その5
さて、リーラン王国の状況である。
エリオは、陸軍総司令ロジオール公、主席大臣ヘーネス公ヤルス、陸軍副司令ミモクラ候クルス、海軍副司令代理ライヒ子爵が御前会議の為に待機していた。
会議室にいた計5人は、入室時にそれぞれ挨拶を交わした。
その後は、各位は特に雑談をせずに、手元にある資料を確認していた。
(副主席は、まだ決まっていないのだな……)
エリオは、各面々をぼんやりと眺めながらそう思った。
今回の御前会議の議題は、例の外交戦なので、1人違ったことを思っていた。
呑気なものだと言いたい所だが、これはこれで重要な問題である。
陸軍府は、正規の人員を揃え、海軍府は代理ではあるが、人員を揃えた。
だが、内政のトップである中務府は、未だに人員を揃えることが出来ないでいた。
(ヤルス殿のことだから、目星は付いているのだろうが……。
調整に戸惑っているのかな?)
エリオは、ヤルスを眺めながらそう思っていた。
人材不足は、何も海軍だけではなかった。
国自体で、人材難が広がっているようだ。
とは言え、古今東西、人材が完全に足りているという時期は、そう多くはない。
なので、常に人材の発掘はしていかなくてはならないのだろう。
それが、人類に常に課せられているのだろう。
「女王陛下、並びに、王嗣殿下、ご到着なさいました」
部屋の外からそう声が掛かると、扉が開かれた。
話が大きく逸れる前に、リ・リラとラ・ミミが登場してくれて良かった。
王族の2人が入ってくると共に、5人は一糸乱れず一斉に立ち上がって出迎えた。
リ・リラは、そんな中、女王の威厳を見せ付けるかのように、自分の席に着いた。
そして、手で座るように指示を出した。
まずは、ラ・ミミが座った。
5人は、それを確認すると、これまた一糸乱れず一礼をすると、自分の席に座った。
「では、会議を始めましょう」
リ・リラは、開会を宣言すると、議長であるヤルスの方を見た。
「畏まりました」
とヤルスは、恭しく答えてから、一呼吸置いて、
「今回の臨時の御前会議の議題は、事前にお知らせしたとおり、法国で起きた事案に関してです。
まずは、海軍府から説明をお願いします」
と進行した。
「承知しました」
ライヒ子爵が、そう言って立ち上がった。
そして、現状の説明を行った。
・シーサク王国からは、サラサの引き渡しに協力を求められている事
・スワンウォーリア法国とバルディオン王国からは、特に要求はない事
・法国は、サラサをバルディオン王国大使館に引き渡した事と、外交問題にはしない方針である事
以上の状況が報告された。
無論、クラセックの事は一言も出なかった。
「各国の艦隊の展開状況はどうなっていますか?」
リ・リラが、質問してきた。
「我が国は、西方艦隊をスワン島へ向けて派遣済みです。
バルディオン王国・シーサク王国は、すぐにでも派遣してくるでしょう。
また、スワン島に一番最初に到着するのは、我が国の西方艦隊です。
その後、バルディオン王国、シーサク王国と続くと予想されます。
両国の艦隊規模は、共に、2個艦隊40隻以上と思われます」
ライヒ子爵は、リ・リラの質問にそう答えた。
「うーん……」
リ・リラは、説明を聞いた後に、考え込むように唸った。
……。
リ・リラは、しばらく黙ってしまったので、沈黙が訪れた。
その間、他の面々は、リ・リラに注目していたのは言うまでもなかった。
思わぬ不穏な空気が流れ出していたのだった。