その7
「バルディオン第2艦隊は、手強いとの噂を聞くが……」
第3艦隊指揮官のウェルナー侯爵が怪訝そうな表情を浮かべていた。
「はい、動きが妙に鈍いですね。
まるで、遠慮しているかのようです」
艦隊参謀長フェルナーが同意した。
「何か、企んでいるのか?」
ウェルナー侯は、明らかに次の命令を出すのを躊躇っていた。
現在、膠着状態である。
艦隊としては、ここは突破しなくてはならない。
でないと、ここまで来た意味がない。
だが、今動く事がどうにもこうにも迂闊だとしか思えないのだった。
流石に、『銀の魔女』と呼ばれるだけある。
敵に対しての言い知れぬ何かを感じされるのだろう。
「セッフィールド島沖海戦でも、ベレス侯爵閣下がしてやられましたからね」
フェルナーは、司令官に注意を促すように言った。
「ああ、確かにな……」
ウェルナー侯が腕組みをして考え込んでしまった。
「閣下、第2艦隊が南方艦隊を突破。
こちらに向かっているとの報告がありました」
副官のアイズが、重苦しい空気の中、報告してきた。
「!!!」
「!!!」
ウェルナー侯とフェルナーは、思わぬ朗報に顔を見合わせてしまった。
喜びべき所だが、援軍が来ない苦戦を予想していたのだろう。
でも、まあ、状況が変わったので直ぐに切り替えなくてはならない。
この状況は、第2艦隊との挟撃戦が期待出来る。
つまり、有利な状況になったのだった。
だが、逆の立場で考えてみると、サラサ艦隊が仕掛けてくるタイミングでもある。
「全艦に通達!
現在の戦線を維持せよ。
第2艦隊の来援を待ち、敵を挟撃する」
ウェルナー侯は、慎重かつ現在の状況を活かす命令を出した。
その命令は、アイズによって直ちに伝達されていった。
その様子をフェルナーは横目で見ていた。
「サキュス沖海戦の事もあります。
敵は、数的不利という状況を苦にしないのかも知れません」
フェルナーは艦隊参謀長らしく、懸念点を挙げた。
「確かにな。
やはり、これを機会に攻勢を仕掛けてくるやも知れないな」
ウェルナー侯は、フェルナーの懸念点に同意した。
空前の動員数で、帝国を打ち破ったエリオ。
その完全勝利を阻んだサラサ。
2人の迷将は、想像以上に評価されており、研究されていた。
それ故に、今後の戦いは2人の迷将にとって、真の実力が試されるのかもしれない。
まあ、そんな事は脇に置いといて、と言うか、ウェルナー侯には全く関係ない。
なので、追加の命令を下す事にした。
「敵の攻勢があるかも知れない。
その時は、第2艦隊の来援まで、決して打ち負かされるな。
艦隊陣形を保ちつつ、耐えるんだ」
ウェルナー侯は、追加の命令というか、訓令を出した。
第3艦隊が、この海域で耐えなくてはならないのは、背後の補給艦隊を守らなくてはならないからだ。
そして、守っているうちに、第2艦隊が到着し、戦局を一気に変えようという事なのだろう。
作戦としては、おかしな所は見当たらない。
ただ、性格の悪い迷将達は、こう言う所を突いてくるのである。
そう考えると、単にフラグを立てたに過ぎないとも言えた。
性悪達には関わりたくないものである。




