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水の祟り  作者: 入水璃穹
6/8

罪に溺れる

 1人、また1人消えていく。

 ただ、ひとつの過ちで。

 若気の至りで。


「嘘、だろ……?」


 友人が次々に死んだ。

 恐ろしかった。

「死ぬわけない」と笑っていた友人は自分との通話をやめた後に死んだ。

 これは祟りだ。

 水神の祟りだ。


「俺らが……彼奴に御札を持って来させたから?」


 謝らなければ。

 今すぐ、彼奴にこの祟りを止めてもらわなければ。

 次は____



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なぁ!」


 帰り道、土手の上で彼は少年に声を掛けた。

 少年はビクビクとしながら足を止めた。


「な、なに……?」


「お前がやったんだろ」


「な、なにが……?」


「彼奴らを殺したのはお前だろ」


「ち、違うッ!!僕じゃない!」


「でも彼奴らは、お前を虐めてた奴らだ。そして彼奴らが死んだのはお前が神社から御札とラムネを持って帰ってきてからだ!!」


「それでも、それでも僕は何もしてない!!」


 少年は信じたくなかった。少年は「彼らが自分を虐めませんように」と願っただけだ。

 真逆こうなるなんて思ってなかった。


「なぁ、助けてくれよ!なぁ!悪かったって」


「僕に言われても知らないよ」


「お前、ほらもう一度神社に行ってお願いしてくれよ。この祟りを終わらせてくれよ」


 掴みかかる彼に少年は思わず彼を突き飛ばした。

 ぐらりと体勢を崩した彼は土手を転がり、そのまま川に落ちた。


「あ……」


 急いで土手を降りた。幾ら虐めてきた相手でも心配になったのだ。

 この川は底が深い。

 雨の降る日は勢いも強い。


「だ、大丈夫……?」


 反応がなかった。

 怖くなって川の中に入ろうとした時、ぶくぶくと泡が立って、彼の口元が見えた。


「た、たすけ……」


「だ、大丈夫……!?」


「引っ張られっ……」


 藻掻く彼はまるで何かに引き摺り込まれるようだった。

 急いで助けを呼ばないといけない。そう思って「待ってて、今大人を探すから」と声を掛けた時、何処からともなく鳴き声が聴こえた。

 それは、猫の声だった。

 そう、あの日、川に流されたトラスケの声。

 段々と彼の顔が沈んでいく。

 恐怖に歪んだ顔が消えていく。

 大人を探す暇なんてない。


「あ、待ってて今行く!!」


 仕方が無いので川へ飛び込もうとした時、誰かに目を隠された。


「こーら、駄目だよ」


 それは、あの神社の管理人さんの声だった。


「で、でも……」


「どうして助けようとするの?彼は君の大事なものを奪ったんでしょ?」


「だ、だからって死んでいいわけじゃ……」


「トラスケは死んだのに?」


「……ッ」


 猫の声が聴こえる。

 まるで止めるなと言うように。


「ほら、今助けても、きっと彼は君のせいにする」


「たずっ…けて……」


「彼が居なくなればもう誰も君を虐めない」


「ゆるして……」


 にゃー、にゃーと脳内で響く。

 どうするべきか。いや、助けない方がいいのか?


「ごめ、ごぼっ……なさ……」


 その声を最期に何も聞こえなくなった。

 手が退けられ、前が見える。

 何も、なかった。

 誰も、いなかった。

 そこには何も。

 いや、1人だけいた。管理人さんだけ。


「か、彼は……!?」


「さぁ?今頃殺した猫に報復されてるんじゃないかな」


「助けなかったの!?」


「助ける義理はないから」


 そう笑った男は酷く不気味だった。

 美しいはずなのに恐ろしくて、まるで妖怪か何かに思えた。


「ど、どうしよう……?け、警察」


「君が疑われるだけだよ」


「でも……」


「君は何も見なかった。そうすればいい」


「そんなこと、できないよ」


「じゃあどうやって説明するの?男の子が猫に足を掴まれて溺れました、って?」


「……」


「君は何も見てない。彼は足を滑らせて死んでしまった。それだけだ」


「……あとの3人も、管理人さんが殺したの?」



「まぁね。滑稽だったよ」


「僕はそんなこと願ってなかった!!」


「でも内心は思っていた、そうでしょ?」


 男は見透かすようにそう言い放つ。

 何も言い返せなかった。

 思ったこともあった。

 でも本当に起きて欲しいなんて思ってなかった。


「た、助けられないの?ほら、神様の力で」


「無理だね。いや、できたとしてもしないよ」


「どうして」


「助ける理由がない」


「五百円で虐めっ子が消えたなら安いじゃないか」なんて笑う男が恐ろしくて、少年は駆け出した。

 怖かった。あれは人間ではない。

 逃げる時に見えたのだ。男の隠れた瞳が。

 魚の泳ぐ蒼い瞳が。

 その瞳が此方を見ているのを。

 やっぱり、あの神社には近付いてはいけなかった。

 悪さなんてしてはいけなかった。

 だって____



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「これで4人」


 そう呟いた男は着物のまま川に入るとひとつの小さなナニカを抱えた。

 それは猫だった。

 水を吸って、もうぐちゃぐちゃになった猫。

 しかしその猫の口周りであろう部分には、まだ紅い液体が付着していた。


「君の望みは叶えたよ」


 何処からか猫の鳴き声がした。

 湿った風が吹いて、もう次の瞬間にはもう誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
ぐっはぁ!! ぼくは結局いじめられる程度のヘタレで、何にも関係なかったってオチかぁ〜〜〜!!や〜ら〜れ〜たぁ〜〜〜!!
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