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その9

 戦端を開いた南方艦隊も苦労していた。


 攻勢を掛けたい気はある。


 そして、一気に撃滅はしたい。


 だが、こちらの一方的な願望で海戦が進む訳ではなかった。


 その辺は、きちんと弁えていた。


 なので、全艦に慎重さを要求していた。


「全艦、突出しすぎるな。

 艦列を乱さずに、砲撃を続けよ」

 ケイベル侯は、時折、自艦隊へ自重を求めた。


 そのような命令を何度も受けているので、南方艦隊は慎重に行動していた。


 だが、いざ、砲弾を撃ち込まれるとそうも言ってられない。


 撃ち返さないと一気に押し込まれるからだ。


 そして、砲撃を続けているうちに、熱くなってくるのが人情というものである。


(士気が上がっている。

 それに任せたいがな……)

 ケイベル侯自身、そう考えて実行したくてしょうがなかった。


 だが、第4艦隊は、こちらの攻撃を去なしながら南方艦隊の左側に回り込もうとしていた。


 それは、いずれ来援する第2艦隊の事を考えて事である事は明白だった。


 そこに回り込まれると、南方艦隊は、第2,4艦隊に挟み撃ちになる。


 ケイベル侯は、それが分かっていた。


 そして、それはとても悲惨な未来である。


 だが、一方でサラサ艦隊の存在には触れていない状態である。


 サラサ艦隊は、南からこちらに向かっていた。


 それを考慮すると、こう言った艦隊配置になる可能性がある。


 ↑マグロット↑


    2

    南

    4

    SR


 2:第2艦隊、4:第4艦隊

 南:南方艦隊、SR:サラサ艦隊


 こうなると、どっちがどちらを包囲しているか分からない状態である。


(乱戦状態になると、ワタトラ艦隊の威力が発揮される)

 ケイベル侯は、頭の中で艦隊配置図を思い浮かべながらそう考えていた。


 乱戦になると強いのは、エリオとの戦いで証明されていた。


 数的不利なぞ、ものともせずに互角の撃ち合いを行っていたからだ。


 正直、あの時のエリオも辟易していた。


 となると、今の南方艦隊と第4艦隊の撃ち合いは、互いの位置取りの争いである。


 来援が来た時に、より良い位置取りをし、味方を引き入れたいという事である。


 そういう意味では、互いに、互いの艦隊を簡単に打ち破れるとは端っから思っていないようだ。


 2人共、常識ある指揮官である。


 常識外にある2人の迷将とは大違いである。


「敵は上手く乗ってきてくれますかねぇ……」

 ジリジリする空気の中、オタルはそう呟いた。


「ふっ……」

 タイミングのいいぼやきに、ケイベル侯は思わず吹き出していた。


 そのぼやきは、参謀長が深刻になりすぎているケイベル侯に対して、余計な緊張を解くものであった。


「どうだろうな、難しいかも知れないな……」

 ケイベル侯は、今後の見通しをそう言った。


「ローテーションでは、第2艦隊の筈でしたが、第4艦隊が出ていますからね……」

 オタルは、司令官の意図を察していた。


「第4艦隊の司令官ベレス侯は、ワタトラ伯に痛い目に遭わされているからな。

 常識的に考えると、かなり慎重に行動するだろう」

 ケイベル侯は、溜息交じりにそう言った。


 それは、今回の作戦の失敗を予期しているようだった。


「でも、まあ、慎重に行動してくれるのなら、まだいい方でしょう」

 オタルは、悲嘆に暮れそうな司令官にそう言った。


「まあ、確かにな……。

 ここで、イキって大攻勢を掛けられたら、それはそれで悲惨すぎるな……」

 ケイベル侯は、オタルの言う事で発想が変えられたようだった。


 膠着状態は寧ろ良い傾向である。


 後は、こちらの仕掛けに乗ってくれれば、尚良い事である。


 ここにいないサラサは、やっぱし、悪巧みをしているようだった。


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