【第22話】初の対人戦
俺は新たに警戒を重点においたスキルを習得はしたが、けっして慢心すること無く先ほどと同じ様になるべく開けた道を進むことにした。
これは決してゲームでは無く、命を掛けたものだったからだ。
新たに覚えた『気配察知(LV2)』、『気配遮断(LV1)』、そして【ハックアンドスラッシュ】によって映し出される『地図』機能は非常に優秀であり、最初の目的地である『朝露のセージ』が咲いている場所にたどり着くことが出来た。
だがやはりそこは一筋縄ではいかない。
目的の『朝露のセージ』が咲いている場所から少し離れた場所で様子をうかがうが、『気配察知(LV2)』と『地図』によれば3体の何かしらの敵がいることがわかる。
残念ながら現状では敵が何なのかまでは知ることが出来なかった。
一体は少し離れたところに、二体は目的の『朝露のセージ』の近くにいる。
となれば、ここは『釣る』しか無いだろうと思った。
『釣る』とは『プール』とも呼ばれる戦術で主にMMORPGなどのゲームで使われる用語だ。
簡単に言えば群れをなしている敵を安全に狩るために、集団戦闘を行うのではなく、1対1または1対多数の状況を作り出し、あくまで安全を主体に狩りを行う戦法だった。
今回の場合、まずは離れている1体目から確実に安全地帯まで釣って、狩ることになる。
『気配遮断(LV1)』を使用し、すぐに戦闘態勢に移れるように呪文の詠唱だけは済ませておく。
徐々に近づいていくとやはり大岩蛇であることが確認できたため、俺はファイアボールを発射すると同時に一気に逆向きに走り、安全地帯へと撤退する。
当然不意を突かれた大岩蛇はファイアボールを諸に喰らうが、それでもやはり一発で仕留めることは出来ず、こちらに上手く誘導される。
炎の狼は既に顕現しており、俺の指示により大きく左右に展開している。
完全に不意を突かれた大岩蛇は獲物が俺一人だと誤認している。
突撃してきた大岩蛇にタイミング良く左右から炎の狼2頭が襲いかかる。
先程の先頭で俺のレベルが上がっていてINTも上がっているため、炎の狼の戦闘力も必然的に高くなっている。
初めての戦闘よりもあっけなく釣りに成功した大岩蛇は亡骸となり、大地へと返っていった。
次の獲物は比較的近くに二匹がいるためファイアボールで不意打ちを食らわすことが出来ない。
どうやら二匹とも大岩蛇だったようだ。
それならば、こういう時にゲームでも良く使われるのは『石』である。
当てることが出来れば一番良いが、たとえ当たらなくても目的は『釣る』ことであるため、1匹だけが気がついてくれるならこっちの勝ちだ。
俺は準備をし、安全地帯も確認しそして石を投げる。
それは当然のように外れたが上手く一匹だけがこちらに気が付く。
俺はこれ見よがしにわざと目立つように一気に退却をするとこれも上手く先導され大岩蛇は付いてくる。
予定していた安全地帯に到着する前に俺は全く見当違いの方向にファイアボールを放つ。
大岩蛇は自信から見て後ろにいるのだが関係ない。
全く関係ない方向に発射されたファイアボールは急激に軌道を変え、付いてきていた大岩蛇に見事に着弾する。
今回は着弾と同時に狼を仕掛けているためすぐに倒すことが出来た。
ここで『システムメッセージ』が流れ俺はレベルが上がる。
【経験値を360取得。クラスレベルが1上がった。スキルポイントを1会得。】
【スキルを割り振ってください。(残りスキルポイント1)】
だが現状でゆっくりとスキルツリーを眺めている暇はない。
少しの休憩でMPを完全に回復し再び準備を整え、『朝露のセージ』に火が燃え移らないように3匹目も石で釣る。
今回も外れる。
くう!万年体育の成績は3のど真ん中だった俺ではこんなもんなんだろう。
同じ様に安全地帯に着くまでに空中に向かいファイアボールを放つと当然それは大岩蛇へと吸い込まれるようにして着弾する。
後は狼たちが仕留めてこれで終了となる。
非常に緊迫した狩りとなったが、無事に目的地に到達することが出来た。
「ふー。ようやく最初の目的の『朝露のセージ』とご対面だ。一応依頼達成に必要な枚数は書いてなかったが、余計に摘んでも悪いことはないだろう。」
俺はそう考え、『気配察知(LV2)』と『地図』を見ながら十分に警戒しつつこの場に咲いてあった『朝露のセージ』を9枚採取する。他にも薬草類は見て取れたが今は一刻も早く安全地帯への退却が優先される。
欲のかき過ぎは死を招くだけだと十二分に理解していたからだ。
俺は摘んだ『朝露のセージ』を収納鞄に仕舞い、一気に安全地帯へと離脱した。
「ここまでくれば安全かな。一応これもおいてっと。良し結界も発動できたし早速、錬金術ギルドに道具用の転移陣の魔道具で送ってしまおう。」
俺は収納鞄から転移陣の魔道具を取り出し、説明書を読む。
「なるほど。この巻物の真ん中に送りたいものを置いて呪文を唱えれば良いだけか。ネット通販以上に便利じゃねえか・・・。」
俺は早速今回採取した『朝露のセージ』を巻物の真ん中に置き呪文を唱える。
『此処と彼処を結ぶ理よ、陣に刻まれし契約を果たせ――転移陣』
すると巻物がカッ!と強い光を放ったと思うと一瞬のうちに『朝露のセージ』は消え、更にその巻物は役割を終えたと言わんばかりに書かれていた魔法陣などが消える。
「よし、錬金術ギルドの依頼終了。後は商業ギルドの盗賊たちだが・・・。先にスキルを取得してしまうか。」
「スキルツリー」
俺はそう言いスキルツリーを表示する。
だが得るものは既に決めていた。
『気配遮断(LV2):自身に対し中程度の隠遁状態を付与し敵から更に見つかりづらくする。この効果は最大でLV3まで強化できる。』
「よし、これでより相手から察知しづらくなるはず。今回の三匹の大岩蛇との戦闘で十分効果を発揮できたが、ゲームで体感するような『先制攻撃』よりも遥かに現実の『先制攻撃』のアドバンテージ方が高い。今後重点的に考えるべきだな。」
俺は認識を再度改め、小休憩の後移動することにした。
『地図』のナビゲーション機能によると現在地から目的の盗賊たちのねぐらまではそう遠くはない。
日が高いうちに移動し、様子を見て日が落ちたら対人戦闘を行うことにする。
「しかし対人戦か・・・。地球じゃ殴り合いの喧嘩すらしたことなかったんだがな。」
そんなことを考えていると目的もねぐらにしている廃坑跡に近づく。
『気配察知(LV2)』と『地図』を見ると一人だけ離れた位置で陣取り後は廃坑内部にいるようだが、反応が聞いていた予想していたよりも多い気がする。
俺は廃坑跡を見渡せ、かつ安全地帯になりうる場所を探し出しそこで日が暮れるまで様子を見ることにした。
『気配察知(LV2)』と『地図』を見る限り、離れた一人はまず間違いなく、見張りだろう。
最初に片付けるべきはコイツだ。
そして廃坑内部では人が行ったり来たりしている。
ここで一つの事に気が付く。
「動きがあるやつと同じ場所で留まってるやつがいる・・・?」
動き回ってる人数は5人。留まっている人数は4人だった。
それに動き回っているのは比較的距離が空いているように感じるが動かない4人は距離がほぼ無く団子のようになっている。
「まさかこれ、誘拐かなにかの被害者か。」
そう考えれば納得がいく動き方だった。
「誘拐被害者がいるのは聞いてなかったし想定外だったな・・・。さてどうする・・・。」
『釣って』あえて混戦状態にするか。
『釣り』をして戦闘場所を変更する意味は何も安全地帯で戦うことのみを目的としていない。
先程の三匹目の大岩蛇の様に、何かその場で戦闘を行うと不都合な場合、戦闘する場所を変える目的で『釣り』をして強制的に敵陣を崩す場合がある。
今回は誘拐被害者たちの保護だ。
俺には一応防護用に身に着けた性質強化により物理攻撃も3回まで防ぐことが出来る炎の防壁がある。
最悪これに頼る切り札にすることにする。
正直自分が怪我をするのは恐ろしかったが、眼の前で傷ついている人達をそのままにする方がもっと恐ろしかった。
人と関わりたくないとは言うがこういった話は論外だろう。
害意や悪意のある人間によって傷つけられている者がいたならばそれに手を差し出すことのほう当然だろうと考えていた。
今夜俺は人を傷つけるし、下手したら殺すかもしれない。
そして俺自身が死ぬかもしれない。
そう考えると脂汗は出てくるし息も乱れはする。
だがそれよりも助けを求めている人間がいる。
それ一点に意識を集中させる。
日が暮れ視界が悪くなると廃坑後付近では篝火が焚かれたが、以前監視役らしき人物には明かりはない。
恐らく察知されないようにしているのだろう。
残念だが俺からは丸見えだがな。
俺は闇夜に紛れて行動する。
かなり離れた位置から空中に向かってファイアボールを飛ばす。
ある程度上昇したファイアボールは空中で軌道を変え、一直線に見張り役に飛んでいく。
ボゴーン!!ボボボボ・・・
見張り役がいたであろう場所に見事に着弾するが、当然見張り役はその突然現れたファイアボールも発見していた様子で回避に成功するも小爆発までは予測していなかったようでその爆発に巻き込また様子だった。
慌てふためいている見張り役に影から突撃していた一頭の狼が見張り役に食いつき、殺しはしないが戦闘不能にさせる。
突然の爆発音とともに炎上する見張り台にあわてて廃坑跡から5人が慌ただしく外に飛び出る。
俺はわざと目立つようにその人物たちの眼の前に現れ、自身を餌に『釣り』をする。
「な、なんだてめえ!!」
「俺達が誰かわかってるのか!!」
「お前1人で何が出来るってんだ!!」
等など罵詈雑言を浴びせているが、注目することには成功したようだ。
もう一頭の狼が大きく迂回し、廃坑跡の出入り口に一番近いやつに食らいつく。
「ぎゃあ!」
当然その男も殺しはしない。
前と後ろでこちらが挟むような形となる。
「く、くそ!」
「魔法使いごときがあ!!」
一人が途轍もない速度でこちらに切り込んできたが、それは俺の張った炎の防壁に物理的に弾かれ、そして攻撃した男は炎の防壁の追加効果により炎上状態となる。
「う、うわああ!消してくれえ!!」
盗賊たちは戦線が大きく乱れどこに注目したら良いのかわからない状態となる。
これが混戦におけるメリットだ。
情報が多ければ多いほど混戦時は状況の判断ができなくなる。
正面には大型の狼が1頭と障壁を纏った魔法使い、後方には更に大型の狼、そして炎上し助けを求める盗賊。
盗賊たちはどこから手を出したら良いかわからない状態に陥っていると、更に俺が追い打ちをかけるようにファイアボールをわざと的に当たらないよう外し、小爆発を起こし混乱を更に引き起こす。
「ファ、ファイアボールが爆発した!?ぎゃあ!!」
後退りを初めた男に狼が襲いかかる。
更にファイアボールを放った瞬間に後方の狼を死角に移動させ、油断した隙に更に襲い掛からせる。
「ぐあぁ!!」
これで残りは一人だ。
「さあ、どうする。後はお前一人のようだが?俺的には武器を捨て投降することを勧めるが。」
投降を呼びかけられた最後の一人はそれを聞き俺に揺さぶりをかけてくる。
「・・・はっ!馬鹿だな、後一人だ?こっちにはまだ仲間がいるんだよ!投降するのはお前だ。武器を捨てて狼を引かせろ・・・!」
残念だが、俺の『気配察知(LV2)』と『地図』には一切援軍らしい人影は見えない。
これに引っかからない存在がいるとすればそれは『気配遮断(LV3)』を有している人物くらいだろう。
正直このレベルの盗賊たちにそんな者がいるとは思えない。
だが俺は油断はしない。
「そうか。わかった。投降する。」
そう言い俺は手を挙げる。
「はは!そ、それでいいんだよ!じゃあ、大人しく・・・」
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――・・・』
俺は静かに呪文を唱え始めるとマナが手に収束していく。
「は?」
盗賊のそんなまぬけな一言が聞こえた。
『ファイアボール』
俺の上に上げた手よりファイアボール発射されると、それは空に少し向かった後最後の一人に向かって飛んでいく。
それを見た盗賊は走って逃げるがそれは無意味だ。
ボゴーン!!!ボボボ・・・
俺はわざと外れるようにしたがやはり爆風で飛ばされ炎上効果で燃えている盗賊。
きっちりと狼1頭を仕掛け行動不能にする。
後は全員を狼にも協力してもらいながら一箇所に集め、収納鞄に入れてあった縄を手にし、見張り一人と廃坑から出てきた5人の計6人の盗賊たちの手と足を縛り上げ、武装を解除させる。
更には逃げ出されないように全員の手と足を連結させる。
「ここまでやればまあ大丈夫だろう。」
こうして俺の初対人戦は無事に終わる。




