その7
でも、何か、エリオは気の毒かもしれない……。
唯一、守ろうとしている人間に、いつも呆れられているのだから……。
「で、もう一度聞くけど、何処までやるつもり?
生まれてくる子供の為にも、はっきりさせた方がいいと思うのよ」
リ・リラは、女王然としてそう言った。
ただ、慈愛が含まれていたのは母親の自覚が芽生えてきたからだろう。
「……」
エリオは、改めて聞かれたので困ってしまった。
エリオに野心があるのだったら、答えは簡単だったろう
二十歳になっている人間にこう言う事を言うのは大変失礼なのだが、エリオって、自我が芽生えているのだろうかと思う時がある。
深謀遠慮の人のようで、行き当たりばったりの所が多い。
臨機応変と言いたいのだが、どうも芯が通っている訳ではないようである。
ただ自堕落に生きたいのだが、リ・リラが不幸になるのだけは絶対的に避けたいだけのである。
「向かってくる敵は全て殲滅する……かな?」
エリオは、考えに考え抜いて、それしか答えられなかった。
「ふっ、それではあなたの家の開祖エルマー・クライセンと同じ言葉じゃない」
リ・リラは、吹き出しながら呆れていた。
伝説に載っている言葉を使ったと思ったからだ。
あっ、ちなみに、エルマー・クライセンは、リ・リラの先祖でもある。
彼は、初代女王リ・リアと結婚しているからだった。
まあ、それはここではどうでもいいのである。
「でも、詰まる所はそうなるんだよね……」
エリオは、頭を掻きながらそう言った。
正直言って、あらゆる事を想定してはいても、今後の世界情勢など予想出来るものではなかった。
備えられる事を積み重ねているだけに、過ぎなかった。
そのお陰で、サキュス強襲が行えたのだった。
「向かってこない敵はどうするの?」
リ・リラは、自分が意地悪い質問をしている自覚はあった。
「放っておく。
あっ、よく考えたら、向かってこないのは敵ではないんじゃないか?」
エリオは、変な所に引っ掛かっていた。
「エリオ、あなたねぇ……」
リ・リラは、エリオの敵認定の基準に呆れた。
呆れたが、何か言い返す気にはならなかった。
これまでそれでやって来れたのだし、何よりも敵を増やす必要はないからだ。
「それでは、不味いかな?」
エリオは、自分の無計画性を自覚せざるを得なかった。
「うん……」
今度は、リ・リラが考え込んでいた。
(確かに、無計画なんだけど……。
わたくしにも未来が見えている訳ではないし……。
大体、未来予測出来ている人なんて、この世にいないわよね……)
リ・リラは、自分の考えを纏めようとしていた。
まあ、未来を見通せる人なんていない。
たまに、自分の予測が当たったと自慢する人がいるが、それって、当たっているの?勘違いじゃんと断言出来るものしかない。
そう喧伝しないといけない職業だという事は分かるのだが……。
つまり、よく言われる事だが、未来は誰にも分からないというのが、真理なのである。
「いえ、今のままでいいのかも知れない。
今後もそれで乗り切れるか、分からないけど、やりようがないのは確かよね」
リ・リラは、そう結論付けた。
親としては、輝かしい未来を子供に与えてやりたい。
だが、そもそもその輝かしい未来というものが、何なのか分からない。
となると、それに向かって何かをやるという事が出来ないのである。
「まあ、出来る限るの準備はしているのだけど、全てに手が回る訳ではないよね。
また、準備過多で潰れてしまう事も有り得るからね」
エリオは、リ・リラが賛同してくれたので、舌が滑らかになったようだった。
「まっ、わたくし達が今やるべき事は、親に成れるように準備するだけよね」
リ・リラは、エリオの言葉を遮るように、結論を出した。
これで、今までの議論はなかった事になった。
「そうだね……」
エリオは、戸惑いながらもそう応えた。
それは、これまでの議論を無にされた戸惑いだけではなかった。
そう、自分は親として相応しいのかなと言う戸惑いというか、疑念も含まれていたのだった。