罪の味
「やっと帰ってきたのかよ」
山の麓では虐めっ子達が退屈そうに少年を待っていた。
「で、ちゃんと持って帰ってきたんだろうな」
「う、うん……」
少年は貰った御札と、瓶に入った聖水を出す。
「あそこ、管理人さんが居て……ラムネをくれたんだ」
「ふーん……あんなボロ神社に人居るんだ」
「良かったら飲んでくれ、って」
オドオドとする少年にリーダーの男が言った。
「お前先に飲めよ。変なもん入ってねぇか毒味だ毒味」
「え、……?あ、うん……」
少年は「わかった」と瓶の開けて、その聖水を口に含んだ。シュワシュワと口の中で弾ける炭酸。甘くて、冷たくて、美味しい。まるで夏を閉じ込めたような爽やかな味だった。
「おいしい……」
「……取り敢えず大丈夫そうだな」
「全員分あるんだろうな」と少年から瓶をぶんどっていく虐めっ子達は、各々瓶を開けると次々に飲んでいった。
「甘ぇー!」
「冷えー」
喉仏を動かしながら美味しそうに飲むのだ。
そして飲み干すと少年に空瓶を押し付ける。
処分しておけ、という意味だろう。
「じゃあな、”また明日”」
そう言って虐めっ子達は帰っていった。
少年も瓶を抱えながら、帰路に着くのだった__
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「彼奴、本当にさぁ〜」
虐めっ子達は帰りながら談笑していた。
話は少年に次は何をするか、についてらしい。
「彼奴、神社行くだけにビビりすぎだろ」
大声でケラケラと下品に笑う。
彼らにとって少年は暇つぶしに過ぎなかった。
彼らからすれば虐めだなんて思っていない。”イジリ”なのだ、と。
罪悪感などなかったのだ。
「にしても、次は何かな……あ、そうだあの猫みてぇに川に落とそうぜ」
「いいじゃん、夏だし暑いもんな」
「水遊びってわけ、俺優しくない?」
そんな会話が続く。
そんな時彼らは一人の男にぶつかった。
「あ、すんません」
「いやいや、大丈夫だよ」
白髪に着物。その姿はこの街に似合わなかった。
「今の子は元気だね〜」
何とも得体の知れぬ、しかし人あたりの良さそうな男は、少年たちに話しかけた。
「もう日が沈むから早く帰らないと危ないよ」
「分かってますよ。大丈夫ですって」
「そうかな。最近は物騒だからね」
少年達は「面倒臭いな」と思いながらも、男の話を適当にあしらった。何だか、不気味だったのだ。
現代的な街に似合わぬその男が、黄昏時にいるものだから。
少年達はそそくさとその男と離れようと歩き始めた。男はそれを止めることはしなかったが、ポツリと少年たちに聞こえるように呟いた
「そうだ、水は危険だからね。お勧めしないよ」
「……はぁ?」
呆気にとられた。何故そんなことを?先程の話が聞こえていたのだろうか?しかし、それにしてはお節介ではなかろうか。初対面の学生相手に態々そんなことを言うなんて。
しかし、男はそれだけ言うといつの間にやら居なくなっていた。
まるで初めから居なかったかのように。
「あ、あれ……?」
「さっきまで居た……よな?」
「歩いていったんだろ」
「それもそうだよな……」
少年達はそう各々納得させた。しかしながら彼らは何だか違和感を覚えずにはいられなかった。
何処か気持ち悪い。身体の中に違和感がある。
とはいえ理由も分からないので気のせい、という事にして帰路に着くことにした。
夕陽が地面に影を作る。
その影の中では、まるで魚が泳いだかのようにぴちゃん、と水の跳ねる音がした____