その14
「貴公なら良い案があると思ったのだが……」
ロジオール公は、黙ってしまったエリオに落胆していた。
(いやいや、それはあまりにも無茶振りでは……)
エリオは、自分が唖然としているうちに話が進んでいくるのに、唖然としていた。
エリオと言う人物は、過大評価されるか過小評価されるかという2択しかないのだろう。
今回は、明らかに前者である。
過大評価の時は、何でも出来る人間と見られているのは明らかである。
まあ、誰でも苦手な分野はある。
エリオは、たまたまそれが多いだけだ。
それ故に、評価が二分されるのだろうけど。
「それほど、我が息子は、ダメだということだな……」
ロジオール公は、更にがっかりしていた。
「あっ、いや、それは……」
エリオは、何とも言えなかった。
クルスをダメ息子だと認定する根拠が分からなかったからだ。
「彼奴も、貴公のようなレベルとは言わず、その数分の一でもいいから、才を持っていてくれたら……」
ロジオール公は、更に落ち込むのだった。
この言葉に、いち早く反応したのはエリオの腹心たちだった。
お互い顔を見合わせて、ええっ?という表情をしていた。
まあ、無理もない。
「あっ、いや、クルス殿はクルス殿で、いい所はたくさんありますよ」
エリオは、ここに来て、漸くクルスの弁護を始めた。
時、既に遅しという感はあるが、流石のエリオも動き出したのだった。
「どういった所だろうか?」
ロジオール公は、直ぐにそう聞いてきた。
そう言われたら、そう聞き返すだろうと想定出来る質問である。
そして、相手は父親として意外と切羽詰まっている感じである。
なので、エリオは、直ぐに答えなくてはならない。
「ええっと、明るい所とか……」
エリオは、クルスの脳天気な表情を思い浮かべながらそう言った。
なので、それしか思い付かなかったのである。
ただ一言付け加えると、これは結構な褒め言葉である。
エリオは、どちらかと言うと、陰キャの部類に属している。
そのキャラ性から考えると、陽キャの明るさというものは眩しいものである。
なので、最大の褒め言葉でもある。
「はあ……」
ロジオール公は、先程まで落ち込んでいたが、トドメを刺されたような格好になった。
父親からすれば、脳天気なバカと言われたとの同じであるからだ。
「???」
エリオは、ロジオール公の反応に困ってしまった。
と言うのは、自分では褒めた筈なのに、何故こうなったのかが、理解出来ないからだ。
……。
重い沈黙が流れると共に、最早どうすることもできない状態になっていたのは言うまでもなかった。
「クライセン公爵殿下、侍女長からのお言付けです。
『大至急、お戻り下さい』との事です」
当然、扉番から声が掛かった。
風雲急を告げるではなく、予定通りという風に言うのもおかしい。
何と表現したらいいのか分からないが、予定通りの急報が入った。
「……」
エリオは、これ幸いとは全く思わなかったのは言うまでもなかった。
兎に角、立ち上がったが、どうしていいか分からなかった。
珍しい事である。
当然、何が起きているかは把握していたが、何分、初めての事である。
準備はしてきてはいたが、いざとなると意外に動けないものでもある。
「クライセン公、直ぐに向かいなさい」
ロジオール公は、経験者らしくエリオを導いた。
これまで落ち込んでいた人物とは打って変わって、憑き物が落ちたと言った感じだった。
「了解しました。
これにて、失礼させて頂きます」
エリオはそう言うと、部屋を出て行った。