【第16話】銅級冒険者証と指名依頼
はぐれオークの一件の後、俺はいつものように朝早くに冒険者ギルドに行き。昼前には収納鞄一杯の薬草類を持って帰ってきて、商業ギルドに収めるというルーティンを数日こなしていた。
二日目のあの物々しい一件があったにも関わらず何食わぬ顔で活動しているという異常な事態が逆に他の冒険者に不気味がられ、近寄られないで済んでいた。
これもある意味では抑止力だよなあ。
そんなある日のこと、いつものように冒険者ギルドに行くと珍しくカイエンが一階に降り、しかも横には商業ギルドマスターのフォレスと、錬金術ギルドマスターのマリリが一緒に話をしている。
あ、もしかして根回しが出来たのかな?
そう思い俺は挨拶をする。
「おはようございます。」
「おう、来たな。」
やはりどうやら例の件らしい。
この場にいる冒険者たちは滅多に下にいることがないギルドマスターの姿にまた何かあったのか?と噂をしている。
「おはようございます、ススムさん。いやはや毎日毎日ご苦労さまでした。」
「あはは。時を止める収納鞄の管理者さんも事情は知って居られるとは言え流石に引いた顔してましたね。」
「おはよう、ススムさん!むしろこっちは大助かりだよ!お陰で予算もじゃんじゃか入ってきてて過去一番の回転率で錬金術師もてんてこ舞いだよ!」
「あはは。それにしてもお二人がいるということは?」
「ええ、私とマリリさんで一件ずつと言うことになりました。」
「そうなんですね。」
そんなことを話しているとカイエンから「時間だな」と言われこの場にいる冒険者一同に対し声が掛かる。
「おうお前ら。おはよう。知らないものもいるかも知れないから一応自己紹介しておく。俺はこのギルドのマスターのカイエンだ。今日はかなり特例的な報告があるので聞いて欲しい。」
なんと例の件はこそこそとやるのではなく大っぴらに事態を紹介して行うようだ。
「最近、少し前までは非常に品薄で供給も安定しなかったポーション類が価格や在庫も安定して供給され始めたのは皆知ってのとおりだ。それは単に、この鉄級冒険者ススムの功績によるところが大きい。こいつは鉄級なら普通は避けて通る薬草採取を進んで資料室で勉学し毎日採取行い、そのお陰もあり薬草類が比較的安定的に供給されている。よってこの功績を持ち、ギルドマスター特権として二階級特進に当たる銅級冒険者へとなることを決定した。」
それを聞いた冒険者たちが一斉にガヤガヤと賑わい出す。
「あいつ、問題児じゃなかったのか!?」
「そうか、あいつのお陰でポーションが手に入りやすく・・・。」
「薬草は本当に見分けがつかないからな。相当勉強したんだろう。」
等など俺への認識がトラブルメーカーからポーションの安定供給の立役者へと評価が逆転した様だった。
更にカイエンの話は続く。
「更に今回の一件を受け、当然ながら薬草類の管理を行っている商業ギルドと、それをポーション類に加工し販売している錬金術ギルドの両マスターよりこの銅級冒険者となったススムへの指名依頼が行われることになった。なお、指名依頼は知っての通り特殊な事情を考慮していることから秘匿性の高い依頼となっており、この依頼内容が公になることはないし、他のものが協力することも勿論、それを奪いススム以外のものが達成するといったことは出来ないことを重ねて忠告しておく。以上だ。解散。」
うわー、内容はまだわからないがこうやって言われると緊張しか無いな。
まあでも俺のスキルを持ってすれば達成できるらしいので頑張るか!
「では二階に上がってくれ。説明を行う。」
そう言われ俺達はカイエンの後ろについて行き、応接室へと入る。
「ススム、まずはこれだ。受け取れ。」
そういってカイエンから直接手渡されたのは紛れもない銅級の冒険者証だった。
「うわー、すごい!感激だなあ。」
「お前の実力は知っているがくれぐれも慢心しないように。」
「ええ。そのつもりです。」
俺は早速鉄級の冒険者証を返還し、銅級の冒険者証を首から下げる。
いやっふー!これで初心者卒業だ!
「ではこれより商業ギルド及び錬金術ギルドより依頼についての話がある。」
「はい。」
「ではまず私から!錬金術ギルドからの依頼はいつもどおりの採取だよ!ただ物が違うんだよね。」
そう言ってマリリは机に一枚の羊皮紙を広げる。
「採取してきてほしいのはこれなんだ。素材の名前は『朝露のセージ』。主な用途は石化の呪いを解くために必要な薬『灰石還しの秘薬』の材料なんだ。」
「初めて見る薬草ですね。」
「それはそうだろうねえ。本当に手に入りにくいし。」
「大まかな場所はわかってるんですか?」
「勿論!ただ本当に厄介な場所にあるから気をつけてね。主な場所はここ。『風化石の荒野』って呼ばれる場所なんだけど、ここは大岩蛇の生息地なんだ。」
それを聞いたカイエンが思わず声を荒げる。
「おま!?風化石の荒野だと!なんてもんを依頼してるんだ!」
「え?だって銀級以上の依頼でいいんでしょ?なら今回の依頼は銀級以上になるじゃないか。私何か間違った?」
「確かに銀級以上だが、この場所は冒険者ギルドなら銀級の『パーティ』以上だ!」
「銀級のパーティ以上ってことは単独だと・・・。」
俺が思わず聞くと「四角銀級以上になるねえ。」とさらっとマリリが返してくる。
俺今日鉄級卒業したばっかなんですが!?
「はあ、ススム悪いことは言わん。今回のは断ってもらってもいいぞ?」
うーむ、どうしたものかな・・・。
流石に今の装備類では分が悪い。
そこにフォレスが気まずそうに話しかけてくる。
「お話中失礼します。実は私も似たような難易度の依頼でして・・・。問題があるようなら変えますが・・・。」
「な!?」
「なんか、マリリさんとフォレスさんの話聞く限り、カイエンさんの説明が悪かったんじゃないですか?」
「俺のせいなのか!?」
俺は一応フォレスの話も聞くことにした。
「フォレスさんの依頼はどういったものだったんですか?」
「ええ、実はとある物の奪還です。先月、商業ギルドのキャラバンが運悪く盗賊たちに襲われ、荷を奪われてしまったんです。ですのでその荷の奪還が依頼です。ちなみに鍵付きの頑丈な箱に入っているので売ることも出来ず、恐らくまだ盗賊たちが持っているものと思われます。」
「それも銀級『パーティ』以上の依頼だ!!」
カイエンがそう言っているがやはりどうやらカイエンの伝えたニュアンスが悪かったようだ。
「カイエンさんは恐らくお二人に『銀級以上の難易度になる依頼』を依頼したんですよね?」
「ああ。そのつもりだ。」
「ならお二人の依頼はあってるじゃないですか。銀級の『パーティ』が目安でも立派な『銀級以上の難易度になる依頼』じゃないですか。完全にこちら側の落ち度ですね。」
カイエンがなにか言いたそうな顔をしているがまあ良い。
俺の腕を試すチャンスでもある。
「フォレスさんの依頼品を持っている盗賊たちのねぐらはわかっているのでしょうか?」
「ええ、勿論。位置的には風化石の荒野にあります大昔の炭鉱の跡がねぐらになっているようです。」
「なるほど。わかりました。お二人の依頼はお受けします。ただし条件があります。」
俺がそう言うとカイエンは流石に呆れきったのかもう何も言ってこなかった。
「ほう。条件とは?」
「当然ですが今回の採取と討伐を含む可能性がある奪還をするにあたり各種装備品などがいります。ですので僕が今預けている薬草類を可能な限り買い取ってもらって、それを準備資金にしたいのですが?」
「準備資金ですか?それは、ススムさんが考えずとも私たちが手配いたしますが?」
「へ?」
「馬鹿かお前。指名依頼という特殊な依頼なら当然その報酬も特殊になるに決まってるだろう。まずは『準備金』、そして『報酬金の頭金』、そして完了後の『完了報酬金』だ。」
な、なんだってーーー!!
まさかそんな至れり尽くせりな依頼になるとは思ってもいなかった。
真面目な顔してカッコつけた俺が馬鹿みたいだ。
「ススムさんらしいですね。ちなみに準備しようとしていた物品はどの様なものになりますか?物によっては私の方で手配できますが。」
「あ、薬が必要なら私からも提供するよー。」
「ちなみにそれって・・・、依頼完了後に返却したりする制度だったりします?」
「あはは。私たちはそんなにケチでは有りませんよ。これは依頼に対する正当な報酬の一部になります。」
「だねえ。依頼完了後に余って不要になった薬品は売却してもらって報酬に上乗せしてもらってもいいしねえ。」
神!!ここに二人の神様がいた!!
「是非やらせて下さい。あ、そうだ。準備したいものに『地図』があるんですがこれも用意してもらえますか?なにせ僕は土地勘がまるで無いもので。」
「そうですね。地図そのものを渡すことは正直難しいですな。なにせ軍事機密扱いレベルのものですので。」
「やはりそうなんですね。」
予想はしていた。
現代地球において地図はスマホ一台で擬似的な旅行が楽しめるほど詳細な地図が手に入るが、ことこういった中世レベルの時代においては、戦時における最重要の情報源となるため、地図の価値は最高機密レベルになる。
「ですが、当然何もなしというわけにも行きませんので簡易的なものでしたらお渡し出来ます。」
「それでも十分です。ありがとうございます。ちなみに依頼達成期間などの時間制限はありますか?」
「それについては私の方は少し早めに欲しいかな。なので素材回収後に即時私の手元に届くように道具用の転移陣の魔道具を渡すね。」
「そうですね。でしたら私の方も同じ物を用意しましょう。その方がススムさんも帰りは安心して帰ってこられるでしょうしね。」
「それは非常に助かります。やり遂げるだけやり遂げて、帰りに紛失しましたじゃ笑えませんからね。とりあえず先に『朝露のセージ』の情報が書かれている羊皮紙貸してもらっていいですか?すぐにお返しします。」
「それはカイエンさんが仰っていた道具を発見しやすくなるという珍しいスキルですかな?」
あ、そういう風に伝えてたのね。
まあ俺自身【ハックアンドスラッシュ】については伏せてる部分も多いし、何より俺自身知らないことがほとんどだろう。
「ええ。少々お待ちくださいね。」
そう言い俺は一通り羊皮紙に目を通す。
すると当然ながら情報が集まったことで素材の【マーキングシステム】が発動するのでこれを登録すれば完了だ。
「ありがとうございました。これで大丈夫です。」
「「「えっ!?」」」
一同が声を合わせて驚いていた。
「え?」
「いや、お前そんな早く情報の解析が終わるのか?」
「ええ、まあ・・・。」
「なんと・・・!」
「羨ましいスキルだなあ。」
どうやら俺の能力はかなりの異端らしい。
ま、しょうがないよね。
女神が急造したものだし。
「あはは。とりあえず必要なものなどは一旦宿屋に戻ってリスト作ってきますね。」
「ええ、承知しました。」
「在庫あるものならその場で渡しちゃうねー。無ければすぐに作れると思うよ。なんせお陰で素材は潤沢だしね。」
「ありがとうございます。」
そう言ってこの場は解散となる。
「ススム、本当に大丈夫なのか?確かに俺の落ち度だが無理はしないでも良いんだぞ?」
あ、落ち度だってわかってるんだ。
まあそれがわかってくれてるなら水に流そう。
「勿論僕とて最初から負ける戦には手を出しませんよ。まあ上手く準備出来るか次第ですけどね。あ、ちなみにお聞きしますが、あの二人にはこの短剣のことは?」
「流石にその情報は重すぎる。言ってねえよ。知ってるのは俺とセリーヌだけだ。」
「わかりました。ちなみになんですが」
「なんだ?」
「【呪われた装備】を専門に扱ってる装備屋さんだったり市はあったりしますか?」
「は?」
流石にこの質問は想定してなかったらしい。
カイエンがポカーンと呆気にとられていた。
「あ、知らないなら良いです。フォレスさんに聞きますね。」
「・・・そうしろ。」
さて、これから準備を急がなくては!!




