【第27回】呪われた三面鏡
「存在してるかどうかがわからない御品ですか?一応お話をお聞きしても?」
ジーニスが話に食いついてきたので俺は先程手に入れた指輪の真の能力を発揮する『アイテム』に付いて話をする。
「そうですね。なかなか口に出して説明をするのが難しいのですが、敢えて言えば『今現在の自身の状態を記憶できる』魔道具ですかね。」
「『今現在の自身の状態を記憶できる』魔道具ですか?それはどういった時に使用するものでしょうか?」
「例えばですが仮に二人の自分がいると思って下さい。そして一人の自分は冒険者として成長し、もう一人の自分は商人として成長したとします。」
「ふむ?」
「その【アイテム】はその冒険者であった自分と商人であった自分の二人分の自分を保存できる、そんな【アイテム】なんですがこれに似たようなものは有りませんか?」
普段冷静な態度で接しているジーニスですら非常に混乱している様子が見て取れた。
「仮にそれが存在していたとして何の役に立つのでしょうか?例えばですが冒険者としての自分と商人としての自分を両立させれば良いだけでは?」
ジーニスが言うことは最もな意見だ。
単純な話そんな複雑なことを考えなくても、最初冒険者として活動し、限界が来たと思った時に商人に転職する。
それだけの話しだ。
だが俺が求めているのはそうではない。
『1から状態をやり直す』つまりは『スキルポイントのリセット』と『新たに取り直したスキルの保存』が目的だった。
『スキルポイントのリセット』は既に【スキルボード】を確認した時に可能なことが判明している。
ただこれはその都度成長度合いによって支払うべき対価も大きくなる。
それにリセットしたスキルポイントはその都度振り直す必要がある。
今回俺が求めているものはそれを簡略化したものだ。
だがここまで噛み砕いて説明しても存在しないということは一般流通品では存在していないと見るべきだろう。
となると後は【呪われたアイテム】しか可能性はない。
怪しまれる前に俺は早々にこの話を切り上げることにした。
「申し訳ないです。困らせるつもりはなかったんですが、仮にそういったアイテムがあったら良いなと思ってたくらいですので。」
「はあ。まあ、色々な需要はありますからね。」
俺はこの時、今回の指輪のようなものでも【呪われた】物が出来ることがあるのか聞こうと思ったがそれは辞めておいた。
一応、ジーニスは俺が【呪われた装備】の所持者ということは知られてはいるが、あらぬ疑いでも書けられても困るからだ。
こういう時は餅は餅屋、つまり癪だがあの婆の所にいくのが懸命だと判断した。
「本当にお時間頂いて感謝しています。また何かあったら相談させて下さい。」
「ええ、また是非お越しください。」
そうして俺は彫金ギルドを後にし【呪われた装備品】専門店、『常闇の装具屋』に向かうことにした。
暫く歩くと本当に一気に人通りが少なくなり、裏通りというのが当てはまるような暗さになる。
そして俺の目的地である『常闇の装具屋』はそんな場所に位置している。
ギイィ
「相変わらず昼間でも暗い店だな。ヴェルミナさん、こんにちは。いませんか?」
「おやおや、誰かと思えば『英雄』のススムじゃないか?」
そう言いながら奥からヴェルミナが現れる。
「僕が『英雄』?」
「ああ、そうさ。商業ギルドに大量の薬草類を預け定期的なポーション類を供給する目処を立たせた上、今回は伯爵家のご令嬢まで盗賊たちから救い出し、朝露のセージすらも大量に収穫してきたんだろう?」
「なっ!?」
「何故それをって?婆は伊達に年食っちゃいないんでね。」
この婆!観察力が鋭いだけかと思ったら情報力までずば抜けてやがる!
特に指名依頼の内容なんて一部の人間しか知らないはずなのに何で知ってるんだ?
「フェーッフェッフェッフェ!うん?おやおやまたそいつは珍しいのを連れてるじゃないか?」
「珍しい?こいつのことか?」
「何だお前さん、そんな事も知らないのか?」
「知ってることがあるなら教えて欲しい。」
「等価交換だ。情報に見合う何かを差し出すんだな。ちなみに金はいらない。」
商人のくせに金を受け取らない等価交換と来たか。
「それなら今回僕が探している品物を見つけられたら、それについての情報を。」
「それは良いねえ・・・。乗った。で?今回は何を探してるんだ?」
「話した所でヴェルミナさんに詳細がわかるとは思えない。だが一つ聞きたい。普通の道具や魔道具でも【呪われた物】が生まれることはあるのか?」
「なるほど。今回は装備品では無く道具類を探してるのか。」
「ああ。その通りだ。」
「答えは『ある』。だが史上に流通することはほぼ無い。」
「『ほぼ』ということは持ってるんだな?見せて欲しい。」
「・・・。ふん。可愛げのないやつだ。こっちだ。」
そう言い、ヴェルミナは奥へと案内してくれる。
手前だけかと思ったら実は奥にも商品が並べられていた。
どうやら手前は戦闘用の装備品、奥は史上に流通しないはずの道具の様だった。
「また少し見させてもらうよ?」
「好きにしな。それとさっきの約束は忘れるんじゃないよ?」
「見つかればね。」
俺は【呪われた道具】達をじっくりと見始める。
本当にこれだけの品、流通しないはずなのに良く集めたもんだ。
恐らくだが俺は該当の品物は鏡が関係している気がしていた。
鏡は自身を映し出すためのものだ。
仮にそれが【呪われて】いたら?
婆に聞いてみるしか無いか。
「ヴェルミナさん、鏡関係はある?」
「あると言ったら?」
「自分の中ではそれが最も可能性が高いと思っている。見せてくれ。」
「・・・。良いだろう。お前の右手にあるでかい台。それは三面鏡だ。それを見てみると良い。」
「三面鏡か、良いね。拝見するよ。」
俺は早速その三面鏡の前に座りその扉を開く。
そこに現れたのはとても商品としては売れなさそうなひび割れた三面鏡だった。
「どれどれ?」
【等級なし:ひび割れた三面鏡】
鑑定効果:姿を移した自身のスキルボード内容を記憶した後、その者のスキルボードを強制的にリセットする。記憶できるスキルボードの内容は5種類まで。鏡で記憶した内容は任意のタイミングで呼び出しが可能。また記憶した内容を任意で削除することも可能。
見つけた。これだ。
やはり鏡に関係してあるものだった。
その様子を見ていたヴェルミナが話しかけてくる。
「その三面鏡についての呪われた内容を言うことが出来たら売ってやろう。」
恐らく試されている。
俺がどこまでこの鏡の内容を理解しているのかを見定めているに違いない。
「この三面鏡で姿を写した者は記憶障害に近いものを発症して、自身が身につけた技術を忘れてしまうんではないです?だからこの鏡は割られている。どうですか?」
「・・・。お前一体どこまで知っているんだ?」
「追加で情報を出すならふとした時にその無くしたと思われた技術を思い出すんじゃないですか?」
「なんて奴だ。今までそこまで正確にその鏡の過去を言い当てたやつはいない。良いだろう。そこまで理解しているのなら売ってやる。それとお前の頭で寝てるやつのことも知ってる限りは教えてやろう。」
良し、これがあれば今後間違いなく自身の成長の幅が広がる。
「いくらですか?」
「15万ミラルだ。」
150万円・・・。呪われたアイテムにそこまで値がつくとは。
だが正直買いだ。
「支払いは商業者登録票ででも?」
「ああ、勿論だ。当然ながら私も腐っても商業者なんでな。」
そう言い、早々に支払いを済ませる。
「それで?この子の情報は?」
「ああ、そいつは白狼と呼ばれる種族で昔はその毛皮の美しさから良く狩りの対象となり毛皮もかなりの高値で売買されていたんだが、その毛皮には噂があってな。」
「噂?」
「一見すると神秘性も相まり神聖な動物かと思われていたが、どうやらその毛皮を身にまとったものは不運に巻き込まれることが多く、不吉な存在として忌避されたのさ。それ故一斉に狩りを行いすっかり絶滅したとばかり思っていた。」
「そうだったのか。」
「【呪われた】アイテム達に祝福されたお前さんにピッタリじゃないか!フェーッフェッフェッフェ!」
そんな事があったのか。
と言うとポチについては軍などが引き取ることになっても殺処分になる可能性が高いな。
俺はもうポチの命に十分関係している。
そうと分かれば何が何でも保護する。
それが俺の宿命にも感じた。
とりあえず目的のものは入手することは出来たがどうせだ追加の装備を発掘したい。
「装備品を見て回っても?」
「好きにしな。客はお前ぐらいしかいないんだ。」
「はは。その様だ。では遠慮なく。」
俺は今回の旅で得た経験から欲しい装備を探す。
欲しいものとしては2つだ。
1、防御系スキルを強化するもの。
2、召喚系スキルを強化するもの。
特に防御系スキルは自身の命に直結するのでかなり欲しいと思っていた。
そしてしばらくして最終的に二点の品を選ぶ。
【レア:ホーンラビットの皮の手袋】
効果:VIT-4、AGI+1、INT+3、LUK-3
鑑定効果:【防御】系スキルの消費コストが2倍になるが効果時間が2倍に延長され、更に再使用間隔が30%短くなる。【防御】系スキルの追加効果が必ず発動するようになる。
空きスロット:1
【アンコモン:オークワンド】
効果:INT+2
鑑定効果:【水属性】スキルに関わる全ての数値が2倍になる。
空きスロット:なし
俺はこれを見つけた瞬間、ああコレだ。自然と手に取っていた。
「お前さんはどうしてこうも人死にに関わるような装備ばかりを選ぶんだ?」
「ということはこの手袋とワンドも?」
「ああ、前所有者は死んだよ。お前さん、【呪われた】装備や道具に愛されているんじゃないか?」
「そうかもしれないな。」
「それすら受け入れるか。フェーッフェッフェッフェッフェ!良いだろう条件付きで売ってやる。合わせて2万5,000ミラルだ。」
条件?その条件次第では断らざるを得ないかもしれない。
この婆の観察眼や情報収集能力があまりにも高すぎるため警戒対象になったからだ。
「条件とは?」
「それらの新しい装備を使っていずれ試し打ちをするのだろう?それに立ち会わせて欲しい。もしそれに立ち会わせてくれるなら・・・。そうだな私の『友人』を紹介しても良い。」
そう言いヴェルミナがにたぁっと笑みを浮かべる。
『友人』とは恐らく【呪われた】アイテム類の収集家の類だろう。
今後自身を成長させるには通常のアイテム類は当然必要だが、呪われた物も必要となってくるだろう。
そうなった時、通常なら日の目を浴びず処分されてしまう物を収集している人物とコネが出来るのは正直でかい。
「良いだろう。ただし演習場所は冒険者ギルドになる。『ギルドマスターの許可が下りれば』良いがそれでも良いか?」
「ああ、十分だ。」
そうして俺は新たな【呪われた】三面鏡と【呪われた】手袋そして【呪われた】オークワンドを手に入れた。
俺は早々に支払いを終え、宿屋に戻る。
今後三面鏡は基本的に収納鞄に仕舞っておき、必要なときだけ取り出すことにした。
間違って誰かが開いてしまい、問題になっても困るからだ。
さて、これからは『スキルツリー』とにらめっこだ。




