その5
「それにしても、猊下からの信頼が厚いですな、閣下は」
ローグ伯は話を繋げる為に、何となく思った事を口にした。
「ううん……」
エリオはローグ伯の言葉に、腕組みをして考え込んでしまった。
「!!!」
ローグ伯はエリオの意外な反応に、絶句してしまった。
当然、何か不味い事を言ったのかと感じたからだ。
(猊下の信頼を得られているのはいい事かも知れない……。
だが、教会に近付きすぎるのは危険な感じがする)
エリオは、真剣な表情でそう考えた。
古今東西、政治と宗教の関係は難しい。
こちらの世界の話だが、距離を置いた方が、比較的開明的で自由な社会が築かれている気がする。
エリオは、近付きすぎて取り込まれる事を警戒しているのだろう。
取り込まれないようにする為に、争うやも知れない。
そうなった場合、西大陸の全ての国を完全に敵に回す事になる。
まあ、今も味方がいるとは言えない状況だが、より酷い状況になる。
リーラン王国は、スワン教を支持してはいるが、教徒となると些か疑問が残る。
それでも、一定数の熱心な信者はいるのである。
つまり、国内にも火種を抱える事になる。
でも、まあ、心の奥底では、エリオは、いつも通りの考えを持っていたりしないでもないかも知れなかった。
「信頼はともかくとして、今回の会談が上手く行く事を願っていますよ」
エリオは思っている事とは、似ても似つかない事を言った。
どっちかって?まあ、どっちにも似ていない事は、確かである。
でも、まあ、これは、ローグ伯を置いてけぼりにしないようにという配慮(?)である。
とは言え、ローグ伯も不穏な空気を感じていた。
まあ、ローグ伯も鈍感ではないからだ。
「ところで、今回の交渉相手をどう思いますか?」
マイルスターは、不穏な空気に包まれる前に、話題を変えた。
和やかな表情で、そう言う事をするのは流石ではある。
「フランデブルグ伯か……。
彼によって、海戦の拡大を防げたのは言うまでもない。
そういった人物だから、話は通じやすいとは思う」
エリオは一見すると、楽観論を口にしていた。
まあ、表情は明らかにそうではないのは明白だった。
「何か、ご懸念点でも?」
マイルスターは、3人を代表して尋ねた。
「伯爵は、どれくらいの権限を持っているかだよな……」
エリオは、直ぐにそう答えた。
そして、ローグ伯の方を見た。
「本来ならば、13貴族のワルデスク侯が交渉の責任者となるのでしょうが……」
ローグ伯は、言葉を濁した。
あまりいい傾向ではないと言った感じだった。
「やはり、13貴族でないと、決定権がないと言う事ですか……」
エリオは、嫌な予感しかしなかった。
「まあ、そうなんでしょうが、シーサク王国側がこのような事態を想定していたかどうかですな」
ローグ伯は、再び言葉を濁した。
まあ、貴族の序列は大事なのは、貴族であるエリオも多分分かっている事である。
それより、エリオが注目しているのは権限だった。
権限がないと、正論なんて意味がないと言う事を嫌という程思い知らされていたからだ。
「まあ、でも、それは、もう、ここでいくら考えても仕方がない事ですね。
取りあえずは、我々も猊下と同じ意見ですから、穏便に済むように努力しましょう」
エリオはいらない事を考える事を止めると宣言した。
「了解しました」
ローグ伯はエリオに同意した。
マイルスターとシャルスも特に異論がある訳ではなさそうだ。
「それにしても、我々は当事者ではないのに、どうしてこういう事態になったのだろうか?」
エリオは、溜息交じりにそう言った。
そう、被害者を強調したのだった。
「閣下が、あそこに布陣なさったからですよ」
マイルスターは、珍しく驚いたような表情で、断言した。
やはり、エリオだけが分かっていなかったのだった。
でも、まあ、こう言われても、まだ分かっていないだろうと思う……。




