直線に飛んでいき爆散、更に他の目標に連鎖的にファイアボールが飛び炎上の効果を撒き散らしているが目標となっている狼型の魔獣はこちらを察知することが出来ない。
狼型の様な非常に鼻が利き、索敵能力に優れていそうなタイプであっても俺の今の状態を看破できないということは、一部のボスまたは『気配察知(LV3)』相当のスキルを有していなければ俺を見つけることは出来ないということだ。
そもそも、俺は『気配察知(LV3)』と『地図』を利用し、超遠距離からファイアボールを放っていることもあり余計に見つかりづらいのだろう。
見つかることがなければこちらは少しずつ休憩しMPを回復しながら前進していけば良い。
じわり、じわりとだが確かに歩を進めていき、仕留め損ないが無いよう、『気配察知(LV3)』と『地図』を確認しながら進む。
ある程度まで進むとなんとドロップしたアイテム類がいくつも落ちていることに気が付く。
「おおおお!!!」
アイテム類はコモンやアンコモンが中心の様であったが、今はのんびり鑑賞している場合ではない。
とにかく落ちているアイテムは収納鞄に突っ込んで行く。
基本的にダンジョン内部は若干の横道もあることはあるがそこはすぐに行き止まりとなっており一本道の様になっている。
そしてある所で場違いなものを見つける。
それはボロボロになった騎士風の鎧と剣と盾が落ちていた。
「これってもしかして・・・?そうだとしたらきちんと回収してサーシャさんに届けないといけないな。」
俺はそう思い丁重にそのボロボロになった装備類を集め収納鞄に入れる。
「これで良し。それにしてもやはりダンジョン内部では一回倒せば暫くは再出現しない仕様なのかな?ありがたい。」
俺は休憩をしながら進み、数時間が経とうとしていた頃だった。
明らかに異質な門が目の前に現れる。
空気感や圧迫感も比べ物にならない。
恐らくこの先にこのダンジョンの主が居ると確信する。
「ポチ。大丈夫か?」
『うー・・・。少し怖いけど御主人と一緒なら大丈夫なの・・・!』
「それは心強いな。行くぞ。」
俺は予防線として防御型に切り替え魔法を唱える。
『土の防壁』
俺の近くに土属性の大型狼も顕現し、準備ができたことで門を開ける。
ゴゴゴゴ・・・
重たい鉄の扉は徐々に開きようやく中に入るとそこにはぎょろぎょろと幾つもの目玉が付いた不気味な狼型の魔獣がいた。
そしてそいつはなんと俺に話しかけてくる。
『ほお・・・。驚いた。ここまで来れるやつが居るとは。ここまで来た人間はお前が初めてだ。』
「・・・。お前がこのダンジョンの主だな?」
『?お前、儂の言葉がわかるのか。これは愉快!』
「一つだけ教えろ。何故サーシャに取り憑き呪いをかける?」
『サーシャ・・・?さあな。儂は知らぬよ。呪いなぞ色々な場所にあるだろう。恨み、ツラミ、怨恨、妬み、そういった負の感情から自然発生的に生まれるのが呪いだ。』
「・・・そうか。じゃあ特別誰かから狙われてるとかそういう話ではないんだな?」
『それはないな。まあ楽しいおしゃべりはここまでにしようか。精々儂を楽しませてくれよ?人間!!』
そう言い狼型の異形な魔獣は俺に向かい一目散に飛びかかる。
「悪いな。お前に付き合っている暇はないし、もう終わってるんだよ。」
空気がバリバリと凍る音とともに水属性の大型狼が突撃してきた魔獣に対し四方から襲いかかる。
『な!?こいつら何処からきよった!?』
虚を突かれた魔獣は急遽4頭の狼と対峙しているが本命はそちらではない。
空気が凍り一気に気温が下がる。
そして顕現する十体の氷の上位精霊。
「じゃあな。」
発射された十本の氷のビームは魔獣を一瞬で凍らせる。
「ふー・・・。」
俺の吐く息が真っ白になる。
粉々に砕け散る魔獣。
「さあ、これで終わりかな?」
『御主人!なんか出るよ!!』
コカトリスの時と同様にポチが興奮して居る。
「こら、駄目だぞ!!」
俺はポチを必死に抱きしめる。
『見て!見て!』
そうして魔獣がいた所に大きな牙と光を放ちながら一本の杖が現れた。
「また2個ドロップしたのか?それにしてもこの杖は・・・。」
そう思ったときである。
急に自身のようにダンジョン内部が揺れだし崩れそうになっている。
「まずい!崩壊か!?でもどうやって出たら良いんだ!!」
すると急に壁に光が差しそこに扉が現れる。
本能的にここが脱出路だと理解し、慌てて戦利品を収納鞄に入れた後扉を開け脱出する。
「おわぁああ!」
ゴロゴロゴロ!ドターン!!
俺は勢い良く扉から出たせいでいつの間にか元の宿屋の部屋に戻っておりそのままゴロゴロと転がり壁に激突していた。
「ぐえ!」
『痛いのー・・・。』
「きゃ!」
「うわぁ!」
「なんだ!?」
三人の声が聞こえる。
「ススムさん!?」
「あ、あれ?」
かなり時間が経っていたはずなのに、そこには突入したときと同じ様な構図で三人が降り、更に日がまだ高かったことに違和感を覚える。
「どういうことだ・・・?」
「それはこちらのセリフです。ダンジョンに行かれたのでは?」
「行ってきましたし、主は倒してきましたよ。」
「え?」
「お嬢様!『呪い』が・・・!!」
セリルがそう声を上げると、サーシャの身体に刻まれていた入れ墨の様なものがパラパラと光を出しながら消えていく。
「!!」
「ああ・・・!!良かった・・・!!良かったですね!!お嬢様!!」
俺は三人が泣きながら抱き合っている姿を見てそっと部屋を出ることにした。




