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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第3巻  作者: 妄子《もうす》
29.第2次スワン島沖海戦

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その9

「閣下、総旗艦艦隊を視認」

 副官のラルグが、艦隊司令官のリンクにそう報告した。


 その表情は、明らかに戸惑っていた。


 艦橋からはまだ視認できないが、マストからの報告だった。


「どうしたのだ?」

 艦隊参謀長ヴェルスが、ラルグの様子が変なので反応した。


「総旗艦艦隊は、シーサク艦隊と交戦状態に入っているとの事です」

 ラルグは、まだ戸惑っているようだった。


 とは言え、この報告自体は有り得る事なので、戸惑う事なのだろうか?


「それは不味い!」

 ヴェルスは、ラルグの報告を額面通りに受け取った。


「それは、総司令官閣下からの伝令か?」

 リンクは、気になったのでラルグに問いただした。


「いえ、南北には位置された支援艦艇からの報告です。

 総旗艦艦隊からは何も……」

 ラルグは、リンクの問いにそう答えた。


「何と!」

とヴェルスは、焦って声を上げた。そして、

「直ちに援護に向かいましょう!」

とリンクに進言した。


 ヴェルスは、エリオが連絡も出来ない程のピンチだと考えたのだろう。


「あ、いや、待て。

 閣下からの指示がない以上、我が艦隊はこのままの進路と速度で総旗艦艦隊に接近するべきだ」

 リンクは、考え込むようにそう言った。


「何を仰るのですか?」

 ヴェルスは、リンクから思わぬ言葉が出てきたので、驚いていた。


 まあ、当然の反応である。


 味方が攻撃されているのに、急ぎ駆け付けないという事は有り得ない事である。


 況してや、総旗艦艦隊が攻撃されているのだ。


 普通は、一刻も早く駆け付け、盾になるべきである。


「いや、我が艦隊が総旗艦艦隊との合流を早めようとしている事は、伝わっている筈だ。

 それに対しても、何も言ってこないという事は、それを承知の上で、閣下は動いているという事だ」

 リンクは、自分の考えをそう説明した。


「我が艦隊を当てにしていないように聞こえますが……」

 ヴェルスは、遠慮勝ちに言った。


 言葉から察すると、もっと怒ってもいい所である。


 だが、サキュス沖海戦のトラウマなのだろうか?


 あの時、エリオの足を引っ張った事を思い出しているようだった。


 32隻という国内最大の艦隊である。


 だが、今回は、サキュス沖海戦に参加した艦艇とは編成が異なっていた。


 西方艦隊に転属した影響で、旧アリーフ艦隊が16隻程参加していた。


 戦闘力としては、あの時よりは落ちている。


 だが、遊兵みたいな扱いをする謂れはない筈である。


 そこを強く言えない所を見ると、エリオは敵だけではなく、味方にもトラウマを植え付けてしまっていた。


 困ったものである。


「はっはっ……」

 リンクは、思わず苦笑いしてしまった。


 歴戦の勇者であるヴェルスのこんな姿を見るとは思わなかったからだ。


 それだけ、エリオの影響が大きいと見えた。


「……」

 ヴェルスは、リンクの苦笑いに戸惑っていた。


「当てにしていないのなら、端っから我が艦隊はこの海域に派遣されていないさ。

 それに即応部隊として、ルオーラに転属を命じたりしないさ」

 リンクは、ヴェルスを安心させるようにそう言った。


「はぁ……」

 ヴェルスは、その言葉を信じようとはしているようだった。


「第3次アラリオン海戦、サキュス沖海戦と、全て緻密な計算の元、各艦隊を動かしている。

 そして、今回もだ。

 この海戦が終わった後、全てが分かり、納得する事になるだろうよ」

 リンクは、結構力強く、最後にはそう断言した。


「了解しました」

 ヴェルスは、姿勢を正して敬礼した。


 兎に角、今は、自分の司令官と総司令官を信じるべきだと決心したのだろう。


 隣にいたラルグも、釣られるように敬礼していた。


 リンクは、それを微笑ましく見ていた。


(さて、今回はどのような手腕を見せてくれるのだろうか)

 リンクのエリオに対する信頼感は絶対なものだった。


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