表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

鑑定したら、いきなり店が吹き飛んだ件

「あー。だる……」


 そう口にするのは主人公の適魔(てきま) 適見(かなみ)である。


 突然この店、鑑定屋の店主となった、面倒くさがりの24歳女性である。父が失踪前に譲り受けたスキル。それは鑑定眼のハズであった。


――


 そこは街の外れにある鑑定屋。


 人々は程よい魔物に怯え、程よい勇者が討伐し、程よい生活を営んでいた。そして、程よい街の程よいギルド、程よい種族と、良くある爆発、まぁそんなものを適当に想像して欲しい。


 など、説明がいろいろ雑だと、怒られそうなので少し真面目に情景を描くことにする。


 ――今は昔、中途半端に魔法が栄えた中世魔法時代


 この商業都市には、交易が盛んで商人の出入りも激しい。街を出て少し行くと大きな砂漠と砂に沈む古代遺跡が散見される。そのため、ダンジョンからの戦利品も集まりやすく、また、魔物の討伐によって得られる素材も頻繁に取引されるのである。


 街は魔物の侵入を阻む巨大な石壁で囲まれており、侵入されることはほぼない。ギルドには勇者や剣士、魔法使いと呼ばれるハンターがおり、ダンジョンの魔物と闘い、得られた戦利品を売ることで生計を立てている。戦利品の大多数は鑑定屋に流れ、気に入らなければ売却し、そしてまた、鑑定屋で鑑定された商品を購入する。


 時折、呪われたアイテムが持ち込まれることもあり、この場合はギルドから封印班が出動、アイテムを回収しギルド倉庫へ封印する。それが日常である。


 今日も忙しそうに、あちこち飛び回っている封印班。そんな中、街の中心から数キロ離れた東に、古めかしい鑑定屋があった。建物は街道を挟み、小さな林に食い込むように建てられており、レンガと木材で出来ている簡素な建物である。


 街道は石を切り出したもので整備されており、その上を走る馬車は揺れることもなく、それらはスムーズに街の中心へと消えてゆく。街の中心に行けば、ギルドや宿屋、繁華街があり賑やかであることは間違いないのだが、この辺りは閑散としており人通りも少なかった。


 そして鑑定屋の店主、適見のぼやきが始まると、商品(それ)は爆発した。


〈ドゴオォォォォォォォォォォォォォォン!!!!〉


「ぎゃああぁぁぁぁぁ!!」

 銀色の鎧と真っ赤なマントを纏った勇者が爆音ともに吹き飛び、轟音と叫び声が周囲に響いた。


――――

――


「こちら、報道リポーターのリーネです。今、鑑定屋跡地に来ています!! 先ほど突然謎の爆発があり、店は消し飛び、店主の消息が未だ分からないままになっています! 火は上がっておりませんが、念のため消火隊と封印班が待機しており、負傷者の捜索を行っています!」


 鑑定屋があったとされる敷地を中心に、その爆発は発生したようで、木々は外側へ向かうように放射状に倒れ、木っ端微塵となった建物は塵となり、キラキラと周囲を舞っていた。


 そんな中、報道リポーターとカメラマンが真っ先に現場に飛んできたのだ。大型カメラを抱えたカメラマン、伸縮する木製の集音器を持った音声スタッフ、そして新人リポーターのリーネ。その3人組である。


「リーネさん! リーネさん! 他に被害はありそうなんですか?」


 スタジオから質問が入ると、鑑定屋跡地を映していたカメラがリーネにピントを合わせた。


「ええ……と、あっ、はい。計算に寄りますと、爆心地である鑑定屋さんから周囲200メートルの木々が消滅した程度で、他の民家は無事のようです! あっ、ちょっと待って下さい。今入った情報によると、鑑定屋の店主が行方不明であることと、おかしな格好をした男性が爆発に巻き込まれたくらいで、ほかに怪我人とかは居ないようです!」


「あっ、リーネさん! 聞こえますか? 後ろ後ろ!!」

 カメラを向けるリーネの背後から、白煙に包まれた人物が姿を表したのだ。


「えっ、後ろですか……」


「……意味が分かんねぇ……」

 もうもうと立ちのぼる白煙の中、ぽつりと呟く適見《かなみ》にリポーターがマイクを持って駆け寄った。辛うじて着衣はあったものの、ローブはボロボロで顔も髪も(すす)で汚れていた。


「あれ……もしかして、もしかすると店主さんでいらっしゃいますか……?」


「……ええと……一応、店主ですけど……っていうかカメラが近っ……、近いって言ってんのよ!!」

 やたらとカメラに迫られアップにされる適見の肌は、毛穴も見えそうなほど近かった。


「あっ、店主さん無事のようです! よかったですー! それではここからは店主の話を伺ってみたいと思います。えっ、何CM? 一旦カメラをスタジオに戻しますね!」


「えっ、ちょ……」


「リーネさん、ありがとうございました。それでは一旦CMです」


 早すぎる展開に、ついて行けない適見であった。


――

――――


 ちゃ~ら♪ ちゃららら~♪


 報道番組シンギュラリTィ!!


 スポンサーは、いつもニコニコ限界ローンと、魔法のことなら魔法ギルド・南十字星(サザンクロス)、武具のことならマキシマム・ウエポン限界灘(げんかいなだ)の提供でお送りします。


――――

――



 ――遡ること数時間前、事の発端はここから始まる。



 生前の親父は口うるさく言っていた。


 ――「適当に付けるな、適当に付けろ」と毎日のように言われていた。


 店内のカウンターから丁度正面の位置に、親父のその格言が見える。意味は全く分からない。カウンターから眺める風景はいつもの通りだ。何も変化が無い。黒ずんだ建材で作られた床、陳列棚、ゴミ置き場、差し込む光でさえも、天候が変わる程度の一定の変化しかない。その全てが、変わりも無く適見を飽きさせる。そして、そのたびにため息が漏れるのだ。


「はぁ……意味が分かんねえ……、まるで意味が分かんねえ……」


 ……そしてもう一つは、“適見”という自分の名前。

 何を思って名前を付けたのかは分からない。「適当に見ろ」ってことなのか、「最適に見ろ」ってことなのか、それとも鑑定士の娘だからそれにちなんで付けただけなのか――名前の意味さえ適当で、結局私は何も見ていないし、見えていない。


 そう思うと、引き継いだ鑑定士という自身の職業に納得できなかった。


「どこの世界に適当に失踪して、適当に仕事を押しつける親が居るかよってんだ……」


 毎日毎日椅子に座り、頬杖を付きながら魔道TVを見て、鑑定した商品に名前を付けていくことにウンザリしている適見であった。


 そして、いつものように客が訪れる時間。

 外の気配を感じ、店の入口へと視線を向けると、人影が見えた。


「はぁ……、面倒くさいから今日は寝ていたいんだけど、そうもいかないか……」


 ――ちりん


 店のドアが開いた。ギシギシと木の軋む音と共に、髭を蓄えた初老の男性が入ってくると、適見は怠そうに言葉を返した。

「らっしゃいやせー……」


「このリングを見て欲しいのですが……」

 老人はポケットをまさぐり、幾つかのリングを取り出す。ざらざらと乾いた音を立て、カウンターに無造作に散らばるリング。そのぞんざいな扱いから、見るまでも無く価値は無いと感じられた。


「はいはい、リングね。ちょっと待ってて下さいね……」


 念の為散らばったリングを一つ一つ1つ手に取り、角度を変え、ルーペにも似た魔導鏡で詳しく見る。だが、どう見てもただの石から削り出した指輪である。金属ですらなく、希少的価値もない。しかし、魔力だけは僅かながら感じることが出来た。そして適当なことを言った。


「こりゃまた随分年期が入ってますね。鑑定結果はただのコモンリング……だと思います。魔力もほとんど帯びて無いですし、価値はないですが、どうします? 持って帰りますか? 今なら1つ10で全部で100ゴールドなら引き取りますけど」


「……では、それで良いんで引き取って貰えますかな?」


「……はぁ、いいですよ……」


 老人はニヤリと笑うと代金を引き取り、颯爽と立ち去った。老人は最初から価値など無いことを事を知っていたのだ。


「また、よろしくおねがいしやーっす……とか、誰も聞いてねえっつーの。またヘンなアイテムが増えやがったよ……。ウチはゴミ捨て場じゃねーぞ、クソが……」


 買い取り拒否という選択肢は無かった。


「……また、つまらない商品につまらない商品名を付けなきゃいけないのが面倒くさいなぁ……。一日中座って接客して、適当に商品名付けて一日が終わる……ったく、親父はよくもまぁこんな面倒くさいこと続けられてたなぁ……」


 ふんぞり返り伸びをすると、椅子はギシギシと少し五月蠅く音を立てる。そして“いつも通り”商品名のイメージを考えていく。


「つーか、これ石だしな……。stone ring of common(ストーンリング・オブ・コモン※)……いや、これは昨日使ったし、“まだ”無理か……」

 ※一般的な石の指輪


「いつも素材名で適当に名前付けてるからなぁ……、うーん……」


 適見はネタを考えるため魔導TVに視線を向けると、今日は秘境探索特集をやっていた。


〈すっごーい!! こんな綺麗な地底湖があるんですね!!! でも……〉


 TVで洞窟内で光る綺麗な烏賊特集をやっており、リポーターがはしゃいでいる様子が映し出されていた。壁面は青色く、まるで星空の中に居るかのような神秘的に情景を映し出していた。


「秘境探検ねぇ……、あたしも素敵な人とこういう所探検してみたいなぁ……、でもなぁ、いざ行くとなるめんどいし……うーん……」


「stone ring of exploration“ストーンリング・オブ・エクスプロレーション(探検)”とかにしてみるか……なんかこう、探検や探索、冒険したくなるようなネーミングにして、買いに来たステキな勇者様に強引にここから連れ出して欲しい。……なんてね、実際そんなキモいのが来たら面倒だから断るけどさ」


 商品名はアイテムの真上に出現するコンソールを使って行う。


 適見はリングに触れ、その上に出る青いコンソールをいじり始める。これが、父から譲り受けた彼女のスキル。こうして鑑定(?)した結果に基づき商品名を入れていくのが、彼女の日常(いつもの)の仕事である。


――


 この世界における鑑定。それを行うにはアイテムの内の本質と魔素を見定め、効果や効能を浮き彫りにする。これが第一フェーズ。次に外見、そのアイテムの構成物質・様相そういった物を目定める。これが第二フェーズ。最後にそれらを総合的に分析しアイテム名を決めることで。初めて使用できるマジックアイテムとして成立するのだ。


 だがしかし、彼女の鑑定は全く違った。先に名前を入れることで、結果が後から付いてくると言うとんでもないスキルであった。「名は体を表す」という事象が、アイテムが持つ本来の本質をねじ曲げ、鑑定という概念を覆し、効果として現れるのだ。


 大体はアイテム側が受け入れるのだが、全部が全部その通りになるわけでは無く、アイテム自身にも拒否権がある。あまりにも不可解な名前を付けた時のみ、その魔素量に応じ爆散するのだ。


 もちろん一般の鑑定士が、そういった事を試してみた事もあった。

 だが、名が体現することは無く、その名と効能の矛盾にアイテム自身が混乱し、魔素は抜け、構成していた物質は崩壊し、砂のように崩れ去る。そのため貴重なアイテムほど、優秀な鑑定士に鑑定を依頼するのである。


 だが、そんな事を彼女は知らない。なぜなら常に適当が正解だからである。よって失敗による爆発はあってもアイテムが崩壊することはあり得なかった。

 問題があるとすれば、その適当さ。このような性質から外見と内面が全く異なるアイテムが彼女によって、知らず知らずのうちに生成され続けるのである。


 名の無いアイテムでも多少の魔素はある。

 引き取ったらその辺に放り出して、放置しておけば良いという選択肢もあり得よう。

 だが、そういったアイテムの放置は適見の睡眠を阻害するに至った。それは、夜な夜な名が欲しいという夢で埋め尽くされ、結果として(うな)されることになる。

 もちろん、引き取りを拒否することもある。あまりの臭さや異様さが際立つものは、通常とは異なる強烈な個性を持ち、そのアイテムの残留思念により(うな)され続けるのだ。


 結果、名を持ったゴミが量産それ、それは店内を覆い尽くすことになる。


――


「ポチポチ……と、よし、確定っと。さて、ついでにこっちのヤツもソレ系で埋めるか面倒くさいし……」


 ――キュウゥゥゥゥン……

〈[stone ring of explosion]確定しました〉


 指輪は今まで聞いたこともない高い音を立て、カタカタと振動し始めると、激しく明滅し、適見の視界を白くしていった――。


「お? あれ……? なんかいつもと違って妙な気がするんだけど、何か間違っ……」


――――

――


 そして冒頭の爆発に戻ると場面は変わり、リーネとのインタビューへと続く。


 硝煙の匂いに混じり、木材の焦げる匂いが鼻腔をくすぐるその場所は、今まさに鑑定屋跡地である。

 その小さいクレーターのど真ん中には、適見すら知り得なかった地下室への扉が露見しており、周囲には鑑定品や“何故か壊れていない格言”、“真実の口に酷似した時計”など、あらゆる物が散乱していた。


 そんな中、CM放映中に化粧と髪型を直そうとしているリーネが居た。手鏡を見ながら慣れた様子で口紅を塗り、手櫛(てぐし)で乱れた髪を整えていた。そしてCMが明ける合図と同時にマイクを適見のほうに向け、何事も無かったかのように質問してきた。


「いやあ、大変でしたねぇ……、まさかまさかぁ? あんな爆発を起こすとは予想もしてなかったんじゃないんですか。それに、爆心地が鑑定屋ということらしいですが、新手の嫌がらせに巻き込まれたんですか? それとも嫌がられる商品でも売りつけられたんですか? それとも新手のプロポーズとかですか!?」


 マイクを持つとテンションが高くなるのだろうか、いや、そういう職業柄なのだろう。怠惰な適見には、まず持ち合わせていない性格であった。


 ぐりぐりとマイクを押し付けるリーネと、近寄るカメラ、それを押しのけようとする適見は一連の事故の影響もあり混乱していた。


「……えっ……あ、いや……そういったものは全く身に覚えが無くて……、というか意味が分からなくて……」


「ええっ、じゃあ何か悪いことでも、画策していたんですかー?」


「画策って……、そんなことをしようとしてたら間違いなく捕まってますよ。というかですね、日常が既に面倒くさすぎて、画策する気力も時間も無いんで……」


「でもほらぁ、“いつもと違う客が来た”とか、思い当たる節とかないんですか?」


「あー……でも、もしかしたら買い取った商品に、爆発物が紛れてたのかもしれないです……」


「買い取った商品にですか……、あれ? そういえばあなたは鑑定……士……でしたよね?」


「そ、そういうばそうなんですが、記憶も朧気でちょっとよく……でもひょっとしたら見抜けないくらいに精巧な物品だったのかも知れません……」


「なるほど、鑑定士なのに見抜けない商品もあるんですね!」


「あ、いや……そういうつもりじゃ……

 ……ちょ、……ちょっと、すみません。目眩が……いや、だるいので、もう横になりたいんですが……」


「そうですかー。近年はいろんな物が巧みになっていきますからねぇ……。商品買ったら中身が砂だったとかざらにありますからね。店主さんも気をつけて下さいね!」


「あっ……、ええ……」


「それでは、ありがとうございました。時間が来ましたので今日はこの辺りで、ごきげんよう!!」


「ありがとうございましたリーネさん!! スタジオからは以上です。それでは続けてニュースを……」


――


 リーネたちは「ほら、次の現場急ぐわよ!」と言い残すと、颯爽とその場を後にした。その後、ギルド長が視察に来たり、救護班とアイテム封印班が来たりと、慌ただしかったが、結局は爆発のロジックが分からず帰って行った。


 散らばったアイテムを回収している適見は、このとき自分の付けた商品名が原因で爆発したとは思っても居なかった。


「……ただ鑑定して商品名をつけただけだったのにな……」


 そうぼやく適見の足元には、1つのリングが落ちており、激しく明滅していた。


――――

――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ