【第32話】商人サーシャ
コカトリス討伐戦の後の対応については数日掛かる見込みとのことだったので俺はまた以前のように草むしり、もとい薬草類の採集を行っていた。
「ススム様は相変わらず午前中だけの活動で良くこれだけ大量に持ってこられますね・・・。」
「あはは。草むしりの才能があるようで・・・。」
どうやら商業ギルドの時を止める収納鞄担当者の人も呆れ返っている様子だった。
納品を終えた俺は穴熊亭に戻ると久しぶりの人物達がそこにはいた。
サーシャとその使用人たちの三人である。
「あれ?サーシャ様達ではないですか。なんでここに?」
「ススム様!お久しぶりです。」
「体調の方は如何ですか?まだご無理をなさらないほうが・・・。」
「お気遣いありがとうございます。ただ部屋に籠もっているだけでもやはり体に悪いかと思いまして。」
「たしかにそれもそうかも知れませんね。気晴らしは必要かと。」
「ええ。それにしても驚きました。ススム様のお話に出てきた穴熊亭が本当にあったとは!」
「ああ、覚えていてくれたんですね。」
そう、俺は彼女たちを保護している最中、気が紛れればとおもいこの穴熊亭の話もしていたがやはり彼女たちは信じていなかったようだ。
「良ければお昼時ですし、まだならご一緒に如何ですか?ご馳走しますよ。」
「よろしいのですか!?実は先程からこの美味しそうな匂いと皆さんの食べている表情を見ていてお腹が空いてしまって。」
「お腹が空くのは良い兆候です。ご希望はありますか?」
「お任せしてもよろしいですか?」
「わかりました。」
俺は以前の旅の経験からキャンプなどで使えそうなテーブル一つと椅子を丁度四つ購入し、収納鞄に仕舞っていた。
俺はそれを今は従業員しか入れない元宿屋側の開けた庭に設置する。
「ちょっと場所は離れますがこちらに。それに余り人の目が有りすぎるのも落ち着かないでしょうし。」
「本当にお気遣い感謝致します。」
「では品を持ってきますね。ポチ、お前はここで待ってなさい。サーシャ様達にも久しぶりにあったんだし。」
『わかった!待ってるの!ポチはお肉が良いの!』
「ポチというお名前にしたんですか?可愛らしいお名前ですね。」
『ポチはポチなのー!』
俺は品物を買いに食堂側に行くとアリスがすっ飛んできた!
「ス、ススム君!!あの美少女たちは誰だい!?」
鼻息が荒いぞアリス。
「落ち着いてアリスさん。彼女たちは以前の旅で救出してきた被害者たちですよ。」
「あの話本当だったの!?」
「アリスさんも信じてなかったのか、全く。ところで注文良いかな?今日はお金払うから。」
「注文は良いけどお金はいらないって!」
「駄目だよ、今日は僕の分だけじゃなく彼女たちの食事代もあるんだ。それは約束とは違うでしょ。」
「うーむ。そういうことなら良いか。それで注文は?」
「3種類をハーフで4個ずつ。あ、ポチのもあるからステーキのチーズなしでハーフも1個追加でお願いします。」
「了解!裏の庭で食べるんだよね?」
「良くこの忙しい中見てたね?これ料金。」
「ホール店員たるもの常に注意を払っているものさ。はい、確かに!量が多いから持って行くわ。」
「助かるよ。」
暫くすると次々とサンドを乗せた皿が運び込まれる。
「どうぞごゆっくりー。」
「アリスさんありがとうね。」
「良いってことよー。」
「さあ、ドンドン食べてくださいね。余ったら持ち帰りもできますので。」
俺はそう言いながら女性陣達に皿を配り、ポチにもステーキサンドのチーズなしを渡す。
『今日は待たなくていいの?』
「食べていいぞ。」
『いただきますなの!うま!うま!』
「これがススム様のお話で出てきたという特別な食べ物なのですね。」
「特別でもなんでもないですよ。僕が食べたいようにしてアレンジして作ってもらっただけですから。あ、ちなみにお貴族様的には問題かもしれないですが、手で持って思い切りかぶりついて下さい。」
俺がそう言い、穴熊サンドで実演する。
「豪快な食べ方で斬新ですね・・・。」
「無理ならフォークとナイフ持ってきましょうか?」
「いえ、私たちは旅でこういったものには慣れてますから。頂きましょう。」
そう言い、サーシャ達は各々気になったものを更に取り、かぶりついて食べていた。
一口食べた瞬間、顔色が変わったのでお気に召してもらえたのがわかる。
「こ、これは美味しいです!」
「お気に召してもらえたようで何よりです。結構量がありますので無理はなさらないように。」
暫くは三人は新しい食べ物、新しい食べ方ということも有り感想を言い合いながら食べ合っていた。
結局三人ともハーフサイズを2個ペロリと食べ、残りは持ち帰るとのこと。
「本当に美味しいお食事でした。ご馳走様でした。」
「いえいえ、お気に召してくれたようで何よりです。また利用してやって下さい。」
「そうですね。時間がある時に利用させてもらいます。所で全くお話は変わるのですが、ススム様はヴェルミナをご存知でしょうか?」
俺は急に出てきたヴェルミナの何驚く。
「ヴェルミナってあの『常闇の装具屋』の?」
「ええ、合っています。」
「何故ですか?」
「それは私がそういった物を扱う行商人だからです。」
ええーーーーー!?
色々ツッコミが追いつかん!!
「もしかしてヴェルミナが言っていた『友人』っていうのは・・・。」
「私のことですね。」
「で、でもサーシャ様は伯爵家のご令嬢なんですよね?なんでそんな事を!?」
「それはこちらを見て下さい。」
そうして渡されたのは一つの指輪だった。
「これは亡き母から譲り受けたものです。ススム様はこの指輪がどういうものかはご存知ですよね?」
「拝見します。」
【ユニーク:白金の装飾指輪】
効果:MND+14、LUK-3
鑑定効果:装着者に起きる【不運】を1日3回まで回避する。
空きスロット:なし
な、なんだこれ・・・?
【呪われた装備】だとは思うがこの様な効果は今まで嗜んできたハクスラゲー、いやどんなゲームでもこの様な効果は見たことがない。
「その様子から察するにどういった能力か、ススム様にはわかるのですね?」
「お返しします。全てではないですが、お守りとしては途轍もない効果を秘めていると思われます。」
それを聞いたサーシャが酷く安堵している。
「ご覧の通り、この指輪は不吉だと言われている【呪われた装備】です。ですがこの指輪は先前の母曰く、幸運のお守りだとも言っていました。それをススム様からも聞けたことで大変嬉しく思います。」
「ですが何故、サーシャ様は世間から忌み嫌われているものを扱う商人になったのですか?伯爵家のご令嬢といえば姫といっても過言ではないですよね?」
「確かに世間一般ではそうなのでしょうが、私は兄たちとは違い母は庶民の出です。ですので実質伯爵家の娘というのもただの肩書に過ぎませんし、この年で婚約せず自由に商売をしているのもそういった理由があります。」
「それは大変失礼致しました。」
俺は聞いてはいけないことを聞いたようで慌てて謝罪とともに頭を下げた。
「いえいえ、やめてください。そういった意味で申したわけでは有りませんから。それとこの様な商品を扱うようになったのはやはりこの指輪に過去何度か助けられたからだと思います。自然と興味が湧きそれらを収集していく内により、家族間で対立が深まってしまい今ではお祖父様以外との付き合いはほぼありませんので。」
そう言いながら笑顔を見せたサーシャの顔がどこか寂しさを含んでいた。
「そういった事情があったのですね。」
「ええ、それで私からお願いが合ってヴェルミナに紹介してもらいました。」
「というと?」
「護衛の指名依頼を行いたいのです。行き先は私が拠点としている商業都市オーロ・ヴァレンツまでになります。」
「なるほど・・・。実は今色々と僕の関係で冒険者ギルドと商業ギルドが立て込んでて、それが解消してからになりますがそれでも良いですか?」
「四角銀級昇格と二つ名の授与。それにコカトリスの首の処理と大量に納入している薬草類関係ですね。」
ええーーーー!!!
全部知られてるよ!!??
何この子!!かわいい顔してとんでもなく怖いんだが!!
「うふふ。なんで?って顔ですね。私の商人としての師匠はフォレスですからね。情報収集はお手の物です。」
フォレスの弟子と言うだけでなんか凄い納得してしまう自分がいる。
「なるほど、フォレスさんとの繋がりはそこだったんですね。」
「ええ。彼は凄い商人ですから。」
「あはは。確かに。」
「勿論ススム様の状況が解消し次第の依頼となります。それでよろしいですか?」
実は最近思うことがあった。
俺は人付き合いは煩わしいと言いながら困っている人や悩んでいる人などを自然と助けてしまう性格で、結果としてそれが更に煩わしい人付き合いを生むことになっていた。
事実この街でも偶然の産物や結果的にそうなった、という事はあるがこの街での人脈が異常なほど育ってしまっていると思っていた。
過去の経験からそろそろ一時離脱しないと、再び問題に巻き込まれて更に人との付き合いに煩わしさを感じてしまう可能性がある。
これは究極の自己矛盾だとは思ってはいるが、ここら辺で線引をするがちょうどいい頃合いなのかもしれない。
「わかりました。状況が整理し終えたらその指名依頼、お受け致します。」
「助かります。これで安心して家に帰れそうです。では私たちはこれで失礼致します。じゃあ、またねポチちゃん。」
『またなのー。』
そう言い彼女たちは去っていく。
冒険者ギルドの処理がなるべく早いこと終わるようこれから行ってみるか。




