その4
スヴィア王国第4艦隊は、マグロット沖で警戒活動をしていた。
敵艦隊が出撃したとの報告を受けての事だった。
「戦力が揃った所で、一戦当たってみようという事なのだろうか?」
艦橋で、司令官であるベレス侯が腕組みをしていた。
「どうなんでしょうか……」
艦隊参謀長であるロザムは何とも言えない表情で、そう答えた。
参謀長ともあろう者が、司令官の質問にまともに答えられない事を気にしているのは明らかだった。
「うむ……」
ベレス侯はそう言っただけだった。
そして、ロザムと同じように微妙な表情に変わっていった。
どうやら、2人共同じ気持ちでいるのは確かなようだ。
前回はサラサにしてやられていた。
それが、今回また現れた事により、気にしない訳にはいかなかった。
そう、絶対に何か企んでいるという共通認識が2人にはあった。
だが、それが何かまでは、分からずに何も言えない状態であった。
まあ、後はプライドですね。
小娘相手に、後れを取ったのである。
意識はするが、あまり気にしすぎるのも何だかという気持ちがある。
とは言え、気にしない訳にはいかなかった。
艦隊の運命を左右するからだ。
最悪なのが、サラサがどういった手を打ってくるのかが予想出来ないでいる所である。
そういった思惑によって、おじさん達の微妙な心が揺れ動いているのは明らかだった。
「さて、どうしたものか……」
ベレス侯は、微妙な心情をそう吐露した。
司令官である以上、艦隊に被害が出る事だけは避けたいという思いが勝ったようだ。
それでも、微妙な言い回しは、おじさんの繊細な心を示しているのかも知れない。
「前回とは違い、こちらは迎え撃つ立場です。
そういった意味では、かなり違った戦いになるのは必定でしょう」
ロザムは、議論の切っ掛けを提供した。
正直言って、サラサが何を考えているか、予想が出来ないでいた。
彼は、サラサをずる賢さを有していると思っていた。
「そうだな、丸っきり発想を変える必要があるな。
そして、見た目に騙されないようにしないといけない」
ベレス侯は、意を決したような表情になった。
正直言って、前回は舐めていた事は否定出来ない。
それによって、付け込まれた。
そして、撤退を余儀なくされた。
そう考えると、身悶えしたくなる。
それを繰り返してはならないという思いになっていた。
「確かに……」
ロザムは、ベレス侯の決意に同意した。
「敵の戦略目標は、マグロットの奪還。
それは間違いがないだろう」
ベレス侯は、ロザムにそう確認した。
「その通りかと思います。
それを達成するために、どう言った戦術を取ってくるかですな」
ロザムは同意すると共に、更に議論を深める言葉を言った。
「……」
ベレス侯は、話の流れを遮るように沈黙してしまった。
実は、これって、最初に戻っただけだからだ。
そこが予想出来ないから、微妙な空気になっていたのだった。
「!!!」
ロザムはベレス侯の反応を見て、それに気が付いた。
中々話が弾まない……。
まあ、弾まなくてもいいのだが、結論は出したいものである。