【第3話】街に行こう!
「さて、街道に出たのは良いものの街はどこだ?」
ゴブリンを倒した先にあった道が意外と近くに大きな街道へと繋がっていたため、とりあえず森からの脱出はすることが出来たが、此処から先がわからない。
「まあ、でも右に行こうが左に行こうがどこかには続くだろう。」といつもの頭の即時切り替えで対応することにした。
天気は良く晴れ空気も地球の町中とは違い明らかに澄んでいる。
「空気がうまい!本当に異世界に来たんだなあ。正直、前世に固執したところで家族も無ければ仕事もろくなもんじゃなかった。だったらこっちの世界でやりたいことをやれれば最高じゃないか。」
そんな事を思いながら適当に道を進む。
しばらく進むと少し離れたところから人の声が聞こえる。
「どうすんだよ!?こんな所で馬車の車輪が外れるとは思ってもいなかったぞ!修理はできないのか?」
異世界のはずなのに日本語が聞こえたような気がした。
どうやらこれは、あの女神が最初に言っていた「最低限の読み書き」に相当するものだと思われた。
近くに行くと馬車の後方の車輪が外れた状態で止まっていた。
どうせなら道でも聞けないかと思い、話しかけてみることにした。
「あのー、お困りですか?何か手伝えることがあればお話だけでも聞きますが?」
恐る恐る話しかけてみると「あん!?」と強面の男性に睨まれてしまったが、その男に罵声を微せられていた人物は困ったような顔をしている。
「ああ、旅のお方。実は見ての通り馬車の車輪が外れてしまって・・・。軸は傷んでいないようで外れただけのようなので持ち上げることさえ出来れば修理することは出来ると思うのですが・・・。」
なるほど、単純に車輪が外れただけなのか。ろくに点検もせずに出発したんだろうと考えた。
こういう時元日本人だからなんだろうか、人と関わりたくないと言いつつもなにか出来ることはないかと考えてしまう。
「ん?この馬車ってそんなに重いんですか?」
俺は木造作りの馬車を見てそんなに重くないのではないかと思った。
なんせ、こちとら車社会だったのだ。同じくらいの大きさだとはいえ、木造であればそんなに重くはないはずだ。
「お前、見てわからないのか?馬車だぞ?重いに決まってるだろう!」
そう言ってきたのは強面の男だった。
「はぁ。」そう言いながら、俺はぐるりと馬車を一周しながら様子を見る。
「これならなんとかなるかもしれないですよ?」
俺がそんな事を言うもんだからその場にいた数名が「はぁ?」「出来るわけねえだろう」等など口々にしている。
俺がそう思ったのも、どうやら車輪が外れた原因は近くにあった少し大きめの石以上岩未満位のものを避けようとして、バランスを崩しその拍子で後輪が耐えきれず外れたように見えた。
ならその大きめの石を使えばいいじゃないかと考えた。
近くは森があるため太い木も転がっているだろう。
「皆さんが力を合わせれば持ち上げるだけでいいならば比較的難しくないと思いますよ?」
そう言うと藁にも縋る思いでその責められていた御者と思わしき人物が助けを懇願してくる。
「な!それなら!お願い致します!どうか持ち上げるだけでも助かりますのでお力をお貸しください!可能な限りのお礼はいたしますので!」
内心、この言葉を待ってましたと言わんばかりに快く承諾し、乗客だった人物らしき数人の人たちにも協力を要請する。
馬車の御者には汚れても良い布があればそれを用意してもらい、強面の男含む3人の男に一緒に森付近で丈夫で比較的長い木を一緒に運んでもらう。
「これで揃いましたね。ではこの木の先端に布を巻き付けますね。」
そう言いながらぐるっと木に布を巻き付ける。
そして大きな岩付近までゴロゴロと木を転がしていき布を巻き付けた木の先端の位置を馬車中央付近で下に潜り込むように差し込む。
後は石を支点にしてやれば・・・。
ぐい!
俺が力点側の方に力を入れると馬車はいとも簡単に持ち上がる。要はテコの原理だった。
「馬車本体はこれで持ち上がったので後は支えてもらっていいですか?その間に車輪をはめ込んでください。」
俺一人の力で馬車をいとも容易く浮かせたその光景にその場にいた者たちは唖然としている。
「そんな顔してないで、早く作業しましょう!」
そう声をかけると我に返ったかのようにあるものは浮かせた馬車を支え、あるものは車輪を押し込むなどの作業を淡々と行い、さほど時間も掛からない内に修繕は完了する。
「ほ、本当に助かりました!とてもお力の強い方なんですね!?」
テコの原理を知らなければ当然そういった感想になるだろうが、あえてこのことは言わないでおいた。
情報は時として武器にも防具にもなるからだ。
「いやあ、まあ・・・。それはそうとお礼の件なのですが・・・。」と若干言い難かったがお礼の件を話題に出してみる。
「え?ああ!勿論ですよ!!何が良いでしょうか!?あいにくこの馬車に荷物があまりないので大したものは差し上げることは出来ませんが・・・。」
そう言いながら御者の男も言ったは良いものの実はあまり期待していた無かったのかそんな事を言いだした。
だが自分としてはそれは問題なかった。
「可能なら近くの村か街へ乗せていってもらえませんか?報酬はそれで十分なんですが可能ですか?もし定員超えならそこへ行くための情報だけでも貰えると助かるのですが。」
そう、自分の目的は村か街への移動するための足が欲しかったのだ。
もし定員オーバーだったら情報だけでも良かった。
御者の男は俺からの提案に目をパチパチさせ、「そんなんでよろしいので?丁度1人分の空きはありますし、この馬車は都市ミストヴェイルへの乗合馬車でしたのでそこへ行きますが・・・。」
「やった!じゃあ乗せていってもらえませんか?申し訳ないですが手持ちがないのでお支払いすることが出来ないんですが?」
素直に手持ち金、そもそもこの世界の金を知らないので、申し訳なさそうに伝える。
「勿論です!!さあ、こちらへ!」
そう言いながら御者は馬車へと入れてくれる。
「ありがとうございます!助かりました!」
馬車に入り、「ふぅ、良かった」と安堵していると先程御者に怒鳴っていた強面の男が話しかけてきた。
「あんちゃんすげえな!こんな細い身体のどこにあんな力があるってんだ!?」
そう言われながら背中をバシバシ叩かれた。
「いやあ、ははは。」と笑って誤魔化したが背中が痛い。
「俺は都市ミストヴェイルで鍛冶師をやってるものでガルドンという!出張依頼で他の村へ行ってて、帰りにこの馬車に乗ったんだが、参ってたところだ。いやあ助かったぜ!」
鍛冶師!?
もしかしたら鍛冶師なら俺が知りたいことを何か知ってるかもしれないと思い話をしてみる。
「実は自分はここから遥か遠くの地にある村で暮らしていたんですが、魔物たちに襲われ村が離散してしまいまして。それで宛もなく旅に出ることにしたんですが、村から出たことがない私は知識も常識も疎いもので・・・。」
そういう設定にしておいた。
それを聞いた鍛冶師ガルドンは目に涙を浮かべ「大変だったんだな!」と慰めてくれた。
すまない、ガルドン。
「申し遅れました、俺はススムと言います。よろしくお願いしますね。」
苗字は伏せておいた。
場合によって苗字=家名を持つものは貴族階級だけに限られる特権の場合もあったので下手に言ってしまうと今の崩壊した遠い村設定が破綻してしまうからだ。
「ああ、よろしく頼む!事情が事情だ、ミストヴェイルについたら多少案内してやろう。」
「助かります!」
そういうことで俺はこの世界で初めての住民たちと出会い、そして初めての街ミストヴェイルへと行くことになった。




