【第24話】凱旋
俺は無事に全ての依頼をこなすことが出来、しかも誘拐されていた人物たちを無事に救出するということまでしっかりやり遂げた。
揺れる馬車の中で俺は初めての達成感に酔いしれていた。
誘拐され、大変な目にあっていた彼女たちの表情も明るい。
そんな中サーシャが声を掛けてくる。
「そういえばその子犬、大分ススム様に懐かれているようですが今後はどうされるんですか?」
「ああ、それなんですよねえ・・・。なんでこの子が囚われていたのかもわからないですし、仮に何処かから親元などから引き離されて連れてこられてきているのだとしたら返してやりたいとは思うんですがね。」
俺は子犬のことを撫でながらそんな事を言うと不思議なことが起きた。
「ワンワン!(やだ。僕は御主人様と一緒のが良い!)」
「こいつ、可愛いこと言ってくれるじゃないの・・・ってえ!?」
「どうかされたのですかススム様?」
「いや、今この子が喋ったような・・・?」
「ワン!?(僕の言葉がわかるの!?)」
「うんーーー???」
「サーシャさん達はなにか聞こえましたか?」
「いえ、珍しくこの子が鳴いている声しか聞こえませんでしたが?」
「ワンワン!(僕だよ!わかるんでしょ!)」
「やっぱしお前・・・なのか!?」
「ワン!(そうだよ!)」
ど、どういうことだ?
子犬の泣き声と同時にこの鳴き声の意味が理解できる。
そう、脳に直接語りかけてきているような・・・。
ま、まさか!
◯◯女神から最初から渡された『言語理解』のスキルか!
こいつは参った。
今ここで変なことを言うとかなり立場が危うくなる。
街に付き、解散になるまで黙っておこう。
「き、気の所為だったようですー。」
「ワン!(なんで!)」
「しー!静かにしないと駄目だろ。」
「確かに動物とお話ができたらどんなに素敵か、考えちゃいますよね。」
そう言いサーシャは笑っている。
どうやら誤魔化せたようだ。
セーフ!
流石軍が率いる一団だろう。
乗合馬車よりも早い速度でぐんぐんと進んでいき、行きの半分近い時間で俺が現在拠点にしている街、ミストヴェイルまで返ってくることが出来た。
街の外壁の入口付近が見えた時だった。
多くの鎧を身にまとった集団が見える。
だが、今回は掲げている旗が二種類見えた。
一つはミストヴェイルの都市を示す旗。
そしてもう一つが見たことがない旗だった。
「あの旗は・・・。」
俺がそう言うと、サーシャ含む三人の女性たちは涙を流し喜んでいた。
どうやら彼女たちに縁のある旗らしい。
それにサーシャには家名とミドルネームまであった。
ということはどこぞの貴族なのかもしれない。
暫くすると門前まで付き俺達はようやくガタガタと揺れる馬車から解放される。
「アイタタタ・・・。やっぱり馬車は慣れないな・・・。」
そんな風に嘆いている時だった。
「サーシャ!!」
一人の筋骨隆々の老紳士がサーシャの名前を大きな呼ぶ。
「お祖父様!!」
その声に呼応するようにサーシャがお祖父様と呼んだ人物へ駆け足で近づき抱きしめていた。
「本当に心配したぞ。まさか、お前が誘拐されるなぞ思いもよらなかった。」
「無事に帰ってこられてよかったです。ただ残念ながら助かったのは私たちだけで他の者達は・・・。」
「そうか。だがお前たちだけでも返ってこれたのは奇跡だ。本当に良かった。」
「これもお力添えを頂いたあの方のおかげです。」
そう言いサーシャは俺のことをどうやら紹介するようだ。
非常にめんどくさいことになりそうだが、仕方ないか・・・。
ましてや相手が貴族様なら。
俺は一応そのまま立っているのも問題かと思ったのでその場に跪いた。
「そなたが此度、我が孫娘とその使用人達二名の救助を行ってくれたという冒険者だな。」
「はい。私は銅級冒険者のススムと申します。今回別件の依頼により盗賊たちと対峙することになったのですが、その過程で偶然にも彼女たちを救出する形となり今回ここまで護衛させていただいた次第です。」
「大変大儀であった。顔を見せよ。」
「はっ。」
「我が名はヴォルフガング・アウグスト・ブラウン。ブラウン家前伯爵である。」
前伯爵だってーーー!!??
とんでもねえ大物じゃねえか!!
何だってそんな大物の孫娘がこんなあんな弱小盗賊なんかに捕まってたんだ?
護衛はどうした護衛はーー!!
「色々聞きたいこともある、まずは場所を変えるとしよう。」
「はっ。」
俺は緊張で歩き方がおかしくなりつつ、案内されたのはミストヴェイルの中央区にあるとんでもなくでかい屋敷だった。
「ここは我がブラウン家の別邸になる。ゆるりとしていくと良い。」
「は、はあ・・・。」
「ところでその子犬は?」
「わからないんです。どうやら彼女たちよりも後に捕獲されたようで。可能であれば盗賊たちに経緯を聞きたいのですが可能ですかね?」
「一応打診はしておくが無理だと思う。なんせ奴らは死罪が確定している。情報が引き出せないとわかれば即時処刑される。」
なんとなくそんな予感はしていた。
最悪俺の方で面倒見るか。
「とりあえず、その子犬も汚れているようだ。洗わせよう。」
「そうして頂けるなら助かります。」
「ワンワン!!(ぼ、僕はお断りなんだけど!!)」
「大人しく洗われてきなさい。そうしないと抱っこはしてやらないんだからな。」
「うー・・・」
子犬は使用人らしき人に連れられていく。
「さて、では今回の冒険者としての話を聞こうか。」
「構いませんがかなり話が突飛なので可能なら関係者を呼んだほうが真実味が増すと思います。」
「ほう?関係者とは?」
「冒険者ギルドマスターカイエン、商業ギルドマスターフォレス、錬金術師ギルドマスターマリリの3名です。今回は商業ギルド及び錬金術ギルドからの指名依頼を受けました。」
「銅級の君が?ギルドマスター直々に2件の指名依頼だと?」
「ええ、ですので呼んだほうが確実だと思います。」
この際だ。俺だけ緊張するのは癪なので巻き込むだけ巻き込んでやるぜ。
「わかった。すぐに呼び出す。おい。」
「畏まりました。」
待ってる間俺は用意されたお茶等を飲んで優雅に過ごす。
ふー、やっぱ冒険もいいが慣れない内はかなりしんどい気はする。
今回の依頼を受けて出発してから大体3週間程度か?
一人キャンプは無限にできそうな気分だったが、やはり命の危機が目の前にある極限のストレス状態であるのと無いのでは比べ物にならない。
そういった意味でも今回の冒険は非常に勉強になった。
暫くすると汚れを落とし、医者からの診察を終えたサーシャ達が姿を表す。
先程までのサーシャたちとはまるで別人のような見惚れるくらいのまさしく『美少女』達だった。
特にサーシャは群を抜いて美しいと思った。
やはり伯爵家の血筋なだけはある。
「さて、サーシャ達よ。大変だったとは思うが何故名もなき数名の盗賊たちによって誘拐なぞされたのだ?お前たちに付けた護衛はどうした?」
「・・・。わかりましたお話します。私達はいつも通りここミストヴェイルで商取引を行った後、帰路についているところでした。勿論護衛の騎士などは付けていたのですがあっという間のことでした。」
そう話し始めるサーシャの声は重く暗いものだった。
どうやら話を聞く限り、あの辺りでは目撃情報がない大型の魔獣に護衛達は刃が立たず全滅、御者なども当然殺され、辛うじて馬車内に居たサーシャ達は生き残れたものの閉じ込められてしまったとのこと。
しばらくすると例の盗賊たちが現れ捕まり誘拐されてしまったとのことだった。
「なるほど。それならば盗賊たちに捕まっていたのも納得だが目撃情報のない大型の魔物か。」
それは俺も非常に気になった。
今回は運良くそいつと出会わずに済んだが伯爵家預かりの騎士たちが一瞬で殲滅されるだけの戦闘力を持っているというのはかなりの脅威だ。
カイエンが来たらそれを忠告しなければなるまい。
そんな事を考えているとそのカイエン達が到着したようだった。
だがカイエン達の様子がいつもとかなり違う。
ラフな格好ではなくかなり着飾った様子で緊張した面持ちで入ってくる。
俺はそんな姿を見て一人吹き出し笑ってしまっていた。
カイエン、フォレス、マリリの三人は迷うこと無くヴォルフガング前伯爵の前に跪き頭を垂れている。
「大変遅くなり申し訳有りません。冒険者ギルドマスターカイエン、召喚に応じ参上しました。」
「右に同じく商業ギルドマスターフォレス。参りました。」
「右に同じく錬金術師ギルドマスターマリリ。さ、参上しましたー・・・。」
「うむ。急だったにも関わらずすまなかったな。楽にしたまえ。内容は簡単だ。自体の確認をしたい。今回我が孫娘の救出に尽力してくれた冒険者のススムより、今回の経緯について聞いた。銅級冒険者で有りながらマスタークラスの者二人より指名依頼を受けたと言うが事実か?」
一瞬カイエンと視線があったが俺はすいーっと視線をずらす。
わははは!俺はもう知らん!
「・・・。は。事実であります。冒険者ギルドは商業ギルド及び錬金ギルドより指名依頼を受け、ススムに正式に発行、受領されそしてその依頼は無事に完了しております。」
お、無事に依頼品届いたんだ。良かった良かった。
まあ、そうでなければ援軍なんて呼べなかったんだからね。
「本当に銅級にマスタークラスで2つの指名をしていたとは。それに既に完了しているとは驚きだ。」
ヴォルフガング前伯爵は顎髭を撫でながら俺のことを訝しげに見ていた。
視線が痛い。
あ、そうだ。カイエンに言わなきゃだな。
俺は先程の話を思い出し手を上げ発言する許可を求めた。
「うむ?何かなススム。」
「いえ、お話を遮ってしまうようで申し訳ないのですが、先程のサーシャ様のお話にあった未確認の大型魔獣について各ギルドマスターに報告をすべきではないかと思いまして。場合によっては討伐対象なのではないかと。」
それを聞いてマスター達の雰囲気が明らかに変る。
特に顕著に変わったのはカイエンだった。
「おお、その通りだ。実はな・・・、という自体らしい。」
「畏まりました。閣下、大変失礼ですが御前を失礼しても?冒険者ギルドマスターとして早急に持ち帰り自体の収束を図りたいと存じます。」
「同じく商業ギルドとしても、緊急通達で該当地域は警戒するよう伝える必要が出てきました。」
「うむ。行ってよろしい。しかと頼んだぞ。」
「御衣。」
そう言い、カイエンとフォレスは足早に出ていく。
残念だがマリリは居残りのようだ。
「ところで錬金術ギルドは今回どの様な依頼を行ったのかね。」
ヴォルフガング前伯爵より急に声が掛かったマリリはしどろもどろになりながらも答える。
「は、はひー!錬金術ギルドとして依頼した品は石化の呪いを解くために必要な薬、『灰石還しの秘薬』の材料になります『朝露のセージ』の調達ですー!」
それを聞いたヴォルフガング前伯爵は目をガバっと見開いた。
「な!?『灰石還しの秘薬』だと!!それで、素材の調達は!?」
「先程もお話があったように無事完了してますー!ちなみに既に『灰石還しの秘薬』も作成済みとなっておりまして、既に中央の錬金術ギルドに発送済みですー!!」
「そ、そうだったのか・・・。ではこれで・・・。」
そこでヴォルフガング前伯爵は目と口を閉じる。
次の瞬間目に涙を浮かべたヴォルフガング前伯爵に手を握られ感謝を述べられる。
「何から何までありがとう・・・。君は間違いなく我々の恩人だ。」
「あ、あはは・・・。お役に立ててよかったです・・・。」
イタタタタ・・・!!
この前伯爵、見た目通りやっぱり筋肉凄い!!握られた手潰れそうだ!!!
「お、お祖父様!ススム様の手が!!」
「ああ、すまぬ!ついな・・・。」
ナ、ナイスフォロー、サーシャ。
「と、とりあえずこれで私の任務も全て完了しましたし、お約束通りサーシャ様達も送り届けることが出来ましたので私はこれで失礼させていただきます。」
「あ、私も失礼させていただきますー!!」
「ああ、本当にご苦労だった!」
そしてようやく解放されようかと思った時だった。
「わんわん!!(僕を置いてどっかに行こうなんてひどい!!)」
「あ、すっかり忘れてた。というかお前こんなに真っ白だったのか!!」
真っ黒い子犬だと思ってたが実は真っ白な毛並みの子犬だった。
とんでもなく汚れてたらしい。
「そういえばその子犬の処遇だったな。ススムに懐いているようだし、ここでは飼うことが出来ぬ。良ければ処遇が決まるまで預かっては貰えないだろうか?正式に決定したら冒険者ギルドを通して追って通達する。」
「わかりました。責任を持ってお預かりします。」
「ワンワン!!(やったー!!)」
そうして俺とマリリと子犬は解放される。
あーやっとこれでゆっくり出来そうだ。




