【第10話】俺は【呪われた】短剣を装備した!
「本当に今日はありがとうございました。」
俺は新しい装備の鉄の腕輪をプレゼントしてくれたガルドンとジーニスに礼を述べ帰路につく。
彫金ギルドでは非常に有益な情報も得ることが出来たので大満足だった。
時刻ももう日が傾きかけていることから明日に備えるため今日は早々に宿屋に戻ることにした。
「いらっしゃ、ああ、ススム君か。お帰りなさい!」
そう言いながら宿屋兼食堂の看板娘のアリスが出迎えてくれる。
人付き合いは苦手だが、こういう少しの挨拶はされるとやはり気持ちがいい。
「ただいま帰りました。」
「夕飯の時間には少し早いけどどうする?」
「折角なのでいただきます。」
そう言い俺は昨日と同じ席である店の端に座る。
「また、そんなところに座ってー。もっと広いところに座ればいいのに。」
「僕はこういうところが逆に落ち着くんですよ。」
「はー、変わってるねえ。」
アリスはそう言うと先に飲み物を持ってきてくれる。
「ありがとう、アリスさん。」
「そういえばお酒は飲まないの?」
当然ながらこの店では酒類は扱っていたが、どうやら自分が飲みなれる酒は無く地球で言う所の昔の西洋で飲まれていたような酒が主であった。
ビールであっても全く冷えてなく、喉越しもあまり良くないエールであったり、蜂蜜から作られるミード、またはワインを水で薄めたようなものばかりだ。
正直、現代日本の酒類は世界でトップクラスで安くうまいものが揃っていた。
その弊害だろう。その様な環境で舌が慣れてしまえばこちらで主流となっているような酒は当然舌には合わない。
酒は嫌いではないが、悪酔いするだけだろうと考え手は付けていないし、今後も余程のことがない限り飲むことはないだろう。
「ええ、自分はちょっと苦手で・・・。それに明日は初めての冒険者の依頼を受けますから!」
「そっかー。まあ明日が大事なら悪酔いしてもだめだしね。食事はすぐに持ってくるよ。」
しばらくしてアリスが「お待ちー。」と言いながら持ってきた食事はなんとほぼ昨日と同じものだった。
これには思わず笑顔も引きつってしまった。
昼に食べた串焼きもそうだったが、酒に引き続きこれも日本人の悪いところが出てしまう。
そう、日本は食事のバラエティーも豊かだったし、同じメニューであっても店によって全く味が違い、食に関しても世界トップレベルだったのだ。
確かに食事に関しては若干物足りない所は感じるが不味くはない。むしろ昨日の食事は感動したぐらいだ。
だが流石に2日連続でほぼ同じ物は気が滅入る。
これは本格的に自炊を考えなくてはと思いながら食事を終える。
俺は早々に食事を切り上げ部屋に戻る。
当然だが風呂も無く、冷たい水と手ぬぐいで体を拭くぐらいしか出来ない。
こういった世界に憧れはしたが、いざ住むとなるとやはり憧れと現実のギャップはそれはもう計り知れないものを感じた。
「まあ、いずれ慣れるんだろうけど。慣れるまでが大変そうだ。」
そう言いながら俺はベッドに座り、今日手に入れることが出来た腕輪を見る。
「ああ、そうだ。短剣のデバフが怖くてまだ装備してなかったな。今のうちに装備しておこう。」
俺は腰に差すだけで装備はしていなかった問題の【呪われた】銅の短剣を取り出す。
ステータスの結果がどうなるかは分かってるとはいえ、やはりあれだけ世間から【呪われてる】や、嫌な顔をされれば多少は躊躇するものだ。
俺は「ふーー」と深呼吸をして、いざ短剣を装備する。
【レア:銅の短剣をメインウェポンに装備しました。】
特に体調の変化は感じられず良し!と心の中でガッツポーズをする。
俺は早速「ステータスの表示」と言い、自身の現在のステータスを表示させる。
『ステータス』
名前:ススム
職業:魔法使い
年齢:20才
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:2
残りSP:1
各ステータス:HP:3、MP:5、STR:6(+3)、VIT:5(+2)、AGI:4、MND:6、INT:8、LUK:-10
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
うんうん、きちんとステータスも短剣のデバフ分を腕輪がカバーしてくれている。
そんなことを確認していると目についたものがった。
それは「残りSP」だった。
「そういえばファイアボールを覚えただけで終わってたな。」
LV1の時点で元々SPは恐らく1あったのだろう。
それに加えてゴブリンを倒した時にLVが上がり更にSPを1得たがそのままだった。
「スキルツリーの表示」
俺はそう言いながら魔法使いのスキルツリーを表示させる。
一応各種メニュー項目は心の中で言えば表示されるのだが、口に出してしまうことも多い。
これも慣れの問題か。
それはさて置き、問題のスキルツリーである。
ざっと見たがやはり現状で考えられるスキルツリーの取得ルートは、基本魔法のファイアボールを特化させることだろう。
なんせ、この世間では毛嫌いされている【呪われた】銅の短剣の追加効果が凄まじいのだ。
それが、『鑑定効果:基本魔法を使用するとMPが3回復する。』である。
これは書いて字の如くであろう。
基本魔法に分類される魔法を使った時に即時MPが3回復するということだ。
そして俺が覚えたファイアボールはこの『基本魔法』に分類される。
LV1のファイアボールの状態はこう書かれている。
『ファイアボール【LV1】:火属性の基本魔法。単体攻撃であり目標に着弾時稀に炎上効果を発生させる。この魔法は最大でLV5まで強化ができる。消費MP4』
つまり消費MPが4に対し、即時効果としてMPが3回復するので実質MPを1消費でファイアボールが打てるということである。
現在の最大MPは5、つまり本来であれば1発打てばMPが自然回復するまでの間、待たなければファイアボールを打つことが出来ない。
LV2の初心者ならこの程度だろう。
だが俺はこの【呪われた装備】と言われている銅の短剣の能力を正しく認識できているため、LV1にして最大でファイアボールを5連射することができる。
ちなみにどうやらMPの自然回復速度は現状のスキルツリーを見る限り『10秒毎に1回復』らしい。
勿論これもスキルツリーを育て、さらにそのパッシブスキルにSPを振ることが出来れば、回復時間の短縮や、回復の数値を底上げすることが出来る。
ちなみにファイアボールを育てるとなると、現状では2択の選択肢がある。
1、ファイアボールのレベルを上げて威力を少し上げ、更に詠唱時間を25%カットするという効果。
2、ファイアボールそのものの性質を強化するということで、対象一体に対し追尾性能が付き、更に小爆発するというパッシブを付ける効果。
この2つから選ぶことが出来る。
個人的には2は当然今後LVが上がっていく中では必須だとは思ったが、まずは威力の底上げと詠唱時間の25%カットという所が実用的だと考え、俺は残りSP1を消費しファイアボールのレベルを2にした。
なので現状のファイアボールは次の様な性能になった。
『ファイアボール【LV2】:火属性の基本魔法。単体攻撃であり目標に着弾時稀に炎上効果を発生させる。威力が多少強化され、詠唱時間の25%を短縮する。この魔法は最大でLV5まで強化ができる。消費MP4』
やはりこの【ハックアンドスラッシュ】の能力はスキルツリーを自在にコントロールできる事が非常に大きい。
なにせこの世界では訓練や努力をし、時間を掛けることで魔法の威力などが上がるが正直どこにSPを振っているのかわからない状態だ。
人によってはSPを余らせてしまっている人などもいるかも知れない。
そう考えれば十分【ハックアンドスラッシュ】の能力はチート級だと言えよう。
【呪われた装備】とも相性が良く、この世界では忌避されている装備品の能力を正しく理解し、装備によってスキルを成長させるすなわちビルド構成が成り立つのだ。
明日の初クエストへの備えも完了したことでそそくさと寝ることにした。
翌朝は早めに起き、身体を濡らした手ぬぐいで身を清めてから冒険者ギルドに向かうことにした。
「うー、冷てえ・・・。」
「あれ?ススム君だ。おはよう!」
そういってアリスが食堂部分から現れる。
どうやら朝食の準備中のようだった。
「冒険者ギルドに行くための準備?」
「はい。今日は少し早めに行こうかと思って。」
「朝食はどうする?」
「軽めに貰うことは出来ますか?」
「軽めかあ・・・。んーどんなのがいいの?」
そう言われ俺はここで提供されている食事類を思い出しながら答える。
「そうですね。いつも食べてるパンに縦半分に2つにならない程度に切り込みを入れてもらってそこに腸詰を焼いたものと野菜と薄くスライスしたピクルスを入れてもらうことは出来ますか?ああ、後あればそれに挟めるくらいに小さく切ったチーズもあれば最高です。」
そう、俺はここで提供されている料理類からホットドッグもどきを想像してアリスにお願いしてみた。
「んー?そんなんでいいの?」
「ええ、それを作ってくれるならそれで十分です。冒険者ギルドに行きながら食べますので作っていただければ助かります。」
「食べながら行くねえ・・・。わかった!今すぐ作らせるわ。準備して待っててー。」
アリスはなにか思うところがあるようですぐに食堂に引っ込んでいった。
まあ、ある意味ではレシピを提供した形になったかもしれないが、食事は豊かな方が良いからな。
ホットドッグ一つで文明が大きく変わることもないしね。
部屋に戻り俺は衣服を正し、持って行く荷物を確認し、部屋を出る。
「もうそろそろ出来上がってるかな?」
そう思いながら食堂に降りてみるとなんと出来上がるどころか、ホットドッグもどきをアリスとこの食堂の料理番らしき男がむしゃむしゃと食べていた。
「あ、ススムくーん!」
アリスは俺に気がついたようで俺を呼ぶ。
口に思いっきり食べかす付いてるぞ、アリス。
「これ最高だねえ!特に移動しながら食べれるっていうのが良い!!」
「だな。これは家の看板メニューに出来るものだ。」
料理番らしき男もアリスと同意見だったようだ。
「あはは、それは良かった。僕の分は?」
「もちろんあるさ!はいこれー。あとお願いがあるんだけど!」
そう言いながらアリスは俺に手を合わせお願いのポーズをしている。
俺は何のことかは察しがついていたのでこう答えた。
「僕はあくまでお願いしただけであって作って形にしたのはアリスさんと料理番の方ですのでどうぞご自由に。あ、頂いていきますね。」
そう言いながら俺はホットドッグもどきを手に取る。
「やったーーー!ススム君大感謝!今後もうちを利用するならサービスするからね!」
アリスにも気に入られたようだ。
なんでかなあ、俺はなるべく人付き合いは避けたいのだがこういうお節介な部分がありそれが結果として相手に好印象を持たれてしまう場合が多い。
それがまた煩わしく思える原因でもあるんだが・・・。
「では、お言葉に甘えて。あ、これ鍵です。」
俺はホットドッグもどきを受け取る。
「そういえば今日までだったね。ところで今日の宿は決まってるの?」
「いえ、手持ち金が心もとないのできょうの冒険者としての収入次第かなとは考えていました。」
それを聞き、アリスと料理番は顔を見合わせる。
「ならこの料理のお礼だ!1週間は無料で止まっていいよ!売れ行き次第ではもっと泊まってもらっても良いくらいだよ!」
なんとかなりお気に召したのか有難いことを言ってくれた。
正直今日の収入がどうなるかわからなかったので、たとえ1週間でも目処が立つのは大変ありがたい。
なのでこれはありがたく対価としてもらうことにした。
「ではとりあえず1週間だけお言葉に甘えていいですか?」
「勿論だよ!鍵は返しておくねー。」
そう言われアリスから鍵を再度受け取る。
「では行ってきますね。」
「頑張ってねー!」
そう言われ俺は宿屋を後にし、ホットドッグもどきを食べながら冒険者ギルドへと向かう。
すれ違う人たちが俺が食べているホットドッグもどきを非常に興味深そうに見ていたので今日の宿屋は忙しくなりそうだったが俺の知ったこっちゃない。
頑張れ、アリスと料理番の人ー!




