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水の祟り  作者: 入水璃穹
2/8

罪の味

「やっと帰ってきたのかよ」


 山の麓では虐めっ子達が退屈そうに少年を待っていた。


「で、ちゃんと持って帰ってきたんだろうな」


「う、うん……」


 少年は貰った御札と、瓶に入った聖水を出す。


「あそこ、管理人さんが居て……ラムネをくれたんだ」


「ふーん……あんなボロ神社に人居るんだ」


「良かったら飲んでくれ、って」


 オドオドとする少年にリーダーの男が言った。


「お前先に飲めよ。変なもん入ってねぇか毒味だ毒味」


「え、……?あ、うん……」


 少年は「わかった」と瓶の開けて、その聖水を口に含んだ。シュワシュワと口の中で弾ける炭酸。甘くて、冷たくて、美味しい。まるで夏を閉じ込めたような爽やかな味だった。


「おいしい……」


「……取り敢えず大丈夫そうだな」


「全員分あるんだろうな」と少年から瓶をぶんどっていく虐めっ子達は、各々瓶を開けると次々に飲んでいった。


「甘ぇー!」


「冷えー」


 喉仏を動かしながら美味しそうに飲むのだ。

 そして飲み干すと少年に空瓶を押し付ける。

 処分しておけ、という意味だろう。


「じゃあな、”また明日”」


 そう言って虐めっ子達は帰っていった。

 少年も瓶を抱えながら、帰路に着くのだった__



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「彼奴、本当にさぁ〜」


 虐めっ子達は帰りながら談笑していた。

 話は少年に次は何をするか、についてらしい。


「彼奴、神社行くだけにビビりすぎだろ」


 大声でケラケラと下品に笑う。

 彼らにとって少年は暇つぶしに過ぎなかった。

 彼らからすれば虐めだなんて思っていない。”イジリ”なのだ、と。


 罪悪感などなかったのだ。


「にしても、次は何かな……あ、そうだあの猫みてぇに川に落とそうぜ」


「いいじゃん、夏だし暑いもんな」


「水遊びってわけ、俺優しくない?」


 そんな会話が続く。


 そんな時彼らは一人の男にぶつかった。


「あ、すんません」


「いやいや、大丈夫だよ」


 白髪に着物。その姿はこの街に似合わなかった。


「今の子は元気だね〜」


 何とも得体の知れぬ、しかし人あたりの良さそうな男は、少年たちに話しかけた。


「もう日が沈むから早く帰らないと危ないよ」


「分かってますよ。大丈夫ですって」


「そうかな。最近は物騒だからね」


 少年達は「面倒臭いな」と思いながらも、男の話を適当にあしらった。何だか、不気味だったのだ。


 現代的な街に似合わぬその男が、黄昏時にいるものだから。


 少年達はそそくさとその男と離れようと歩き始めた。男はそれを止めることはしなかったが、ポツリと少年たちに聞こえるように呟いた


「そうだ、水は危険だからね。お勧めしないよ」


「……はぁ?」


 呆気にとられた。何故そんなことを?先程の話が聞こえていたのだろうか?しかし、それにしてはお節介ではなかろうか。初対面の学生相手に態々そんなことを言うなんて。

 しかし、男はそれだけ言うといつの間にやら居なくなっていた。

 まるで初めから居なかったかのように。


「あ、あれ……?」


「さっきまで居た……よな?」


「歩いていったんだろ」


「それもそうだよな……」


 少年達はそう各々納得させた。しかしながら彼らは何だか違和感を覚えずにはいられなかった。

 何処か気持ち悪い。身体の中に違和感がある。

 とはいえ理由も分からないので気のせい、という事にして帰路に着くことにした。

夕陽が地面に影を作る。

その影の中では、まるで魚が泳いだかのようにぴちゃん、と水の跳ねる音がした____

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