【第15話】秘密の公言
俺の足取りはいつも以上に重い。
ああ、まさか今回手を出してしまったのが自分の等級からははるか格上な四角銅級、しかもパーティ単位だったとはなあ・・・。
「さ、着いたぞ。大丈夫か?顔色が大分悪いが?」
パーティリーダーのネビルが俺の顔を見て心配してくれた。
「あはは・・・。大丈夫ではないですが大丈夫です・・・。」
「なんだか良くはわからんが、まあ報告はさっさとやっちまおう。」
ネビル達に腕を捕まれ冒険者ギルドへと入るとやはり鉄級の人間が四角銅級のパーティに引っ張られているのが異常なのか、何やらやらかしたのではないかという噂があちこちから聞こえてきた。
「おい見ろよあれ!鉄級の腕掴んでるのネビルじゃねえか!」
「ああ、きっと奴はやらかしたんだろうな。」
「ギルドからの追放とかいうめちゃくちゃレアなのが見れるかもな!」
等など言われ放題だった。
「まあ、何を言われようが気にするな。お前はやるべきことをした。胸を張っていろ。」
ネビルはそう言ってくれるが気が重い。
ちらっと受付を見るとセリーヌが頭を抑えて「やっぱしやらかしたか。」と言ったような表情をしている。
受付にて「報告したいことがあるので、場所を取ってくれないか?」とネビルが開口一番言ったことで更に外野がガヤガヤとうるさくなる。
セリーヌがそれを聞くなり「わかりました。2階へどうぞ。」と昨日の応接室に案内される。
応接室に案内されるなり俺は隅っこの方で小さくなっている。
ネビル達はここに来たのは初めてだ!とかなりはしゃいでいるが俺は昨日ぶり2回目なのだ。
どういう展開があるかはわかりきっていた。
ガチャ!っとドアが開くなりカイエンが突進してくる。
「またお前か!新人!!」
「はい・・・。すみません・・・。」と答えているとネビル達は何事かと黙りこくってしまった。
「まさかお前、ギルマスと知り合いだったのか・・・?」
「はい・・・。」
「全くお前ってやつは昨日の今日でやってくれる!!」
カイエンがそう言い放ったことでネビル達は俺のことをとんでもない問題児だと認識したようだ。
「なっ!?冒険者になって2日目とか言ってたが、初日からギルマスに叱られるような問題児だったのか!」
「庇ってやって損した!」
等などこちらも非難轟々である。
正直泣きそう。
「さ、マスターも来ましたし、ネビルさん。報告をお願いしてもいいですか?確か今日は四角銅級パーティ以上の討伐依頼ではぐれオークの討伐でしたよね?」
「はい、セリーヌさん。確かに報告はその件です。」
「昨日冒険者になったばかりの『鉄級』のススムさんがここにいるというのも関係してるんですよね?」
「やはり昨日冒険者になったばかりなんですね。その通りです。」
「では詳細をお聞かせ下さい。」
そう言って今回、対象となっていたはぐれオークは討伐されたが、倒したのはネビル達のパーティでは無く鉄級で昨日冒険者になりたての俺が倒したが、その詳細な報告を自分たちにしないので上で判断して欲しいと伝えられる。
「ほお・・・?四角銅級パーティ以上の獲物を鉄級のコイツがねえ・・・。しかも詳細な報告をしないだと・・・?」
明らかに殺気立っているカイエン。
セリーヌも呆れ返ったのかいつもの笑顔が消え真顔になっていた。
ひいいーーー!!
「セリーヌ。」
「はい。」
「!?」
カイエンがセリーヌの名を呼んだ瞬間セリーヌは即座に反応し俺に縄をかけて捕縛されてしまった。
流石は副ギルドマスターというだけあって一瞬のことで自分でも何が何やら理解できなかった。
「ついでに猿轡もしとけ。」
「んーーー!!!」
俺は完全に犯罪者のような扱いになり、はぐれオークの死体を見聞するということで今度は訓練場へと連行される。
ぞろぞろとギルドマスターに続き副ギルドマスターが俺を捕縛した形で連れ歩きそしてその後をネビル達パーティ一行が着いていくという明らかに異常な光景であり、しかも訓練場には立入禁止の札が立てられる。
それを見た他の冒険者達はあまりの異常な光景に静まり返っていた。
「見なかったことにしよう。」
「そうだな、俺達は何も見てない。」
「さあ、ここならオークの死体を出せるだろう。ネビル見せてみろ。」
「はい。」
カイエンの指示でネビル達パーティが所有していた収納鞄より出される丸焼けになったオークの死体。
「こいつは・・・。本当にお前らは何もしてないんだな?」
「はい。そもそもうちのパーティには火属性の魔法使いはいませんから。」
「・・・。そうかご苦労だった。お前たちは帰って良い。それとこれについては箝口令を敷く。何も喋るな。良いな?」
「か、箝口令ですか?」
ネビルが滅多に出ないその命令対象に自身達がなってしまったと衝撃を受けていた。
「良いな?」
「・・・わかりました。おい、引き上げるぞ。」
そう言いながらネビル達パーティ一行は引き上げていき、この訓練所にいるのは俺、カイエン、セリーヌの三人になった。
「セリーヌ。」
「はい。」
カイエンが合図をしたことでようやくセリーヌが縄をほどいて解放してくれる。
「ひ、ひどいじゃないですか!」
「阿呆が。それだけの事態だってことだよ。」
昨日よりも更に迫力が増すカイエンに静かな表情でこちらを見つめているセリーヌ。
これは本格的にやばいと本能が叫んでいた。
「こっからは嘘も騙しも無しだ。冒険者規約に準じて全てを嘘偽り無く話せ。嘘偽りがあると判断された場合は即時お前は冒険者登録を剥奪され、場合によっては軍に委ねられる。わかったな?」
どうやら本気らしい。
「わかりました。話す相手が貴方達なら僕も信用出来ます。嘘偽りは言わないので信じて下さい。」
俺は真剣な眼差しでカイエンを見返し、事の顛末を話す。
「ということは本当にお前がこいつをやったっていうのか?どうやって?俺の見立てではお前レベルまだ1か2じゃないのか?ファイアボールとは言え何故そんな3発も連射できる?それに3発じゃ俺の経験的にこうはならないはずだ。セリーヌ。どう思う?」
「同意見ですね。ススムさんはこの冒険者ギルドに来て初めて魔法使いになったはずです。・・・そう言えばたった一日、それも一回魔法を見ただけで使えるようになったと、魔法指導教官が言っていましたがあれは本当だったんですか?」
どうやらあの一件は魔法指導教官の戯言だということで処理されているようだ。
「それも事実ですよ。僕はあの時初めてファイアボールを見て、そして1回で使えるようになりました。」
「・・・。この目で見なければやはり信じられんな。あの的を目標に、今回このオークを仕留めたように再現してみろ。」
カイエンからそう言われたので俺はオークを倒したときのように魔法を再現した。
当然だが、詠唱は25%カットしたものだし2発目は走りながら詠唱し、発動して見せ、そして更に間髪入れずに3発目を叩き込む。
標的とされたものは見事に消し炭になっていた。
その光景にカイエンもセリーヌも呆気にとられていた。
「う、嘘だろう・・・。俺は夢でも見てるのか?」
「マスターが見てるものが夢なら私が見てるものも夢ということになりますね・・・。」
「これで僕の言ってることが信用できましたか?それに初対面だったネビルさん達に詳細を伏せた理由も。」
「お前、本当に何なんだ?昨日の採取能力と言い、今日の戦闘能力といい、本当にズブの素人なのか?」
「はい、数日前まではただの一般人でしたよ。・・・ただ僕には変わったスキルがあるんですよ。これは誰にも言わないでください。貴方達だから言うことですので。」
俺は今後活動していくうえで【ハックアンドスラッシュ】の簡単なスキル説明を言わない限り、上手く立ち回れないと判断し、公開して良い範囲で話すことにした。
「お二人は【ハックアンドスラッシュ】というスキルはご存知でしょうか?」
「【ハックアンドスラッシュ】・・・?」
「聞いたことがないスキルですね。」
「僕の異常な採取能力やこの戦闘力はこのスキルのお陰です。これを見てもらっていいですか?」
俺が先程の再現をしていた時に手に持っていた【呪われた】銅の短剣を見せる。
「ああ、それは俺も気になってた。なんで魔法使いなのに短剣を持っているのか。」
「私もです。見せていただいても?」
「ええ、どうぞ。」
そう言い俺は短剣を渡すとやはり皆と同じ様な表情をし短剣を手放した。
「お、お前!?これがどういう物かわかっているのか!!」
カイエンから冷静さは完全に消えていた。
「理解しているからこそ装備してるし、『使いこなしている』んですよ。僕のスキルでこの皆さんは【呪われている】という文字が何を書いているのか理解できるのです。」
「なっ!?」
二人が絶句している。
それはそうだろう。
今までの二人の冒険者としてやってきた経験が全て裏返る瞬間だからだ。
「ちなみにこの短剣の【呪われた】部分にはファイアボールを使用した瞬間MPが回復すると書かれています。ですので僕はファイアボールを連発することが出来るのです。ちなみに魔法詠唱についても【ハックアンドスラッシュ】が補助してくれていますので、決して僕は詠唱を失敗することは『100%』有りませんから。」
二人は本当に未知の存在に会ったのだろう。口をパクパクさせて何も言えないでいる。
「これで十分ですかね?ちなみにこのスキルのことを知っているのはお二人だけです。箝口令を敷いてくださるのですよね?それなら非常に好都合です。」
俺は言うことを選びながらも言い切ったので非常に満足していた。
「・・・。本当に俺達しか知らせてないスキルなんだな?」
「はい。」
「俺達に対し敵対心などは?」
「なんでそんなものがあるんです?あるわけ無いじゃないですか。今後一生をお世話になろうと思ってたギルドなのに。」
カイエンは目をつぶり考え出す。
「わかった。セリーヌ、この事は箝口令をお前にも敷く。決して言うな。場合によっては・・・。」
「わかっています。『戦争の火種』になりえますね。ススムさんもそう理解して下さい。人知を超えた力は人を簡単に争いへと導くのです。そうなってしまったら私たちでも庇いきれませんので。」
セリーヌからこの世界の現実を真正面から突きつけられ背筋がゾワッとした。
そうか、場合によっては俺は『人間兵器』になりかねないんだな。
確かに地球でも過ぎたる力はいつも戦争の火種になっていた。
気をつけねばなるまい。
「わかりました。その怖さは理解しているつもりです。ご忠告に感謝します。」
「ああ。それと今回のオークどうする?」
「目立ちたくないのでそちらで処理して下さい。」
「了解した。その方が得策だろう。だがそうだな・・・。早めに等級を上げてしまったほうが良いのかもしれん。」
言ってることにチグハグ感を感じ俺は理由を聞く。
「何故ですか?有名になると非常に危険な存在なのに等級を上げる必要性は?」
「逆だよ。有名になればなるほど、逆に国としては囲い込みにくくなる。特に冒険者ギルドは各国に存在しながらも完全な独立した機関であって、どの国に対しても平等中立だ。そうなれば当然お前の名は高ければ高いほど逆に利用できなくなる。」
そういうことか。自身の等級の高さや名声が自身を守る抑止力になるのか。
「なるほど・・・。抑止力ですね。理解しました。」
「お前がわかるやつで良かった。お前今日は採取に出たのか?」
「はい、実は既に採取は終わっていて、昨日と同じくらいの収穫量はあります。」
それを聞いたカイエンとセリーヌの顔が引いていた。
聞いてきたくせにそんなに引くなよ。
傷つくだろう!
「だが、まあ良い。それを逆に利用させてもらおう。」
「と言うと?」
「本来ならば鉄級は初心者の冒険者を守るための試用期間だ。だが、それに当てはまらないと副ギルドマスター以上が判断する場合、特例で階級を2個上げることが出来る。つまり最大で銅級まで一気に上げることが出来る。」
「ふむ?」
「それに加え、錬金ギルドか商業ギルドに協力してもらってお前に『指名依頼』を出してもらう。それも難易度が高めのな。」
「『指名依頼』とは?」
「極稀に依頼主が受注する冒険者を指名して行われる依頼だが、当然通常よりも難易度が高かったり、報酬が文字通り桁違いになる可能性がある。」
「それを僕が受け、誰から見ても攻略失敗するだろうという難易度に設定するというわけですね。」
「ああ、だが今のお前ならまず間違いなく完遂出来る。あくまで不可能と思われる難易度は俺達の定規に当てはめればの場合だ。お前はその定規に既に当てはまらない。」
なんかちょっと人外的な嫌な言い方だなと思ってしまう。
まあ、でも実際【ハックアンドスラッシュ】の能力はそのレベルなんだろうとは自覚はある。
「無事にその依頼をそうだな、2件達成しろ。そうしたらお前を商業ギルド、または錬金ギルドの副ギルドマスター以上の権限も使い連名で特別に更に2階級上げる。つまり銀級になる。銀級にもなれば余程の馬鹿じゃない限り手は出しづらくなるさ。」
「権限の濫用みたいに見えませんか?」
「それだけの実力者ってことだよ。問題はない。文句言うやつがいるならそれこそお前の階級と力でねじ伏せてやれば良い。冒険者ギルドはそういう所だ。」
そこまでカイエンが支援してくれるならこちらは断る理由もないだろう。
「わかりました。タイミングは全てそちらにお任せしても?」
「勿論だ。根回しがいる。しばらくは今まで通り薬草類の採取に励め。その方が冒険者ギルド的にも商業ギルド的にも、錬金ギルド的にも助かるからな。ああ、それと昨日の話し合いの後商業ギルドと話し合って決めたんだが、お前が持ってきた薬草類は今後冒険者ギルドでは無く、商業ギルドに持っていけ。直接時間を止める収納鞄に入れてこい。その方が目立たないし手間もかからないからな。」
言われてみればたしかにそうだ。その方が手間は圧倒的に少なくなる。
「わかりました。では早速今日の分から入れてきますね。」
「では以上だ。」
早速俺はその足で商業ギルドへ向かった。
「で、どう思うよ。副ギルドマスターさんよ?」
「あれしか無いでしょうね・・・。正直脅威ですよ。」
「だよな。あれは間違いなく今後もトラブルになるぞ・・・。」
「もう副ギルドマスターの地位返上していいですか?」
「阿呆か。俺が隠居してえ位だ。」
「そうですよね・・・。」
「「はあ・・・。」」
「ぶえっくしょい!コンチクショー!!」
誰か俺の噂でもしてるのか?
いや、噂はもう散々なんだが・・・。




