透明な金魚
「あー、暑ぃ……」
虐めっ子の一人が透明なコップに水道水を注いでいた。
ゴクリ、と水を飲む。瞬間、ピチピチッと口の中で魚が跳ねたような気がした。
「ッ……!?」
思わず水を吐くも、口の中には何もいない。
いや、そもそも透明なコップの中には魚なんていない。水道水にどうやって魚が入るというのだ。
不気味に思ったが、魚が跳ねたような感覚が口に残るのが嫌で、一度水を捨てるともう一度入れ直して飲んだ。
何事もなく飲めた。唯の冷たい水だった。
「何だったんだよ一体……」
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夜、彼は夢を見ていた。
恐ろしい夢だった。
自分の口の中に金魚が次々に入ってくるのだ。水のように透明な金魚。
ビチビチ、ビチビチと音を立てて、ギョロっとした目玉を此方に向けて。
必死に逃げようとするが身体が強ばってしまって、そして何故か口は閉じられない。
口の中に溢れんばかりの金魚が跳ねる。
喉を通り、肺の中を進む。
息ができなくて苦しく藻掻く。
「たず……け……」
手を伸ばして助けを求めるも、誰もいない。
「だれ、か……」
金魚の数は一向に減らない。
段々と肺だけでなく、彼は金魚に埋もれていった。
「たすけ……て……」
彼は金魚に埋もれて見えなくなった。
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朝、寝台の上で遺体が見つかった。
肺の中には水がたっぷり入っていて、死因は溺死だった。
水も何も無い場所で。
検察も家族も誰もが不思議がった。
気味悪がった。
そして、彼の死は事故として処理されることになるのだった____
「1人目____」