【第30話】コカトリス討伐戦
腰を抜かしているカイエンに手を差し伸べ、俺は感想を求めた。
「これでもう少しを埋められそうですかね?」
「十二分だ。」
「では、準備をお願いします。これからだと遅いので明日の朝、こちらに出直しで良いですかね?」
「ああ、それで良い。錬金術師ギルドにも薬の手配を頼む。個数は?」
「最低1個あれば十分です。後はこの前の依頼の余りがありますので大丈夫だと思います。」
「わかった。では明日の朝。」
そう言って俺達は別れる。
俺の方で準備は基本的にはないが飲食物だけ補充はしておこうと思った。
時刻は丁度夕飯時になっていて、穴熊亭も昼と変わらず賑わっている。
更に夜は酒が入ることから賑やかさで言えば昼以上だ。
「お?ススム君!おかえりー!」
「アリスさん。今戻りました。」
「さっきのあれ、休憩中に見たけどあのアイデアは素晴らしいねえ!!」
「ん?ああ、穴熊亭2号店の話ですね。」
「そうそう!色々と補足で聞きたいことがあるから時間ある時にパックと一緒に相談させておくれ。」
「良いですよ。その代わりちょっと明日から大仕事が入ったのでそうだな、余裕を持って3日分の食料をまた弁当みたいにしてもらっていいですか?」
「ん?種類は何でも良いの?」
「ええ、有りものでいいですよ。それと今日の夕飯もいただければ。」
「おっけー。昼は日替わりだったよね。じゃあ別の持ってくるわ。」
しばらくしてアリスがステーキサンドもどきを持ってきてくれたので俺はそれを持ち2階の自室へ行く。
『御主人!早く!早く!』
「ポチ!待て!」
『なんで!?』
「俺が合図するまで食べちゃ駄目。」
『御主人が意地悪するー!!』
「意地悪じゃない。待てが出来たらおやつも追加する。」
『我慢するの!!』
「・・・。いいぞ。」
『うま!うま!』
「良く我慢できたな。これはおやつだ。」
そう言って頭を撫でてやる。
「それにしてもコカトリスか。」
コカトリスはとにかく遠距離で仕留めるのが大鉄則だ。
それは高い攻撃力だけではなく、コカトリスが持つ非常に強力な状態異常があるからだ。
それは「毒」と「石化」。
ゲームによって描かれ方は様々だがとにかく近距離・中距離相手では特に「石化」の状態異常は厄介だ。
恐らく今回の討伐難易度が跳ね上がっていることや、軍すら介入したがらない理由はここにありそうだ。
なんせ石化を解除するという『灰石還しの秘薬』がとんでもなく高値で取引されているからだ。
市場に出回ることが少ないのだと思われる。
だが今は俺が丁度採取してきた『朝霧のセージ』に余裕があるはずなため、錬金術ギルドから調達できると踏んでいた。
使わなければ返却すればいいだけのこと。
まあ、そもそもおれはアウトリーチから攻めるつもりなのでその一撃は喰らわないつもりだが念には念を入れておきたい。
なにせLUKが異常に下がっている。
何が起きるか予測できないからだ。
俺は一応、『ビルド』を何度も見直したが、現状ではやはりこれが最適解だと思われた。
「あ、そうだ。ポチお前危ないからしばらくお留守番な?」
俺がそんな事を言うとポチが飛びかかってくる。
『絶対にいやだ!ポチはいつも御主人と一緒なんだ!!』
「でもなあ・・・」
『いや!』
ポチは今にも泣きそうな声で言ってるのがわかる。
余程盗賊たちに捕縛された時の環境が良くなかったのだと分かる。
「・・・。わかったよ。じゃあ一緒に行こう。フードの中に居て捕まってろよ。」
『わかった!!』
そういうとポチは俺の顔をベロベロ舐めてくる。
「辞めなさい。お前、顔すごい汚れてるじゃねえか!」
お陰で俺の顔は油で汚れる。
「全くこいつは。」
『うへへー。』
「うへへーじゃない。このいたずらっ子め。」
俺は洗面を終え明日に備え早々に寝ることにする。
翌朝支度をして一階に降りるといつものように忙しなく準備をしたり軽食を食べたりしている。
「おはようございます。」
「おう、ススムおはよう。これ頼まれてた弁当だ。」
「ありがとうパックさん。
「良いってことよ。それにしてもあのアイデアは良いな。一箇所に集中して混乱が大きるなら同じ店を開けば良いか。」
「あはは。お気に召したようで何より。ただあれをするには当然人員の育成は勿論だけど土地や建物の準備なんかもあるだろうから長期計画にはなるだろうね。」
「まあ、そうだな。そう言えば今日からまた出るんだって?」
「ああ、何日間になるかはわからない。僕としては今日中にでも帰ってきたいけどね。」
「そうか。気をつけていくんだぞ。アリス!」
そう言ってパックはアリスを呼ぶ。
「ん?ああ、ススム君か!おはよう!」
「おはようございます。これから行ってきますね。」
「気をつけて行ってくるんだぞー!ポチもねー!」
『あははは。くすぐったいのー!』
二人に別れを告げ店を後にし、早々に冒険者ギルドに来る。
気のせいかいつもより殺気立っているような気がしていた。
そんな中、錬金術ギルドマスターのマリリがセリーヌと話をしているのを見て声を掛ける。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。ススムさん。」
「おはよう、ススム君!何々?また無茶なことするって?」
「あはは。まあ・・・。それでマリリさんがここに居るってことは薬を持ってきてくれたってことで?」
「うむー。持ってきたぞ。」
そう言ってマリリは1本のポーションを差し出す。
「これが『灰石還しの秘薬』ですか。」
「そ!高いから使わなかったら返してもらえれば冒険者ギルド的に助かると思うよ?」
「冒険者ギルド的に?」
「そうだな。使わなければ当然その分経費が浮くからな。」
そう言って二階からカイエンが降りてきた。
「よう。準備は万全か?」
「ええ、こちらは薬が貰えたので問題ないです。後なるべく使わないで返す予定なので。」
「うはは。楽しみに結果報告待ってるぞー。では私は忙しいのでこれで!」
そう言いマリリは早々に帰っていく。
「わざわざマリリさんが届けるとは。」
「それだけ高価なんだよ。気をつけてくれよ。」
「わかりました。品質も維持するためにこっちの収納鞄に入れておくか。」
俺は『灰石還しの秘薬』を時を止める収納鞄に入れる。
「それで今日のプランは?」
「それは・・・」
カイエンがそう言いかけた時だった。
「それは私から説明しよう。」
そう言いながら冒険者ギルドに入ってきたのはヴォルフガング前伯爵だった。
「ヴォルフガング様?なんでここに。」
「お主を送り届けるためだ。」
「話を伺っても?」
「こっちだ。」
そう言いカイエンがいつもの二階の応接間に通す。
「話は聞いたぞ。ススムよ。本来ならば冒険者ギルドまたは国軍が討伐せねばいかん事態だが如何せん獲物が獲物だけに頭を悩ませていた。そんな時にカイエンから相談を受けた。お前が単騎で出撃するのでフォローして欲しいと。」
「そういうことだ。本来であれば冒険者ギルドはどの国どの機関に対しても中立だが自体が自体であって一刻を争う。よって冒険者ギルドマスターの権限により軍に要請し、移送とお前が仕留め損なった時のフォローを軍と冒険者ギルドで行うことにした。」
「ああ、それでやたらと一階は殺気立っていたんですね。」
「本来軍と冒険者ギルドは肩を並べて戦うことなんぞ、滅多にないからな。それに加えお前の単騎での出撃だ。仮に仕損じればお前は冒険者ギルドの居場所はなくなると思え。」
「あはは・・・。そうならないよう努力します。恐らくですが戦闘行う場所は広範囲に被害が出る可能性がありますので呉れ呉れも近づかないよう気をつけてくださいね。」
「それは百も承知だ。ススムを移送後軍及び冒険者ギルドは安全地帯まで撤退する。その後信号弾を上げるのでそれを持って戦闘を開始されたい。」
「わかりました。そこまでお膳立てして頂けるなら助かります。」
「では行こうか。軍の馬車で送る。」
「はい。」
「さあ、こちらです。」
そう言い兵が俺を馬車に誘導してくれる。
「ありがとうございます。」
そうして俺は馬車で一定の距離まで移動することになる。
今回ヴォルフガング前伯爵が出張ってきたのは恐らく俺の力を見定めるためだろう。
今回軍と冒険者ギルドの共同戦線すらも難儀していたこの戦いを仮に単騎で終えることが出来たら?
国としては喉から手が出るほど欲しい人材となるはずだ。
それをヴォルフガング前伯爵は見定めようとしている。
だからこそこれは好機だ。
それを逆手に取る。
「国が喉から手が出るほど欲しい人材」から「国として決して手を出してはいけない存在」に認識を改めさせる。
しばらく馬車内で揺れているととある所で停車する。
「到着しました。ここからは冒険者ギルドの斥候パーティが案内します。」
俺は下車するとそこには見慣れたパーティが居た。
はぐれオークの時に居合わせた四角銅級のネビル達一行だった。
「あ、ご無沙汰してます。斥候のパーティというのは?」
「ああ・・・。俺達だ。」
「よろしくお願いしますね。」
どうやら未だにあの一件で俺に対し疑念があるらしい。
まあ箝口令の対象になっちゃったくらいだししょうがないよね。
「一定の距離までは同行するが本当に単騎で挑むのか?」
「ええ。」
「ちっ。ギルマスからの指示だ。文句は言わねえ。」
「まあ、僕が死んだら僕の死体にでも文句言ってやって下さい。死ぬつもりはないですが。」
「そうさせてもらおう。着いたぞ。ここが俺達が送れる最短の地点だ。」
「ありがとうございました。」
「健闘を祈る。」
そう言いネビル達一行は一気に下がっていく。
なんやかんや言いつつ健闘を祈ってくれる当たり良い奴らなんだろう。
「ポチ」
『うん?』
「わかってるな?」
『隠れて捕まってるのー。』
「いい子だ。」
俺はひたすら集中し、合図が来る迄待機する。
それほど時間が経たないうちに信号弾が上がるのを確認する。
「よし、いくぞ。」
俺は最大限注意を払いながら『気配察知(LV2)』と『地図』を確認する。
敵が一体。
動きはない。
『気配遮断(LV2)』もあるがそれでも慎重に移動する。
最初はまず「バランス型」ビルドで様子を伺う。
そのため事前に詠唱だけは済ませておく。
一定の距離まで近づくと遠目で目視できる距離まで来ることが出来た。
相変わらず動きはない。
俺は深呼吸をして一気に仕掛けることにした。
ファイアボールを空中に向け発射し、なるべく勘付かれたとしても誘導で捕らえらやすい軌道にする。
だが、やはり上位の存在。
大岩蛇とは明らかに存在のレベルが違う。
大岩蛇はかなりギリギリで避けていたと思ったがコカトリスに至ってはかなり前から気が付き回避行動を取り始める。
一気に迫ってくるが俺はファイアボールを放つと同時に既に移動を開始している。
ファイアボールの詠唱が完成したことで当然火属性の狼も大きく左右から展開させている。
俺は狼に気を取られる位に着弾するよう、既に二発目のファイアボールを放っている。
コカトリスの左右から波状攻撃的に狼が襲いかかる。
完全にコカトリスはペースを乱されたその時、俺が放ったファイアボールが真上から直撃する。
このファイアボールは視覚に入りづらくするためにほぼ垂直に打ち上げ、一定の距離で落ちてくる垂直落下式にしたのが上手くハマる。
真上からからの攻撃は想定していなかったようで直撃後小爆発し、更に最終変化により進化しているファイアボールは花びらが開くように小さなファイアボールが5つ発生し今回は目標がコカトリス一体だったため追撃となり更に炎上を始める。
俺は更に移動し一定の距離を保ち続け、3発目のファイアボールを放つ。
現在のMP消費量は実質2だが、これは新たに習得している『MP回復量上昇(LV1)』で相殺されている。
つまり一定の距離を保ち続ければ撃ち続けることが可能になっている。
炎上しているコカトリスに対し狼の攻撃に加え3発目のファイアボールが直撃するかと思われたときである。
コカトリスが放った途轍もない威力の蹴りにより、ほぼ物理攻撃が効かないはずの狼二頭が同時に消し飛ぶ。
炎上しながらもどこか冷静さを感じ、3発目のファイアボールも回避される。
予想外の展開に俺は若干焦りはしたがここまでは正直読んでいた。
炎上しながら俺に向かい一直線に突進してくるコカトリスの速度がとんでもなく早い。
俺はその突進を受けるその直前にビルドを防御型に変更し魔法を発動する。
『土の防壁』
無詠唱で発動され展開する最大限まで強化した土の防壁が突進してきたコカトリスの攻撃を受け止め、弾く。
流石に目の前に迫ったコカトリスのでかさと速さに腰が抜けそうになったが、なんとか持ちこたえる。
土の防壁に突進が弾かれたコカトリスは土の防壁の追加効果が発動し、岩の壁によって四方八方を防がれ全く行動不能になる。
更にその岩の内部は棘だらけであり、抜け出そうと暴れれば暴れるだけ自身を傷つける結果となり結果、地面にコカトリスの血が染み出し始めていた。
俺はそれを確認し、再度距離を取るべく全力で走る。
決して早くはないがそれでも全力で走り続ける。
コカトリスは相変わらず暴れているようだが、追加効果で発生している岩の壁はびくともしない。
一定の距離まで離脱した俺は息を整えこの戦いを確実に終えることにする。
「ふー・・・。ここまでにしようか。俺の新しいビルドに、そして抑止力としての力を示すための目標となってくれたことに感謝しているよ、コカトリス。『召喚型』。」
ビルドが防御型から召喚型に切り替わったことにより、コカトリスを拘束していた岩の壁は消失するが、既にコカトリスは炎上と出血でかなり疲弊しているがこちらの異変に気が付く。
『水精霊召喚』
無詠唱で発動されるその魔法により、水の滴る音が所々から聞こえ始めたかと思うと一気に気温が下がり、バリバリバリ!と空気が凍りだし、そして現れる氷の上位精霊。
その数、十体。
そしてそれを守護するかのように水属性の狼が四頭顕現する。
コカトリスはそれらの氷の軍団を見て流石に状況が悪いと感じたのか一気に退却の姿勢を見せるがそれはもう遅い。
動き出したコカトリスを敵対目標として定めた氷の上位精霊のまるで氷のビームの様な一斉射撃が計十本射出される。
召喚された狼四頭は一歩たりとも動かない。
恐らくそれはもう終わると確信していたからだろう。
一瞬の内に超高威力の冷凍ビームを計10回も受けたコカトリスは、氷の塊となり崩れ落ちてその生命を終えた。
響き渡る狼の遠吠え。
これで俺のコカトリス討伐戦は終りを迎えた。




