その15
それに対して、リ・リラの控え室は平和だった。
リ・リラの介添人候補は、実はほとんどいない。
貴族の中から選ぶと、それだけで政争の具にされてしまう。
したがって、仲が良い人間とは言え、貴族のご令嬢を選ぶ訳には行かなかった。
と言うと、身内にとなる訳だが、今更ながら自分に身内と呼べる人間が少ない事にリ・リラは気が付いた。
そう、今、純白のドレスを着付けてくれているリーメイしかいないのだった。
(向こうは色々といるのに、わたくしの方は、リーメイだけ……)
リ・リラは、エリオに対してライバル心を抱くのだった。
(やれやれ、また下らない事を考えているのでは……)
リーメイは、鏡に映るリ・リラの表情を見て、そう感じた。
だが、何か言う訳でもなく、支度の方を進めた。
着付けていて、厄介なのはリ・リラの豊かな金髪だった。
絡まないように、ドレスに挟み込まないようにしなくてはならない。
髪なので、丁寧に慎重に扱わなくてはならない。
でも、まあ、完璧な侍女であるリーメイには、お手の物である。
髪をふわっと持ち上げた後、ささっと、ドレスを着付けた。
そして、色々と確かめながら微調整を続けるのだった。
その見事さに、リ・リラは考えを改めた。
(人数がいても、仕方がないわよね。
こちらには、最強の介添人リーメイがいるのだから!)
リ・リラは、先程まで悲観的に考えていたが、一気に復活した。
そして、勝ち誇っていた。
(やれやれ、何を対抗しているのやら……)
リーメイは、具体的には何を考えているかは分からなかったが、何に対抗しているかは手に取るように分かった。
とは言え、侍女らしく澄ました顔で、リ・リラの身支度を続けた。
主の性格を他所に置きながら、自分の仕事に専念できる。
本当に、最強の侍女である。
リーメイは、一旦リ・リラから離れて、遠目からその姿を確認した。
そして、問題がある箇所を直す。
それを何回か、繰り返した後、手を止めた。
「如何でしょうか?リ・リラ様」
リーメイは、畏まりながらそう尋ねた。
尋ねられたリ・リラは、ゆっくりとスツールから立ち上がった。
そして、ドレッサーの中の自分を確認した。
「問題なわよ」
リ・リラは、笑顔でそう答えた。
リーメイはその言葉を聞くと、一礼した。
リ・リラの方は、リーメイの方に向き直った。
ふわりとスカートの裾が優雅に舞った。
それは、侍女のリーメイでさえ、ドキッとさせられる仕草であった。
「ありがとうね、リーメイ」
リ・リラは、更に笑顔でお礼を言った。
「とんでも御座いません」
リーメイは、主にお礼に恐縮した姿勢を見せた。
「リーメイがいなかったら、わたくしはここにはいなかったでしょう」
リ・リラは、更にお礼の続きを述べた。
(んっ?)
リーメイは、意外に思った。
言われたお礼が、着付けのお礼ではなかったからだ。
まあ、それも含まれてはいたが、それ以上のものだと気が付いた。
そう、エリオとの結婚できる事に対してのお礼だった。
「とんでも御座いません。
こうなる運命だったのだと、私は思っております」
リーメイは、そう応えた。
まあ、これまでの経緯を照らし合わせてみれば、色々と文句はあるだろうが、ここで言うのは、野暮というものだろう。
その辺は、きちんと弁えているから、最強の侍女なのだろう。
「ありがとう」
リ・リラの笑顔は留まる事を知らなかった。
(でも、まあ、これだけ美しい姿を見せされたら、細かい事はどうでもいい事になりますね)
リーメイは、心からリ・リラの幸せを喜んでいた。




