【第12話】5者面談
「ススムさん、こちらへどうぞ。」
セリーヌにそう案内され通された部屋は客間のような部屋だった。
「お掛けになってお待ち下さい。今ギルドマスターが来ますので。」
「えっ!?ギルドマスターですか!?」
あまりの大物の登場予告に俺は思わず声を荒らげた。
「はい。ギルドマスターです。」
セリーヌの笑顔が非常に怖い。
暫くすると、そのギルドマスターが現れた。
「おう、入るぞ。」
僕は思わず立ち上がる。
「あ?構わん座れ。」
「はい!」
あまりの緊張に動きがカクカクになる。
「はあ、お前か。俺の平和な時間をぶち壊してくれた新人ってのは。」
ギロリと睨まれる。
この人めっちゃ怖い!!
「それよりギルドマスター、自己紹介ぐらいしたらどうですか?」
何故かギルドマスターなのに一受付嬢に怒られている。
「・・・。はあ。俺はこの冒険者ギルドのマスターでカイエンという。ちなみにこっちは知ってるかもしれないが副ギルドマスター兼受付のセリーヌだ。」
な、なんだってーー!!
「セリーヌさん副ギルドマスターだったんですか!?」
「ええ、一応ですが。」
そう言ってセリーヌはにっこり笑っている。
「で、セリーヌ。こいつが何だってんだ?冒険者ギルドが壊れるかもしれないとか言ってたが?まるで意味がわからん。」
「ギルドが壊れる・・・ですか・・・?」
「そのままの意味ですよ。カイエンさん。さ、ススムさん。『今日の成果』をここに全て出して下さい。」
「はい・・・。」
そう言われ俺は渋々と収納鞄に手を突っ込みまずはHP回復効果(小)の薬草を出す。
もさぁ
「なっ!これ全部スウィーレ草か!?」
「はい。」
「一体何枚あるんだよ!!」
「34枚です・・・。」
「さ、34枚だと・・・!?」
席からカイエンが飛び跳ね驚愕していた。
そしてそれを横目にセリーヌは淡々とHP回復効果(小)の薬草、正式名称スウィーレ草をひとまとめにして置いていた。
「さ、ススムさん。次をどうぞ。」
にっこり笑っているセリーヌの顔がやはり怖い。
「ちょ、ちょっと待った!!次だと!!次があるのか!?」
「あ、はい・・・。」
そう言われ俺は淡々と薬草類を出してはカイエンが驚き、セリーヌが怖い笑顔で片付けというループを4周ほどした。
「以上です・・・。」
俺はそう言うが、カイエンはもう気がおかしくなったのか窓の外を見ながら立ち尽くしていた。
「ではこれで全部と言うことで全ての結果をまとめたのがこちらになります。ご確認くださいね。マスター。」
笑顔なセリーヌが手早く書き留めたメモ紙を現実逃避しているカイエンの手に握らせている。
今回の収穫結果は以下の通りだ。
スウィーレ草:HP回復効果(小)=34枚
ラナン芽草:解毒効果=27枚
クレアブルーム:MP回復効果(小)=30枚
ソルネ草:麻痺回復効果=29枚
エーデルロート草:HP回復効果(中)=20枚
カイエンがメモ紙を見た途端口から白目をむき、口から魂が出ていったのを確認した。
バチーン!
それを見たセリーヌがカイエンをビンタしてこっちの世界に引き戻した。
「しっかりしてくださいね。マスター。」
「俺は夢でも見てるのか?」
「もう一発必要ですか?」
「いや、いい・・・。どうしたら良いんだこれ・・・!!!」
「さあ?それを考えるのがマスターの仕事でしょうから。」
そう言いセリーヌは考えるのをやめたらしい。
「あ、あの・・・」
俺は居た堪れない気持ちになり、思わず聞く。
「やはり、これだけの数まずかったでしょうか・・・?」
「まずくねえよ!大助かりだよ!ふざけんな!!」
怒っているのに助かったと言っている。
「あのなあ!どうやったら冒険者なりたてのやつが半日でこんなに集められるんだよ!?」
「が、頑張りました・・・。」
「頑張ってどうにかなるならこちとら困ってねえんだよ!!」
何だこのやり取りは・・・。
「先程も言ったように1日掛けて、『運が良くても』数枚程度の収穫でそれでもギルド内で有名になるぐらいのものなんですよ。」
「ゆ、有名にですか・・・?」
まずい!!それなら明らかに桁が2つは違うこの枚数はまずすぎる!!
「はあ、本当にどうやって捌いたら良いんだこんなの。」
ああ、何をそんなにこまってるのかと思ったら業者に引き渡す際の方法か。
俺はそっと挙手をする。
「はい。ススムさん。」
なぜかセリーヌに声を掛けられる。
まあマスターのカイエンがあの様子では仕方ないだろう。
「この材料を使って薬にする、調剤かもしくは錬金と言った様なギルドなどはあるんですか?」
「ありますね。錬金術ギルドがそうです。」
「ではこの取引の流れに商業ギルドは介入しますか?」
「しますね。主に薬草類の仕入先は2種類あります。冒険者ギルドの依頼を通し、商業ギルドが買取、そしてそれを錬金術ギルドに卸すという方法が1つ目で、今回のケースになります。」
「2つ目は?」
「一個人が旅の商業ギルド員に売ったり、もしくは直接商業ギルドに持ち込みをして買い取ってもらい、それを錬金術ギルドに卸すという方法の2つになります。」
「なるほどです。」
うーん、と考え俺は思い切った案をだした。
「この際なので商業ギルドと錬金術ギルドも巻き込んでしまいましょう。」
「は?」
カイエンがポカーンとした顔で俺を見ている。
「一度に処理しようと思うから駄目なんです。ならば取引先になる商業ギルドと錬金術ギルドを巻き込んで調整しましょう。」
「なるほど!セリーヌ、お前は商業ギルドだ。俺は錬金術ギルドに行ってくる。」
「はい、行ってきますね。ススムさんはお茶でも飲んで休憩してて下さい。」
二人の行動は風のように早かった。
しばらく後、まずはカイエンが一人の女性を連れてきた。
「ふう、待たせたな。」
「ひぃ!ひぃ・・・!一体何なんですか・・・。」
「あの、ギルドマスター。そちらの女性は?」
「ああ、錬金術ギルドマスターのマリリだ。」
あ、この人マスターだったんだ・・・。
「ご、ご紹介をうけました・・・げほおへ!マ、マリリと申します・・・ゲホオエッ!」
「とりあえずお茶でもどうぞ・・・。」
そう言ってマリリにお茶を渡すとゲホゲホむせながらもぐっと飲んでおかわりしていた。
その後あまり時間を経てずにセリーヌさんと見知った顔の人物が入ってくる。
「お待たせしました。」
「とても良い取引があると聞いたので飛んできました。おや?ススムさんではないですか。」
「こんにちは。フォレスさん。あれでもなんで個人商店主のフォレスさんが呼ばれたんです?」
「ああ、あの店は私の趣味でやってるものですよ。本業は一応商業ギルドのマスターです。」
な、なんだってーーー!
なんとフォレスはこの街の商業ギルドのマスターであの店は個人でやってる趣味だという。
どんだけ仕事大好きなんだ!
「ふふ、早速私とススムさんに御縁があったようで何よりです。」
「ええ、そうですね。」
「よし、各人揃ったな。まずはこれを見て欲しい。」
カイエンがそう言いながら自室に移動し一時保管していた薬草類をもさぁと机いっぱいに広げる。
「こ、これは・・・!」
「お、お宝の山だー!!」
フォレスはゴクリと唾を飲み込み先程まで吐きそうにしていたマリリは目が輝いていた。
「こんなに沢山の薬草類一体どこで・・・?いやまさか、ススムさんですか?」
フォレスの勘は鋭かった。
「あはは。」
「いやはや驚きました。私、人生で色々な商いに携わり、今の椅子に座ることになりましたが、ここまでの衝撃は初めてかもしれません。」
え?そんなに?
「私もこんなに素材の山を見たの初めてだ!わー、嬉しい!」
え?そこら中に生えてたけど・・・?
「まあ、そういうことだ。でススム、ここからどうしたらいいんだ?」
なにがそういうことなのかはわからんがまあ良い。
「今回突然お二人に来てもらったのは他でもなく、今後のこの薬草類の処理の仕方についての相談があって来ていただきました。」
「ほお?お聞きしても?」
「はい。まず確認なんですが、皆さんの表情を見る限り、この薬草類はとても希少で金額もかなりのものになると考えていいでしょうか?」
「失礼しますね。」
マリリがそう言いながら薬草を1枚手に持ちじっと見ている。
「これは素晴らしい!痛みもまったくない上物だよ!これ1枚でポーション15個、いや20個は作れるかも!!」
「え?ポーションって薬草1個でポーション1個じゃないんですか?」
俺は衝撃の言葉を聞いたので思わず聞き返す。
「違うよ!確かに作業工程で原液を作るけど、それを薬草の品質に寄って薄めるんだよ。原液のまま使ったら毒になっちゃうからね。」
「そうだったんですね。初めて知りました。」
「続きは?」
カイエンにぎろりと睨まれる。やっぱこの人怖いよ!!
「あ、はい。それでなんですが一度にこの量を引き取ってもらうのは商業ギルド的にも錬金術ギルド的にも悪影響があると思うんです。」
「理由は?」
カイエンが急かすように聞いてくる。
「まず冒険者ギルドから商業ギルドへ売りさばく際、報酬が時価となっていたので正確な価値がわからないのですが、これだけの量を一気に納品するとなると相当な金額を商業ギルドが用意しなくてはいけないというのがまず1点目。そして2点目が重要なんですが、時価ということは一度に大量に卸してしまうと値崩れが起きますよね?そうなるときっと薬草を積むことで生計を立てている人に対して大打撃になるはずです。」
「流石ススムさん。やはり貴方は商人向きの方ですよ。その通りです。」
「やはりそうなんですね。これが固定の値段で定まっているのでしたら問題はなく、一気に商業ギルドへ納品しても問題はなかったと思うのですが、時価というのが大変気になっていました。これは需要と供給の関係上、時価にせざるを得なかったということですよね。」
「それも正解です。」
俺は頷き一つで次に錬金術ギルドに話をする。
「錬金術ギルド的にはこれだけの薬草類を見て、マスターが直々にお宝というほどのものだということがわかりました。ですがこれを一気に買い取るだけの予算がないのではないですか?」
「ギクー!そ、その通りです・・・。欲しいのは山々ですがこれらを一気に商業ギルドから買い取るだけの予算が有りません・・・。」
「ですが、ポーションの人気は高く、作れば売れるのは間違いなく、そして売れれば当然そこから予算が取れる。で、合ってますかね?」
「そ、その通りですー!」
「一つ確認ですが、薬草類について消費しなければいけない期限などはありますか?」
「それはありませんな。商業ギルドで保有しております、時を止める収納鞄を使用すれば今の状態のまま、保存することが可能です。」
やっぱりあったか、時間に干渉する収納鞄。
これも良い情報が取れた。
「その時を止める収納鞄を利用する際に保存料金は発生しますか?」
「そうですね。発生はしますが、この程度の量でしたらば差して大きな金額にはならないかと思われます。」
「でしたら一旦この薬草類、全てを商業ギルドで買い取るのではなく『預かって』頂けませんか?」
「ほう?流れを聞いても?」
よし、この感じなら不可能ではなさそうだ。
「単純な話、先程の件ですが、買い取ってしまうから問題が発生するのであって、預かってもらうならば問題は発生しないはずです。」
「そうですね。」
「ですので流れとしてはこうです。最初にこの薬草類を商業ギルドに預けます。次に錬金ギルドが欲しいものを商業ギルドに申請します。その際に初めて金銭のやり取りを発生させます。商業ギルドは時価の金額から保存料金の手数料を差し引いた金額を算出します。そこから冒険者ギルドの本来の取り分を冒険者ギルドへ納金します。次に冒険者ギルドは受け取った金額から、僕への報酬をその都度設定している時価分を支払います。その後はいつも通り、商業ギルドと錬金ギルドで取引をしてもらい商業ギルドは売った分の金額を手に入れ、そして錬金術ギルドは欲しかった素材がいつでも手に入れる事ができる。と言った流れです。」
「ふむふむ・・・、なるほど。この流れを維持できれば冒険者ギルドはいつものように商業ギルドへ卸すときの手数料を受け取ることが出来るし、最初から保存の手数料を差し引いている額なので損は出ない。更に錬金ギルドも予算に合ったものをいつでも新鮮な状態で手に入れることができる。と、こういうことですかな?」
「はい。その認識であっています。ただしこれは商業ギルドが中心となって動く必要があるため、信頼取引が重要になります。」
そう、このシステムは中心が冒険者ギルドではなく商業ギルドになるため、商業ギルドが誤魔化しなどをすれば破綻してしまうシステムなのだ。
「それは問題有りません。商業ギルドのギルド加入者は、会員になる際強制的な『縛り』を付けております。特に信頼については強い縛りがありますので、これを破れば最悪命に関わりますからね。」
なんと、信用取引をさせるために命をかけるとは。これまた驚きなシステムである。
「冒険者ギルド的には問題はない。素材があるということはそれだけポーションの供給が多くなるということだ。こちらはむしろ歓迎する。」
カイエンが冒険者ギルドマスターらしいことを言っている。
「錬金術ギルドも問題有りません!むしろそこまで考えてもらえて、しかも今まではお金があるのに素材が無かったり、素材はあるのにお金がなかったりで不安定だったものがこちらの都合で素材の調達がいつでも出来るのは大変ありがたいことです!」
やはり錬金ギルドはその様な問題を抱えていたか。予想はついていた。
「商業ギルド的にも問題は有りませんが・・・。そうですね、ススムさん。本格的に商業ギルドへ入りませんか?」
「え?いや、僕は冒険者ギルドの人間なんですが。」
「いえ、ルール的には問題有りませんし、兼業している方も多いくらいですよ。」
そ、そうなんだ・・・。
「でもなんで僕が商業ギルドに?」
「簡単です。冒険者ギルドからススムさんへの報酬を渡す手間を省くためです。」
「へ?」
「例えばですが、短期間のペースで錬金ギルドが購入するとなるとその分冒険者ギルドとのやり取りも頻繁になって大変ですよね。」
「確かにそうかも知れませんね。」
「ですからススムさんには商業ギルドに加入してもらい、本来冒険者ギルドから支払われる報酬金は直接商業ギルドより振り込みをします。」
「振り込みですか?」
「ええ、商業ギルドの会員が持っている商業会員証は魔術具の一種で、遠方にいても金銭のやり取りが出来たり、貯金が出来たりする特別なものなんですよ。」
え、なにその便利機能。実質地球で銀行口座を持って、インターネット上で振り込みしてるようなもんじゃないか。チートだろ!
「そ、そんな便利な機能が・・・。」
「はい。それで冒険者ギルドには当然売上の手数料は渡しますが最初からススムさんの分は差し引いたものを、例えば毎月1回一気に納金すれば、冒険者ギルドとしても事務仕事が少なく済むはずですし、それにこうすればススムさんの事は内々に処理できるはずです。」
「そうですね。そうしていただければ事務仕事は大幅に減りますし、ススムさんへの噂も立たないかと思います。」
セリーヌがそう言うならそうなんだろう。
「僕の冒険者としての評価はどういう扱いになりますか?」
「それも月に一度、一気に査定してしまえば良い。評価査定だけならそれこそ内々の事だ。余程のことがない限り他人にバレることはねえよ。」
「なるほど。でもこれって例え商業ギルドに入っても商業ギルド的に旨味は無くないですか?実質手柄は冒険者ギルドのものになってるわけですし。」
実質銀行ATMとしての役割しか現状の話では見えてこない。
「それは単純明快です。ススムさんという脅威の人材が商業ギルド員として居てくれる。それだけで十分なリターンと言えましょう。」
なるほど、人材の確保か。
「わかりました。僕的には問題がないですし、僕が商業ギルドに入れば当然縛りが発生して、より強固に在庫の管理ができますし何より金銭やり取りが簡潔になるのはありがたいです。」
「ではその様にいたしましょう。細かい部分については各ギルド間で今日のまとめを文書化して連盟で記名し保存しましょう。」
「承知した。」
「助かりますー!」
こうして問題だらけに思われた薬草類の取引はなんとか着地点を見出すことが出来た。




