その11
スヴィア補給艦隊は、戦闘海域の外縁をするりと抜けて北上していった。
サラサ艦隊は当然それを追い掛けようとした。
だが、その前にこれも当然ながらスヴィア第2艦隊と第3艦隊が立ちはだかった。
2個艦隊と1個艦隊。
数は、44対21。
数的不利は流石のサラサも如何とし難いと言った状況である。
こちらが1発撃つと、向こうから2発返ってくると言った感じの戦いだった。
そもそもこうなる前に手を打つべきであり、今は為す術がないと言った感じだった。
それでも陣形を崩さない所は流石のサラサ艦隊である。
これは、サラサの指揮能力が高い事を示していた。
とは言え、このマグロット沖海戦は、どうにもこうにも変である。
サラサらしくないと言えば、サラサらしくはないのだが、どうなのだろうか?
現状、2倍の敵を相手にしている。
だが、その戦力差を感じされない戦い振りである。
それは、サラサの能力である。
だが、一方で攻勢こそがサラサである?
こう書いておいて、「?」を付けるのはどうかと思うが、やはり、攻勢を仕掛けてくるのがサラサである。
それが、この戦いではほとんど見られていない。
凡戦、凡戦と書いているが、戦い自体は別に適当にやっている訳ではない。
両軍共に、真剣に戦っている。
だが、どうにもこうにもサラサがいつも通りではない気がする。
とは言え、現在戦っているこの砲撃戦も、敵の隙を見付けては、砲火を集中していた。
その為、第2艦隊と第3艦隊は数の利を全く活かせずに、翻弄されていた。
彼らにしてみれば、数の利を活かして攻勢に出たいのは山々である。
だが、補給艦隊の護衛が第一の目的である以上、迂闊な攻勢は出来ないのである。
有り体に言ってしまえば、サラサに対して、攻勢を行うという選択肢自体がないのである。
第2,3艦隊は、補給艦隊とサラサ艦隊の間に割って入りながら、上手く北上していくしか手がない。
と言うか、それ以外の目的がなかった。
とは言え、防御ばかりしていると、サラサ艦隊は好き勝手にやってくる。
なので、機会を捉えて攻勢に出たいのも事実である。
右へ左へと砲撃ポイントを変えながら追撃してくるサラサ艦隊は本当に厄介である。
そして、何よりウザい。
だが、ロドリンゴ侯もウェルナー侯もそんな事で頭に血が上るような単純な指揮官ではない。
まあ、本当のところは、頭に血が上っているのだが、短慮で動く人物ではなかった。
ポイントを変えてくる毎に、対処を変えて行き、サラサの攻勢を去なし続けていた。
「う~ん……」
サラサはどうにも気のない感じである。
攻勢が上手く言っていないせいかと思いたいが、そうではないらしい。
(戦いって、こんな感じなのだろうか……?)
フィルタは、戸惑っていた。
もっと怒号が飛び交うかと思っていたが、そうでもなかったからだ。
とは言え、砲撃音は響き渡っているし、敵からの砲撃による着弾音も激しい。
時折、艦が揺さぶられる。
そういった意味では、かなりの緊張感がある。
だが、そんな中、澄ましている人物がいる事自体、妙に感じるのだった。
「閣下、如何なさいますか?」
バンデリックは、サラサに尋ねた。
「そうね、今、どうなっている?」
サラサは、他人事に様にそう質問した。
「!!!」
フィルタは、慌てて地図上の駒を動かし始めた。
これまで、サラサが何気なく指揮を執っているように見えたので、自分の仕事が疎かになっていた事に気が付いた。
↑マグロット↑
4南
中
補
32
SR
2:第2艦隊、3:第3艦隊、4:第4艦隊、補:補給艦隊
南:南方艦隊、中:中央艦隊、SR:サラサ艦隊




