【第18話】進化するファイアボール
俺は冒険者ギルドで解体スキルを身につける前に、先に今回手に入れた【呪われた】鉄の小盾と、それに装着すべく揃えた2つのルーンを装備すべく一度宿屋に帰る。
「あれー?ススム君、随分今日は忙しそうだねえ。」
アリスが忙しそうにしながらも俺に声を掛けてきた。
「あはは、そちらも繁盛してるようで何より。」
「お陰様でねー!!でもススム君のアドバイス通り新しい店員を二人雇ったから若干余裕は出来たかな?」
俺が忙しすぎて手が回らなくなる前に、手伝いを雇ったほうが良いとアドバイスしたこともしっかり実践し、ホールに1名、料理番補助に1名の人員が補充されたようだ。
それでも十二分に利益が上がっているようだし、以前とは格段の賑わいを見せていることからとても繁盛しているに違いないと見える。
既にリピーターも確保したようだった。
「じゃあ、私は戻るね。なにか食べたかったら言ってねー!新商品ならもっと大歓迎だぞ!」
そう言ってアリスは笑顔で戻っていった。
現状でも手一杯なのにこれ以上手を広げたらそれこそパンクすると思うぞ、アリス。
俺は自室に戻り早速現在の『ステータス』を確認する。
『ステータス』
名前:ススム
職業:魔法使い
年齢:20才
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:6
残りSP:4
各ステータス:HP:7、MP:10、STR:10(+3)、VIT:9(+2)、AGI:8、MND:10、INT:16、LUK:-10
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
残りSPが4も溜まってしまっている。
地球でゲームを楽しんでいた時はこの様にSPを余らせるなんてことはしなかったのだが、流石に自身の命が掛かったものになれば必然的に慎重にならざるを得ない。
「スキルツリーを表示。」
俺はそう言ってスキルツリーを表示させる。
今回この残りSPをどう振るかが非常に重要になり、昨日の段階では装備も整ってなかったために見送っていた。
だが今日になり新たな装備が手に入ったことで取るべきルートが決まった。
1、『ファイアボール【性質強化】:ファイアボールの性質を変化し強化する。対象一体に対し追尾能力が付属され、更に着弾時に小爆発を起こす。』
2、『MP回復速度上昇(LV1):MPが回復するまでの時間を30%短縮する。7秒毎にMPが1回復する。この効果は最大でLV3まで強化できる。』
3、『炎の防壁(LV1):火属性の防御魔法。発動後、自身を3回守ることが出来る火属性の障壁を作る。この障壁発動中は防御力が少し上がり、触れたものは炎上効果が発動する。消費MP5。効果時間60秒。再使用間隔120秒。この魔法は最大でLV5まで強化ができる』
4、『炎の防壁【性質強化】:炎の防壁の性質を変化し強化する。物理攻撃を防ぐことが出来る魔法障壁が合わせて発生する。また遠距離攻撃についても自動で防ぐ効果が発生し、その遠距離攻撃をしてきた対象を炎上効果にする。』
今回はこの4つを取得することにした。
すると以前はファイアボールの詠唱を教えてもらったが、今回は脳裏に自然と炎の防壁の呪文が浮かぶ。
これも【ハックアンドスラッシュ】の効果なのかなあ?
一通りスキルも振り終わったことで次は今回手に入れた装備品を早速装備することにした。
まずはルーンを盾に装着しようと思ったのだが、そういえばどうやって装着するのか聞いてなかった。
「聞いておけばよかったなあ。でもあの婆さんのことだから情報量とかで更に毟られそうだったし・・・。」
そんなことを考えながら膝に置いていた鉄の小盾に手に持っていたルーンがコツンとぶつかってしまった時、それは起きた。
なんと手に持っていたルーンがスッと消え、鉄の小盾に自然と入っていったのだ。
見た目的に大きな変化はないが、どうやら比較的簡単に取り込むことが出来るようだ。
ただ、どこに入ったのかがわからないため、外すためには彫金ギルドに行って教えてもらうか、外してもらう他なさそうだ。
俺は残ったもう一つのルーンをその盾に同じ様にコツンと軽く当てる。
すると同じ様にスッと鉄の小盾に入っていくのが見えた。
そしてその状態で鉄の小盾を調べてみるとその変化は明らかだった。
【レア:鉄のバックラー】
効果:STR-5、AGI-5、INT+3、LUK-4
鑑定効果:魔法の詠唱に成功した場合、唱えた魔法属性の狼の使い魔を2匹召喚する。召喚継続時間はINT×10秒。なおこの召喚された狼は【召喚】属性になる。
空きスロット:無し
装着済み宝石:ミル=ゼィ
効果:効果:【召喚】を成功させた場合、【防御】に分類されるスキルをコスト無しで発動する。再発動リキャスト間隔120秒。
俺は分かってはいたがあまりの性能に声を失う。
「こ、これでレア装備とか有りえないだろ・・・。」
だが、このあり得ない組み合わせこそが【ハックアンドスラッシュ】の面白さであり、醍醐味なのだ。
ゴクリッ
俺は生唾を飲み込みながらこの盾を装着する。
【レア:鉄のバックラーをオフハンドに装備しました。】
良し!若干重いが俺自身がそんなに動き回る職ではない上に小盾ということも有り、取り回しも良い。
「ステータス」
名前:ススム
職業:魔法使い
年齢:20才
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:6
残りSP:0
各ステータス:HP:7、MP:10、STR:5(-2)、VIT:9(+2)、AGI:3(-5)、MND:10、INT:19(+3)、LUK:-14(-4)
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
LUK(運)が-14とか怖すぎる!!
LVが上がってるのも関わらず1も上がってない所をみるとあの◯◯女神の嫌がらせか?
可能なら装備品でカバーしたい所だ。
ともあれ、これで装備品は完璧だ!
お昼をしたで包んでもらい、それを食べながら冒険者ギルドに向かう。
今日はチーズステーキもどきを包んでもらった。
うーん!食が豊かになるって素晴らしい!!
もっと言えばお米が食べたいんだがな!
ここはやはり日本人の魂が叫ばざる得ない。
冒険者ギルドに着くといつもは俺のことを目に入らない様にと避けていた冒険者たちがやたらと声を掛けてきた。
「おう、ススム!」
「いつも薬草ありがとうな!!」
「銅級、指名おめでとう!」
等などなんと今までの評価ががらっと変わったせいなのかそんなことを言われるようになってしまった。
「あ、あはは・・・。ありがとうございます。皆さんも身体にはお気をつけて。」
そんな事を言いながら受付にいたセリーヌに声を掛ける。
「こんにちは。セリーヌさん。」
「こんにちは。ススムさん。今日はゆっくりなのですね。」
「ええ、商業ギルドに行っていたもので。それでそちらは片付いたのですが、2つほど聞きたいことが有りまして。」
「ええ、どうぞ?」
「1つ目は新しい装備と魔法を試してみたいのですが、副ギルドマスターのセリーヌさんかギルマスのカイエンさんに見てもらうことは出来ますか?」
「・・・。わかりました。どうやら見なければならない『事案』のようですね。ギルマスとともに一緒に行きます。」
完全に警戒されていた。
まあ、それもそうだ。実際これから試し打ちしようと思っていることは恐らく二人が見たことがない事象になるだろうからな。
「2つ目は何でしょう?」
「あはは、そう警戒なさらないで下さい・・・。2つ目は道中で食品を得るために肉の解体等をしてみたいのですが、それを勉強する術はありますか?」
「あ、それなら大丈夫ですよ。」
明らかに表情が変化しいつもの笑顔になるセリーヌ。
「獲物の料金と受講料金を払っていただきますが地下の解体作業場で勉強することが出来ます。」
「なるほど。それはいつ出来ますか?」
「忙しくない今ならいつでも大丈夫かと思います。伝えておきましょうか?」
「ええ、お願いします。」
「わかりました。では先に問題の『試し打ち』ですね・・・。ギルマスを呼んできますので少々お待ちくださいね。」
そう言ってセリーヌが急ぎ足でカイエンを呼びに行く。
そう時間が経たない内に二階からドタドタドタ!とすごい足音をさせながらカイエンが降りてきた。
「ま、またお前か・・・・!!」
やはりこう来たか。
なので俺は皮肉たっぷりに返してやることにした。
「ええ、また僕です。」
笑顔満面で返す。
するとがしっとセリーヌとカイエンに両腕を捕まれ訓練場へと連行される。
「~立入禁止~」
当然のように立入禁止札も立てられていた。
「で?今日は何を試したいってんだ?」
眉根にシワがこびり付くぐらい嫌そうな顔をしている。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。まあ試したいのはファイアボールですから。」
「は?ファイアボールならこの前散々嫌になるぐらい見たが?」
「ええ、ですが今日は進化したファイアボールです。」
俺がぐっ!とガッツポーズをしながら言うと二人とも頭に?を浮かべていた。
「まあ、僕自身どうなるか分かっていないので一応見聞役として意見を貰えればと思ったので。それじゃあ行きますね。」
俺は二人から離れ的を見定めるが少し斜め上を狙って呪文を唱え始める。
「おい!お前!どこ見て狙ってんだ!!」
それを見たカイエンが怒鳴っているが気にしてはいない。
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――ファイアボール!!』
俺の手から放たれたファイアボールは最初こそ狙った的とは大きく違う方向へ進むが勢いよくカーブし初め着弾した瞬間爆発し、炎上し始める。
更に【呪われた】鉄の小盾の効果が発動する。
俺の足元より現れたのはファイアボールを使用したことにより『火属性』を纏うことになった炎で出来た2体の大型の狼であった。
そしてその狼は的に向かって一気に攻撃を始める。
そして最後に狼の【召喚】が成功したことにより、俺の身体の周りを炎の防壁を唱えた時に生じるのであろう、3つの火の玉が俺を中心にぐるぐると回っている。
「で、できたーーー!!」
俺がそう声を上げとりあえず完成したファイアボールから派生した連鎖を目撃したカイエンとセリーヌはただただ絶句していた。
「どうでしたか!?俺の新しいファイアボール!」
「こんなのファイアボールじゃねえよ!何なんだよ!?レジェンド以上の装備でも手に入れたのか!!」
「いえ、レア級の【呪われた】鉄の小盾だけですが。」
「レア等級でこんなことにはなりません!!」
二人してかなり怖い顔をしてきたので俺は「あはは・・・。」と笑った。
やはりとんでもない効果だったようだ。知らない人の前でいきなりやる前に二人に見てもらってよかった。
ただ、さきほども言ったようにこれらの事象を発生させているのは「消費MP4のファイアボール」であり、それが引き金となってドミノ倒しのように事象が連鎖したに過ぎない。
これが【ハックアンドスラッシュ】の真髄であり沼に引きずり込まれるほどハマる要素なのだ。
「セリーヌ。」
「はい、分かっています誰にも言いませんよ。というか言った所で信じてくれませんよ。」
「だよな?」
「お二人共そんな暗い顔してどうしたんです?」
「「お前のせいだ!!」」
ひぃー!!
そうして俺は訓練場より叩き出された。
やりすぎちった。てへぺろ。
さあ、次は解体訓練だ!気合い入れて頑張るぞー!




