【第29話】もう少し
俺は出来上がったビルドを実験したかったがここでふと考えてしまう。
前回の冒険者ギルドで放ったファイアボールですらあのリアクションだったのだ。
今回完成したビルドを全て見せてしまったらそれこそ混乱の極みになるのではないかと。
かと言ってあの婆の言う『友人』の存在は非常に気になる。
自身のレベルはまだたったの13であり装備品もぐちゃぐちゃだ。
だが今後新たな装備を更新し、通常のステータスバフだけならまだしも『スキル』を強化するような物や【呪われた】物を装備すれば更に強化は十二分に望める。
下手に目立つと取り込まれる可能性がある。
ならやはり後ろ盾や抑止力はどうしても必要だろう。
「抑止力・・・。そうか。今冒険者ギルドで血眼になって探している未確認の大型魔獣を狩ることが出来ればそれを持ってして抑止力になるんじゃ?」
そう考えた俺は今後の流れを考えた。
やはり『友人』の存在は大きい。
なので婆との約束は守る。
だが全ては見せない。
見せるのはバランス型だけに留める。
そして自身の名声と実力を示すために大型魔獣の討伐を行う。
それを持って当初予定されていた銀級冒険者への昇格を確かなものにしよう。
「よし、そうと決まれば早速動くか。」
時刻はまだ夕方には早いくらいの時間だ。
カイエンに直談判にしに行くことにした。
「ポチ、おいで。出かけるよ。」
『眠いのー。』
「じゃあフードの中で寝てて良いから。」
『んー。』
俺はポチをフードの中に入れて冒険者ギルドに向かう。
俺は冒険者ギルドに行きカイエンが居るかどうかを確認するも一階には不在だった。
上にいるのか?
だが冒険者がギルドマスターに直談判は相当な階級を持っていなければ無理だろう。
よってまずはセリーヌに話を通すことにした。
「セリーヌさん、重要なお話が。」
「嫌です。と言いたいところでしたがその様子、どうやら深刻な内容そうですね。カイエンですか?」
嫌ですとか即答する当たりセリーヌらしさが出ている。
だが今は嫌味を言ってる暇も惜しい。
「はい。カイエンさん、ギルドマスターと話をしたいのですが。」
「はあ、わかりました。どうぞこちらに。」
「ありがとうございます。」
俺はセリーヌに案内され二階の応接室に通される。
暫くするとカイエンが入ってくる。
「おう、ススム。悪いな対応してやれなくて。」
「珍しいですね?貴方が謝るだなんて。」
俺は素直にカイエンが謝罪の言葉から始まったことに驚いていた。
「いや、本来だったら商業、錬金のかなり無茶な依頼を受領し、しかも完璧な状態で仕上げてきたんだ。ギルマスの俺が対応すべきだったが事態が事態だったのでな。」
「実はその件で相談があり来ました。」
「・・・やはりそう来たか。」
どうやら俺が来た理由を薄々感づいていたようだ。
流石に一癖も二癖もあるギルドをまとめるだけの力量を持つ人物だ。
「話が早くて助かります。まず現状を教えてもらっても?」
「本来なら銅級のお前は対象外だが、既に実質四角銀級並の実力を持っているお前だからこそ教える。そこは勘違いしないように。」
「ええ。それを理解した上で聞いています。」
「まず未確認の大型魔獣だが現場を確認し、各偵察部隊が確認した結果ある魔獣であると確認された。」
「その魔獣は?」
「コカトリスだ。」
「コカトリスって言うとものすごいでかい鶏で尻尾が蛇になっているあれですか?」
俺がゲームでの知識を元にコカトリスを思い出して口にするとカイエンが口を開けて驚いていた。
「なんでお前がそれを知っている!?」
「あ、いえ。以前資料室で見たような気がしたなーと・・・。(大嘘)」
あ、明らかに信じてねえ目で見てきやがる。
「それよりも、そのコカトリスはどうしたんですか?討伐できたんですか?」
「いや、コカトリスの討伐はとてつもなく難しい。四角銀級の複数パーティか金級の実力が欲しい所だ。現在それもあって軍と相談してるがなんせ対象が対象だ。非常に揉めてて現在は監視に留まっている。」
なるほど。
コカトリスの討伐難易度はそんなに高いのか。
だが何故そんな高難易度の魔獣がいきなり現れたんだ?
まあ、これも考えても今はわからないことだ。
本題に入ろう。
「カイエンさん。相談があります。」
「だめだ。」
えええーーーー!!俺まだ何も言ってないんだが!?
「いや、まだ何も言ってないじゃないですか。」
「俺に任せろとか馬鹿なこと言うんだろう?だめに決まってるだろう。」
完全に読まれてる・・・。
「いや、まあそうなんですが。前も言った通り僕は勝てない戦には手は出しませんので。」
「じゃあ何か?勝てるとでも?」
「そのつもりです。ただし条件があります。」
「聞くだけ聞いてやるがそれで許可を出すとは限らないとだけ言っておく。」
「助かります。一つ目、僕は今回の旅を通し更に戦闘力が増しました。それを演習場で確認して下さい。」
「この短期間で更に戦闘力が増したのか!?」
「はい。二つ目、今後僕はより強くなるためにある人物の協力が必要になります。その人物と約束を果たすために演習場での立会に参加させて下さい。」
「その人物は?」
「『常闇の装具屋』店主のヴェルミナです。」
「『常闇の装具屋』だと!!お前あそこがどんな場所か・・・」
「知っています。知っているからこそ今の自分があります。」
「ちっ!」
「三つ目、これは可能だったらでいいのですが錬金術ギルドより『灰石還しの秘薬』を調達したいです。」
「・・・。」
「四つ目、これが最後にして最大の重要点です。討伐は僕一人で行います。」
「馬鹿言うんじゃねえ!!」
俺が四つ目を言うと流石にカイエンがブチギレた。
「自惚れるのも大概にしろ!!」
まあ、普通の判断力をもつギルドマスターならこうなるだろう。
「自惚れてはいません。それに以前ご自身が仰ったことをお忘れですか?」
「何?」
「僕の力は貴方達の定規では決して図れない。そう言ったじゃないですか。」
「・・・。一つ目と三つ目については問題ない。二つ目と四つ目については待て。考える。」
「わかりました。当然僕はギルドマスターとしての貴方の意見を尊重し従います。ですがこうして待っている間にも時間と労力だけが無駄に流れているというのもお忘れなきよう。」
俺は言うだけ言って椅子に腰掛けてすっかり起きてフード内でワチャワチャ暴れていたポチを膝に乗せ撫で回す。
『くすぐったいのー。あはは。』
その間にカイエンは一人で悩み行ったり来たりしている。
そしてふと思い立ったように俺を見る。
「本当に任せて大丈夫なんだな?」
「ええ。」
「わかった。全て認めよう。」
「ありがとうございます。ヴェルミナを連れてきます。」
俺はそう言い部屋を出て『常闇の装具屋』に向かいヴェルミナを呼んだ。
「ヴェルミナさん、こちらの準備は大丈夫のようですよ。」
「そうかい!フェーッフェッフェッフェ。楽しみだ。」
ヴェルミナを連れて冒険者ギルドに行くとセリーヌが向かえてくれる。
「お待ちしておりました。ヴェルミナさん。ギルマスは既に演習場でお待ちです。」
「その様だ。さあ、向かうとするか。」
ヴェルミナを連れ演習場に入る。
当然そこは立入禁止となっており中にいるのは俺、ポチ、カイエン、セリーヌ、そしてヴェルミナだけだった。
カイエンがヴェルミナを見るなり一枚の巻物を出す。
「それは?」
「今回は完全部外者が立ち会う。契約魔術によって縛る。」
「契約魔術って商業ギルドの『縛り』みたいなものですか?」
「それよりももっと直接的で強力さね。執行者はこの国の王。そして破ったものは即時命を失うことになる。だろう?」
「ああそうだ。商人のあんたならこれもわかっててススムに提案したんだろう?」
「勿論さね。さあ、さっさと契約しちまおう。」
そう言うとその巻物をカイエンとヴェルミナがお互い慎重に読みながらサインと血判をする。
するとその巻物は一気に燃え一切の断片も残さず消え去った。
「さあ、準備完了だ。見させてもらおうか。その【呪われた装備】の力を。」
ヴェルミナがニタァっと笑う。
「いつでも良いぞ、やれ。ススム。」
「はい。」
俺はバランス型に切り替えそして詠唱をする。
『紅蓮の理よ、我が掌に!――ファイアボール!』
俺はいつものように空中に向けてファイアボールを放つ。
詠唱はさらに短くなり半分の詠唱で完了する。
空中に向けはなったファイアボールは以前よりも更に大きさを増している。
目標に向け急速に方向を曲げたファイアボールは着弾すると同時に小爆発し更にそこから5つの小さなファイアボールが出現する。
今回は標的が一つであったため花が咲くように分裂した5つの小さなファイアボールは再度その標的に向かい着弾、小爆発をし炎上している。
更に自身の足元には2頭の大型の火属性の狼が顕現し、自身の周りには炎の防壁が発生していた。
余りの威力、余りの光景に皆絶句していた。
「こ、これがススムの新しい力・・・。」
「なんという威力・・・。」
「フェーッフェッフェッフェ!!素晴らしい、素晴らしいぞススム!」
俺はヴェルミナとの約束を達成し先程のことを確認した。
「さあ、ヴェルミナさん。僕の約束は果たしましたよね?今度お願いしますね。」
「ああ、よかろう。こちらから連絡する。連絡先は穴熊亭でいいのか?」
「・・・知っているようで何より。」
「フェーッフェッフェッフェ。ではな。」
そう言い残しヴェルミナを見送りセリーヌも出ていく。
俺とカイエンだけがこの演習場に残り先程の話の続きをした。
「しかし本当に驚いた。まさかたった一ヶ月足らずでここまで洗練されているとは思いもよらなかった。これならば・・・。いやだが相手は金級ですら難しいかもしれないと言われるコカトリスだ。もう少し・・・。」
「もう少し何かが欲しいですか?」
「あ、ああ・・・。」
「それなら好都合です。そのもう少しを見ていってください。」
「なっ!?」
「ここらは先はカイエンさん。貴方しか知らない領域だ。どうするかは貴方に委ねる。」
カイエンはゴクリと喉を鳴らす。
「いいだろう。」
俺はその言葉を合図に俺の切り札を放つことにした。
「召喚型」
俺はそう短く言うと一気にスキルと装備が切り替わり「召喚型ビルド」に切り替わる。
「な、何を?」
「驚きすぎて舌噛まないようにしてくださいね。」
『水精霊召喚!!』
俺が詠唱無しで呪文名だけ叫ぶとそれは顕現する。
ぽちゃん・・・。ぽちゃん・・・。
水が滴り落ちるような音がしたかと思うと急にバリバリバリ!とそれは凍りだしそして召喚されたのは10体にも及ぶ氷の上位精霊。
そして呪文の詠唱が成功したことにより水属性を纏った大型の狼がなんと4頭顕現する。
これには俺も驚いたがすぐに納得がいった。
ああ、ワンドの効果2倍が狼の頭数にも影響したのかと。
そうして俺は一人で氷の上位精霊10体と水属性の大型狼を4体従えることになる。
これは流石にインパクトが有りすぎたようで、カイエンがどすんと腰を抜かし地面に座り込んでいた。
「お、お前は一体・・・。」
「これで『もう少し』に届きましたかね?」
俺はそんな皮肉を言ってみせたが、内心俺自体が余りの光景に一番驚いていたのは内緒の話だ。




