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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第3巻  作者: 妄子《もうす》
39.2つの王国の未来への道
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その4

 その報告書は、海軍各所だけではなく、陸軍各所、中務府の各所に配られていた。


 そうしたお陰(?)で、御前会議の前には、政府としての危機感が高まっている筈であった。


 そういった意気込みで臨んだエリオだったが、完全に肩透かしを食らっていた。


「貴公の意見は承知した。

 そして、貴公がワタトラ伯を大いに買っている事もな」

 ロジオール公は、エリオが説明をし終わった所でそう感想を述べた。


 言葉通り、エリオの危機感は全く伝わっていなかった。


 どういう事だろうか?


 エリオは、当然唖然としていた。


 そして、唖然としながら、議長のヤルスを見た。


 助けを求めるつもりだったが、いつも通りのヤルスだった。


 要するに、何を考えているか、分からなかった。


 強いて言えば、慌てている様子はいつも通り微塵も感じられなかった。


 クルスは、助けを求めても無駄なのでスルーした。


 ただ、同じ側にいる筈の副将であるライヒ子爵マサオも、エリオのような危機感を感じている様子はなかった。


 これは、事前の海軍での会議でもそうだった。


 最後に、ラ・ラミ王女を見た。


 もう一人、王族と言うか、女王がいる筈だが、今回は、リ・リラは欠席していた。


 本人は参加するつもりでいたが、産婆と侍女長のミーメイから却下されていた。


 臨月が近く、職務自体が減らされていた。


 なので、最後にラ・ラミ王女となった訳である。


 とは言え、こちらは王族らしく、出席者の誰よりも平然としていた。


 ここに至って、エリオは自分が孤立無援である事を知ったのだった。


(何か、いつもこんな感じになるのだが……?)

 エリオは、困っていた。


 味方の中で、孤立するとは思わなかったからだ。


 いつもだったら、リ・リラが助け船、いや、助け船は出されたことはほとんどないか……。


 でも、まあ、こうなった場合、リ・リラが何とかまとめに入ってくれる。


 だが、今はそれがない。


 リ・リラがいないので、王配であるエリオが、今回の御前会議の主催者の代理である。


 王権の継承権は、ラ・ラミ王女が第1であるが、女王に異変があった場合、まずは王配が王権代理となる。


 その後、継承権第1位に王権を委譲する流れになっている。


 今回もその流れを汲むものである。


 まあ、今回の場合の異変は、出産が終わると、復帰してくるので、本当に一時的なものである。


 とは言え、現在は孤立無援、エリオ自身が何とかしないとならなかった。


 なので、意気込みを見せようとした。


「ま、確かにワタトラ伯は、優れた将帥なのだろう。

 が、今すぐに攻めてくる要素は全くないので、気にする必要はないだろう」

 ロジオール公は、エリオが何も言い返してこないので、まとめに入った。


「……」

 エリオの意気込みは、急速に萎んだ。


 ロジオール公の言うとおり、今、できる事は何もないからだ。


 まあ、何もない訳ではないが、精々、監視する程度である。


「まあ、ワタトラ伯が攻めてきても、こちらにはクライセン公爵殿下が控えてますからね。

 安心、安心!」

 クルスは、茶化していた。


 それを父親は、諭すのではなく、苦笑いするだけだった。


 茶化す気はないが、その通りだという事なのだろう。


 これは、エリオの軍才に対する絶対的な信頼の表れだろう。


 まあ、当然、エリオにとっては嬉しい事ではない。


「という事で、今回は、特に新たな問題が発生したという訳ではないので、会議はこれまでとしたいと思います」

 ヤルスの方もまとめに取り掛かっていた。


「……」

 エリオは不満タラタラだったが、確かに今サラサに対応する術はない事を悟った。


 それどころか、今動く方が、敵を呼び込みかねない……。


 という事で、黙る他なかったのだった。


 人間、何もしないことも重要なのである、たぶん……。


「いえ、ヘーネス公爵閣下、問題ではないですが、確認すべき事、いや、祈願すべき事があるのでは?」

 クルスが、終わろうとしていた会議に待ったを掛けた。


 そして、エリオの方を見た。


 それが、合図かのように、出席者の視線がエリオに向いた。


「そうですね」

 ヤルスは、珍しく表情を崩した。


 そして、徐に立ち上がった。


 そして、それが、また、合図かのように、エリオの以外の出席者が一斉に立ち上がった。


 当然、エリオも一番最後だが、釣られて立ち上がらざるを得なかった。


「それでは、ラ・ラミ王女殿下、お願い致します」

 ヤルスは、一旦ラ・ラミの方に向き直って、一礼した。


「承知しました」

 ラ・ラミは、ニッコリとして快諾した。


 そして、

「では、改めまして、陛下が無事ご出産なされるように、皆で、祈願したいと思います」

と本当に改まってそう言った。


 エリオは、そういった風景を目の当たりにして、いつもの間抜け面をしている他なかった。


 パンパン!


 皆が一斉に、エリオに向かって柏手を打った。


「ありがとうございます」

 エリオは、その祈願に対して、引きつりながらもお礼を言ったのだった。


 エリオ以外の会議参加者の目的は、これだったのは言うまでもなかった。


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