【第21話】風化石の荒野
旅は非常に順調だった。
本当は馬車で移動中にアリスたちに作ってもらったサンドを食べたかったが、何を言われるかわかったもので、それは出さずに一般的な保存食などを食べたが、まあこれがまずい・・・。
だが、飢えないだけマシと思い村から出るまでは我慢した。
特に野盗や獣に襲われることも、馬車が破損したりということもなく目的の村に到着する。
およそ片道にして6日間の移動となった。
「お気をつけて!」
俺と御者は別れ俺は村で宿を取り、翌日からは完全に一人で行動することになる。
村でも一応手作りの食事を食べることが出来たが、やはり舌が美味いものに慣れてしまっているとどうしても味気なく思ってしまう。
ここでも贅沢病が出てしまう。
ここからは【ハックアンドスラッシュ】の『地図』の機能の出番だった。
俺は既に最初の目的地「風化石の荒野」までの移動経路はこのマップに登録してある。
この機能はやはりVRゲームのように自由にレイアウトも変えることも出来たので見慣れている右上に小さく表示することにした。
ちなみに驚いたのは『地図』に付いていた『ナビ機能』だった。
これについては指定の目的地を設定すると、なんと地面にリアルタイムで目的地までのルートが浮いて見えるとんでも仕様だった。
なので俺は迷うこと無く進むことが出来た。
「いやはや本当にとんでもねえチート機能だわ。このマップ1個だけでもとんでもないチートだよなあ。」
この世界に放り出されたときなんてまるで地理関係もわからず適当に歩いてたら運良く街道につけたということの話で下手したらあの場面で迷いに迷って今こうして生きてはいないかもしれないと思うとゾッとした。
そういえば運といえば、自身のLUK(運)がステータスで見る限り最初からマイナスだったはずで今は-14というとんでもない数字になっていたはずだが普通ではあり得ないような幸運に恵まれている気がする。
これは一体何かあるのだろうか?
「うーむ。わからん。まあ考えてわからんものはいくら考えてもわからんから考えるのは保留にしよう。」
俺は風化石の荒野の道の途中にあるいい感じに大きな平らな岩を見つけたのでそこに座り、時間を止める収納鞄から弁当を出しむしゃむしゃと食べている。
やはり食事はうまい方が良いに決まっている!
その時だった。
ガサ!っという草の揺れる音がしたと思ったら例の初心者殺しと言われたホーンラビットが3匹出てくる。
「ぐ!一匹じゃなくて三匹もか!」
俺は盾を構えながらゆっくり視線を合わせ後退りし、そして小声で呪文を唱え始める。
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――』
一匹が動き始めた瞬間魔法を発動させる。
『ファイアボール!』
吸い込まれるように動き始めた一匹めのホーンラビットにファイアボールは直撃し、小爆発をするとともに現れる2頭の炎の大型狼。
爆発したファイアボールを見て残りの二匹のホーンラビットは逃げ始めるが当然それは炎の狼の餌食となる。
今回の戦闘でレベルは上がらなかったが、貴重な肉が手に入る。
「やったぜ!食料ゲット!」
一匹目のホーンラビットは爆散していて目も当てられない状態だったため手は出さなかったが、狼が仕留めた二匹については状態も良かったため、早速先日偶然発見した収納鞄を使った分解方を行い、肉、皮、骨、角、その他内臓などに分け、肉のみを時間を止める収納鞄に入れ替える。
いやあ、便利の極みだなこれ!
ちなみにその他内臓類はどうしようもなかったので狼たちが食べるかと思い出してやると、美味そうにむしゃむしゃ食べていた。
ちなみにいつの間にか爆散していた一匹目の死体もぺろりと平らげていたようだった。
「そういや、イメージで分解も出来るなら寄生虫や菌をイメージして内臓や肉なんかからそれを取り除けば新鮮で腹を下したりしない上等な肉になるんじゃないか?」という新しい発想を得る。
今のホーンラビットの肉にはイメージしてもそれらしいものは付いていなかったので大丈夫だろうとは思うが今度鹿などが得られたらそれを試してみようと思った。
獲物に寄っては内臓も食料になるからな。
あ、それにもしかして卵もサルモネラ菌を取れれば新鮮な状態で食べれるのでは!?
夢が広がるー!!
等色々なことを考えながら歩を進め、夜の少し前には地球時代で釣りと同じく趣味だった一人キャンプが役に立ち、大木にできたくぼみや岩などを背にし即席キャンプ場を作る。
容易に火起こしは勿論管理もできたし、更に商業ギルドが用意してくれていた革製の温かい寝袋が非常に役に立つ。
それに加えこの防犯魔道具である。
『結界部屋』
そう唱えると簡易結界が現れ俺は安らかに休むことが出来た。
その後もゆっくりと、ただ確かにこの世界の道を一歩一歩進む。
地球でのストレスが一気に消えていく様な感覚が心地よかった。
珍しい薬草類も見つけては回収しながら進み、更に途中でホーンラビットを追加で2匹仕留めることが出来たので食料も万全になる。
村から出立して約4日が過ぎようとしていた所だった。
『地図』が切り替わり、表示名が『風化石の荒野』に切り替わる。
「ついに到着した。ここが目的地の風化石の荒野か。」
ここからは自分の実力よりも上のフィールドになる単独の場合だと四角銀級が挑むような場所だ。
徹底して油断せずに進むことにする。
『地図』と今回の錬金術ギルドより依頼のあった『朝露のセージ』の『マーキングタグ』をを両方じっと見つめ、更には実際の遠方の景色を見渡す。
するとここよりもだいぶ先だが、『朝露のセージ』に設定したタグが薄っすらと見えた。
(よし。方向はあっちか。ここは蛇の生息地帯だからな。岩陰などは避けていくことにするか。)
自分にそう言い聞かせながら遠回りになったとしてもなるべく開けた道を進む。
だがやはりどんなに注意をしていたとしてもそれはどこからとも無く、ぬるっと現れる。
大岩蛇だった。
見た目はゴツゴツした岩を纏った大きさでいえば映像で見たことがあるアナコンダよりも更に一回りくらい大きかった。
こんなにでかいのか!
だが俺には不意打ちも想定した秘策があった。
『ファイアボール!』
そう、出会った直後に即魔法の発動である。
これはここに着くまでの道中で思いついたことであったが、魔法が実際発動するまでには2つの段階を経なければ発動しないということに気がついた。
それが『呪文の詠唱』と『魔法名の発音』だった。
魔法はこの2つがなければ発動しない。
なら事前に『呪文の詠唱』だけしておくと、『魔法名の発音』をしない間はペナルティが発生するのか?
答えは『ペナルティは発生しない』だった。
なので事前に『呪文の詠唱』だけしておけば、任意のタイミングで『魔法名の発音』を行うことにより、その瞬間に魔法が発動する法則が完成し、実際に魔法が行使される。
そう、俺はこの『風化石の荒野』に入った瞬間から実は『呪文の詠唱』だけを行い、いつでも『魔法名の発音』だけをすれば魔法が発動できる状態にしておいたのだった。
大岩蛇は獲物を見つけた瞬間いきなり高速でファイアボールが飛んでくるのに対処しきれずギリギリで躱すがそれは意味がない。
このファイアボールは性質の強化により追尾機能があるからだ。
躱した先にもファイアボールは見事に付いて回り、そして着弾と同時に小爆発し炎上状態となる。
威力はかなりのもので、大岩蛇を纏っていた岩も弾けていた。
更に追い打ちをかけるように2頭の炎の狼が顕現し、大岩蛇に襲いかかる。
その間俺は自身に、コスト無しでフルオートで発動した炎の防壁を確認し、バックラーを構え、自身は手を出さずに炎上効果と炎の狼が大岩蛇を仕留めるのをひたすら待つ。
当然、待っている間もファイアボールの次段を即時発射出来るように再度『呪文の詠唱』だけをしておく。
あえて発射しないのは、他の敵が現れてしまった時に対処ができないためだ。
なので欲張らず、確実に1匹1匹を排除できるよう行動をする。
大岩蛇は狼に攻撃を仕掛けるが、狼自体に物理攻撃は余り効かない。
それは狼の身体は炎を固めたような特殊な状態だったためだ。
それに狼の身体に下手に触ろうものならそこから追加の炎上効果が更に発生する。
岩を纏う蛇に対し、火は有効的ではないように思えるかもしれないが、熱は関係ない。
纏う岩が徐々に熱せられ、防御のために纏っていた岩自体が蛇を熱によって攻め立てる。
次第に悶えうち始める大岩蛇だったが、その瞬間を炎の狼たちは見逃さず、すかさず喉元を食い破り大岩蛇は倒れる。
その瞬間に『システムメッセージ』が発動する。
【経験値を360取得。クラスレベルが3上がった。スキルポイントを3会得。】
【スキルを割り振ってください。(残りスキルポイント3)】
恐らくここに来る道中で倒していたホーンラビットたちではレベルが上がらなかったのは経験値ギリギリで止まっていたのだと思った。
そして今回大岩蛇を倒したことにより、その中途半端で上がらなかった経験値と合わせ3レベルもあがったのだと考える。
そこでふと思い出した。
大岩蛇は普通の獣なのか魔物なのかということである。
死骸がそのまま残れば普通の獣だし、残らず魔素となり大地に帰れば魔物ということになる。
結果は後者だった。
しばらく大岩蛇はやはり蛇だからだろう、異常な生命力を見せていただが、次第に動かなるとどろっと液体のようになったかと思うとそのまま大地に消えていった。
これが以前資料室で見た魔物の最後と言うやつなんだろう。初めて見ることが出来た。
ちなみにこの時初めて魔素が変容し、素材となる瞬間も見ることが出来た。
大岩蛇が解けて消えた場所には大きな皮の一部と牙が1本転がっていた。
俺は気を抜くこと無く用心しながらそれを収納鞄に吸い込む。
流石にいきなりの自分より上の存在だったため、気を使いものすごい疲労したがなんとか倒すことが出来た。
俺は早速上がったレベルとステータス、そしてSPを振りたいと思い、見晴らしもよく、後ろは大岩で不意打ちも喰らわないであろう場所に座り、『結界部屋』を張って休憩をする。
「ステータスの表示」
現在の『ステータス』
名前:ススム
職業:魔法使い
年齢:20才
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:9
残りSP:3
各ステータス:HP:10、MP:14、STR:8(-2)、VIT:12(+2)、AGI:6(-5)、MND:14、INT:23(+3)、LUK:-14(-4)
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
装備済み:【呪】銅の短剣、鉄の腕輪、【呪】鉄のバックラー(ミル=ゼィ)
流石は魔法職と言うべきか。MP、MND、INTが突出して高くなってきている。
「さてSPは3か。だが今回の戦闘で取るべきものは決まった。」
そういうことで、俺は『スキルツリー』を開くと以前より取ろうと思っていたスキルを即時習得する。
1、『気配察知(LV2):自身のマップに対象の居場所を表示する。通常の範囲に対し効果範囲が50%拡大し、かつ隠遁状態の対象も発見することが可能になる。この効果は最大でLV3まで強化できる。』
2、『気配遮断(LV1):自身に対し隠遁状態を付与し敵から見つかりづらくする。この効果は最大でLV3まで強化できる。』
そうして俺は気配察知を一気にLV2まで取り、合わせて気配遮断をLV1で取得した。
今回の大岩蛇の様に環境に馴染み、視覚的に見つけづらい敵に対してはやはり対策が必須になる。
対策が打てれば必然的に余計な注意を払う必要はなくなりストレスが軽減されるし、強襲を受けることもない。
更に自身の気配を消すことが出来ればその逆で、強襲を仕掛けやすくなりこちらに有利な状況を作りやすくなる。
そのため以前よりこの2つのスキルには注目していたので今回取得するに至る。
「ふう、なんとか今日中に『朝露のセージ』は確保したいものだ。」
そう言いながら俺は水筒の水を飲む。




