【第11話】レッツ草むしり!
冒険者ギルドに行くまでの間にホットドックもどきを平らげ、冒険者ギルドへと入る。
やはり、大分早かったようで依頼表はほとんどまだ張り出されておらず、冒険者ギルド内も色々と忙しそうだった。
うーむ、困った。
ここまで忙しそうだと逆に声を掛けづらい。完璧に勇み足だったか?
そう考えていた時、「おはようございます。」とセリーヌが声を掛けてくれた。
「おはようございます。いや、まだ早かったようですね。お邪魔でしたら端っこで開始時間まで待ってますので。」
「いえ、大丈夫ですよ。冒険者証ですよね?もう出来てますのでお渡ししますね。」
「助かります!」
「ふふ、新米冒険者さんはいつもこの冒険者証を受け取りに来る時間は早いですからね。」
やっぱり、いち早く手に入れたいと思って早めの時間に来る冒険者は俺だけではなかったようだ。
「こちらですね。ご確認の上問題なければこちらの受領書にサインをお願いしますね。」
「拝見します。」
そういい、手に取った冒険者証は新米冒険者が最初に手に入れる鉄級の証だった。
これがあれば街に出入りする際の税金は免除されるし、何より公的身分証になるのが大きい。
地球にいた頃も、ペーパードライバーだったが、身分証の代わりにと免許証を何年も更新し続けてたものな。
「ありがとうございます。サインはここでいいですか?」
「はい。」
そう言われ俺はサインをするとやはりこちらに来たときの能力、言語理解が発動し自然とこちらの世界の文字へと変換される。
「はい、確かに。」
そう言いながらセリーヌが受領証を受け取ると、小さなポーチバック程度の大きさのバッグを俺に渡す。
「これは?」
「これは所謂、収納鞄と呼ばれるものです。サイズとしては一番小さなサイズになりますが、立派な魔道具です。この収納鞄の容量は、今ススムさんが背負っている鞄くらいの内容量があり、これは新米冒険者さん全員に無償で提供しているものです。」
「無償でですか!?」
俺はあまりの太っ腹な冒険者ギルドの対応に驚く。
「ええ、この位の容量の収納鞄は比較的安価で、流通も多く、一般の方でも持ち歩いている様なものですので。」
「そうだったんですね。」
「ちなみにこれより大きな容量の鞄をお求めの際は各種商業ギルドか魔道具店でお求め下さい。ただしかなり値が張りますのでご注意を。」
そういえばあの◯◯女神が最初に収納魔法は一般的に流通してると言ってたな。これのことだったのか。
「では、手続きは以上になります。今日より本格的に依頼を受けてもらっても良いですからね。と言っても鉄級の依頼はほぼお決まりですが。」
「採取や手伝いですよね?」
「流石ススムさんですね。その通りです。通常の依頼表はまだですが、採取の依頼は常時張り出されている物ですのでご確認下さい。」
「ありがとうございます。」
俺は礼を言い、改めて冒険者証を見る。
うーむ、感無量。
これで自他ともに認める本物の冒険者になったわけだ。
「さて、依頼表はっと・・・。これか。」
『常時依頼表』
難易度:鉄級~
依頼内容:各種薬草類の採取
報酬金額:時価
備考欄:薬草1枚からでも受付可。なお複数枚持込の場合、種類や枚数によって報酬の上乗せあり。
なるほど。時価なのは面白いな。
確かに薬草のような常時消耗品となると固定の金額では流通が止まってしまう可能性があるために時価としているのだろう。
それに常時依頼として張り出されているということはそれだけ薬草の需要が高いということ。
だから1枚でも買取を行うのだろう。
夢を見る冒険者は一攫千金を狙い、高難易度の依頼を集中的に受ける。
そうなると当然怪我などが発生すればポーション類に頼らざるを得ない。
材料となる薬草が欲しいが、それを好んで採取する冒険者等が万年不足する。
なので常時依頼となる。
この堂々巡りが発生しているのだと考えた。
だが正直これは、予測していた範疇内だった。
なので俺は徹底的に最初から資料室で薬草類などの知識を叩き込み、それも【ハックアンドスラッシュ】の能力でタグの印をつけていたのだ。
「頑張るぞー!」
「いってらっしゃい。お気をつけて。」
セリーヌに見送られ、俺は人だかりができる前に早々に冒険者ギルドを抜ける。
少し歩けば薬草類が比較的生えていそうな森が比較的近い北門と呼ばれている門に付く。
「そこの君、街から出るなら税を払ってもらうぞ。」
番兵にそう言われたので、貰ったばかりの鉄級の冒険者証を見せる。
「なんだ、冒険者か?しかしその年で冒険者とは。まあいい、気を付けるんだぞ。」
「ありがとうございます。ご苦労さまです。」
やはりこの年で冒険者というのは遅咲きらしい。
殆どは成人年齢でかつ冒険者登録が可能になる13才~15才の間に冒険者になる為、俺のように外見20才位の大人が新人冒険者というのはかなりの異端なんだろうと思った。
まあ、だがそんなことは俺には関係がない。
やれることをやるだけのことだ。
「さてさて、っと・・・。薬草はどこかなー。」
そう言いながら目を凝らすと、通常ではありえない光景がやはり見えてくる。
なにもない筈の空間に、◯や△などの模様が浮いて見える。
それはまるでVRゲームでもやっているかのような感覚だった。
「おおー、これが【ハックアンドスラッシュ】の能力の素材のタグ付けかあ。」
実際に見てみると本当に不思議な光景だった。
早速そのタグ付近に行くと驚いた。意外とポツポツとタグ付けしていた薬草類が生えていたのだ。
「お宝の山じゃないか。ありがたく貰っていこう。」
そう言いながら最初の一枚をむしり取るとシステムメッセージが表示される。
【素材アイテム:薬草(体力回復:小)を取得した。】
なるほど、薬草の場合は薬草名では無くわかりやすく注釈でどういう効果なのかが出てくれるのか。
これはありがたい。
「そういえば折角だし収納鞄使ってみるか。と思ったがどうやって使うんだ?」
そう思いながら収納鞄に採れたての薬草を近づけると、まるで掃除機が物を吸い込むようにスポッと中に入っていった。
「はえー。収納鞄ってこんな感じなんだ。出す時は多分手を入れるんだろうな。」
そう思い手を突っ込んでみると不思議なことに、脳裏にこの収納鞄に何が入っているかがイメージできる。
そしてそのイメージしたものを掴みながら手を抜くと、あら不思議。
まるで本物の鞄から薬草を取り出したかの様だった。
「これは良いものだなあ。恐らくこの感じだと容量以内の大きさであればきっとどんなに大きな物でも収納できるようになるんだろうな。」
そうなってくると、やはり色々な装備だけにとどまらず調理用具や雑貨などを入れるために容量が大きな収納鞄は早めに欲しいところだ。
「うし、じゃあ軍資金稼ぐために頑張りますかー!」
俺は気合を入れ直し薬草むしりをし続けた。
途中で休憩を入れながら行ったが、昼までの間にかなりの量を手に入れることができた。
それに更に目を細めて遠くを見れば、やはりまだまだ薬草類のタグは続いている。
「嘘だろう?なんだってこんなに生えてるのに常時不足してるんだ・・・?」
俺は休憩がてら、背中の鞄に入れておいた竹のような木材を加工して作ったと思われる水筒を手に取り水を飲みながら考える。
「ふー。それにしても何でだろうなあ。需要と供給のバランスがあまりにもおかしいな。まさかあまりに安値で買い叩かれるから供給者がいないのか?いやでもそうするとこの世界のポーション類の販売は成り立たないよなあ・・・?」
うーんと考えゴロンと大の字になって寝転ぶ。
時折通り抜ける風が非常に気持ちの良い日だった。
「出発する前に時価でも値段調べておけばよかったなあ・・・。ん?調べる?まさか・・・!」
ガバっと俺は勢いよく起き上がり何故こんなにも需要と供給がアンバランスなのかを理解した。
「識字率が低いからだ。」
そう、恐らくはこの識字率の低さこそ、このアンバランスな需要と供給を産んでいる原因に違いないと思った。
当然だが、この世界では幼い頃から教育を受けるのはほんの一部の人間くらいだろう。
ましてや成人年齢が13才とかなり若い。
となると自然と教育をまともに受ける期間がないのではないかと考えた。
一般的に冒険者になる年齢は13~15才の間だ。
俺が今行っている薬草の採取は主に鉄級冒険者が担うが、一般的な鉄級冒険者は識字率が低いために資料室などで調べ物は滅多にしないだろう。
そうなれば当然薬草の見分けもつかない。
なので薬草の採取よりも仕事が明確な手伝いに集中し、それをこなしている内に鉄級から銅級以上へとランクが上がる。
そうなればより単純明快な討伐系に集中しだし、本来鉄級が担うはずの薬草の採取の供給が極端に減ってしまう。
恐らく銅級にもなれば自然と文字がなんとなく読めるくらいにはなっているため、冒険者業としてやっていけるのであろう。
「なるほどなあ。やはりそう考えると薬草は貴重品で間違いないだろうし、言語理解のスキルが有る俺はかなり冒険者としてアドバンテージは高いな。」
まあ、薬草の需要と供給の謎が解けた所で、今日の薬草むしりの仕事は切り上げても良いかもな。
なんせ一枚でも買い取ってくれる上に、複数枚でボーナスが付くんだ。
実はと言うと、この午前中だけで数種類の薬草類を各30枚以上は入手していた。
収納鞄の中は薬草類だけでもう容量がぱんぱんな状態だったのだ。
「よし、今日はこれで引き上げて、実際いくらになるか見てもらうか。」
ゆっくりと自然を満喫しながら北門へと到着すると朝に見送ってくれた番兵がそこにいた。
「ん?なんだ、お前。もう帰ってきたのか。まだ昼だぞ。もしや依頼失敗か?まあ鉄級の内は依頼失敗しても余程のことがない限りペナルティは無いから気を落とすなよ。」
等と勝手に俺が失敗した扱いになってるのが若干気に障った。
「あはは。番兵がんばってくださいね。」
社交辞令的に挨拶だけしてそそくさと冒険者ギルドへ向かう。
こういう所で気を使うのは人間関係で勘弁して欲しいところだ。
冒険者ギルドへ向かう途中、ある異変に気がつく。
「ん?あれはもしや・・・?」
そう、すれ違う人たちの手にあのホットドックもどきが握られ、美味しそうに食べている光景だった。
「あはは。あの感じじゃあ今日はアリス達は大忙しだな。」
俺も丁度お腹が空いてきた頃合いなので査定中にでも時間が出来ればなにか昼ご飯を食べようと思った。
冒険者ギルドに入ると昨日の朝ほど人は多くはなかったがそれでも人はそこそこいる様子だった。
察するに今日の仕事を上手いこと受注できなかった連中なのかもな。
下手に絡まれても面倒だし、あまり目立つマネはしないでおこう。
そう思いつつ、受付近くに行くとなんとセリーヌも他の受付嬢と共にあのホットドックもどきを美味しそうに食べながら座っていた。
ご飯食べながら窓口業務するのは良いんだ、と思ってしまったのは日本人の悪い癖だろうな。
「お昼ご飯の所申し訳ないです。今依頼の報告って大丈夫ですか?後の方が良いなら出直しますが。」
俺はそう言いながら受付嬢たちに声を掛ける。
真っ先に反応してくれたのはやはりセリーヌだった。
「あ、ススムさん。お帰りなさい。今でも問題はないですが。まさかもう帰ってこられたんですか?」
「ええ、一応。というか今日は皆さんで同じものを食べてるんですね。」
「ああ、これですか?実はススムさんが利用している食堂のアリスが新商品を作ったから買いに来て!とお願いされまして。それで折角なので皆で食べようと思ったんです。びっくりするぐらい美味しいのでススムさんも是非食べに言ってあげて下さい。」
「あはは。機会があれば。」
まあ、アイデア出したのは俺なんだけどね。
「それで今日の常時依頼の薬草ですが。」
「はい。薬草は1枚からでも大歓迎ですよ。それで今日は何枚ほど取れましたか?」
「え?『何枚』・・・ですか・・・?」
「ええ。鉄級の方が持ってこられる薬草は運が良くて多くても『数枚』ですからね。」
ドッキーン!!
その言葉に思わず脂汗が吹き出し、心臓が口から出ると思った。
「ススムさん?なにか問題でもあったんですか?」
「い、いえ・・・実は・・・。ちょっとお耳を拝借してもよろしいでしょうか?」
そう言い俺はセリーヌに小声で今日の成果を伝えた。
それを聞いたセリーヌが頭に?を浮かべている。
「あ、あの・・・。収納鞄なんですが他人のバッグに手を入れても内容物ってわかるものですか?」
「え、ええ・・・。一応はわかりますが。」
そう言われたので俺は静かに薬草でぱんぱんになっている収納鞄の口を開き差し出す。
意図がわかったのか、セリーヌは恐る恐る手を入れた瞬間、身体を硬直させる。
「セ、セリーヌさん・・・?」
「少々お待ちください。絶対にその中身ここで出さないでくださいね。」
そう言うとセリーヌが風のように後ろに下がり二階へと駆け上がっていった。
その様子を見た他の受付嬢が見たこともないようなセリーヌの様子になにかがあったんだろうと悟った様子だった。
すぐさま、セリーヌは俺のもとに戻ってきて二階の別室に案内される。
あははー。俺ってば初日でやらかしたっぽいなー・・・。




